水滸伝 2 替天の章 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087460940

感想・レビュー・書評

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  • いよいよ梁山泊始動ですね。いろいろなタイプの英雄・豪傑が出てくるし、それぞれのバックボーンも読めるので、人物への感情移入がしやすく、読んでいて様々な思いにとらわれます。

  • せっかく第1巻でもやってみた各章のサブタイトルと、そのサブタイトルが示す人物の相関図からまずは記録しておきたいと思います。

    天傷の星: 行者・武松
    地幽の星: 病大虫・薛永
    天暗の星: 青面獣・楊志
    天間の星: 入雲龍・公孫勝
    地耗の星: 白日鼠・白勝
    天異の星: 赤髪鬼・劉唐
    地妖の星: 摸着天・杜遷
    地魔の星: 雲裏金剛・宋万

    この第2巻の物語としては武松の悲劇 & 虎退治、楊志 vs. 林冲の戦い、公孫勝 & 劉唐による致死軍の創設、梁山泊乗っ取りのためのあれこれ(白勝、杜遷、宋万の働き)といったあたりなので、このサブタイトルと中身がほぼ一致しているといってもいいのではないかしら?

    梁山泊に集まってくる一人ひとりの背負う問題、反乱軍に属さなければならない事情といったようなものが浮き彫りにされ、キャラを読ませるという手法で描かれた物語になっていると思います。

    基本的に KiKi は水滸伝で集まる108人の豪傑という輩は、国家権力側から見れば単なる反乱軍(一揆と呼んだ方がいいかもしれない)で、実際のところは志もへったくりもなくて、替天行道(天に替わって道を行う≒世直し)な~んていう大きな Vision なんかなかっただろうと思うけれど、あの頼りない宋江(梁山泊のリーダー)の存在意義を高め、説得力をもたせるために「志」なんちゅう実態のよく分からないものを持ってきたあたり、なかなか考えたもんだと感心することしきりです。

    そしてこのちょっと鬱陶しいまでに出てくる梁山泊側の「志」の対抗馬として出してきたのが、青蓮寺なる体制擁護派の頭脳集団(別の呼び方をすれば諜報機関)であり、その依って立つ思想が「王安石の新法」ときましたか!!  これは巧い!!  時代的にもピッタリマッチしているだけに妙な説得力があります。



    さて、この巻でちょっと前に読了した「楊家将」 & 「血涙」の楊家軍の末裔(「楊家将」で不遇の死を遂げた宋国建国の英雄・楊業と「血涙」で楊家軍最後の生き残りとなったその息子六郎・延昭の裔を継ぐ者)として登場しました。  もちろんあの伝家の宝刀「水毛剣」をひっさげています。  六郎までは独立した軍閥だった楊家だけど、どうやらその子孫たちは宋国の武挙を受けていわゆる「国軍」に組み込まれる軍人として生きてきた模様です。

    ちょっと時代背景と物語のプロットを振り返ってみると、「楊家将」は五代十国の後期、宋が北漢を併合するところから宋の遼への親征までが扱われ、「血涙」ではその親征の2年後から澶淵の盟が結ばれるまでの物語が描かれていました。  大雑把に言ってしまえば、群雄割拠状態の多くの国がお互いの「国家主権」とでも呼ぶべきものを軍事力で脅かしあっていた戦国時代から、宋・遼という2大国家に集約された時代、さらにその2国間でも同盟が結ばれ平和が訪れたという時代にあたります。  

    そんな時代の流れの中で、軍に求められる役割が劇的に変化していったことは想像に難くありません。  弱肉強食・群雄割拠の時代には重要な役割を担っていた「精強な軍閥」はもはや必要なくなり、中央政府の扱いやすい軍が求められていく・・・・・という風に。  そうであればこそ、「澶淵の盟」を結ぶ直前に宋と遼の2国の最強の軍閥であった楊家軍、耶律休哥軍の決戦が命じられ、楊四郎(=石幻果)も楊七郎もその闘いの中で命を落とすことになってしまった・・・・・そんな風に感じるんですよ。

    まして、かつて「世界史」の授業で学んだように宋という国は徹底した文治主義の国家です。  そんな時代背景の中で、この物語に描かれる軟弱な禁軍、腐敗した軍機構(含む地方軍)という状態があるし、青蓮寺みたいな頭脳集団の暗躍もあるし、かつての軍閥の裔である楊志のモヤモヤがある・・・・・と考えると、なかなか練りに練られた勢力図をベースに書かれた物語であるように KiKi には感じられました。  

    林冲と楊志の対決場面で楊志が「水毛剣」を出さなかった理由だけがちょっととってつけたような印象があったけれど、まぁ、まぁ、家宝ともいうべき剣をふるう場所は戦ではあっても盗賊征伐であってはならないわけで、それもありかなぁ・・・・・と。  そして、本人が決して納得していないにも関わらず、AさんからBさんへの賄賂を運ぶ護衛となり、悶々としつつも「下された命令を果たすのが軍人の本分」と拘り続ける楊志の姿に、楊業や六郎の抱えていた苦悩が思い出され、「血は争えないなぁ」という感慨を抱きます。

