震える天秤 (角川文庫) [Kindle]

著者 :
  • KADOKAWA
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  • 単なる高齢者によるアクセル
    とブレーキの踏み間違えの事故
    が題材かと思って読み始めた。
    封鎖的な村、成り上がりの被害
    者の義父である店長に、モラハ
    ラな雰囲気の被害者。
    フリーランスの主人公が、事件  
    の真相に迫る。
    読み応えある作品であった。
    海神に出てくるフリーランスの
    もう一つの事件。

  • 人類は法の下で生きている。歴史を見ても、法という考え方は古い。古代と呼ばれるような時代、法はすでにあり、そこで生きる人々は法に依拠し、法に従い、ときに法に抗って生きてきた。抗えば法に基づいて裁きを受け、法が決めた罰則を甘受することになる。ゆえに、法はいつも、人の罪に対する防波堤として機能してきた。
    人の罪を定め、罪に見合った罰則が用意され、人々の秩序の維持装置としてそこにある。それが法だろう。

    ところで、法もまた「人」が生み出したものである。人が自らを律するために編み出した秩序維持装置といえば聞こえはいい。だが、法というものが権力者によって恣意的に定められ、権力者がおのが権力を維持し続けるための道具となっていたともいえるのではないだろうか。

    『震える天秤』は、法の及ぶ限界に挑んだ作品といえるかもしれない。
    日々ニュースに流れる高齢者の運転の問題。曰く「アクセルとブレーキの踏み間違え」、曰く「事故を起こした高齢者は認知症の疑いあり」――。これらはもちろん法にしたがってその罪の度合いが検証されるが、認知症と判定されれば引き起こしてしまった事故に対する罪は問われない可能性もある。その多くは、最近しばしば見聞きする多くの事故の一つとして、瞬時に消費されてしまうだろう。
    たとえ一見すると事故に見える出来事の裏に、高齢者による運転事故とは別の何らかの思惑が隠れていたとしても、それは事故というセンセーショナルなニュースに隠されてしまうかもしれない。思惑があるということは、つまり何らかの意図や目的が存在することをいう。思惑を隠蔽するために事故という事象が恣意的に使われていたのだとしたら……?

    この物語には、過疎化が進み、限界集落の典型のような村が舞台として用意されている。こうした村には、パブリックな法とは異なる「ムラ社会」にのみ適用されるしきたりが存在する。村を一歩でも出ればそのしきたりは無効化されるが、村に住んでいる限りそれは”絶対”である。往々にしてしきたりは明文化されることはないが、村に住む人々は都会と比べて移動が少なく、人々の新陳代謝が低い。そこに住む人々は、固定化され、しきたりは口伝えに伝承されてゆく。一般にはしきたりを犯すいわゆる「掟破り」には、一般の法とは異なる重い罰が課されるように思う。そして、その村にとどまる限り、それはあらゆる法に優先して適用される。

    さて『震える天秤』では、その村に住む人が、「村の外で」事故を起こす。村の外での事故を警察が捜査するのだが、彼らは当然現行法に基づいて「認知症の疑いのある高齢者が引き起こした、アクセルとブレーキを踏み間違えたことによる事故」という紋切り型の見立てを導き出すだろう。その結果として人が一人命を落としたとしても、法の下では事故は事故であり、認知症を患っている高齢者が引き起こしたのであれば罪には問えない可能性だってある。
    一方で、村に住む者たちの結束は固い。超法規的ともいえるしきたりで、彼らは強固につながっている。それはしばしば過酷な環境下で生きなければならない村という環境に適応するための知恵でもあろう。都会のように、人間関係を疎結合にしていては生きられない。しきたりといった結束を固めるための装置は、村で生きるために不可欠なものである。だが、しかししきたりはことほど左様に強固であるがために、村の内外を排他的に分断する。
    この物語では、村という結界の中で生きる人々が、結界の外で起こした事故に村の構成員としてどう向き合うのか。そのときに法としきたりはどう機能するのか。それらを描こうとした実験小説が、この『震える天秤』なのではないかと思えた。
    取材を試みたフリージャーナリストの視点を通して、しきたりというベール越しに見えてくる真実、すなわち村人たちの思惑によって、最初に出会った事故はその姿をどんどん変化させてゆく。それをジャーナリストとともに追いかける読書体験は、思いのほか楽しく、かつ悲しい。
    そして、しきたりに縛られる村人と、事故に関与しつつも村の外で生き、しきたりの縛りなく事故と向き合う村外の人々のコントラストもまた読みどころであるに違いない。

  • 「てんびん」意味
    【天秤】
    秤(はかり)の一種。中央を支えた梃子(てこ)の両端に皿をつるし、一方に測る物を、他方に分銅(ふんどう)を載せ、梃子が水平になるかどうかを見て重さを決める。
     「―にかける」(二つのうちからどちらかを選ばなければならない時、優劣・損得を比べてみる)

    わが国は、世界でも類を見ない空前の超高齢社会を迎えており、二〇二五年にはピークに達すると言われている。約五人に一人が七十五歳以上となり、老人ばかりの日本が誕生する。
    読者である自分がまさに75歳になる⁉️

    「二〇二五年には八百万人を超える団塊世代が七十五歳を迎えます。彼らを含めると、その時点で七十五歳以上のドライバーは千七百万人に達することがわかっているんです。糸井さんは悲観的になる必要はないとおっしゃっていましたが、とんでもない。悲観的にならざるを得ない危機がすぐそこに迫っているんです」

    高齢男性の運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員を轢き殺す大事故が発生。
    アクセルとブレーキを踏み違えたという加害者の老人は認知症を疑われている。
    事故を取材するライターの俊藤律は、加害者が住んでいた奇妙な風習の残る村・埜ヶ谷村を訪ねるが……。

    「この村はおかしい。皆で何かを隠している」。

    関係者や村の過去を探る取材の末に、律は衝撃の真相に辿り着く――。
    横溝賞出身作家が放つ迫真の社会派ミステリ!

