知りすぎた男 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488110208

作品紹介・あらすじ

「我々は知りすぎているんです。お互いのこと、自分のことを知りすぎている。だから、僕は今、自分の知らない一つのことに本当に興味をおぼえるんです――あの気の毒な男がなぜ死んだか、ですよ」新進気鋭の記者ハロルド・マーチが、取材に向かう中で出会ったホーン・フィッシャーという男とともに目撃した奇妙な自動車事故の意外な真相とは。諧謔と奇想に満ちた連作ミステリ、創元推理文庫初収録作。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀初頭の英国を舞台にホーン・フィッシャーを探偵役とする約270ページの連作短編推理小説集。

    年の割に禿げ上がったフィッシャーは温和でありながらもつかみどころのない人物である。高級官僚のフィッシャーは庶民ではなく、首相や大臣をはじめとした多数の政府関係者を親類や知人にもつ。第一篇「標的の顔」で語り手として登場する新進気鋭のジャーナリスト、ハロルド・マーチがワトスン役かと思いきやそうでもない。事件そのものには関わらず過去の出来事の聞き手を務めたり、作品によっては出番もなく、フィッシャーの行動に立ち会う傍観者に近い。

    推理小説を含め一般的なエンタメ作品であれば権力者の不正を暴いて読者の溜飲をさげるといった結末は常套だ。しかし本作のフィッシャーは事件の真相を解明しながらも、その後の振る舞いは普通の名探偵と違う。第一篇「標的の顔」の登場シーンでフィッシャーが口にする比喩が体制の側にいる彼のスタンスを端的に表している。「つかまえたら、もどしてやらなきゃいけません。ことに大きい魚はね」

    連作短編だが第七話ではフィッシャーの意外な過去が明かされ、後年の若さとはうらはらに老成したフィッシャーとは異なった一面がみられる。最終の第八話ではシリーズものとしての終局となるエピソードが描かれている。そのため、少なくとも第七・八話は順番通り最後に読むことをおすすめする。

    各篇が濃密なミステリ小説で、サクサクというより、一篇ずつ噛みしめるように楽しんだ。ミステリの傾向としては複雑なトリックを利用するというより心理的な盲点を突くケースがほとんどである。「底なしの井戸」など、フィッシャーが真相を導き出す根拠をシンプルでありながら鮮やかで、作品のいくつかは推理小説に限らない物事の見方として参考になる気すらする。そして、ミステリでありながらフィッシャーのセリフの端々に印象的な警句や教訓が含まれていることも大きな魅力である。

    「新しく来た者には一番多くのものが見えるし、その場にいる人間は多くを知りすぎて何もわからないという、あいつの考えには一理あるよ」
    「人間は商売でずるをしても、趣味ではしません」
    「物事は異常すぎると記憶されない場合があるものだ」
    「あれが初端から引っかかっていたんだ。この事件に関係があったからじゃない。何も関係がなかったからなんだ」
    「人間四十歳を過ぎると、それまで生きてきたようにして死にたいという潜在意識的な願望があるのかもしれない」
    「狂気には、ほとんどつねに秩序があるんだ。秩序を持つということが人を狂わせるのさ」

  • イギリスの作家G・K・チェスタトンの連作ミステリ短篇集『知りすぎた男(原題:The Man Who Knew Too Much)』を読みました。
    『ブラウン神父の童心【新版】』に続き、G・K・チェスタトンの作品です。

    -----story-------------
    政治や外交問題にかかわる難事件を“知りすぎて何も知らない"探偵が解き明かす
    巨匠による異色の連作短編集、創元推理文庫初収録

    新進気鋭の記者ハロルド・マーチが財務大臣との面会に行く途中で出会った人物、ホーン・フィッシャー。
    上流階級出身で、大物政治家ともつながりを持ち、才気に溢れながら「知りすぎているがゆえに何も知らない」という奇妙な苦悩を抱えるフィッシャーは、高度な政治的見地を要する様々な事件を解決に導いてゆくが……。
    巨匠が贈る異色の連作が、新訳にて創元推理文庫に初収録。
    解説=大山誠一郎
    -----------------------

    1922年(大正11年)に発表された作品で、英国政界に太いパイプを持つホーン・フィッシャーと若き新聞記者ハロルド・マーチが出会う8つの怪事件を描いた、諧謔と奇想に満ちたミステリ8篇が収録されています。

     ■標的の顔(The Face in the Target)
     ■消えたプリンス(The Vanishing Prince)
     ■少年の心(The Soul of the Schoolboy)
     ■底なしの井戸(The Bottomless Well)
     ■塀の穴(The Hole in the Wall)
     ■釣師のこだわり(The Fad of the Fisherman)
     ■一家の馬鹿息子(The Fool of the Family)
     ■彫像の復讐(The Vengeance of the Statue)
     ■解説 大山誠一郎

