人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • おそらく再読。人質の朗読会という設定抜きの単なる短編集でも、著者がうまいのでじわっとくる本になったろうと思う。

    しかしタイトル通り、朗読会で本人たちが朗読したという事実が重なるだけで一層の思い、重みが増す。

  • プロローグと9つの体験談からなる連作集。

    プロローグでは、拉致された8人の人質が救出されないこと、拉致監禁中に毎晩語られていたお互いの体験談であることが明示され、不穏な導入部となっている。
    8人の体験談はそれぞれ、最後の肩書と年齢からも、自分の人生観に影響を与えた摩訶不思議な物語であり、その主人公である語り部が非業の死を遂げていることから、ぞわぞわするホラー的なものを感じた。
    しかしながら、最後の語り部である特殊部隊の監禁状態の盗聴者によって、実は拉致に至るまでの人生を充実して生きるために受けた暗示的な物語である側面もあったようにとらえることができた。
    何とも深遠な不可思議な印象の物語であったが、プロローグでは八つの物語がラジオ放送されたとあり、最後の物語はいつ放送されたのだろうか?という疑問が残ってしまった。
    その説明がエピローグとしてあるとよかったと思う反面、そんなエピローグは冗長的になりとらえどころのない不可思議な感覚で終わらせるにはこのままでもよいとも思った。

  • 静かな場所で静か~に読みたい物語たち。

  • 短編集と思えば良いのかな~
    ひとつひとつの作品は面白かったですが…
    タイトルにもあるように「人質の朗読会」を想定すると危機感も無くってピンと来ないですね~
    タイトルと小編…どちらありきだったのでしょう?気になるところです。

  • ひそやかに、耳元で語られるような、やわらかな連作中編。音も色もあるのに、その向こう側の静謐がより大きな音で聴こえるのが、小川洋子という人の物語のすごいところだ。
    「やまびこビスケット」と、「コンソメスープ名人」が特にすき。

  • それぞれ何気ないような話。
    それでいて語り手たちの置かれた状況が物語を特別にしている。
    まっすぐに静かな話だと思う。

  • 何かの雑誌で見たんだよな。すごく良かった。小川洋子の最高傑作じゃないか。表紙の子鹿も素敵。地球の裏側の村で、反政府ゲリラにより拉致された日本人8名。長期間の拘束の中、一人ずつ朗読を行う。自分の経験を物語にして。プラスして、それを聞いていた現地の特殊部隊の人の物語も入れ、9話の短編集。何か、物語っていいなぁ、って改めて思う。その朗読が流れたラジオを私も聞いてみたい。もしかして、ほんとにラジオ番組として実現しているんじゃなかろうか。自分がこの人質だったら、何を語るだろうか。9話どれも良かった。何か。ほんと静かな、淡々とした感じというか、この表紙のイメージとほんとぴったりなんだよな。すごく、何度も何度も読み返したくなる感じ。

    2013.3.16
    再読。この静かな、淡々とした感じがたまらない。私だったらどんな物語を選ぶだろうか、と思う。犯人による爆発で人質全員が死んでしまうというのも切ない。最後に現地の人の話が入ってるのもいい。この表紙とすごく合うんだよな。と、今前の感想を読み返して、全く同じことを書いてると思う。まぁ1年経ってないしね。

  • 救出作戦に失敗し、全員爆死してしまった人質達。
    その人質たちが、拘束される日々が日常と化した時に、お互いに退屈を慰めるために、何でもよいから思い出を一つ書いて朗読しあおうということになった。
    いつになったら解放されるかという未来ではなく、自分の中にしまわれている過去をそっと取り出し、手のひらであたため、言葉の舟に乗せ、朗読する。
    語る、のではなく、朗読する、というところに、この短編集の深さがあるような気がします。

    はじめに死ありき、のこの短編集は、その章の終わりに語り手達のプロフィールと年齢が表記されているのですが、それが短編一遍ごとにずしりと生の重みを感じさせます。

    拙い語り、せつない話、なんでもない日常の思い出、などさまざまな朗読が、そこに確かにあった生というものを生き生きと描いていて、短篇集の構成としては、斬新で、深みを感じました。

    死を根底に置いたのなら、自分のこのなんの変哲もない日常が、深みと重みを増すのだろうか、と考えさせられた作品です。
    これは、短篇集の形をした、一種のメメント・モリなのかもしれませんね。

  • 厳かでしんとした感じ。単なる短編集として読むのと、もうこの世にはいない人たちが語った物語として読むのとでは、印象が違ってくるのだろうと思われて、そのことが興味深い。
    「B談話室」「死んだおばあさん」「花束」が好き。

  • 物語は、海外ツアーに参加していた日本人観光客8人が、旅先の山岳地帯をバスで移動中に反政府ゲリラに拉致されたニュースから始まる。100日以上も膠着状態だった間に、人質となった日本人8名はそれぞれが人生で出会った印象深い人との不思議なエピソードを朗読していたことが明らかになり、その内容が綴られるストーリーです。
     
