流れとよどみ―哲学断章

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  • 産業図書
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784782800157

感想・レビュー・書評

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  • 哲学者・大森荘蔵の雑誌寄稿のエッセイ集。
    科学や現代社会常識の世界観と、東洋思想の世界観の間くらいに自分が生きている現実のリアリティを感じている僕としては、この人のテーマはとても興味深い。

    久しぶりに読む哲学者の文章は、積み木のようだと思った。一般の人が生活の中でなんとなく積み上げた認識の山を、一番下から一つ一つ手に取って、丁寧に積み上げていく。その性質上、短いエッセイは積み木がまだ上の方まで積み上がらず、少し退屈してしまう感がある。けれど巻末にいくつか添えられたもう少し長い論考は、この積み木をもう数段上まで積み上げることができるので、一気に見たことのない世界に入る。面白い。

    もしこれを読まれる方がいれば、最初の15ほどのエッセイで挫折しそうになったら、その前に最後の論考を読まれることをお勧めしたい。「18.世界の眺め」「20.心身問題、その一答案」「21.過去は消えず、過ぎゆくのみ」は、文句なしにおもしろかった!

  • 高校生だった頃、数学のように論理的な日本語の文章があることを知った本。

  • 「哲学モドキ・入門書のタグイ」を濫読(乱読)し、哲学者達の難解な考察・専門用語(造語?)を理解したフリの末に「哲学とは概念をもてあそぶ空虚な学問」という印象を持ち、このごろは自爆していた。この書籍は、当然と思い込んでいる自然科学が描く世界観を「心・精神の存在」という切り口で、ほとんどは日常の言葉を使い「テツガクヲスル」ことを再認識させてくれた。好感を持って読了。

  • 大尊敬している方から、イーガンの『万物理論』の感想として「大森荘蔵と野矢茂樹」というキーワードを頂戴したので、これは読むしか…!!となり読み易そうなものを借りてまいりました。
    野矢先生は、野矢哲といわれる名物授業を1年生の時に取っていたのですが(めちゃくちゃ教室を覚えている笑)、授業は面白かった!という感想のみで、中身は覚えていないのが残念というか反省ものです…今は退官されて別の大学にいらっしゃるんだな…懐かしいなあ…

    本書を読み進めると、これどこかで見た表現かもと思うことが度々あったのですが、野矢先生の授業で見たもののような気がする。他人の痛さは想像できないとか。

    以下好きだった箇所
    3. 記憶について
    しかし、では死んで久しい亡友を思い出すときもその人をじかに思い出しているのか、と問われよう。私はその通りであると思う。生前の友人のそのありし日のままをじかに思い出しているのである。その友人は今は生きては存在しない。しかし生前の友人は今なおじかに私の思い出にあらわれるのである。…そのとき、彼の影のような「写し」とか「痕跡」とかがあらわれるのではなく、生前の彼がそのままじかにあらわれるのである。「彼の思い出」がかろうじて今残されているのではなく、「思い出」の中に今彼自身が居るのである。(p.23)

    13.古くて新しい生理学
    われわれの住むこの一つしかない世界を科学的に描いたものが物質的生理学、その同じ世界を知覚的に描いたものが感覚の世界、そしてこの二つの描写はただ「重ね描き」さるべきものであって、一方が他方を生んだり感じたりする必要はない。そのように思われる。(p.104)

    15.心の中
    恐怖と夜の森の話
    ありもせぬ「心の中」があるとすれば、それはただありもせぬ心の中でしかあるまい。(p.120)

    17.ロボットの申し分 
    ということはすなわち、あなたが人間である限り、正気の人間である限り、他人に心を「吹き込む」ことをやめないということです。この「吹き込み」は人間性の中核だからです。このお互いの「吹き込み」によって人間の生活があり人間の歴史があるのです。それによってお互いの人間がお互いを人間にするのです。…どうして私にも心を「吹き込んで」くれないのですか。いや既に吹き込んでいることを認めて下さらないのですか。
    どうか今少しあなた方の心を開いて私もあなた方同士の間のアニミズムの中に入れて戴きたい。それによってあなた方の人間性もより豊かになろうというものです。(p.140-141)

    21.過去は消えず、過ぎゆくのみ
    だが「過去」という言葉も失せるとき一体過去について何を語ることができるのだろうか。それは生の言語で死を語るのに似たことだからである。(p.278)

