- Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101372518
感想・レビュー・書評
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面白い。読み応えあり。
白州次郎、寺島しのぶ、などについて、見る目が変わった。
女の子の育て方、東西の文化の違い、金銭感覚、家族関係、老い、ビジネス、時代など多方面に考えさせられた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
実在の人物について書かれたもので、これ程までに曇りのない目、寄り添うような温かな目線で書かれたものを、私は知らない。
白州次郎が通い詰め、川端康成がこよなく愛したバー「おそめ」のおそめママ。川口松太郎が彼女をモデルに描いた『夜の蝶』は一世を風靡し「夜の蝶」は華やかで妖しい夜の女たちの代名詞ともなった。その「夜の蝶」でありおそめママであった上羽秀なる女性は、文壇バーの世界の頂点を極めるに相応しい美貌と知性の持ち主であったことは勿論だが、世に知られたイメージとは正反対といえる素顔を併せ持っていた。その素顔が、著者のこれ以上ない程の丁寧でゆっくりとした文章で浮き彫りにされていく。
「夜の蝶」なる言葉にまつわる苦い思いが、私にはある。
Aさんは、59歳のケアマネジャーで私の部下だった。プロレスラーだったご主人を若くして亡くした未亡人でもあり、三味線と小唄を嗜み、訪問先のお年寄りに請われると一曲披露して帰ってくる、そんな異色のケアマネだった。半年前、定年まで1年を余し「これからは趣味に生きたい」と退職する事になったAさんを、後任として入った若い社会福祉士に紹介した。ひと通りの紹介の台詞の後に、「“夜の蝶”になるんだよね、Aさんは」と言った私のひと言に彼女はキレた。退職後は趣味の腕を磨き、やがてはお座敷デビューをも目指していたAさんは、本気とも冗談ともつかぬ調子ながら、「“夜の蝶”になるのが夢なの、ワタシ」と自慢していた。目をキラキラせながらそう話していたのは、他ならぬ彼女自身だったのにだ。
人からはそうは言われたくない。この言葉に込められた危険なニュアンスに私は無頓着すぎたのだった。
今は京都に隠棲する主人公の、「夜の蝶」であった過去をある意味で暴いてしまうことは、一歩間違えば下衆な暴露話に成り下がってしまう危険を孕んでいる。事実、今更書くことに抵抗を示す主人公の関係者も居たという。
毎日新聞の囲碁欄の記者という、これまた異色の経歴の著者は、写真を見る限り和服の似合う知的美人だ。彼女が、おそるおそる主人公を訪ね、「この箱は棺だ。中には、おそめ、と謳われた女の亡骸がいっぱい詰まっている」と書き著した、夥しい数の写真が詰められた小箱を見せられた場面から、この著者をしてはじめて描きえた真実の物語ははじまったと言っていい。
大宅壮一文庫は、物書きや研究者には欠かせない記事検索目録と膨大な雑誌の蔵書を誇る特異な図書館だ。また、優れたノンフィクション作品に贈られるのが大宅壮一ノンフィクション賞なのだが、『おそめ』はその年の最終候補にまでなった。一読すれば、著者が『おそめ』を書き上げるために、やはりこの大宅文庫の記事検索を活用したであろうことは明らかだ。昭和30年代を中心とした時期の膨大な数の「おそめ」関連の記事が引用されている。
しかし誠に皮肉なことに、引用されている数々の主に週刊誌の記事は、著者の目線とは正反対の色眼鏡に満ちている。あらかじめ、夜の蝶とはこんなものという偏見に溢れた決め付けと、結局は書く対象を揶揄するしかない、最早あわれとさえ思える雑誌記事の下劣性を露呈している。
著者の石井妙子は、まるでレンズに張り付いた色セロファンを一枚一枚丁寧に剥がしていくように、世間に流布してしまった虚像の虚を剥ぎ取っていく。ゆっくり優しいその真相への迫り方、描き方は、物語の素晴らしさを超え、読むものに著者への敬意を抱かせずにはいない。
先日、Aさんからお礼の電話があった。
在職中にいただいたヒルティーの『幸福論』のお返しに、何か一冊プレゼントしようと長らく考えた末、『おそめ』を差し上げたことへのお礼の電話だった。
「室長、いただいたご本読ませていただきました。素晴らしい一冊をホントにありがとうございました。それと・・・アノ、辞めるときに言った大変失礼なこと、スイマセンでした。私は馬鹿だから。許してくださいね」
魅力的な女性が、ここにも1人いた。 -
祇園の元芸妓さんの半生記。
清楚な見た目と違い、飛行機が珍しい時代に京都と銀座を飛行機で行き来したり、銀座でライバルとやりあったり…と行動は大胆である。
その一方、異性についてはひとりの男を愛し続ける古風な一途さがある。
そのバランス感覚に柳のようなしなやかな強さを感じさせる。 -
1155夜
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人を「もてなす」ということ
仕事をして「お金をもらう」ということ
一人の人を「愛し続ける」ということ
小説では得られない、心に迫る感じ。
誰かと強くつながりたい、と最後には思わせる本だった。 -
戦後から昭和30年代まで、京都と東京にあったバーおそめは、
著名人(男性)で賑わい、その時代のHUBみたいな役目をしていたのだなと感じた。
そして、客が客を呼ぶ、お金がお金を連れてくるといったような場所でもあったのだろう。
連鎖が次の連鎖を呼ぶように。
おそめさんの全盛期に会ってみたかったなと思う。
人をとらえて離さない、「人気」の正体っていったいなんだろう。
「男に好まれる女の魅力は、女には理解されない」
といったことが、どこにいても同業者、同性の嫉妬を買ったことに現れているが。
人生はいいことも悪いことも半分ずつなのだなと感じる。
おそめさんは稼いでも、いろんなところでチップをばらき、金はあるだけ使ってしまう。
内縁の旦那が原因で、家庭や類縁関係は複雑だった。
また、興隆を極めたバーおそめは
「屏風とお店は大きければ大きいほど倒れてしまう」、
「おできとお店は大きければ大きいほどつぶれる」
というたとえどおりになってしまった。 -
ノンフィクション。夜の蝶という映画が観たくなる。