NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫 お 20-1 書き下ろし日本SFコレクション)

  • 河出書房新社 (2009年12月4日発売)
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感想 : 92
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大森望氏による新世代のSFアンソロジーの第1弾。変化球がやけに目立つ…というのが第一印象。大森氏の前説によると、SFが広義なものになりつつある現在だからこそ、もっとジャンルとしてのSFを意識したアンソロジーを…みたいなコンセプトらしい。なので、SF初心者には結構なハードルの高さを感じるかも。目録じみたカタログめいたカジュアルな装丁につられて、ナニも考えずに手を出すと大変なことになるかも。
前半では、山本弘氏「七回跳んだ男」が面白い。月面殺人事件という、滅法読書欲をそそられる題材で、SFというより現在の科学理論に加え、十八番のトンデモ科学批判を織り交ぜたミステリに仕上がっている。同じく前半では、田中哲弥氏の不条理ストーリー「隣人」も良かった。田中氏は初体験なのだが、出だしからしてかなり肌に合う感じ。最近のSF作家は文章に魅力がある…と常々思っていたので、その考えをさらに補強してくれたような印象。ただし汚物表現はなんというか、ビジュアルがビシバシを脳裏に浮かんで結構キツかった。汚物描写で云うと、平山夢明、小林泰三といった作家を思い浮かべてしまうが、氏らの汚物表現がグラデーションとするならば、田中氏には明瞭なコントラストを感じる。ジワーじゃなくてバン!どうやら自分はバン!への耐性が低いようだ。修行しなくては。
オードブルな前半に対し、後半はメインディッシュが勢揃い。先ずは魚料理…とばかりの斉藤直子氏「ゴルコンダ」がいい。これも一種の不条理ものだが、実にいい。兎に角いい。何というか、文体含めてユルっとフワっとした世界観が心地好い。梓さんの妖精の粉を被ってみたい。
続く肉料理、牧野修氏の戦隊もの「黎明コンビニ血祭り実話SP」もいい。どうしようもない題名だが、事象をテキストに解体、再構成して戦うジューシーフルーツ戦隊のスプラッターな活躍が楽しい。
飛浩隆氏「自生の夢」は兎に角もう圧倒的。他作品におふざけ系ユーモア系が多いためか、余計にその真摯な鮮鋭さが目立った。これもまた牧野氏と申し合わせたような「言葉=テキスト」にまつわる話で、位相と位相がせめぎ合う世界観がたまらない。
そして最後に編まれた伊藤計劃氏の絶筆「屍者の帝国」。冒頭の二行からして力強いなあ!ホンっと惜しいなあ!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エスエフ
感想投稿日 : 2010年12月14日
読了日 : 2010年12月14日
本棚登録日 : 2010年11月13日

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