喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062166362

感想・レビュー・書評

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  • 喜嶋先生は静かな世界に生きている。

    研究というものに携わったことがあるならば、誰しも一度は、喜嶋先生のように生きたいと願ったはずだ。この本はそんな人のためにある。喜嶋先生は研究者のイデアだ。

    静けさとは無ではない。静かであることと豊かであることは矛盾しない。喜嶋先生が静かな世界に生きているのは、社会的なノイズを排し、純粋に研究のことだけを考え、そのS/N比を極限まで高めるため。静けさの中に無限ともいえる豊穣な世界が広がっている。

    研究とは冒険であり、書は若い頃の「僕」が喜嶋先生と旅した冒険の記憶だ。

    小さな"村"に住む主人公である「僕」は、旅の準備を整え、勇者と出会い、勇者とともに冒険の旅を行い、やがて"村"に帰還する。喜嶋先生は冒険の勇者であり、真の勇者は多くの場合一人静かに生きている。

    元々、「僕」は自分の生きている"村"を不安定な世界だと感じている。

     『要するに、ここから世界が築かれるという根拠に位置する基本法則がないのだ。』

    『ただなんとなく、そっちの方が良いかな、という程度の判断の積み重ねだけで、この世のすべてのルールが出来上がっているように思える。』

    勇者である喜嶋先生は、学問に対する態度に曖昧さを許さない。彼は真の勇者なのだ。喜嶋先生は、学問についてこう語る。

     『僕が使った王道は、それとは違う意味だ。まったく反対だね。学問に王道なしの王道はロイヤルロードの意味だ。そうじゃない、えっと覇道というべきかな。僕は王道という言葉が好きだから、悪い意味には絶対に使わない。いいか覚えておくがいい。学問には王道しかない。』

    彼らの旅は続く。

    "ただ考えて発想する"、"思いつくまで考え続ける"、"発想というのは、それまで関係がなかった事柄の間に新しい関係を見いだすこと"、"発想があるまで、ひたすら考える"、"何か手掛かりはないかと思いを巡らす"。

    大切なことは、"どう考えればよいかではなく、何を考えるか”。"問題がどこにあるかをいつも考えている"ことだ。"問題を見つけること、取り組む課題を探すことは、目の前にあることに取り組むよりずっと難しい"のだ。"研究領域とは、二人で考えれば二倍広くなる"

    "村"に戻った「僕」は静かに振り返る。

     『若い頃には滅多になかったことだ。それが、この頃はときどき空を見上げる。』と。『空はいつでもそこにあるから、それだけ少し安心できる。』と。

    「僕」はいまでも信じているのだ。勇者が冒険の旅を続けていることを。おそらくあなたも信じるだろう。あなたが研究者かどうかに関わらず。少なくとも、私はそう信じている。

  • 大学院と後のシステムと内情を淡々と説明してくれてる話かと思ったけど、最後の数ページはよくわかるような気がした。

  • 同じ道を歩く身として、過去の懐かしさと現在の共感、未来への期待と不安とが次々に感じられた。はたして研究者としての純粋さを求めたら、大学にはいられないのだろうか。確かに大学は研究機関であるとともに教育期間でもあるのだから、ある程度避けられない部分はあるけれども。

  • 大学での研究の話。学問の王道を歩む喜嶋先生の生き様を生徒目線で描かれている。

  • 切なさも懐かしさも儚さも美しい。

    「静かな」世界がどれほど美しいか。


    以下引用

    「学問には王道しかない」

  • これは切ない。学生の時に読んだらまた違ったかも。タイトルの静かな生活とはロマンチックで壮絶な感じ。

  • 久々の長編。
    ゆっくり深呼吸をするように、読んだ。

    学問はやっぱり尊いものなのだと再確認した。
    私も、その頂から見える景色が見てみたい。
    もちろんピンキリあると思うけど、文学の研究は自分で生み出したという
    ものではないと思うから、理系がうらやましい。
    そちらの''言葉''で見る世界は、どれだけ美しいのだろうか。

  • これは、作者の話しが入っているのか、フィクションなのかわからないですが、面白いです。個人的にこういう先生に師事したかったな。元々はたしかどっかの短編の話しがベースです。

  • ミステリじゃなかったけど、カテゴリはミステリにしとく。
    森博嗣の中でもかなり好きな本となった。
    大学いきてーって勝手に思った。

  • 読み始めてすぐに 学生時代の学問に対する一直線な思いや 世間の事を良く解って無いが故の恥ずかしいほどの率直さなどに共感し 主人公の理系青年の戸惑いに共感しながら とても楽しくなって どんどん読み進んでしまいました。
    でも途中から その純粋で美しい(あえて穢れないとでも言おうか)情熱に ある種の共感を保ちながらも 何か少し恐怖の様な感覚が芽生えてきて戸惑いを覚えます。  その漠然とした不安の様な怖さの原因が良くわからないまま読み進むと 散りばめられたほのぼのとしたエピソードに際する度に 一緒にクスクス笑ったりして エンディングまでどんどん進んでしまいます。
    そして・・・・・余りにも衝撃的な結末(と呼んでいいものか迷いますが)に呆然と立ちすくんだまま 文字通り最後の1頁で 突き飛ばされる様な読後感にザックリと心を引き裂かれてしまいます。
    森博嗣作品には珍しく いわゆる殺人ミステリーでは無いのですが 無駄の無い淡々とした言葉遣いと結末には充分なドラマを期待してOKです。
    作者フリークにはもちろん 初心者にもオススメ出来る作品だと思います。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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