濡れた魚 下 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488258047

感想・レビュー・書評

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  • 第一次大戦後、ワイマール憲法下のドイツ・ベルリンを舞台にした警察ミステリー小説と聞き、興味津々。この時代のドイツは、敗戦と不況でとんでもないことになっていたと高校の世界史で習っただけで、詳しいことはまるで知らない(おそらく近代ヨーロッパ史を専門的に学んでる人ぐらいしか知らないのではないか?)、敗戦の痛手から、ナチス政権に変わっていくドイツに興味があるので、このシリーズには期待していた。もっとも、半面決して明るい時代の話ではないので、物語があまりにも陰で滅だったらイヤだなぁとも危惧していたのだが。

    確かに、マルキスト、ナチ、帝政ロシア残党、旧軍人閥などが跳梁跋扈するベルリンは、騒然としていて決して明るい未来を予測させ得ない小説舞台だ。しかし、陰として滅ばかりの小説ではない、それはひとえに、主人公ラート警部が程よく「ええかげん」な男だからである。

    酔った勢いで下宿大家の未亡人を抱き、酔いがさめたらその未亡人を邪険に扱い、ベルリン警察の仕事を世話してくれた叔父の家でしょっちゅう痛飲し、職場では惚れた女を仕事に利用して振られ、それでも未練たらしくその女を追いかけ、コカインは吸うわ、ヘビースモーカーやわ、あげく自分の失態を親父のコネと警視総監へのゴマすりでチャラにしてもらうよう媚びへつらうという…。

    文体はハードボイルドで、ドイツ警察が舞台という、重厚な衣装に騙されてはいけない、この小説かなりエエ加減な連中が生き生き活躍する小説である。ただし、小説自体がエエ加減というわけではない、少々詰め込みすぎて、とっ散らかり、焦点ブレ気味の難点はあるが、しっかり警察小説である。

    ホンマに暗黒ドイツと化す1936年を舞台にするまで全8作の予定でシリーズ化されるらしいが、エエ加減なC調男のラートが混迷するドイツでいかなる活躍をしてくれるのか、追いかけるのが楽しみである。

  • ラートは仕事もできるってのはわかった。
    それでも、ラートは好きなキャラではないな
    やっぱ上巻での、大家さんを女としてみてないが、酔った勢いならできる←こんな奴マジイヤ(いくら大家さんが同意でも、そこは撤退しろ!)
    そもそも、薬に殺人に死体遺棄って、刑事のくせに倫理観欠如しすぎやろ
    こんな奴がチャーリー追っかけるんか ヤレヤレ
    次作は、刑事秘書官になったグレーフに期待しよか

  • フォルカー・クッチャー『濡れた魚 下』創元推理文庫。

    シリーズ第1作らしい。

    1929年のベルリンを舞台にしたドイツ警察小説の下巻。主人公のゲレオン・ラート警部補の人物像が曖昧で、波に乗れないままに結末を迎える。

    故郷のケルンと殺人捜査官の職を追われ、ベルリン警察庁風紀課に左遷されたゲレオン・ラート警部補は手柄を挙げようとロシア人殺しの調査を始めるが…

  • “濡れた魚”とは、未解決事件を表す当時の隠語らしい。時代は80年以上前だが、時間のギャップを感じない。

    序盤はスローペース。警察幹部を父に持つ主人公の成長モノかと思い読んでいたら、上巻後半から途端にきな臭くなってくる。陰謀が大きなくくりではあるのだが、それに端を発した二次的三次的事件の方がインパクトも強く、最終的にはこちらがメインになってくる。散らかりやすいストーリーの手綱を握って読者をスムーズに誘導させる手腕は作者の才能なのかな。

    組織内のゴタゴタや、主人公が窮地に立たされる局面など、国内警察小説とよく似た印象。この時代でなければならないという理由が思い当たらず、いっそのこと現代小説でもよかったんじゃないかと思ってみたり。上巻下巻でテンポが変わってくるのが残念。特に下巻の後半は怒涛の展開。上下巻ではちと長いネタでしょうか。でも一冊だと豊富な内容がはみ出してしまうといった感じかな。全体のバランスが良くなればリピートしたいシリーズ。

