人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • 2015.04.10.読了

  • テロ事件で遺された盗聴テープ。そこには人質たちの朗読が刻まれていた。いま、隔絶された場所から彼らの声が届く…。それは、祈りだったのでしょうか。閉鎖され、命の保証もない極限状態の中、静かに過去を物語る。人質同士のささやかな慰めだったろう。平凡な誰れにでも「物語」があって、静かに静かに語ることは、自分との対話でもあり、聞いてもらうことで確かに生きた証。真剣で素朴に、物語を朗読すること。これも、人にとっての「物語の役割」だろうと思いました。

  • とある国の山岳地方で起こった反政府ゲリラの拉致事件。巻き込まれたのは、8人の日本人だった。
    彼らは人質解放の日まで、様々なことをしてすごしていたが、ある日、人質解放の政府軍兵士の盗聴器から聞こえてきたものは、8人それぞれの物語だった。
    様々な経歴と、過去と、思いとを抱えて誰しもが生きている。有名人でもなく、ただの平凡な、時が経てば人質事件など忘れ去られ、消え去ってしまいそうな人たちは、だが、確かに自分の人生においては唯一の主人公であり、彼らに関わった人々や物事はかけがえのないものである。
    8人はそれぞれの話を語ることで、これ迄の人生と、自分が今ここにあることを実感する。意志的で、前向きである。彼らの生きてきた人生が全て尊いものであると感動できる。
    久々に面白いものを読んだという感じがした。

  • 設定がなんともいえない独特の世界観を一瞬で作り上げていて、一気に引き込まれる。ろうそくの灯りの中声に出して読んでみたくなった。

    人は誰しも生涯に一冊かける本があって、それが自伝だというのはどこかで聞いたことがあるような気がする。この本はまさに自分が経験した人生の一部を、物語として朗読する。

    小説を読むというのは、他人の人生を追体験するような面もある気がするけれど、目の前にいる人が、自分の体験を元に書いた小説があり、しかも本人が朗読するというのは、追体験を超える生々しさがあるような気がする。

    人質になりながら物語を紡ぐ彼らは、なにを考えてたのだろうか。人質事件の時間が経ち、世間が事件に無関心になったころに届く、人質全員死亡の情報。世間の人たちはそれに少なからず衝撃をうけながらも、また彼らは人質として記号化され、意識の底に沈んでいく。

    そんな世間に届いたのは、既にこの世にいない彼らの肉声で行われる朗読会の音声。大半の人が、遠い異国で囚われた人々、自分に関係ない人としてし無意識に思っていた所に、あなたと同じように人生を過ごし、喜んだり悲しんだりした人が殺されたんですということが目の前に突き出される衝撃。

    物語自体は淡々としてるけど、なんだか殺人事件など、様々なニュースを、日々受け流して、他人に無関心な自分に鋭く突き刺さった気がする。

  • 「人質の朗読会」という前説(設定)がなかったら、普通の(もちろん十分良質だが)短編集だったのだろうと思う。
    1週間後には思い出すこともほぼなくなっているような。
    けど、前提の設定が、これほど個々の物語に影響を与えるとは、、、新鮮な驚きだった。
    スパイスというのは、こうして使うのだなと勉強になった。

  • やっぱり小川さんの書く文章は美しい。
    他愛ないはずのものが美しく描かれていて、なんだか俳句や短歌のようだなあと思った。

  • 人質の朗読会って、なにかの比喩だと思ってたけど そのままの意味だった 確かに存在した過去の出来事を朗読する そのひとつひとつが信じられないくらい澄んでいて夢のように美しい ああ、こんな出来事がぼくの人生に1度でもあれば と思わされた

  • ゲリラに拉致され死亡した8人の日本人。犯人の動きを探るために盗聴されていたテープに残されていた人質達の朗読会。いつ解放されるか分からない状態で一人一人心にしまわれていた過去を静かに取り出し澄み渡るような静かな声で囁かれる。

  • 8人の人質たちが語るそれぞれの思い出話の短編集。
    これといって印象に残る話はなかった。

  • ★★☆☆☆
    壮大な釣りタイトルの短篇集
    【内容】
    短篇集

    【感想】
    とある国で誘拐された日本人達が、自らの経験を自分で書いて監禁されている時に朗読し合ったって感じで始まります。

    このプロットの時点で、朗読によって犯人の狙いとか、揺らぎがわかるのかなーって思うのですが、
    全然違います。

    単に短篇集です。
    文体も全部同じです。(各々が書いたって設定はどっかに飛んでいきました。)

