左岸 上 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087467956

作品紹介・あらすじ

仲の良い両親と、ふたつ上の兄・惣一郎、幼なじみの少年・九に囲まれ、福岡で育った茉莉。
惣一郎の死をきっかけに、幸せな子供時代は終りを告げる。
男たちとの出会いと別れ、九との再会を経てめぐりあったのは、このうえない幸福と、想像もつかないかなしみだった。
対岸を歩み続ける二人の壮大な愛の物語。
人生が一本の河だとしたら、あたしたちはどこに流れ着くのだろう―。
辻仁成と組んで放つ、愛を求めて流れゆく男女の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 福岡で生まれ育った茉莉の半生。

    仲のよかった兄の惣一郎が自殺し、母が突然イギリスへ行ったり、茉莉自身は東京へ駆け落ち。

    福岡に帰るときには、駆け落ちした相手とは別の男を連れ帰り、どんどんやる気を失う男と別れ、やっと運命の男と出会い、子どもを授かる。

    茉莉が始と結婚して、さきを産んで紆余曲折があったけど、やっと幸せになれるんだなって思ったら始の事故死。

    なんでこんなに茉莉ばっかりに試練を与えるんだろうと思ってしまう。


    それでも画家の青山に見初められ、モデルとしてパリで過ごす茉莉とさきは、徐々に自分を取り戻していく。

    ふさぎこんでいた茉莉が回復したのはほんとによかった!

    パリで再会した幼なじみの九ちゃんに何かが起きた?ところで上巻は終了。

    これからの茉莉とさきがどうなるのか。

    でも、乗り越えられない試練は上さまは与えないというし、茉莉ならきっと大丈夫ってことなのかな。

    茉莉の逞しさのようなものは、ほんとに羨ましいしかっこいい。

  • 江國香織という作家はすごい。
    こんなにまで人生を作品に表現できるなんて。

    私はいつも、描かれている人生を追体験したような気になって、胸が苦しくなってしまう。
    どうして、ずっと幸せではいられないのだろう。

  • 九と茉莉、子供から大人までの物語。不思議でそれでいてまったくの日常が全四巻で描かれる。お互いを思いやる、という気持ちは、恋愛、結婚だけではないのかもしれない。

  • ぐいぐい引き込まれました。
    あっという間に下巻へ進みました。

  • 久しぶりにどっぷり主人公に感情移入して読んでいる本*
    そして久しぶりの江國香織さん。

    主人公が福岡出身で、東京、パリ、と移動したり、なんだか馴染める要素が多い。博多弁も違和感なし。

    まだ左岸の上巻のみなので、感想はすべて読んでからまとめたい。
    次は右岸の上巻*

  • 下巻読了20240502 感想は『?』

  • 2019年に読んだシリーズ。4冊も続いてたから登場人物への感情移入がものすごかった記憶。

  • いまのところびみょう、、、

  • 超然として、もっと遠くへ行け。

    どんな職業でも、大切なのは実力と人格です。
    それがあれば、何も恐れることはない。

  • 辻仁成との共作、『冷静と情熱のあいだ』のような作品を期待したが、あまり共通の要素がなく、もっと庶民的な物語。パリ滞在中の描写が良かった。

    目次
    1 うったうったうー
    2 ヤングアンドプリティ
    3 まず、飛び込む
    4 恋に落ちる
    5 運命の歯車、そしてガソリンスタンド

    以下、抜粋。
    p.245
    「大学にいきたい思っとうと」〜
    「昼はアルバイトをして、夜は勉強する。大学受験やなくて、大検受験やけど」
    それは東京を離れるときから決心していたことだった。山辺が仕事をみつけるまで待とうと思っていた。山辺にそのつもりさえあれば。
    「学費、だしてもらえるかいな?」
    ■人が大きな、前向きな決心をするようなシーンはこちらまで気分がよくなる◎

