人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  •  反政府ゲリラの人質となった日本人の団体ツアー客の、夜毎の朗読会。それぞれ、自分の人生の中の重要なエピソードを書き起こして朗読する。
     それぞれの話が、不思議な出来事やありきたりでない出来事を題材にしていて、語り手の人生において深い意味を持つものばかり。そして、各話の最後には、語り手の死亡時の肩書と旅行に参加した経緯が添えられている。それが、「この出来事があって、この人なりにしっかり人生を送って、ここに来たのだな」という、納得というか安心のような気持ちを抱かせる。一方で、彼らが亡くなったということは冒頭ですでに明記されているため、切ない気持ちにもなる。
     この、「語り手=人質たちは全員亡くなった」という設定があるため、読み手は語り手の人生と出来事の関係に想いを馳せることになる。出来事が、ただの珍しい出来事に止まらず、人生の中での位置を持った出来事になる。各話の内容自体もよく書けているのだけれど、全体としての設定もちょっと美味しいな、と感じた。
     好きな話は「やまびこビスケット」「B談話室」「ハキリアリ」。

  • 170717*読了

  • 憧れの図書館司書の方にオススメしてもらったシリーズ。
    これはもう、読み終わったあとにもう一度最初のところを読むとやるせなくて泣くよ。たぶん悔し泣きだこれは。

    人質として死んでしまった彼ら彼女らの人生の一瞬。本人が切り取りたいと思った瞬間。その、朗読会。
    人質として生きて人質として死んだわけじゃないのだ、と痛感させられる。
    あたたかい話に胸がほっこりしてしまう。
    けれど最後、彼ら彼女らの年齢や職業、なんの途中でテロに巻き込まれてしまったのかを我々はやっと知るのです。そうだこの人はテロに巻き込まれて死んでしまったのだと思い出すのです。つらいよ。そこで一回ズドンとなる。
    一度呼吸を置いてからじゃないと次が読めない。私は一日一人の朗読しか読めなかった。今思えば流れるラジオと同じペースだ。そうか。そういうことか。一挙放送じゃこっちの心が死ぬもんな。

    あとがきがないから、これはほんとにあったことなんじゃないかって胸がザワザワする。
    でもこういうことはいつの時代もどこにでもあるんだ。大切な人が、一人の命が、思いがけないことでなくなってしまうことは、どこにでもあるんだ。

    悲しい。なぜこんなに悲しいのに読後は優しい小説だと思えるのだろう。小川洋子はすごい。

  • 不思議な感覚の本だった。
    大前提として、ここで語る人質たちは、亡くなっていて、でもその声は、いま、語られてるものであり、同時に、すでに亡くなっていてもうどこにもいない人たちの語りで、その場で面と向かって聞こえてくる言葉であって、機械を通して同時に、あるいは、ずいぶんあとに流れてきた言葉であって、感想を言葉にするのが難しい。
    不思議な感覚にさせられた本だった。
    また、どれもが淡々としてるから、なおさらだったのだと思う。

  • 最初の設定を読まなかったら、どういうシーンで語られたのかわからないくらい、淡々と語られる物語。
    人質となった場面で語られる物語とは到底思えない物語が綴られていきます。
    ちょっと不思議な感じを抱く話もありましたが、押しなべて平穏な日々が凝縮されていると思いました。

  • 小川洋子さんの作品では『博士の愛した数式』の次くらいに好きな本になりました。

  • 2017.3.10

  • とある国で反政府ゲリラに拉致された日本人ツアー客8人。犯人グループとの長期間に及ぶ交渉も実を結ばず拉致現場に特殊部隊が突入するものの、人質たちは犯人の仕掛けたダイナマイトの爆発で命を失ってしまう。その後、実は人質たちが監禁されている間に自分たちの書いた話を一人ずつ語り合う朗読会を開いていたことが判明。そのときの音源がラジオで公開されることになった……

    こんな感じのオープニングから一人ひとりの話が始まっていくのですが、間近に迫っている死を覚悟しているのか、それぞれに淡々とした語り口にも関わらず不思議と胸を打つ内容でした。