    11歳の少女が家の前の鉄工所で働く大人の男性と公園で出会った話「杖」や、洋菓子メーカーの工場でアルファベットのビスケットの欠品を探す仕事をする女性とアパートの大家さん(おばあさん)との話「やまびこビスケット」、公民館の「B談話室」で行われる会合に参加するようになった男性の話、中学男子と縫いぐるみ売りの老人との出会いを語った「冬眠中のヤマネ」ほか、「コンソメスープの達人」「槍投げの青年」「死んだおばあさん」「花束」、そして、「ハキアリ」。
     
    人の死と関わる話が多かったので、どこか物悲しく、でも、読んだことがない設定と内容の物語の数々でした。

  • この本は東日本の震災前に書かれた本。
    なのに、今の日本の状況を見通しているかのようだ。

    人質にされた人々が、その状況下で順番に話を書いてそれを朗読する。
    そして犯人監視用の録音を書き起こしたという設定。
    人質たちは、最後には死んでしまうのは本の最初に述べられている。

    まじかに、死が迫っているという局面で、
    どのような話を語るか。
    自分の人生の中で大きな転機となった、そのエピソード。
    他人にとっては、なんでもないような事柄から
    個性的に惹起されていく物語が語られる。

    物語の中の人物が生き生きしている。
    各短編の中から気になる人物や言葉をあげてみる。

    第一夜 「杖」 作業に洗練された溶接の工員さん
    第二夜 「やまびこビスケット」 整理整頓好きの大家と同じ場所に跡がある象
    第三夜 「B談話室」 公民館 自己との対話 運針倶楽部
    第四夜 「冬眠中のヤマネ」 目を病んだ老人と縫いぐるみ
    第五夜 「コンソメスープ名人」 料理の精密さ
    第六夜 「槍投げの青年」 飛翔のラインに飛び乗る心
    第七夜 「死んだおばあさん」 
          偽ヴァイオリニストのおばあさん他、魅力的なおばあさんいろいろ
    第八夜 「花束」 死者への新品の背広の重さ
    第九夜 「ハキリアリ」 懸命なアリと日本人

    作者はどうやら言葉、外国語へ興味があるようだ。
    また、修行や熟練、整理整頓をベースにした職人技へのあこがれと尊敬も深い。

    それに反して、無口で猫背で目つきが悪く、
    何かしらの思い入れをももっていない職場の人々
    つまりは、いわゆる”B層”の存在なのか、記述もやけにそっけない。

    死に望んで何を話すか、
    人の思考は、金太郎飴を輪切りにしたように、同じ構造が現れる。
    そしてそれこそが、その人の思考であり、その人そのものなのだ。

  • プロローグがあるからこそ、ひとつひとつの話しがただの昔話ではなく、その人自身を表すような不思議な魅力に変貌していました。

  • 日本から遠く離れた地球の裏側の国で、ゲリラに誘拐された8人。
    3ヶ月以上の拘束の末、全員爆殺され事件は終わる。
    2年後、8人が監禁されていた小屋の盗聴テープが公にされ、人質たちは小屋の中で一人ずつ自分の人生の物語を朗読していたことがわかる。
    その朗読は人質たちが生きた証として、一夜に一話ずつ、ラジオ番組で放送される。

    事件の概要について前段のあと、8人の人質と、朗読会を盗聴していた兵士の短編という構成。
    それぞれの物語は短い。
    今に至る人生の、キーになったエピソードを語っている。
    少しファンタジックな話が多い。

    夫を突然亡くして子供もなく、漫然と働いている主人公が通勤途中に見かけた青年を追いかけ、仕事をサボって彼の槍投げの練習を眺める『槍投げの青年』。
    槍投げを見るだけ、という非常に地味な話しながら、描写が秀逸。小川洋子の筆力を実感する作品で、物語もとても深い。

    小川さんは何かの動作を丁寧に描く人だという印象がある。
    『コンソメスープ名人』では隣の家のお嬢さんがコンソメスープを作る様子を詳しすぎるくらい詳細につづっている。
    くどいくらいの描写が、ちゃんと生きているという感じがして好き。

    公民館のB談話室で開かれる様々な会合に主人公が入り込む『B談話室』が一番好きだった。

    そして最後の夜に流されるのは、人質たちの監禁生活を盗聴していた兵士の物語。
    彼の話の中でちらほらと出てくる人質たちの話題に、
    これはあの人のことかなと思い浮かべながら、それまでの話を振り返ってみたりした。