  •  我々は自分の脳を通してみた世界の中に生きている。これは、なんとなくわかります。大森荘蔵「流れとよどみ」、哲学断章、1981.5発行。「朝日ジャーナル」に掲載されていたそうです。なんと七面倒くさい論旨w。いわゆる哲学の、私の嫌いな一面です。飛ばし読み、拾い読みで終わりました。

  • ものを考えるひとの原点にして頂点。
    特に池田某、永井さん、野矢さんはこの方の流れとともにいるということが改めてわかった。ものを考えるという点でいえば、養老さん、なだいなだも同じ系譜にいると思う。
    そのくらい、ものを考えるということの連続性、バトン、宮沢賢治のいうところの交流電流の明滅は、続いていく。
    時間の作用、夢と現実、自分と他人、それらは存在するということ、ことばが事実として存在してしまうという一点に尽きる。ひとはコンピュータのような記録媒体ではなく、レンズのような存在。過去を思い出すということは、ないものを思い出しているのではない。ほんとうに存在しないものは思い出せない。思い出すとはすでに何かが存在してしまっている以上、実体のないものではないのではないか。
    そうすると、時間とは一体なんなのか。今とは。今?いったい今を問うこれは一体何なのだ。疑問は尽きない。疑問を見つめながらも時間は流れていく。変化していく
    。川は流れているが、川は川としてそこにある。あってしまう。

  • 10ページくらいの短さで、20のメジャーな哲学的問題についての著者の思索を追体験できる。非常に読みやすくかいてあるので、それだけに何が重大な哲学的問題なのかが素人にもよくわかる。自分で色々考えたいが、世に出ている哲学書は何が何だかよくわからない…という方には大変オススメ。

  • 哲学

  • 文体は平易で美しく親しみやすいが、内容は難しい・・
    「身振り、声振り」「ロボットの申し分」が印象的

    [more]<blockquote>P6 またしきりに夢のとりとめのなさが印象づけられる。いま、川のほとり新高と思っていると山の上にいたり、【中略】人はこれらの神出鬼没や変身に驚く。しかし覚めた世界がやりきれないほどに平板であり、あまりにありきたりであることには驚かないのである。

    P33 ミリンダ王の車

    P47 理論的説明とは何かを理論から引き出すというよりは、その何かがその理論の中にしまい込まれていることを見せることなのである。あるいは、それがしまい込まれていることを見せるためにそれを引き出してみせることだ、と言ったほうがいいのかもしれない。

    P62 小さすぎて見えないもの、遅すぎて(速すぎて)動いているのがわからないもの、そうしたものは「考える」ほかはない。われわれは動いていると考えているのである。

    P83 声は人の排泄物ではない。その生身の流動的部分なのである。だから私がある人の声を聞くとは、とりもなおさずその人に触れられることなのである。互いに声を交わすとは互いに触れ合うことである。その触れ合いは時に愛撫であり時に闘争であるが、多くは穏やかな日常的触れ合いである。だがこの声の絡み合いによって人は人とつながれる。

    P108 持続というものは点時刻の集まりではないと思う。ヨウカンの切り口にはヨウカンはない。だから切り口をいくら集めても一片のヨウカンもできない。ヨウカンあっての切り口であって、切り口あってのヨウカンではない。それと同様、持続あっての切り口であって、その逆ではないのである。

    P118 恐ろしさのみならず、およそ喜怒哀楽の情が状況から剥がれて人の「心の中」にあると思うのは妄想である。

    P140 あなたが人間である限り、正気の人間である限り、他人に心を「吹き込む」ことをやめないということです。この「吹き込み」は人間性の中核だからです。換言しますと、人間同士が互いに心あるものとする態度はまさにアニミズムと呼ばれるべきものなのです。

    P163 (世界の眺め)私の目が360度全方位の魚眼でありそのエビかに的な枝が長大なものであるとする。そして私の身体は東京にあるが右目はパリのどこかに左の目はロンドンのどこかにあると。このロンパリ的視覚風景において「私」はどこにいるのだろうか。</blockquote>

  • 高校の時は衝撃でした

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著者プロフィール

1921~1997。岡山県生まれ。東京帝国大学理学部物理学科卒業、海軍技術中尉となる。哲学を学ぶため、戦後に同大学文学部哲学科に再入学。卒業後、数度のアメリカ留学を経て、東京大学教養学部教授、放送大学教授を歴任。時間、自我、知覚などにおいて独自の哲学をうちたて、多くの後進に影響を与えた。

「2021年 『新視覚新論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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