お伽草紙 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • [浦島さん]
     次は浦島太郎の語り直し。主要登場人物ふたり(ひとりは亀だが)も語り手も、背景を理屈でかためまくるコメディ。「無限に許される」という、現代にも通じるような夢が語られたあと、無慈悲なエンディングに引き戻され、けれども、最後に「救ひ」という慈悲でもってしめるあたり、後味が良いのがまた面白い。

    --

    [「瘤取り」まで]
     昔話の太宰流語り直し。防空壕のなかで五歳の女の子の父親が絵本を読み聞かせながら、その実、胸のなかではこんな物語になっているのですよという、ちょっと凝った背景があることもあって、エピソードが太宰の時代の「現代」風に味付けしてあって、面白い。語りの合間に語り手のつっこみが鬱陶しいほどに入っているのだが、それがとにかく面白くて、よい。
     「瘤取り」は悪い登場人物のいない話になっている。というか、瘤を取ってもらったお爺さんもつけられたお爺さんも、ちょっと可哀想なお話。

  • 瘤とりじいさん、浦島太郎、カチカチ山、舌切り雀、の太宰解釈版。
    *瘤とり。
    「この物語には所謂「不正」の事件は、一つも無かつたのに、それでも不幸な人が出てしまつたのである」
    これを説明するのは、日常倫理ではなく、
    「性格の悲喜劇といふものです。人間生活の底には、いつも、この問題が流れてゐます」

    *浦島。
    気取りやで自意識過剰な浦島太郎が太宰らしくて面白い。お土産の玉手箱に託された乙姫の真意(太宰解釈による)に納得。竜宮城そして乙姫の、美しいけど空虚で退屈な描写。

    *カチカチ山。
    これはなかなか面白い。兎の、狸に対する仕打ちを、「美しく高ぶつた処女の残忍性」が、殊に「醜悪な魯鈍なもの」に対して容赦なく炸裂する様として描く。

    *舌切り雀。
    お爺さんの言い分もわかるけどお婆さんもまあ可哀想だよなあ。
    舌切り雀の冒頭で、桃太郎をなぜ書かなかったのか、ということが延々と語られる。これが面白い。こんな感じ↓である。

    1945年、言論統制の厳しいなか発表された本作品を、太宰は「日本の国難打開のために敢闘してゐる人々の寸暇に於ける慰労のささやかな玩具として恰好のものたらしむべく」書き進めているのであるが、桃太郎というのはいやしくも「日本一といふ旗を持つてゐる男である」。「かりそめにもこの貴い国で第一と言ふ事になると、いくらお伽噺だからと言つても、出鱈目な書き方は許されまい」。だから俺はここではっきり念を押しておくが、ここに出てくる老人や太郎や動物たちなんか、日本一でも二でもなんでもない、代表的人物でもない、日本一は俺はここに書かなかったのだ、「日本一なんか、もしお前の眼前に現はれたら、お前の両眼はまぶしさのためにつぶれるかも知れない」。

    これは文字通り読めば確かに言論統制的にOKそうだけど、相当皮肉ってるというか、笑えちゃうよねえ、と現代の私は思いました。逆手にとってるとしか思えない。

    • koba-aさん
      これも、その内いつか貸してくださ―い。
      これも、その内いつか貸してくださ―い。
      2014/03/10
  • 民話のキャラクターをこんなに生々しく「人間」に改変できるのか、と脱帽。特に、「カチカチ山」の醜い狸の愚かさと純情に感じ入った。太宰治は、相反するものが同居する人間の、一言で言えない感じを生き生きと表現するのが特に上手な人だと思っているのだけれど、その好例の短編集。

    「浦島太郎」の竜宮城と「舌切り雀」のお宿のシーンは、幻想小説として読んでも美しくて面白い。「桜桃の花びら」を口に含むといい感じに酔ってくるって、すてきである。

  • お、面白い…!私の中の太宰作品No.1は「津軽」だけど並んで、というか別系統で、一番好きな作品になったかも。慣れ親しんだ日本昔話がこうまで完璧に太宰ワールドに昇華されるとは…。経験したこともないのに妙に理屈っぽい青年が冒険を経て老成するところまでをガガガっと突貫工事的に描いたけど元の世界観を崩さず、美しく描いた「浦島さん」が一番のお気に入り。カチカチ山も狸と兎の擬人化が妙にリアルなのと太宰の突っ込みが非常に適格で面白く。舌切り雀も儚く皮肉なお話しになっており味わい深い~。これはまた読みたい。

