- Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062166362
感想・レビュー・書評
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はじめ、ちょっと怖いと思ってしまいました。
プロの研究者の世界。
そして、喜嶋先生に出会えた主人公がうらやましいと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「もともと短編として書いたものを長編にまとめました」と、どこかでさらりと森博嗣は言っていたけれど、そんなに簡単に長編にすることが出来るものなのか、と読みながら思った。
短編の方も、読んだのは10年前くらいだろうけれど鮮明に覚えていて、長編で「もう一度会えた」ような気がする。
橋場くんという目を通して、喜嶋先生のひととなりをもう少し深く知れるというか、彼と一緒に呼吸を共に出来るというか。
「研究」は「仕事」ではあっても「労働」ではない、というのは、私が住んでいるクラシック音楽界でも同じようなことが言えると思う。
突き詰めていけばいくほど、何も知らない自分が分かる。突き詰めていけばいくほど、自分の視界が開けていく。ひとに言われるがまま、誰かに導かれるがままではなく、自分自身の判断と選択で、道を進み、時には開拓することができる。その喜びと恐ろしさ。演奏をやり終えるたびに、自分はまだまだと落ち込み、演奏の直前には、自分への不安と自信とで綱渡りをし、そしてまた、新たな演奏の機会へ、進んで行く。
最早、誰にも何も言われていないけれど、自分で自分を律し、励まし、蔑み、鼓舞し、絶望し、期待する。
それは、誰に言っても分かってもらえないかもしれない。でも、分かってもらえなくてもいい。でも、誰かに分かってもらえると嬉しい。
森博嗣の本を読むと、いつも思う。私があと10年若かったなら。森博嗣という作家に、小学生のときに出会っていたなら。それはきっと、私が森博嗣よりも遅れているからなのだと思う。
それがたとえ思い込みだとしても、必死に楽観的な幻想だったとしても、森博嗣と同じようなことを、音楽を生きて行く中で感じられたという事実は、私には涙するほど嬉しい。そんな自分を愚かだと思いつつも、とても嬉しい。
死ぬ間際まで、音楽の中で生きていたいと思うけれど、と同時に、この本のように静寂が身を包む世界に身を置いてみたいとも思う。
この本には、コーヒーも紅茶も似合わない。どんな音楽も似合わない。カフェも図書館も似合わない。孤独と静寂のみが、とても良く似合う。そんな風に思います。 -
『喜嶋先生の静かな世界』読了。
主人公が研究者になるまでの話。
自分の知らない世界でとても新鮮、もっと早く読めば良かった。
結婚式での喜嶋先生のスピーチの締めにクスリ。
研究するって良いな、私ももっと色々な事を知りたい。
-「紙と鉛筆さえあれば、どこでも研究はできるよ」(327P) -
主人公橋場君をとおして尊敬する喜嶋先生を描いていますが、ほとんど橋場君の研究観、生活観、恋愛観を表しています。研究者の中でも橋場君は普通で、喜嶋先生は「特殊」だと思います。ただこんな先生はよくいるもので、研究者としては皆のお手本になりますが、なりきれないのだと思います。研究者の価値観をよくあらわした素晴らしい小説だと思います。
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森博嗣が好きだ。S&Mシリーズ迄は。
森博嗣がビジネスのためにと割り切って小説を書いて居るのは有名だが、最近の某シリーズは最早同人レベルで、ミステリは崩壊、「このキャラを出せば嬉しいんでしょ?」的な目線のぐたぐた加減で本当に悲しかった。
しかし今回は久々に楽しいものを読ませていただいた。
大学生、という「人生の夏休み」期間の想いが、少ない登場人物の中でよく描かれて居る。
喜嶋先生っぽい人、って大学に一人は居る気がする。
ああ、大学生に戻りたいなぁと思える。
自伝的小説なのだけれど、自分の大学生時代も投影してしまう、そんな小説でした。
面白かった! -
数日たっても良い本に出会えた読後の幸せを、
しみじみと味わっています。
研究と芸術は、似ている部分もあるのだなと
ちょっと思いました。
そして、静かな世界に、女が持ち込む、
色のついた日常(現実)のことも…。
そうそう、そうなるよね、
よくわかるなあと。
あの日、あの時、
あの頃の、濃密で純粋な時間は
もう二度と戻ってこないのかもしれないけど、
それが子どもの頃の
雲をつかむような淡い思い出の中ではなくて、
大人に近づいた大学三年生からの体験だった…
というところが、
なんだかとても良いです。 -
森博嗣の自伝的小説という。
主人公の橋場は、大学院に進学し、そこで喜嶋先生に出会い、大学と研究の本当の価値を知る。
「教えてもらう」から「与えられた課題を自分で探す」、そして「何を探すかを探す」という研究者へのプロセスを進むにつれ、喜嶋先生に一歩ずつ近づいていく主人公。
一方、講義や会議に明け暮れる教授を、「もはや研究者ではない」と痛烈に批判する。
喜嶋先生は、それらから距離を置き、真の研究者としての道を進む。その行き着いた先は、ラストシーンで静かに語られる。 -
読み終わった今、不思議な感動に包まれている。4章立てではあるが、取り立てて何か大きな出来事があるわけではなく、結論めいたものがあるわけでもない。ただ、日を積み重ねて成長していく過程が何とも、「僕」と一緒に過ごしたようで、読み終わって切ない感情に囚われている。こういう感じはあまり味わったことがない。理系の人に特におすすめかも。