愛に乱暴

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104628063

感想・レビュー・書評

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  • 「本気だったら、そんなこと、人に言えないって」
    このセリフがすごく印象的で、桃子の人となりを表しているものだと思った。
    その考え、ちょっと分かるし。でも、他人の本気度を自分の尺度では測れないよね。

    浮気って、人の心理状態を平常ではなくしてしまうようなシステムになっているんですかね。簡単に人には言えない、でも、そんな逆境の中でも求め合う自分たちが本物の愛を育んでいる!というような。

    自分たちが本物であり、他者はすべて偽物と思わないと、自分を保っていけないのでしょうか。
    その、本物たらしめていた一因の、お腹の中の子どもが亡くなったとき、もーーー全て崩壊してしまうなんて。最初から何もなかったのと同じじゃないのでしょうか。

    子どもを産める自分、義両親と上手く付き合っていく自分…差し出し続けていた桃子が、求められた時に、彼女のための人生が始まるのだと思いました。

    日記のトリック?は、ころっと騙されましたよ。

  •  妻と愛人の語りが交互に綴られている…と思いきや、途中で「!!」てなった。痛々しくて、後半は読むのしんどかった。

  • 吉田修一も、こんな昼ドラみたいな小説書いてたのね。
    単なるメロドラマで終わらず、一捻りされているところが「らしい」けれど。

    主人公の桃子は、ちょっとセレブなごく普通の主婦に思える。
    ほぼ桃子の一人称で小説は進んでいくが、その言動や感覚に直接的な違和感を覚えない。
    が、どこかに狂気が潜んでいるようにも感じるのだ。
    例えば、かつて勤めた会社の上司の言葉を真正直に頼って、再雇用を依頼しに訪ねてしまうあたりに、そのちょっとした「ズレ」が垣間見える。
    日記のギミックにはわりと早い段階で気づいたが、このあたりの人物造形の微妙な巧みさが流石だと思う。

    日常に隣接する危うい転落の可能性に触れてモヤモヤできる、という意味ではやはり昼ドラ的なんだよなぁ。

  • 因果応報もの。作中のトリック的に小説的で映像化は難しそう。
    ・誰が「正しい」のか?、主人公は狂人なのか?
    ・主人公はなぜチェーンソーを買ったのか?
    ・主人公が日記を描き続けたのはなぜか?

    チェーンソーや放火など、事件になりそうなアイテムは多数出てくるが、事件には発展しない。
    主人公、桃子の一人称視点で終始描かれる。夫、真守の愛人の日記と思わせる文章が各章ごとにあるが、実は過去の桃子の日記の内容である。つまり、桃子はかつて自分が真守を手に入れたきっかけが不倫であったが、同じことを繰り返し真守から受けてしまっている因果応報の構造になっている。

    主人公は、知らず知らずのうちに精神を病み、夢遊病のような形で放火をやっていたと思っていたが、違った。最後の場面、時枝おばさんのことを考えながら、外でボヤを起こし、街の人に追いかけられる場面は、チェーンソーの購入、母屋の床に穴を開ける行為も「誤解」という形で自分自身を追い詰める形となった。

    「家」というしがらみ、牢獄で精神を病む過程が章を追うごとに大きくなる。当の本人は精神を病むことは、無自覚である。

    主人公は、それでも客観視を続け、自分が「正しい」と思い込もうとする。桃子の思い込みが激しいこと、はじめの桃子の手紙に出てくる常識人、葉月と桃子のやりとりで明白だ。
    しかし、救いのあるラストからわかるように僕は桃子を非難しない。
    「愛」は常に独りよがりに「乱暴」で、そのことに人は無自覚であるからだ。

  • 愛人視点と妻視点。それが繰り返されている。実際顔を合わせた時にアレ?何だか愛人の印象違うぞ?と、確かに作者の手のひらでコロコロされているのは分かっているのに何か分からないという気持ち良さ。
    ラストは好き嫌いが分かれそう。ワタシは好きだ。
    不安でいっぱいな時に夫が冷蔵庫で食べ物を漁っていて「それ、煮干し」と笑うと手の震えが止まっているという一連の流れがとても好き。
    改行無しで目に圧力をかけてくる日記ページも。チェーンソー、床下の壺、壊れそうな女物サンダル。皆心理アイテム。
    そういやコレ視点が違うんじゃないんだよね。と読み終わってから気づいた。

  • ネタバレになるかは詳細は書かないが,読者のミスリードをあえて誘う巧みなテクニックは脱帽.心理描写は流石,吉田修一.

  • マー君(真守)が悪いと思う。

  • どういう角度から見ても悪いのは男の方だとは思うけれども、女の方も恐かった。とはいえ桃子は社会的にはまともな人な訳で、真守に関することだけがいびつになってて、こういう人は存在してるんだろうな、でも恐い。恐いけれども自分にだって他人から見たら恐い面があるのかもと思ったらそれも恐かった。
    つい読み進めてしまいましたが、好みのお話ではありませんでした。

  • 気になってほぼ一気読みした。読み始めて半ばすぎの騙された感は秀逸。ジメジメとした雰囲気。桃子の行動、言動に派手さはないのに狂気を感じるのが凄い。オチは弱め。結局夫はクズだったってことなのかな?

  • 嫁、姑、不倫などで重苦しい。
    嫁サイドの日記と不倫サイドの日記が現在と過去の同一人物(嫁)のものという話。少しわかりづらかった。
    結構飛ばし読みした。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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