    「我々は知りすぎているんです。お互いのこと、自分のことを知りすぎている……だから、僕は今、自分の知らない一つのことに本当に興味をおぼえるんです──あの気の毒な男がなぜ死んだか、ですよ」新進気鋭の記者ハロルド・マーチは財務大臣との面会に向かう途中で出会った奇妙な釣師とともに自動車が断崖から転落するさまを目撃する、、、

    後に残されたのは車の残骸と男の死体だった……なぜ彼は昼日中見晴らしの良い崖から転落したのか? 国際情勢への鋭い眼差しが光る、英国的諧謔精神に満ちた連作ミステリ集を新訳にて贈る。

    政治や外交問題に関わる難事件を“知りすぎて何も知らない”探偵ホーン・フィッシャーが解決していく物語……フィッシャーは、知識や洞察力に優れた探偵であると同時に、政治的な利害や論理に縛られた人物でもあることから、彼は真実を見つけることができるが、それを公にすることができない、、、

    難事件が発生し、フィッシャーの推理により犯人は特定されるのに、その人物を裁くことができない…… というユニークな特徴を持った独特な展開のシリーズでした。

    『ブラウン神父の童心【新版】』と同じく……というか、それ以上に少し読み辛さがあり、気持ちが作品に入り込めなかったですね。

    私の読解力不足かなー と感じつつ読みましたが、そんな中でイチバン印象に残ったのは、、、

    新進気鋭の記者ハロルド・マーチとホーン・フィッシャーの出会いを描いた『標的の顔』ですね……彼らが目撃した奇妙な自動車事故の意外な真相が暴かれるのですが、下手糞のふりができるほどの射撃の名手という逆説的なアイデアと大胆極まりない手懸りの出し方が面白かったですね。

    その他では、釣り好きの海運王サーアイザック・フックが、田舎屋敷の敷地内で釣りをしている姿のまま、自慢の丈夫な釣り糸を喉のまわりに二重に巻き付けて絞殺、された事件の真相を推理する『釣師のこだわり』かな……中盤で交わされる被害者と犯人の会話、生きていると思われた時間には既に殺されていたという展開が面白かったですね。

    知りすぎているが故に、真相を明らかにすることのできない男……事件の真相を公表することが国を代表するような重要人物の立場を危うくするという上流階級、支配階級ならではの事情を抱えた主人公というキャラクター設定は面白いと思うんですけどねー 作品に魅力を感じなかったな、残念。

  • 原文が悪いのか、翻訳が悪いのか、はたまた独解力が足りなかったのか、読んでてさっぱり想像が足りず、意味不明なまま事件が発生し、締めくくられていく感じで、文章というより文字を追っていってようやく読み終えた、じゃなく最後の文字まで認識したって感じでした。
    イギリス作家にありがちな上から目線で高慢な作風な上、イギリス上流社会の人々の世界での話だったので話題にも、情勢にも疎くよくわからない事柄ばかりが続いてしまった。これは完全なるチョイスミスとしか言えないな。
    作品が悪いのではなく自分との相性問題もあるが、個人的感想としては星1だった。
    ”知りすぎた男"としての背景がよくわからなかった。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50197020

  • 連作ミステリ。政治や外交問題の関わる事件を解決し、しかし表沙汰にはすることがなかったり。時代情勢などがかなり絡んでくる面があるので、そのあたりの知識がないとややわかりにくいと感じましたが。幾分地味で陰鬱なところもまた読みどころ、なのかな。
    お気に入りは「底なしの井戸」。言われてみれば、真相はそれしかない……なぜ気づかなかった! と自分で自分に突っ込みました(苦笑)。案外気づかないものです。「消えたプリンス」もなかなかのトリック。これまた盲点。
    そしてラストの「彫像の復讐」。これは読み終えるとなんともいえない気分が残りますね……。

  • 政界や外交問題に関わる難事件を「知りすぎているがゆえに何も知らない男」が解決に導くが……というあらすじ。
    「知りすぎるゆえ知らない」という逆説テイストはチェスタトンお得意の分野で安心のクオリティ。ただし、同作家のブラウン神父や奇商クラブなどとは一味違ったストーリー展開になるのが今回の一番のポイントで、そこが面白いですね。
    聖書や文学からの引用など、分かりにくい所には注釈もついてて読みやすかったのも良かった。

  • 新訳版。
    チェスタトンの熱心な読者ではないのだが、これは面白かった。皮肉と哀愁に満ちた短編。

  • 犯罪の真相が明らかになり犯人が分かっても、政治や外交が絡むことから、探偵役フィッシャーの付ける結末は苦いものとなり、カタルシスには至らない。最初のころはなかなか人物像が浮かんでこないフィッシャーであるが、連作を通じて次第に、その置かれた社会的位置から来る制約であったり、彼なりの行動原理が分かってくる。その意味でも、最終話は感動的でさえある。

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