同窓会 アパシー 学校であった怖い話1995 [Kindle]

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  • 2017年4月27日発売
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  • 十二、十三、数える時間の重みと重ねてきた歳の強み。

    初出は「七転び八転がり」からファン向けの短編集として2009年末に頒布された『アパシー 応援本』。
    同時期に『アパシー 流行り神』というゲーム作品がリリースされており、この世界観に準じたファンサービスとしての側面の強い短編になっています。
    初出の際は当時スタッフだった漫画家の「おおぐろてん」さんが挿画を担当されています。

    ところでまず、前置きとしてこの前提を踏まえてほしいのですが。
    実のところ元祖『学校であった怖い話』の世界観は噂とも現実も取れない怪談を「七不思議の集会」という閉鎖空間の下に行うもので年代の特定もされていません。
    一方、原作者の手による本家とは直接つながらない続編というべき「アパシー・シリーズ」は現時点で、1995年、2008年、そして年代の特定されていない未来、という三つの時間軸にまたがって展開されています。

    シリーズの中でも各作品、および各分岐は「パラレル・ワールド」ということが度々強要されているので明確に繋がっているわけではないのですが、必ずしも完全に独立しているわけではありません。
    ゆるやかな連なりを持っており、あえて途切れさせているミッシングリンクをファン各々の解釈や想像で埋めるのも楽しみのひとつなのですよ。

    年代を特定されていない未来(=現代)の作品で、語り部の子どもたちも出演する『小学校であった怖い話(小学館版学校であった怖い話)』はその最たるものでしょう。
    ところで、上記作品『アパシー 流行り神』は日本一ソフトウェアの『流行り神』シリーズと『学校であった怖い話』&『鳴神学園都市伝説探偵局』とコラボして制作されたものです。

    そのため、『流行り神』前期三部作の年代にちょうどいいということで1995年の「七不思議の集会」のメインキャスト達には十二年ほど年をとってもらい、客演してもらった形になります。
    公式から一つの未来予想図として大人になった語り部たちを提示されて、ファンは胸を熱くしたものです。

    と、ここまで説明しといてなんですが、この短編は『学校であった怖い話』ファン向けのものなので、『流行り神』についてはとりあえず忘れていただいて結構です。

    前置きが長くなり過ぎました。
    この短編について触れておくと、混線する未来と過去を上手に配置したものになっています。
    語り部たちはそれぞれ思いもよらない職業に就いて、それぞれの夢と現実を追いかけています。それでも彼ら彼女らの語りは往時を思わせるほど鬼気迫り、高校時代そのものを追想させるものでした。

    そして「現れないことが多い七人目」、「未来を確定できずブラックボックスになる顛末」などに象徴される、シリーズの特性を結末で実感させられます。

    俗に言う「正史」が不在となっている特性は、後続のゲーム作品の演出にも生かされているのかもしれません。
    何はとは言いませんが、ノスタルジーを越えた、複数作品にまたがるがゆえのシナリオ上の仕掛けはこの作品あっての着想と思えば感慨深いです。

    一応断っておきますが、この短編はあくまで一短編であり、重要設定が飛び出すこともありません。
    けれど二〇一九年になった今だからこそ、語る意味があると断言します。
    公式が大いに盛り上げようと動き出した『学校であった怖い話』二十五周年を翌年に控えた今でなければ。

    いつの出来事か語られない『学校であった怖い話』。
    それが携帯電話もまだない過去の話なのか、それより未来の、ひょっとしたら現代の話であるのか。
    過去であるのか、現在であるのか、時間軸が錯綜する中、それでも高校卒業後、重ねた年月は紛れもなく愛おしいものであると信じているのですから。





    十二の瞳が見返して、十三階段上る時、合わせて二十五なんとやら。

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