  • ドイツの作家「フォルカー・クッチャー」の長篇ミステリ作品『濡れた魚〈上〉〈下〉(原題:Der nasse Fisch)』を読みました。
    「レベッカ・キャントレル」の『レクイエムの夜』に続き、第二次世界大戦前のドイツ・ベルリンを舞台にした作品です。

    -----story-------------
    *第6位『IN★POCKET』2012年文庫翻訳ミステリー・ベスト10/読者部門
    *第7位『IN★POCKET』2012年文庫翻訳ミステリー・ベスト10/総合部門
    *第7位『IN★POCKET』2012年文庫翻訳ミステリー・ベスト10/作家部門

    〈上〉
    1929年、春のベルリン。
    「ゲレオン・ラート警部」が、わけあって故郷ケルンと殺人捜査官の職を離れ、ベルリン警視庁風紀課に身を置くようになってから、一ヶ月が経とうとしていた。
    殺人課への異動を目指す「ラート」は、深夜に自分の部屋の元住人を訪ねてきたロシア人の怪死事件の捜査をひそかに開始するが……。
    今最も注目されるドイツ・ミステリが生んだ、壮大なる大河警察小説開幕。

    〈下〉
    怒濤の日々を送るベルリン警視庁の「ラート警部」。
    ベルリンを震撼させる殺人事件の謎、消えたロシア人歌姫の消息、都市に暗躍する地下組織、ひそかにベルリンに持ち込まれたとささやかれる莫大な量の金塊の行方……。
    予測不能の成り行きで、絶体絶命のピンチに陥った「ラート」に光明は射すのか? 
    転換期の首都と人を鮮やかに活写する、傑作大河警察小説。
    ベルリン・ミステリ賞受賞作。
    訳者あとがき=「酒寄進一」
    -----------------------

    ベルリン警視庁殺人課「ゲレオン・ラート警部」シリーズの第1作… 好みのタイプの警察小説でしたね。

     ■Ⅰ ラントヴェア運河の屍体 1929年4月28日-5月10日
     ■Ⅱ A課 1929年5月11日-5月21日
     ■Ⅲ 真相 1929年5月22日-6月21日
     ■訳者あとがき

    1929年、春のベルリン… 「ゲレオン・ラート警部」は、地方都市ケルンから流れてきたやさぐれ刑事、、、

    大都市ベルリンにどうも馴染めず、風紀課(E課)に配属されて腐っている… 殺人課(A課)への栄転を望む彼の下宿に、ある夜、得体のしれないロシア人が押しかけてくる。

    しかも数日後、その男が無残な屍体となって発見された… 「ラート」は、これぞ千載一遇のチャンスとばかり、ひとりで秘密捜査に乗り出す、、、

    ベルリンの夜の歓楽街に暗黒街、体を張った秘密捜査は思わぬ展開を見せることに… ベルリンを揺るがす殺人、消えたロシア人伯爵令嬢の消息、陰謀と罠が渦巻く巨大な事件に巻き込まれ、絶体絶命のピンチに陥った「ラート」の命運は!?


    手柄をあげるための単独捜査により上司や同僚から疎ましがられ、警察内部に敵がいることに気付き、信頼できる仲間がないという四面楚歌の状況下で孤軍奮闘する「ラート」に感情移入しつつ読み進めることができました、、、

    濡れた魚という言葉は、未解決事件・迷宮入り事件を指す隠語なんだそうですね… 組織を守るための隠蔽により、またひとつ濡れた魚が増えちゃいましたが、これが次作以降にどう影響するのかな?

