二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.74
  • (44)
  • (89)
  • (65)
  • (11)
  • (4)
本棚登録 : 649
感想 : 82
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043943869

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • これは面白い! どんな良作家にも駄作はあるものだが、どうやらこの西村賢太という人は、常に星を四つ以上あげたくなる作品を書くようだ。そんな作家は貴重だ(もちろんこれは僕の主観による評価に過ぎないから、人によってはチョット齧るだけで嫌悪感が湧いて投げ出す人もいるだろうが)。

    いつもの通り文章は一文一文がかなり長くて、その中に自らの欠点、失言、愚行を惜しみなく詰め込んでいる。そして独特の表現技法も健在だが、この短編集ではそれらは僕がこれまで読んだ2冊よりも俄然輝いているように思えた。つまりそのレトリックで後半の二篇はかなり笑かしてもらったのだ。引用している部分がその一つである。

    文字通り『二度と行けなくなった場所』についての回想をベースに各作品は作られている。まあ客観的に言えば「後味が悪い」作品が多いわけだが、この後味の悪さも彼の術策の一つであり、彼の小説に慣れないうちの読後感は言葉で表すと「……何だかヘンな作品だった」となるところだが、一作また一作と読んでいくにつれ、段々と「……これも味なものだなぁ」と思うようになってくる。

    特に最後の『腋臭風呂』が短いながらも良い。実際に起こったにしては少々出来過ぎている感もある偶然(だが作者の事だからこれもそうなんだろう)をうまく笑える味付けにしてある。この作品では前三篇にみられる主人公の無頼性のようなものはなく、他人の非常識さで笑わせてもらえる。

    二篇目の『春は青いバスに乗って』はいわゆる『拘置所モノ』。拘置所、刑務所、監獄と言った題材は純文学での常連であり、それを描いた作品には神がかった名作も多い。それらと比較するのは酷なので辞めておくが(その割にそれらよりこの短編集の方に高評価をあげていたりするが)、これを読むと少なくとも「このような赤裸々な告白を題材にして、なおその小説としての価値が認められるとは、この国は何と寛容なんだろう!」と思うことだろう。

    ただ、表紙がちょっと残念。中身はしっかり文学してる(と思う)のに、これではまるで某の小説もどきではないか。
    ※2012年1月追記:現在では表紙は変更されました。なかなかいいと思います。

  • 年代順に読みたい・・・・今までのまとめて出してくれいないか・・・

  • 相変わらずのとんでもない男である。
    自分勝手でとことん自分には甘く、他人には悪態をつく。
    そのくせ根が小心者で強気に靡き弱きをくじく。
    ここまで怠惰で学習能力がないのには呆れをとおりこしてしまうのだが
    そのどうしようもなさが滑稽でなぜか憎めないなぁと思う。
    臭いがしそうな露骨な生々しい描写があるかと思えば“インチメート”とか“インフェリオリティコンプレックス”だのとインテリちっくな表現に“慊い”などの古めかしいいかにも文学くさい言い回しを散らばせることで文体に面白みがましているように思う。

  • どれも"貫太"の若かりし日を描いた4編が収録されている。
    『春は青いバスに乗って』題名が好き。内容は灰色だけど、青色と桜色が綺麗な話。
    『潰走』は、貫太が悪い。解説は西村賢太大好きのトヨザキ社長。

    MVP:なし

  • 主人公・貫多の僻み根性に好感を覚えてしまう。家賃を踏み倒された老家主との掛け合いが良かった。【春は青いバスに乗って】が秀逸。

  • 著者・西村賢太氏の分身ともいえる『北町貫多』の何とも生臭く残念な小説。

    残念といっても、読んだ感想が残念なわけではない。
    西村賢太氏の作品は好きです。

  • 受賞作「苦役列車」に始まり数冊の西村作品を読み終えた。
    これでもう打ち止めにしたい。
    なんだか生理的な嫌悪感を感じてしまう。
    女性を描写するときの生々しさ、激しさ、汚さはこの作品の文学性にどんな関係があるんだろう?
    没後弟子を自称して崇拝する藤沢清造に対する素直さ、謙虚さなどはどこに行ったのだろう。
    何年かを過ぎてこの作家が何を書くのだろう?それの興味はある。

  • 「だったら●●を読むよ」が、この人だけに限ってはなかなか通用してくれそうになくて、なぜなら今さら感をガン無視でベタに私小説を書き続けるというのは、今はもうすごく骨の折れることだと思うから。でも、ほんとうにおもしろいと思ったのは、徹底して私小説を書こうとする姿勢じゃなくて、「私小説をベタに書く」っていう、そういうところで読み手の混乱を誘発できるところだと思う。リアリズムはつまり現実的じゃないからこそいえるのだし、だいいち私小説はあったことをネタとして書こうとするぶんだけ嘘になるのだから、私生活を赤裸々に書くなんてすげえ! という話ではないのだから、それを考えたうえでベタにやろうとしているように見えるところのカオスな感じが、ベタに読もうか考えながら読もうかで、またちがった良い意味での混乱を産み出せているのかもしれない。弱点は一冊読めば良い感の強さ。

  • 爆笑!
    笑いの種類としては町田康とか中原昌也と似てなくもないけど、こっちは徹底してリアリズム。
    ただ、「腋臭風呂」なんてほとんどエッセイやな。

  • 文学賞メッタ斬りの豊崎由美さん解説付き。賢太の他の生きた時間を知りたくて、他の著作にも手がいってしまう。ナニワ金融道を読み始めたときのように癖になりそうです。

全82件中 61 - 70件を表示

著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西村賢太の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×