仰臥漫録 (岩波文庫 緑 13-5)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101353

作品紹介・あらすじ

子規が死の前年の明治34年9月から死の直前まで、俳句・水彩画等を交えて赤裸々に語った稀有な病牀日録。現世への野心と快楽の逞しい夢から失意失望の呻吟、絶叫、号泣に至る人間性情のあらゆる振幅を畳み込んだエッセイであり、命旦夕に迫る子規(1867‐1902)の心境が何の誇張も虚飾もなくうかがわれて、深い感動に誘われる。

感想・レビュー・書評

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  • 壮絶。
    でも食欲旺盛でびっくりする。
    ノボさんとかミチクサ先生読んだ時も思ったけど、お母さんと律さんは大変だったろうなぁ

  • このような本があるなんて。

    この本は正岡子規の晩年、既に外へ出歩くこと叶わず。
    日々を毎日記録したものなのです。
    本は、来訪客、三度の食事内容、お金のこと、家族のこと、そして俳句のこと。
    始まりは子規が死するちょうど1年前から始まります。
    妹の律と母が彼を自宅で介護し、看取るのです。

    最初は色々事情がよくわからないまま読んでいたので子規のその食欲に驚愕です。
    とにかく凄い、とても病気とは思えず。
    食事以外でも飄々とした感じでついつい頁をめくってしまいます。

    ただやはり病魔は確実に子規を捉えており、途中からは狂気が密やかに忍び寄ってくるのです。

    ご存知でしょうが、子規は大学生の頃に結核にかかります。そして脊椎カリエスになるのです。脊椎カリエスとは結核菌が脊椎へ感染したもの。こうなると脊椎の中で化膿が起こり、それが皮膚を突き破って穴を開けるようです。本の中で律が綿を買いに行ったり包帯の交換をしているのはそれです。歯肉の膿を出すとかいう描写もそれです。非常に残酷な病気だと思います、抗菌剤の登場まではこの日記の40年後まで待たなければいけない。子規の生きた明治では抗菌剤は登場していないから。

    読んでいる私は子規が亡くなった日を知っています。それを知っていてこの日記を読むと胸の奥がキューっと締め付けられます。最初の章は呑気な感じですすむのにその後半、そして二章へ。後半はちっとも楽しくなくて、読むのが辛い辛い。

    こんな本があるなんて知らなかったよ。

  • 正岡子規の病床ごはん日記。
    とにかく食への執着をひしひし?ガシガシ?と感じます。
    子規先生、とにかく食う、寝たきりのボロボロの身体なのにお構いなしに、山のように食う。
    食うとなったら出るものも出る。出すものまで一日の回数を記録する。
    時には食べ過ぎてお腹を壊す。一気に体調を崩しつつも、ちょっと回復したらまたもりもり食べる。
    ただただ、一日のごはんと、便通と、ちょっとした備忘録と、あとスケッチと、が描かれているだけなのに、全身全霊の「食べることは生きること、生きることは食べること」が伝わる本です。