    「ラート」と「シャルロッテ・リッター(チャーリー)」の恋の行方も気になりますね… 第3作までは邦訳されているので、是非、読みたいですね。

  • 昨年、BS12でナチス前夜のベルリンを舞台にした
    連続ドラマ「バビロン・ベルリン」の
    シーズン1、2が放送された。
    ベースになっているのはフォルカー・クッチャー作の
    警部ゲレオン・ラートシリーズ。
    この本が第一作目だ。

    この時代に興味津々の私にとって
    ドラマはえらく魅力的なのだが
    登場人物に今一つ掴みきれないものがあったので
    原作を読んでみようと思った。

    ネットで探したら創元から
    「溺れた魚」「死者の声なき声」「ゴールドステイン」
    の3作が出ていたが、現在はなんと「在庫なし」。
    アマゾンで中古をやっと手に入れることができた。

    このシリーズは8作あるのだが
    日本ではこの3作しか出版されていない。
    やはりドイツものは人気がないのだろう。
    がっかり、である。

    それはともかく
    「溺れる魚」。実に面白かった。
    この時代のドイツを舞台にした刑事物が珍しい
    というのもあるが、何よりも
    任務外の捜査に走る主人公ゲレオン・ラートの
    危うさがいい。
    裏社会に出入りしてコカイン吸っちゃうかと思えば
    ぞっこんの同僚女性にふられて普通に落ち込んだり。
    物語もギャング、ロシア人、共産党員、ナチ党員らが
    登場し、当時のベルリンの空気が伝わってくるようだ。

    ストーリーは書かないが
    映像的にぐげ~というシーンも出て来る。
    やはり現代を生きるドイツ人として
    クッチャーがナチを憎んでいるのは確かである。

    ナチが台頭してくる
    1920年代後半から30年代のドイツ。
    首都ベルリンは
    映画「キャバレー」「地獄に堕ちた勇者ども」に
    出てきたように、熟れ切った文化や風俗の
    腐臭が漂うような街だったらしい。

    ドラマは録画してあるので
    第2作「死者の声なき声」を読みながら
    じっくり楽しもうと思う。

  • (上巻より続く)

    刑事ものというよりも、
    小悪党がちんけな悪さをしていたはずなのに、
    うっかり大事件とかかわりあって、
    警察とボスと他の悪党集団の間にはさまれて、
    右往左往するような雰囲気なのはなぜなのだろう。

    次々と人が死ぬにもかかわらず、
    チープな、または安易な感じが漂っているせいか。
    最後の罠についても、
    そんなのにひっかかる訳がないだろ、と思ってしまった。

    一番の驚きは、これがシリーズの最初の作品だったこと。
    どう続くのだろう、どう続けるのだろう。
    非常に疑問だ。懐疑的な意味で。

  • 1929年のドイツ、ヒットラーが台頭していたベルリンが舞台の警察ミステリー。
    主人公のラートは、ヒーローからは程遠い存在で、彼の葛藤や苦悩に一喜一憂させられる。途中辛くなって、しばし本を置いたぐらい。
    だからこそ、クライマックスからラストにかけて、読んで良かった、という感を非常に強くさせられた。
    シリーズ物だそうなので、次作の翻訳が待ち遠しい。

  • あとがきを読んで、多くのことを知る。

    著者が歴史学を学んでいたことで、当時の状況がリアルに描かれていること。

    シリーズ第1作目であること。
    だから、登場人物に全てのゴールを見せなかったのかと勘ぐるほどヤキモキした。

    主人公が人間らしいのもいい。
    ミスばかりだし、何やら感情移入してしまう。

    視点が、入れ替わりながら進むのはミステリらしさ?同じシーンを別の考えで見ると、面白い。

    今後が楽しみになる一作だった。

  • エレオン・ラート刑事シリーズ第1作。舞台は第二次大戦前のドイツ。ソ蓮と微妙な関係にあり、社会民主党や共産党などが入り乱れて政治的に複雑な状況下、ロシアマフィアや軍部、そしてプロイセン国家警察の裏の関係に翻弄される主人公を描く。酒寄氏の翻訳の迫力とスピード感がいかんなく発揮されて飽きない。ただ、主人公がどういう人物なのか今一つピンと来ないのが残念だ。

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