    朗読という形にしたのが面白いなと思う。
    声は聞こえないけれど言葉にして紡がれる声や温かな拍手が聞こえてくるような気がする。
    一部で指摘があるように、中身は完全に普通の小説の形態であり、話者ごとに語り口を大きく変えていない。完全に小川洋子の文章である、当然ながら。
    その点で面白くないという批評もわかるが、
    私的にはデフォルメの逆というか、物語に集中するために必要な表現の抑制なのかと解釈した。
    あくまで紡がれるのは個人的な話だけど、語り口の差異を小さくして個人を希釈化することで、読み手との間にいい意味で曖昧さと距離感が生まれている気がする。
    なので、途中からは好意的に受け止められた。
    おしまいには、これでよかったと思った。

    作中、人質たちがどのような状況に置かれ、どんなことを考えていたのか、
    その恐怖や絶望、拘束が長引くに連れての心の動きなどはまったく書かれていない。
    残された家族についても、途中で絶たれた人生の切れ端がどんなものだったかも語られず、
    あくまで朗読中の過去の姿だけを描いている。
    各話のラストに職業と年齢・性別・ツアーの参加動機が記されているだけで、名前すら定かではない。
    語られたエピソードと、最後の一行の間に流れた月日を思い、更に感慨が深くなる物語。

  • プロローグで泣いて、各章毎にまた泣いて、最終章は二頁目から号泣、最後に表紙の「子鹿」の儚く可憐な佇まいにまた泣いて。。。

    多分相性なんだろうなぁ。やたらと泣かされた一冊。

    図書館で借りて読んで、やっぱり買い直しました。中身も装丁もいいと手に入れたくなる!

  •  遠い外国で人質にとられて、しまいには亡くなってしまった8人が、人質として生きている間にそれぞれ書いて朗読した物語なのに、どうしてどの物語も語り口が全くいっしょなのだろう。
     それが最大で唯一のプロットに対する疑問である。

     ここまで「8人の人質」の設定をのっけに創り上げてからしゃべるのであれば、語り口だって気を使ってしかるべきだろう。疑問である。きっと小川さんは数ヶ月に渡って連載して書いたので、書いてる最終はそういうことには気が付かなかったのであろう。

     単行本になる時点ではキット気がついていたのだろうけど、まさか文体そのものを書き直すことはさすがの小川さんも出来ないものね。だけど唯一の疑問なのだやはり。

     それぞれの物語はとびきり面白いので、何度も言うがそこが唯一の気に入らない点である。
     そこが上手く処理されていれば本屋大賞二度目の受賞ぉ~!

     いやでも、本屋大賞は塵芥直曲賞みたく選考の過程や選考委員の考察を書いたりしないからそういうことは語られもしないか。

     いやまてよ、たしか投票した書店員さんたちの本が出るんだったな。
     本の雑誌社から、本の雑誌とおなじ大きさの、同じくらいの薄さだけどケッコウなお値段の本。

     中身は先に書いたとおり書店員さんたちの感想。だから感想した書店員さんの数だけわ確実に売れる本。ここで笑う人、はい、貴方が正解です。

     わたしは近年買うのをやめました。だってわたしは書店勤務ではないもの。溜息。

  • 本屋大賞ノミネート作品。

    タイトルの『人質の朗読会』、内容も本当に人質の朗読会なのでびっくりしました。
    何かの比喩なのかと思ってた。


    小川洋子さん特有の不思議な空気というか、膜というか、層というか、
    そういうものにくるまれたお話でした。

  • 異国の地で人質になり死んでしまった8人(ともう一人)の朗読会。

    どの話も好きだ。
    ふと悲しくなるけど。

  • 連作短編集。異国の地でゲリラの人質となった8人が緊迫した環境の中でそれぞれの忘れられない過去を語って行く。
    様々な人生経験の中で人間が本当に心に残る事とは日常のとりとめない出来事に潜んでいるのかもしれない。

  • 異国でテロに巻き込まれ人質となってしまった日本人8人が
    ひとりひとり順番に自分にとって忘れられない、
    心に残った出来事、身の上話を語る、という形式の小説。
    プロローグで、この人質たちがどうなったのかが先にわかる仕組みになっている。

    それぞれが語る身の上話というのが、人生を変えたきっかけだったり出会いだったりするわけで
    ひとつ読み終えるたびにふっと考えさせられたりする。
    ただ、でも結局…と、運命のいたずらというものに
    逆らえない人間というものの虚しさが切ない。
    かつてあった各人の希望はどこへ行くのだろうか、その価値を想う。よくできている。(Y)

  • 設定がまず切ない。
    今はもういない人たちの思い出の数々。
    それぞれが本当にかけがえのない宝物で
    その後の人生さえも左右された人々が
    あまりにも理不尽な理由で一瞬で消え去ってしまう。
    彼らの朗読会はまるでもうとうにこの世を去った
    祖母やその家族の若かったころのアルバムを覗くようだ。
    確かにこの世界にいた証として暗闇の中にぼんやりとした
    光を放つ。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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