  • 私は、いま「俳句」を生み出したいと思っている。短い言葉で、宇宙を表したいという欲望が強い。とにかく、文字を書き連ねている。それを凝縮したい。画像を見て、俳句をひねり出す。
    なんか、その行為がスリリングだ。
    寺田寅彦は、夏目漱石に俳句とは何かを質問する。
    夏目漱石は「俳句はレトリックの煎じ詰めたものである」「扇のかなめのような集注点を指摘し描写して、それから放散する連想の世界を暗示するものである」
    夏目漱石は、やはり面白い見方をしている。扇のかなめに集中して、放散させるという視点は大切だ。1867(慶応3)年に、正岡子規と夏目漱石は生まれた。正岡子規は、松山藩士正岡常尚と八重の間に長男として生まれた。翌年に明治維新となる。1889(明治22)年に第一高等中学校で、2人は出会う。2人は、影響を与えあった。
    本書は、正岡子規の死去する前年の1901(明治34)年9月、10月の日記が書かれている。子規は結核菌が脊椎を冒し脊椎カリエスと診断される。数度の手術も受けたが病状は好転せず、やがて臀部や背中に穴があき膿が流れ出るようになった。3年ほど寝込んでいた。まさに晩年である。
    寝たきりで、前に庭が見える。それが世界だった。
    最初に始まるのが、明治34年9月2日雨 蒸暑し。
    「朝 粥四椀、はぜの佃煮、梅干砂糖つけ
    昼 粥四椀、鰹のサシミ一人前、南瓜一皿、佃煮
    夕 奈良茶飯四椀、なまり節、茄子一皿
    此頃食ひ過ぎて食後いつも吐きかえす。二時過牛乳一合ココア交て、煎餅菓子パンなど十個ばかり」
    この子規の食欲に驚かせる。これが連日続くのだ。お腹が痛くなるくらい食べ、吐いてしまう。それでも、食べる大食漢。お椀の大きさはどれくらいだったろう。調べてもわからなかったが、四椀なのだ。ここに、子規のもつ生きようとする苦しいほどの熱意。食べることは生きることだ。ずーっと調べたが、葉物野菜を食べていない。炭水化物主体の食事である。昔は、ご飯いっぱい食べれれば満足という時代だったんですね。
    あとは、痛みを耐えることと、そして庭を見るのだ。そして、句を読む。死を直前にして、癇癪を起こす。結核なので、人はあまり見舞いには来れないはずだが、よく友人たちは来る。
    『彼は癇癪持ちなり、強情なり、気がきかぬなり、人に物問うことが嫌いなり、彼の欠点は枚挙にいとまあらず、家人恐れて近づかず』と描写する。死の間際にあっても、自分を外から見る。
    気に入った俳句。
    棚の糸瓜思ふところにぶら下がる
    糸瓜ぶらり夕顔だらり秋の風
    物思ふ窓にぶらりと糸瓜哉
    雨の日や皆倒れたる女郎花
    蝉なくや五尺に足らぬ庭の松
    秋もはや塩煎餅に茶渋哉
    餓鬼も食へ闇の夜中の鱒汁
    町川にボラ釣る人や秋の風
    美女立てり秋海棠のごときかな
    芙蓉よりも朝顔よりも美しく
    馬の尾に仏性ありや秋の風
    秋の蝿殺せども猶尽きぬかな
    秋の蝿追へばまた来る叩けば死ぬ
    鶏頭や今年の秋もたのもしき
    干瓢の肌うつくし朝寒み
    糸瓜には可も不可もなき残暑かな
    栗飯や病人ながら大食ひ
    かぶりつく塾柿や髯を汚しけり
    黒きまで紫深く葡萄かな
    よべここに花火あげたる芒かな
    人問はばまだ生きている秋の風
    成仏や夕顔の顔へちまの屁。
    ふーむ。きりがない。句が実にシャープだ。
    大飯を食らい、ただひたすらに読み続ける子規。
    生きるって、そういうことだ。どんな状況にあろうとも。どんなに身体が痛く、壊れていようが、意志で生き抜く。天晴れ、正岡子規!

  • 病床にある正岡子規が、日々衰弱していくなかで見せる異様な食への執着の記録。
    壮絶な病状の記述も霞んでしまうほどの飽食ぶり。死ぬ前にいろんな物を満足いくまで食べたい…そういう心境は理解できるのだが、その量たるや半端ではない。健康な人間より遥かに多い。「生きた証し」を残そうとする人は多いと思うが「食った証し」をここまで執着して残そうとする人は珍しい。
    来訪する人々はのちに著名な俳人や文士になった人も多く興味深いのだが、何せ膨大な食の記述に圧倒される。

  • 仰臥漫録
    (和書)2009年08月13日 22:53
    1989 岩波書店 正岡 子規


    「病床六尺」を以前に読んでいます。今回「仰臥慢録」を読んで病を患い死が刻々と迫って来る中の、その生活の日記を読みそこに凝縮されたものを感じた。子規が特別だと言うのではなくそこに書かれた作品が人間と言う存在を際だたせているのだと思います。そこが特に興味深かった。

  • 【いちぶん】
    故に余は自分の病気が如何やうに募るとも厭はずただ彼に病なきことを祈れり
    (p.63)

  • 見舞い客の中に後世 名を成す著名人が多い。「紅緑来る」とあるのは、佐藤紅緑だろう。その愛娘が佐藤愛子なのだから、子規の生きた明治がそれほど大昔ではないと思えてくる。
    巻末40ページに及ぶ俳句集に難儀した。ハイキングしていたら、目の前に垂直の絶壁!という印象だ。

  •  最晩年の正岡子規の日記、というか日々の記録に近い。
     「一」は、食事の報告が大半を占めていて、欲求を食で補う無茶食いの典型的な状態。もう長くないから食いたいものを食おうという意思も有ったかもしれない。
     逆に「一」の最後から「二」については、かなりの病状の進行により、苦しむ姿が多く見られる。「癇癪を起こす」なんてさらって書いてあるけど、その行間には病に苦しむ、「どうにも出来ない」「どうにもならない」ことへの怒りがあるんだろうなと。

  • 言ってしまえば他人の日記をのぞき見をしているのだか、絶句としか表現できない。読み進めるほどに、他人の日記をのぞき見しているだけの行為を読者はしている状況ではなくなる。10月12日の日記にはギラギラとした目つきの筆者が思い浮かぶ。彼は生きたいのだ。

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