新装版 関東大震災 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-41)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167169411

感想・レビュー・書評

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  • 当時の震災後が生々しく記録されている内容。
    ここ十数年での、震災時の日本人の対応が称賛されているが、かつての日本人はそうではなかった事が分かる。ある意味本のなかにもある、科学的判断ができるようになっているのかもしれないと感じた。

  • 読んでいる途中、吉村昭特有の政治情勢の話があり中弛みした。

    全体としては震災当時が克明に記録されていた。歴史的な記録書としても価値がある本だと思う。

  • この本を読んで災害に備える大切さを感じ、家具の転倒対策をするとすぐに東日本大震災が起こりました。この本は恩人です。

  •  『戦艦武蔵』『羆嵐』などで有名な記録文学作家による、1923年に起きた関東大震災の記録。
     以前、日本の著名な3つの大震災を比較し、東日本大震災は津波、阪神淡路大震災は建物倒壊、そして関東大震災は火災により被害が大きいものになったとまとめられていた。犠牲者の約9割が火災によるものである以上、これは正しいのだろう。
     ただ、記憶に新しい平成の二つの震災と違い、およそ1世紀前に起きた大震災についてはほとんど何も知らない状態だったため、小説というとっつきやすい媒体で知ろうと思い、手に取った。
     火災の状況は地獄と呼ぶ類のものであり、火災で巻き起こった大旋風が人も馬車も吹き飛ばすなど、想像も付かないような描写がページを捲っても捲っても飛び込んでくる。文字という媒体ではあるが人が死ぬ様子や無残な死体の山の描写も多い。テレビ越しに見た平成の2つの震災の報道の方が幾分静かに見えてしまうのは、メディアの配慮によりオブラートに包まれているからだろうか。
     
     だが、それ以上に戦慄したのは、震災により破壊された人の心だった。
     朝鮮人虐殺事件という日本史における汚点、自警団と名乗る暴力集団、流言飛語を事実確認もないままに掲載してしまった新聞、社会主義者というだけで本人はおろかその妻と子どもまで軍人が殺害してしまった「甘粕事件」(作中「大杉栄事件」)。手許にある日本史図版では関東大震災はこうした擾乱についてほとんど触れられていなかった(そもそも高校時代は日本史をろくに勉強していないのだが)。

     日本は自然災害発生のリスクが世界4位と高い反面、インフラ整備や対処能力、適応能力を加味した脆弱性を考慮した総合評価はやや下がって17位なのだとか(世界リスク報告書2016年版による。主要な先進国は100位以下、すなわちもっと安全ということになる)。
     しかしながら、政府の対処能力やインフラ設備が高いとはいっても、先に挙げた朝鮮人・社会主義者の虐殺は、韓国併合による圧迫・被圧迫民族という関係や、社会主義者=共産主義者であり国家転覆を目論む不届き者と判断する傾向に端を発する。近年は、移民問題の顕在化とか保守化とかヘイトスピーチとかLGBTとか日韓問題とか呼ばれるようなニュースを見かけるが、自分・自分たちと違う者とどう向き合うかという問題が根底にあるのではないかと思っている。
     それがうまくいかないままに反発し合う方向に進むのならば、震災による混乱が起きた際は、何が起こるか。2018年の渋谷ハロウィーン事案では、大衆の暴走に危機を感じ警察が引かざるを得ない状況に陥ったし、自衛隊は自国民に対し発砲する訓練はしていない(と思う)。神経が過敏になった大衆がマイノリティをスケープゴートにし、それを止める術がない、という悪夢のようなシナリオも、考えられないだろうか。
     また、上述の流言飛語が拡散した点においても、現代も同様の危機を抱えていると思う。東日本大震災においても、SNSの情報共有が役立った反面、誤情報やデマも飛び交った。当然情報の真贋など素人目に分かるはずもなく、善人が良かれと思ってデマ情報をリツイートし、混乱を深めてしまった。
     そもそも、混乱状態にあっては自分や自分と近しい人のことで精いっぱいである。先の震災で買い占めが起き批判がなされたが、例えば子を持つ親が、子に何かあったらというリスクを恐れて買い占めに走ることは、一概に非難できるものではないかもしれない。私だって結婚して小さな子どもがいたら買い占めに走ったかもしれない。朝鮮人虐殺事件だって、赤信号みんなで渡れば~の理論でマジョリティ側に胡坐をかいていれば安全といえば安全なのだ。私だって虐殺する側に回ったかもしれない(!)。当時の日本人はまだまだ未熟だったとかそういう問題ではない。原発事故の際、放射能に関する知識が飛び交い、政府もマスコミも疑わざるを得ないなかで、それらを自分で取捨選択できる人間がいったいどれほどいたか。正しいかどうかなど、生命の危機を感じている際はどうでもよくなってしまうのだろう。山口良忠じゃあるまいし(非常に気高く立派な方だと思う派だけど)、法や思想や正義よりも、命の方が大事なのである。

     だからこそ、こうした悲劇は知られるべきなのだと思う。100年前に比べ防災のためのインフラは飛躍的に向上しているだろうし、また同規模の地震があったとしても東京が再び火の海になるとは考えにくい。だが、明治の東京が江戸に比べて火災対処という点において後退していたように、関東大震災で学んだはずのものが忘れられているのかもしれない。東日本大震災からですら得られないような教訓が、この本には詰まっている。

  • 2012年95冊目。満足度★★★★★ 菊池寛賞受賞作。これは必読です。常軌を逸した人間の行動に驚くばかりでした。

  • ノンフィクション
    歴史

  • この書籍では、関東大震災の直前と本震・災害後のどうなったかを書かれています。

  • 阿鼻叫喚のカタストロフや各種の事件騒動よりも、震災後の公的機関による処理及び復興への取り組みがとても興味深かった。この部分にもっと紙幅を割いてくれたら良かったのに。また大森房吉と今村明恒という二人の地震学者の言動も面白い。

  • 大正十二年九月一日、午前十一時五十八分。
    日本の首都、東京を大激震が襲った。
    地震による災害の他に火災、流言、朝鮮人の大量殺害、警官による社会主義者の殺害、略奪、伝染病。
    などなど、筆舌に尽くし難いほどの大災害だったのだろう。
    筆者の両親が罹災し、幼い頃から関東大震災の話を聞いていた筆者は、何を思い筆を取ったのか。
    二十二万人の命を奪った大災害を克明に描いた大作。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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