    自分が全く知らない国で拉致監禁されたら、果たしてこうまで精神を保っていられるだろうか。

  • 自分の物語を語り合った8人の人質と、1人の通信使。
    一人目、杖
    二人目、やまびこビスケット
    三人目、B談話室
    四人目、冬眠中のヤマメ
    五人目、コンソメスープ名人
    六人目、槍投げ名人
    七人目、死んだおばあさん
    八人目、花束

    これと言った「結末」はなく、淡々と語られる九人の物語。
    いずれも、ある日突然会った年上の人とのお話。
    それも、結構な年上。それは自分にとっては未知の世界。
    家族や友達とは違う、まったく違う環境や境遇を持った人たち。
    しかし、詳しいことは語られないし、想像もされない。
    あくまで、語り手とその人との間であったこと。
    語り手の心に残ったことを徒然に述べられている。
    何というか、どれも本来は会合するはずのなかった人たちが、
    何かのきっかけで会うことになっているように思えた。
    それは偶然でいて、必要だったのだろう。
    ぎりぎりのところで拾ってもらえて、同じように拾う仕事をしながら、
    はみだし者の老婦人と心を通わせた話など。
    空っぽだった心に、槍投げの青年を宿した主婦。
    しっくりこない花束と自分の心に、納得できる場所をみつける青年。
    噛み合わない歯車の間にぴったり挟まるというか、
    中々埋まらない穴にかちっとはまるピースというか、
    そんな話たちで、不安な未来に対して、
    変わらない過去を支えにするというのが印象的。

    不安で崩れそうになる心を支える、確かな芯。
    それが、この物語たちなのだと思う。
    さながら大黒柱のように、グラグラと揺れる心が倒れないように支える。
    それまで、不安定だった心に収まった、確かな芯。
    私にも、そんな物語があるのだろうか?
    あると思う。
    散々揺れて、崩れて、それでも立て直して今がある。
    その過程で、何か芯が入ったのではないか。
    一本だけじゃないかもしれない。
    小さいものが、いくつも合わさって出来ているのかもしれない。
    きっと、その大きさや形は人それぞれ。
    それまでズレていたり、欠けていたりしたものが、収まる感覚。

  • 初めの数ページの設定を読んだだけで、小川洋子さんの世界だ、とわくわくする。とある国の山岳地帯で人質となった8人の日本人が、囚われた中で自分の物語を書き朗読し合う。〈自分の中にしまわれている過去をそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟にのせる。その舟が立てる水音に耳を澄ませる〉一番好きなのはB談話室。〈ああ、そうか、彼が死ぬと一つの言葉が死ぬのか、だからこれは言葉の死に向けられた祈りなのだ、そうして皆洞窟に染み込んだ響きの名残に耳を澄ませているのだ〉ただ、どの語り手も小川洋子さんっぽくて、人質っぽさがなかった。

  • 小川洋子さんの本初めて読んだ。派手さはないけどじんわりしみる感じだった。優しくて丁寧な書き口。

  • 近年読んだ「ことり」「猫を抱いて象と泳ぐ」がとても良かったので、期待して読んだ。
    期待以上。
    挙げた2作と共通して、とてもシビアなのだけど、柔らかな手で心臓を包んでくれるような温かな読後感。
    特別でない人生は一つもない。
    何度も読み返したい作品。

  •  死が目前にやってきたとき、人はどんなことを思い出すのでしょうか。遠い外国で襲われ、人質になった人々による厳かな朗読会の話です。静かで不思議な雰囲気を味わってください。短編集としても楽しめます。
    (YA担当/ぽんこ)平成28年9月の特集「職員おすすめ」

  • 物語それぞれは静かで日常なのに不思議な世界の話のようで、
    とてもよかったです。
    多分みな今まで誰にも語ったことはないであろう、
    心の奥深く静かに眠らせていた思い出話は、
    すーっと心に染み渡りせつなくも安らぎを感じさせてくれる話ばかりです。