    よって、やり投げ男の話が永遠と続いたりかなり退屈です。

  • テーマは面白いけど、それを生かしきれない惜しい本。

    まず、タイトルと表紙が秀逸ですね。
    情景が想像できて、何が起きるのか?と期待させる素晴らしい題名になってます。

    ただし、タイトル以上の何かがありません。
    本当に体験談を語るだけ、しかも現実味の薄い、ファンタジーっぽい内容。

    一つひとつの話は良いんです、設定も良いんです、でも捻りがないのでただの短編集なんですよね。

    犯人と人質の顔、拘束されている状況、バックボーンが見えこないので、どうしても絵空事のような感じになり、真に迫るって感覚にならない。

    異国でいつ殺されるか分からず、ガタガタ震えながら、異常な精神状態のなか、救いを求めて朗読会を開く、というディティールが書かれていたら、多分★4つは堅いと思います。

    フワッとしたお話が好きな人にはいいと思いますが、緊迫したドラマを求める人には向きません。

    駄作とは思いませんが、それほどオススメはしないかな。

  • 日本から遠く離れた国で、旅行中の日本人ツアー客とその添乗員8名が反政府ゲリラに拉致される事件が起きる。

    拉致された8名は、長い監禁中に自分たちの身の上や思い出を文章に起こして朗読会を行っていた。
    それぞれの人生の一場面を切り取った短篇集のような作品。

    小川さんの描写は繊細で美しく静かで温かい。
    それでいて少し物悲しい。
    読み始めた途端に、優しいような切ないような感情にふわっと包み込まれる。

  • 人質となった人達の朗読の内容は、どれも興味深い話で飽きずに読めました。
    ただ、人質の朗読というよりも短編集といった印象の方が強いです…
    そして、朗読の登場人物の中に、何故家族や友達、恋人といった近しい関係の人がメインで語られないのか違和感が…
    誰か一人くらい家族や友達など近しい関係の人の話をすると思うのに。

  • it's my fault. i had different thinking from this title. they must die??

  • 何だろう、この静かに流れ、染み込む物語は。この朗読会に至る心の動きなり、朗読会の最中の心理など想像すると妙な穏やかさを感じます。

  • 極限の状況下でのすべらない話。
    普通の人そうに見えても、
    みんな何かしらの物語を持っている。
    世にも不思議な、その人だけの物語を。

  • 人質という運命とは不釣合いな静かな朗読に少しリアリティを欠く感じ。この設定ではもっと違った語らいがありそうだけど・・・。

  • あらすじの時点で語る人々は
    既にこの世に居ないことを知る。

    旅先でテロに巻き込まれ人質となった
    日本人の老若男女8人が張り詰めた
    現場で開かれる朗読会の記録を
    短編集という形式でまとめられている。

    普通の人のなんてことない話。
    激しい展開はないが非日常的な状況に
    日常的に穏やかに進んでいくのが好い。
    自分がもしこんな場におかれて
    話すとしたらどんなことなのかな。
    しょーもないことなんだろうな。
    でも自分にとってはすごい大切な。
    そう考えながら生きるのもいいな。


    「やまびこビスケット」
    なんでだろう、また何回も読み直したい。

  • 人質にとらわれた一人ひとりが紡ぎ出す自らの物語は、どこまでも穏やかで日常的で、極限状態に晒された中で披露されていることをしばし忘れて惹き込まれていくようだった。日本語のわからない見張り役の犯人たち、盗聴器から送られてくる音声に耳をそばだてる特殊部隊の兵士までもが、その小川のせせらぎのような彼らの語りに魅入られていた。

  • 9人それぞれの体験談。それぞれの記憶に残っている話や、自分の人生を決めた話など、どちらかと言えばありふれている、ちょっと不思議な、ちょっと心温まる話。なのに印象が違うのは、冒頭でもあるように8人が見知らぬ国で拘束され人質となり最後には全員助からなかったという前提があり、その中での「朗読会」で語られた内容であるから。9人目はそれを聞いた異国の盗聴者。この話を、それぞれがどんな気持ちで語り、聴いたのか。結果が分かっているので、深い悲しみばかりが読んだ後に残るという訳でなく、読後感は静かで清々しい。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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