  • こぶとり
    優しい爺さんは鬼に踊りが認められ、こぶをとってもらう
    短気な爺さんは鬼に恐れられ、手違いからこぶをつけられ2つになってしまう
    日頃の行い、思想は咄嗟に出る

    浦島
    浦島太郎の亀の生態に文句をつけ始める
    あとは舞台設定
    (それぐらいいいじゃない笑)
    なぜかそこをガチ考察。地理、潮の流れなど
    色々考えた末、ただの亀と呼ぶ
    気難しい亀と浦島
    コメディタッチなやりとり
    実際こんな浦島太郎なら嫌。笑
    好きだから悪口を言いたくなる
    玉手箱を送った意図
    パンドラの箱よりも冷たい結末
    300歳の爺さんに何かをする余力も残っていない
    だが、それは不幸ではない
    なぜなら周りの環境が変わって当人が幸せか
    寂しくなるから箱を開ける
    箱を開けなくていいほど思い出が忘却したならばそれはそれで良いことだ。
    年月と忘却が思い出には必要なのである

    カチカチ山
    凄惨な物語を皮肉る、そりゃあやりすぎだ
    狸かわいそう
    実際殺され方は酷い
    ギリシャ哲学的比喩
    ブサイク男(たぬき)の哀れな生き様
    こうはなりたくないものだ。
    書きながら溜息が出る、、って笑
    しかし狸は不幸だ
    男と女の関係性
    女に慈悲はない
    殺しにかかる、嫌いであるならば
    なんか急に太宰は心情語り出す
    無邪気と悪魔は紙一重
    16歳の処女と37歳の男性…

    桃太郎は書けない
    鬼という無敵の存在であるはずのものを倒す構図は難しい
    日本一の男を日本三でもない男は書けない
    だから舌切り雀
    体の弱い男、世捨て人40なのに爺さん
    世間的価値が0は失礼な笑
    クソ消極的
    33のお婆さん
    老人になったり。強がっているがどうしようもない
    夫婦喧嘩
    妻は話してくれない夫にキレて話していた若い女、つまり雀の舌を抜いた
    そしてその雀を夫は探した、熱心に
    その理由を太宰もわからない。どういう事や、笑
    結局気を失う、がこの男が悪い
    妻に冷たすぎたのだ
    結局会える
    が、すぐ帰るがそれでいいのだ
    別れの美学
    現実主義の妻は信じない
    雪で突っ伏していたら雀の世界に行ける
    実際にする、が妻は凍死した
    その死体の上には大量の金があった
    最後は女房を認めていた

  • 面白〜い!
    防空壕の中から始まったからどうなるかと思ってたら。。。
    当時の現代訳のお伽噺だね。子供に読み聞かせのイメージより大人向けで分かりやすく、考えさせられる。
    良いね〜〜〜!

  • 太宰宰の面白いお話!
    「人間失格」のインパクトが強すぎてなかなか太宰作品には手がでなかったのだが、こんな作品もあるんだなあ。
    カチカチ山なんかは、キャバクラ嬢と常連客の攻防のようで面白い。

  • 浦島さん、ぐちぐち言うカメwww
    カチカチ山、おい兎www
    舌切り雀、おい爺さんwww
    つか、「桃太郎」を書かない言い訳、長すぎ!www
    太宰治は、やっぱ、どっか、変!!!www

  • あー。もうホント面白かった‼︎
    太宰治のオモシロ小説、ツボだわ。

    瘤取りもカチカチ山も舌切り雀も全部面白かったけど、浦島さんが1番好きだったなー。
    亀、最高すぎる。浦島さんと亀の会話最高 笑

    太宰流に味付けされたお伽噺自体も面白いんだけど、時々入る太宰の小話が面白い。
    桃太郎を書かなかった理由とか。
    何かもういちいち面白い。

    「お伽草紙」って題にはあんまりひかれなかったんだけど、読んでみて良かったー!

  • 『浦島さん』の竜宮城の描写が、本当に美しくて好き。
    派手な装飾も山盛りのごちそうも華やかなもてなしもなくても、ただ心地良い空間でふわふわほろ酔いになりながら適度な肴をつまみながらゴロゴロしてるのが、太宰治にとっての理想郷なんだろうなぁ。めっちゃ気持ち分かる。
    で、その楽園に慣れてしまった頃に日常に戻りたくなる気持ちも分かる。
    そういう人間の性を表現するのが、本当に上手いなぁと思う。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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