- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167277208
感想・レビュー・書評
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【本の内容】
つましい月給暮らしの水田仙吉と軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長門倉修造との間の友情は、まるで神社の鳥居に並んだ一対の狛犬あ、うんのように親密なものであった。
太平洋戦争をひかえた世相を背景に男の熱い友情と親友の妻への密かな思慕が織りなす市井の家族の情景を鮮やかに描いた著者唯一の長篇小説。
[ 目次 ]
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この物語は仙吉とその妻、たみと娘のさと子、門倉の妻と二号という家族を描いたもの。
一介の月給取りである仙吉と、左うちわの実業家、門倉は奢り奢られるという関係を持ちながらも、無二の親友である。
門倉は仙吉の妻、たみに思いをよせており、たみもまた、門倉に惹かれながらも、その気持ちを秘めたままにする。
向田邦子を読むと当時の家族がどういうものであったかがよくわかる。
家族という表の顔を保ちながら、秘めた思いを貫く。
現代であれば、それは偽善だとか不倫だという文脈で語られてしまう恋心が、昭和初期という時代、そして向田邦子の手にかかると温かく、真摯な人々のドラマになるから不思議だ。
たみのことを愛しながら、仙吉との友情や娘のさと子への親愛を貫いて行く門倉。
父親と門倉という二人の男の生きかたと、その間で揺れ動く母を見ながら育っていくさと子。
事業に手を出しては失敗する仙吉の年老いた父親、妾として子供を生む門倉の愛人など、人物が皆生き生きとしていて心地良い。
リズミカルに結末まで導く手法はさすがホームドラマの名手といいたい。
「あ・うん」で一つの組になる二匹の狛犬に例えられる男の友情と、昭和初期の家族の情景。
読んだあともずっと心にしみてくるような名作である。
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『寺内貫太郎一家』と比較して、こちらはちゃんと「小説」になっていて味わい深い。
門倉&仙吉とたみの3人は以前何があったのか(たみはなぜ門倉ではなく仙吉と夫婦になったのか)に触れないことで、かえって大人男女の心の機微が深まりを増してる。
つまり、この小説、十代、二十代ではなく、四十代以上になって読んで感じられることのほうが多いと思う。 -
昭和初期の話。
戦時中の家族3人とその旦那の親友の話。
この時代だったから、こんな友情が成り立つのだろうと思う。今の時代では通用しない。
しかしながら、この物語はリアリティーがある。
家族愛、友情、プラトニックな関係。
絶妙なバランスで読んでいる方も飽きなかった。
いつの間にかに読み終わっていた感じ。
昔の日本人の良さを感じつつ、現在の人のつき合い方
を考えさせられる本。
また、
もう一度、読みたいと何故か思う本でした。 -
201310読了
微妙なバランスで成り立っている複雑な関係性を、明快な文章で綴る。昭和を生きる人たちの心の機微があざやかに描かれ、ドラマは観たことがないけれどそのシーンが目に浮かぶようだった。 -
男同士の友情は、女の友情とは違うんだろうな。なんとなく理解できるけど、深い部分で理解できない。
この時代だったからこその あうんの友情な気がする。現代じゃ この友情は通用しないような気がするなあ。 -
月給暮らしの仙吉、妻たみ、娘のさと子。羽振りのいい門倉との友情、恋愛、家族小説の傑作
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いいねぇ。この昭和の懐かしい世界。
まだ日本が戦争に突入する前の平和な生活の中で、男がおおっぴらに2号さんを囲い、女房はそれを知って知らんふりをしながら旦那を転がす。古き良き時代。
話もまたおもしろい。男同志の固く結ばれた友情と、その親友の奥さんにプラトニックで惚れてしまってる男の純情。本気で好きになってしまうことを恐れてわざと友情を断ち切ろうとするところがまた憎い。
たみという、この女房は本当に幸せな人だ。好かれてることを充分に感じていて、また自分も淡い気持ちを持っている。一線を越えることは絶対ないと知っているからこそ楽しいのだ。嬉しいのだ。
旦那と仲のいい、明るくて才気あふれる男が、奥さんよりも2号さんよりも自分のことを大切に想ってくれてると感じる幸せ。
めちゃめちゃうらやましい三角関係だ。
久しぶりに東京へもどってくる仙吉に、羽振りのいい門倉が、住まいとして一軒家を用意した。小説の導入はその昭和の匂いぷんぷんの家で、門倉自らが風呂の湯を沸かすところから始まる。
びっくりさせようとして、仙吉とたみが家に着くころには自分は身を隠して待っているのだ。
仙吉が家の門にたどり着き、表札がでかいと文句を言い言い、玄関の戸に手をかけるとするりと開く。青畳。張り替えたばかりの障子と炭火をいけた瀬戸の火鉢。鉄瓶がだぎり、茶の道具が揃っている。部屋の隅には新しい座布団。床の間の籠盛りには鯛、伊勢海老、さざえが笹の葉を敷いてならび、隣りに「祝栄転」の熨斗紙をつけた一升瓶が立っている。「相変わらず下手糞な字だね。」と嬉しそうにまたけなす。
この第一章のくだり、好きだなぁ。 -
細やかかつドラマチック。そしてこのリアリティは何なんだろう。昭和の風景とともに、それぞれの感情が鮮やかに浮かんでくる。作者の意図なのかわからないが、書き方が映像作品っぽい。脳内で勝手に映画が上映されてました。
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先に見たのは映画だった。キャスティングは絶妙で、ほろっときた。
そして、小説を手にした。また、ほろっときた。
3人の絶妙な距離感に、言葉にしない何かに。さと子の娘心に。さと子を思う3人それぞれの、親心に。バスの中で、不覚にも、目頭が熱くなってしまった。やられた。