  • 高齢ドライバーによる事故の取材に福井の山村に向かった記者の俊藤。やがて彼はやたらと老人が認知症であったことを強調する村人の態度に疑念を抱く。真相を追う記者と村の安寧を願う村人との静かな攻防に気付けば頁は最後の1枚に。自分ならどちらに錘を乗せただろうか。

  • 結局しっくり来ない結末だった。
    父親が実際どうなったのかも、結局のところなぜ七海がいるのにって言うのにやたらこだわるのに出した答えが思い込み。
    終わりが全くしっくり来なかった。

  • 北陸のコンビニで起きた事故を取材するために現地に赴いた、フリーライターの俊藤律。事故は、86歳の男性が運転するトラックが店舗に突っ込み、店員を轢き殺したというもの。加害者は認知症の疑いがあり、アクセルとブレーキを踏み違えたのだという。しかし、律は事故現場や目撃者の証言にどうしても違和感を拭えない。彼は、加害者が住んでいた埜ヶ谷村を訪ねることにした。

    福井の山間部にある埜ヶ谷村は、古くから続く因習や風習が残る閉鎖的な村であった。村人たちは律に対して敵対的であり、何かを隠している様子。律は、事故の真相を探るうちに、村の歴史や人間関係に深く関わる驚愕の事実を知ることになる。そして、彼は究極の選択を迫られるのだが・・・
    この本は、高齢ドライバー問題や認知症問題など、現代社会が直面している課題を背景にした作品です。著者は、事故や事件だけでなく、その背後にある人間の心理や動機を丁寧に描き出しています。また、埜ヶ谷村の因習や風習も興味深く読めます。村人たちの絆や信仰は一見美しいように見えますが、それがどれほど強固であり、どれほど恐ろしいものであるかが次第に明らかになっていきます。
    本書の魅力は、主人公の律のキャラクターと行動力です。律は、正義感が強くて好奇心旺盛なライターです。彼は、事実を追求するために、村人たちから嫌がらせや脅迫を受けてもめげずに執拗に取材を続けます。彼は、自分の命や家族や恋人と引き換えにも真実を暴こうとします。

    しかし、この本の最大の見せ場は、最後の結末です。律が辿り着いた真相は衝撃的であり、彼が下した決断は議論を呼びます。この本は、「あなたならどうする?」という問いかけを読者に投げかけます。それは、倫理的な問題であり、答えが容易ではありません。この本を読んだ後、読者は自分の価値観や判断基準を見直すことになるでしょう。

    染井為人の『震える天秤』は、社会派ミステリーの傑作です。現実に起こり得る事故や事件を題材にしながら、人間の心の闇や葛藤を描き出しています。読者は、この本に引き込まれ、考えさせられ、震えることになります。この本は、ミステリー好きはもちろん、社会問題に関心のある人にもおすすめです。

  • Kindleにて読了。
    高齢者の自動車事故が増えている昨今、コンビニにブレーキとアクセルを踏み間違えたと思われる軽トラが突っ込んだ。
    その事故にて1人が死亡…
    『高齢者の運転問題』について現場入りするジャーナリストの律。
    そこでの取材が思わぬ方向へ…

    過疎化した村を舞台としてます。
    同時に似たような本を読んでいたせいもあり…その本と比較をして少しチープ感を感じましたm(._.)m テーマはとてもいいんですけどね…

  • 会話が軽快で、テンポのいいミステリー。
    ジャーナリストという設定も活きていて、最後まで面白く読んだ。

  • 実際にこういう(外から見たら)ありえない風習が残っている田舎ってありそうで怖い。
    ライターとしては書かないのは失格だろうなー

  • 後半からの加速がすごかった。
    ただの認知症高齢者が起こした事故だと思いきや、事件の裏には思いもよらない真相が隠れていた。
    たまたま取材のタイミングが遅かった記者が、違和感を突き詰める人間だったがために、村人たちは事件の真相に迫られることに。
    8年前の事故、半年前の土砂崩れまで繋がるとは。
    しかし結局、俊藤は事件を公にしないことに決めた。
    本当は誰が何を思って行動したのか。読者にも真実は明かされない格好となった。

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著者プロフィール

染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台などのプロデューサーを務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。本作は単行本刊行時に読書メーター注目本ランキング1位を獲得する。『正体』がWOWOWでドラマ化。他の著書に『正義の申し子』『震える天秤』『海神』『鎮魂』などがある。


「2023年 『滅茶苦茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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