    「女は男次第ではあるけれど」
    その山野さんが、いつか茉莉にそう言った。
    「だからといって、男に頼っていちゃだめよ。男なんて、死んでしまえばそれまでなんだから」

    p.479
    静寂は、無理に埋めようとさえしなければ茉莉にやさしかった。
     夜になると青いランプの灯るエッフェル塔、仕事も悩みもないみたいな顔で、遅くまでカフェで寛いでいる人々。真昼の日ざしにさざ波をきらめかしつつ、ゆるやかに流れていくセーヌ、いくつもの古い橋、グラン・パレの丸屋根。変色した絵葉書を、どう考えても干しているとしか思えない屋台、地下鉄にいる辻音楽師。美しい街だと認めないわけにはいかない。歩くだけでのびのびし、「ジュ」を自分で注文するさきの笑顔がそばにあれば、このままここに住みついてしまいたいくらい居心地のいい街だ。

    p.491
    青山志津夫の妻に会ったのは、数日後のことだった。昼寝のあと、台所でジン・トニックをのんでいると、無人のはずの居間から、音楽がきこえた。それまでこの家のなかできいたことのない類の、古めかしくて懐かしいシャンソンだった。感傷的なピアノにのせて、情感たっぷりの女性の声が、パルラ、ダム、と歌い始める。グラスを手に持ったまま、茉莉はしばらくそれを聴いていた。目を閉じて、裸足で。新が、たしかこれとおなじレコードを持っていた。休日の朝、子供たちなどそっちのけで。喜代と新は、二人で音楽を聴いていた。
     居間の扉は、いつものように大きく開け放たれ、真鍮の、装飾的なかたちをしたストッパーで固定されていた。のぞくと、背の高い女性が立っていた。濃い茶色の長い髪、透けそうに白い肌、タイトスカートからのびた、子鹿みたいに細い脚。まるで、この部屋の調度の一部みたいだと茉莉は思った。たっぷりとドレープをとった暗色のカーテンとか、床置式の、大きな振り子時計とか。重厚で贅沢で、美しいが目立たない。はじめから、この部屋にあるべきもののような存在感だ。
     肩に手が置かれ、同時に、
    「紹介しましょう」
    という声がきこえた。志津夫は茉莉の横をすり抜け、妻を軽く抱擁すると、頬に頬をつける挨拶をしながら、艶かしい(と茉莉には思える)フランス語で何やらながながと囁いた。
     茉莉はぽかんとそれを見ていた。絵のように美しい二人を。裸足で。色あせたTシャツにゆったりしたコットンパンツ、という、昼寝用の恰好で。男の子のように短い髪は、寝乱れてくしゃくしゃなはずだった。
     フランス語と日本語を両方使って、志津夫は妻に茉莉を、茉真に妻を紹介してくれた。そのあいだ、まるで、妻が一人では立っていられない子供か老人か病人であるかのように、志津夫は彼女の背を支えていた。不仲だという噂があることを思いだし、茉莉は興味深く思った。
    「はじめまして」
     目の前の女性の、非の打ちどころのない装いと態度ーー淑女然としたふるまいーーに気圧されながら、茉莉は言った。シモーヌーーというのが彼女の名前であることがわかったー
    ーはかすかな笑顔をつくったが、一瞬のちにはそれさえも消え、いま笑顔を見た気がするのは錯覚だったかと思われるほどだった。茉莉にはほんの一瞥をくれただけで夫に向き直り、シモーヌは低い声で、
    「エレ・ミニョンヌ」
     と言った。かわいいって、と、志津夫が通訳してくれたが、シモーヌのそれは何だか犬か猫を見た感想みたいな言い方だ、と、茉莉は思った。夕方の日が斜めにさし込む居間を、シャンソンが満たしている。シモーヌは依然として肘を志津夫に支えられながら、何かーー誰か友人のことらしいーー早口でまくしたてている。髪を振ったり手を動かしたりするたびに、彼女のまわりの、香水の匂いの空気が動くのがわかった。
     茉莉はそっと部屋をでた。夫婦のうちのどちらも、もう茉莉には注意を払っていないようだった。〜
    「あなたに会いに来たんだと思いますよ」
     シモーヌの突然の訪問について、志津夫がそう言ったのは、セーヌ川ぞい、ルーヴル美術館の対岸を歩いているときだった。
    「あそこは滅多に来ないのに、そうでなきゃ説明がつかない」
    おもしろがっているふうに言う。
    「説明がつかないって。夫婦なのに、へんな言い草」
     茉莉が言うと、志津夫は認めて、笑った。〜
    「まあ、いろんな夫婦があります」
    志津夫は言った。
    「シモーヌは誇り高いけれど、好奇心には勝てなかったんだろうな。あなたについては、いろんな噂が耳に入ってくるだろうから」

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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