    KiKi は何度もこのブログでお話しているように「正義とは立場が変われば変わるもの」という考えを持っていて、さらに言えば「耳触りの良いスローガンだけの、人によってどんな風にも解釈できるキャッチコピーは実は危険」とさえ思っている人間なので、本来ならこの物語のように「志」「志」と最初から連呼されちゃうと斜に構えちゃうようなところがあるんだけど、この物語でそうならずにすんでいるのはやっぱり梁山泊の対立軸に据えられた「青蓮寺」が存在しているから・・・・・だと思うんですよね。

    言ってみれば梁山泊はかなりアナーキーな集団で、テロリストと根本のところは大差なく、結局は力で現政権を倒そうと考え、行動する人々なわけです。  そこに「志」という実態のわからないものが出てきただけで単なるテロリストではなく革命軍と認識されている・・・・・・というような。  でも、実際のところは現状をすべて破壊して新たなものを創るのではなく、今ある枠組みは生かしながら改革をするという考え方は一方にあるべきだし(それが平和ボケと呼ばれちゃうにしろ)、やはりそのせめぎ合いがなければ「結局最後は力でしょ。」となってしまったりもするわけで・・・・・・・。

    さて、ようやく梁山泊に替天行道の旗が掲げられました。  でも、まだまだ宋という大国と対決するには人的にも経済的にも生産力的にもあまりにも貧弱な反乱軍です。  第3巻に進みたいと思います。

  • 王進がちょっとしか出なくて残念。
    安道全と杜遷が好き。

  • 登場人物も増え、物語も全体像が何となく見えてきて、面白くなってきました。
    人と人との関わりも深まり、今後の展開が少し透けて見えてきて、物語が加速していくのを感じます。

    でもやっぱり女性の扱いに「うーん」と言わざるを得ない。
    しかし1巻よりはいいので、このまま変わっていってくれればと願わずにいられない。

    それとは別に、物語的に先が楽しみ。

  • 武松、楊志登場、そして、梁山泊の立ち上げ。武松ってこんな奴だったけ。なんだかなあ。安道全とともに山寨に入り込んだ林冲、初登場時よりすごさが増してる感じ。楊業の子孫楊志、林冲との戦いのときにあれって思ったんだけど、あの剣は使わなかったのか。

  • 第二巻。梁山湖の砦を奪いとり、本拠地を確保した。次第に集まっていく同志たちのキャラが魅力的だ。特に終盤の孤高の林冲よりも序盤のほうが社交的。少しずつ力を蓄えていく様子にわくわくする。

  • 「医師として、恥ずかしいと思う。口惜しくもある。しかし、私と薛永ができるのは、この半年を、それほど苦しい思いをせずに生きていけるようにしてやれる、ということにすぎん。済まぬと思う」

    「ふむ。なかなかの表題ですな。天に替って道を行う。よほどの自信がなければ、こんなことは言えぬ。しかし、王倫も昔は、同じようなことを言っていたのですよ」
    「こんなものは、性根の張り合いであろう。言わなくなれば負けだ、と私は思う」
    「心の中から失えばです、呉用様」

    「闘いにも、いろいろある。いまは雌伏の時と言ってもいい」
    「なぜ?」
    「それは」
    「雌伏をしなければならない理由は、どこにもない。むしろ、闘う理由がこの世に満ち満ちている。闘うために、人はここに集まったのではないのですか?」
    「慌てないでいただきたい、林冲殿。われらはいずれ闘う」
    「余計なことを申しあげました。追われる身ゆえ、どこかいつも気持が切迫しているのだろうと思います」

    「百人では、役所の食糧庫などを襲うことはできんな。民の冬の蓄えでも掠め奪ってくるのだろう。もしそうなら、俺には納得はできんな」
    「みんな、納得しているわけではない。いまは、仕方がないのだ」
    「いまとは、いつまでなのだ。何年も前から、いまは仕方がないと言い続け、何年も先になっても、同じことを言い続けているのではないか。そしてみんな、奪うことになれてしまう」

    「楊一族の血の誇りを、反逆の徒であるおまえが、汚すのか」
    「間違えるな。俺は反逆などしていない。ただ、民のために生き、この槍を生かそうと考えただけだ。いずれ、高俅だけはこの槍で突き殺してやるが。私恨と言われようと、俺はそれだけはやる」

    「俺は、この国をひっくり返してしまいたい。民が民として平穏に生きることができる国を作りたい。俺のような坊主が、いくら叫んだところで、どうなるものでもないが」

    眼隠しではなく、自ら眼を閉じ続けているというのは、たやすいようで、実は大変な意志力が必要なのだろう、と晁蓋は思った。

    「闘って、死ぬ。勝てぬまでも、華々しく闘って死ぬ。数年前まで、私はそう思っていた。そうやって闘うことで、この国の民の心の中に、なにかを植えつけることができると。それでもいいし、それだけしかできないだろう、とも思っていた。いまは違う。私は生きたい。闘って、生きて、そして勝ちたい」

    「志を全うしようとする以上、官軍との戦は避けられぬ。私はひとつだけ、ここに誓おう。志にもとる戦を、私は私自身に禁ずる。それで、すべてをわかって欲しい」

  • 仲間が集まり、梁山湖の本拠地も手に入れ、基礎地は固まったと言うところか、話にのめり込んでいき早く次が読みたい。

  • 安道全、白勝、林冲が好き。

  • 2回目読了

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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