    ただなぜこれらをこういう設定で作ったのかというのには、
    ものすごく疑問を感じます。

    そもそもいつ死ぬかわからない状態でする話とはとても思えません。
    例えば家族に思いを馳せた話とか、過去を悔いた話など、
    そういう話であればまだ理解も出来たと思うのです。

    どれをとってもとても良質な話なだけに、
    なぜこういう残虐な設定と結び付けないといけなかったのか
    さっぱりわからず、そこにものすごく違和感を感じます。
    いい話なだけに残念・・・。
    普通の短編集で出されたほうが、印象がよかったです。

    ほんとは星は3つにしたいところですが、、
    それでもそれぞれの話がとてもよかったので星4つです(笑)

  • (2011より転載)
    久々に「良質の本」という感じがしました。
    短編になってるので、長編のドキドキ感は得られないけれど、コンセプトは素敵でした。
    最後の第九夜はなくてもよかったんじゃないかな、というのが正直なところです。
    2011/5/9読了

  • ひっそりとその言葉の舟は出航する

    遠い国で反政府ゲリラに拉致されたツアー参加者七人と添乗員。百日以上にもおよぶ監禁生活で、人質のそれぞれの思い出を話す朗読会が行われる。
    表紙とタイトルに引かれて手にとってみた。反政府ゲリラに拉致と聞くと、緊迫した雰囲気や激しい銃撃戦が描かれるような気がするが、ここで語られる内容は、普通に生きてきた人たちの心に残る何気ない出来事ばかり。ただ、一人の話(一章)読み終えると、目を閉じて祈りたくなるような静謐な雰囲気に満ちている。
    普段意識しないでいるけど、道ですれ違う人たち一人ひとりも「生きている」のだと、大切なことを思い出させてくれた。

  • 人質の朗読会 /小川洋子 読了
    はじめに話のてんまつが話されるのだけど、人質一人一人の話が終わる頃、どうやって終わるのだろうと思ったけれど、なるほどこう終わるのね。という終わり方でした。ここで、奥の細道?を選んだのはなぜかは読んだことの無い私にはわかりませんが、人質それぞれの話は、小川洋子の話の中では現実的で、だけど少し変わっていて面白かったです。どの話が好きかな〜?槍投げかな。

    読了20160330

  • 短編集のように読めるけど、お話の全てがゆっくりと死を予期させるような印象を感じさせるのは、冒頭での衝撃的な事件の設定があってこそ生まれているのだろうなと思いました。
    自分がこの状況に置かれたとして、生まれてくる物語は一体何だろう...と思わず思考を巡らされます。

    冬眠中のヤマネが好きでした。

  • テロリストに拘束された8人の人質が、1人ずつ自分の話を朗読する、という形式で語られる連作短編集。
    何とも特殊でうまい設定だ。

    人質は、今すぐにでも殺されることを覚悟した上で、自分の人生の中のひとコマを選ぶ。しかも、いったん文章として書いたものを朗読して聞かせるため、過剰な感情の高ぶりは排除され、客観的で静かな語り口調となる。
    さらに、冒頭で人質は全員命を落としたことが明かされている。そのため、どの話もひっそりと死に近づいていることを前提に、遺言として厳かな気持ちで読み進めることになるのだ。

    つまり、読み手は8人の話を読む以前に、すでに気持ちを一定の方向へと導かれているというわけ。だからこの設定は、作品になくてはならない、作者の巧みな仕掛けと言えるのでは。
    もちろん、それぞれの話もどれも印象深く、作者の魅力がふんだんに盛り込まれている。個人的には、ビスケットとヤマネが好き。

    表紙も、これしかないでしょうと言うくらいマッチしている。無垢とはかなさ、さらには思慮深さまで感じられる小鹿は、静謐をたたえ、どこか人質の姿にも重なる。作品の実物も見てみたいな。

  • タイトルと冒頭から得られたワクワク。報われることは無かった。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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