菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

制作 : 川口恵子 
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855027

感想・レビュー・書評

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  • 統合失調症と拒食症にかかった妹・ヨンヘ。
    自分を卑怯と認めつつ、父親には逆らえなかった。突発的に自殺してしまいそうな姉・インヘ。

    三人兄弟でなぜ姉妹だけがそうなったのか。
    弟は男だったので、父親の毒から逃れることができたのだろうか…

    ヨンヘの夫と義兄視点で語られる『菜食主義者』『蒙古斑』では、「世間から外れて狂ってしまった女」に被害を受けている「男」を書きたかったように見えた。『蒙古斑』では、そんな狂女に寄り添おうとする男の姿もあるが……『菜食~』のインパクトが強い。

    『菜食主義者』では、夫が妻の振る舞いによって会社での信用を失うシーンや、「強制」という愛情を娘に拒絶されて激昂する父親、頑なな態度の姉に失望する弟が出てくる。もし彼らが本当にヨンヘを思っているなら、「肉を食べない」と決めた彼女を羽交い締めにして無理やり食べさせているだろうか。
    肉屋を生業にしている父親からしてみれば、「肉を食べない娘」は一番の憎悪の対象だったかもしれない。
    韓国の「家父長制」も影響しているようだった。日本も「男尊女卑」という言葉があって、いまだに性別で優劣を決めようとする者も多い。

    だから連作の最後、インヘが語り部となった『木の花火』は物語の核心をついていると思えた。
    作中で静かに壊れていく妹に対し、姉はとうの昔に壊れていた。彼女はそれを知らなかったが、一連の事件で自分の人生を振り返り、「死」という選択肢があることに気づく。

    読む前は、「急に菜食主義に目覚めた人間に巻き込まれて大変だ」くらいにしか思わなかったが、三作読みすすめていくとそれが大きな間違いだったことに気づかされる。
    フェミニズムの問題あり、安楽死についての問題あり。ただ描写が残酷なだけじゃない。現実世界に蔓延る邪悪な社会的問題が多く詰まっている。
    彼女たちが心安らかになれる世界がくればと願う。

  • もののけ姫のアシタカのせりふを思い出しました。「あの娘を解き放て!あの娘は人間だぞ!」「生きろ・・・そなたは美しい」とか。突然、菜食主義者になり、植物のように生きたいと強く願う主人公に対し、周りは関係性に苦しみつつもアシタカの役回りになるんだと思いました。

  • 肉を食べなくなった妻の話、夫が妻の妹のおしりの蒙古斑から着想を得たビデオ芸術を撮り性行為に及ぶ話、木になることにした妹の話。姉の、我慢して耐えていい子にしてきた姉の、苦しみがしんどかった。狂う人を主軸に据えた作品が、このところ多いように感じる。わたしは、それらを読むときに、狂えない人間の苦しさだってある、といつも思う。狂えないのは、狂っている人より、つらくなかったり、楽だったり、するのとは違うと、思う。同時に狂ってしまった人を責められないことも、分かっている。

  • 「菜食主義者」「蒙古斑」「木の花火」の連作中篇集。
    表題作の中篇を読んだとき、あまりにもきれいに終わっていたので「あ、これ中篇集だったんだ」と勘違いしてしまった。
    各話ごとに主人公が入れ替わっていくリレー方式であるが、切れ味の鋭い第1話、エロティックでショッキングな第2話、陰鬱な静謐にみちた第3話と、大きく毛色が異なるのもおもしろい。

  • 日本と比べてもほとんど違和感がない。章が3つぐらいに分かれているが、一つの小説である。
     夢から菜食主義になり拒食症へ、そして家族は、親せきは、という話である。

  • 菜食主義者、蒙古斑、木の花火。連作である。男の妻は特に変わったところも無く、普通に地味な女性だった。男はそれだからこそ彼女と結婚したようなものだった。その妻がある時から肉を食べなくなった。単にベジタリアンになったというだけでなく、食事を段々ととらなくなって痩せてきた。心配した夫や姉達の心配にもかかわらず、その程度がひどくなっていく。夜中も寝ずに過ごしている。妻のヨヘンは夢を見たという。男の視点、ヨヘンの視点、ヨヘンの姉の視点、姉の夫の視点。それぞれの視点で語られていくヨヘン。ヨヘンはどうなっていくのか。

  • とある夢から菜食主義者となった女性の変化が家族にも波紋を広げていく。

    まるで真っ白なシーツに鮮血が飛び散るような。

  • 韓国文学を始めて読んだ。今回の本は静観に淡々と生きていた4人の男女が、次女が突然菜食主義になるという行為をきっかけにそれぞれ持つ内なる欲望や違和感、狂気が描かれてる。少しファンタジーぽく村上春樹に近いのかなとも思う。身体や欲望に対して線密に書かれている為、生々しい世界観が文章全体を包む。一般的には常識を離れたような感覚でも、本来の自らの求める姿に気づくこと、そして進むことができる喜びを感じることで、生きるということが始めて実感できるのかもしれない。

  • 様々な切り口けら読むことができる作品だと思う。
    菜食の肯定、否定の面から人類としての生き死にについつ深く考えてみたり、農耕民族と狩猟民族の歴史に思いを馳せてみたり。
    自分ね場合は、一個の人間というものは実に絶妙で、不安定なバランスの上に成りだっているものなのだ。という感想を強く持った。
    何かのキッカケで、自分が彼女のようになってしまうのかもしれないと思って読むならば本作はホラーである。

  • わたしも夢をみる時期があった。
    ヨンヘの言うことも少しわかる気がする。

    CUONの「新しい韓国の文学」シリーズは装丁もすばらしくて、本棚に揃えたくなる。

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著者プロフィール

著者:ハン・ガン
1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。
1993年、季刊『文学と社会』に詩を発表し、翌年ソウル新聞の新春文芸に短編小説「赤い碇」が当選し作家としてデビューする。2005年、中編「蒙古斑」で韓国最高峰の文学賞である李箱文学賞を受賞、同作を含む3つの中編小説をまとめた『菜食主義者』で2016年にア
ジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞する。邦訳に『菜食主義者』(きむ ふな訳)、『少年が来る』(井手俊作訳)、『そっと 静かに』(古川綾子訳、以上クオン)、『ギリシャ語の時間』(斎藤真理子訳、晶文社)、『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳、河出書房新社)、『回復する人間』(斎藤真理子訳、白水社)などがある。

「2022年 『引き出しに夕方をしまっておいた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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