悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

著者 :
制作 : ピエール・ルメートル 
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 3566
感想 : 450
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167904807

感想・レビュー・書評

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  • 『その女アレックス』の著者、ピエール・ルメートルのデビュー作。殺人現場の描写は、非常に凄惨で誉田 哲也さんの比ではありません❗

    ルメートルの腕前なのか?訳者の橘 明美さんのお陰なのか、『その女アレックス』同様に、テンポ良く息つく暇もない位、その世界へ読者を惹き込ませます♫これがデビュー作とは、とても恐れ入ります❗

    ただ残念なのはタイトルで、もう少ししっくりくるものがあったような気がします。また個人的には、終り方も少し残念で、『その女アレックス』の方が数倍も面白かったように感じました❗

  • 「悲しみのイレーヌ」
    悲しい衝撃的な事件簿。


    カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第1弾。日本では第2弾「その女アレックス(以降、アレックス)」が先に刊行された。そちらを先に読了し、本書を読む場合は、良くも悪くも多少衝撃度が抑えられる。色々とネタバレしてしまっているし、残酷な描写にも免疫がつく。その為、アレックスをまだ手にとっていない場合は、まずはこちらから読んだ方が良い。シリーズものはやはり頭から読んでいかないと!ということですね。


    私は先にアレックスを読了してしまっていたものの、だからと言って本書がつまらなかった訳ではなかった。寧ろ、完成度はアレックスより高いのではないかと感じたくらい。


    キャラも立っているし(これはアレックスも同様)、一人一人の個性が地道で丁寧な捜査に生かされている。猟奇的殺人事件であり、残酷非道さが目につく中、イレーヌとカミーユの生活模様は、カミーユ班のメンバー間の関係性に並んで微笑ましい光景であった。だからこそ後のインパクトは大きい。


    また、話に出たカミーユ班は、ルイ、アルマン、マレヴァルで構成されている。カミーユのボスはル・グエン警視。メンバーとボス共に個性的であり、カミーユは皆を何だかんだ気にかけている。品性高いカミーユでは無く、癖が強いカミーユだからこそ班を纏められている(この癖が強いイメージは、アレックスよりも強く描写されていると感じる)。


    肝心の事件であるが、娼婦が連続で殺害される残酷なもの。被害者の関連性が見えない中、ある証拠品が過去の事件に残されていたことから、カミーユ班は糸口を辿っていくが、これが地道で泥臭い。この地道な捜査に波紋を起こすのがビュイッソンである。この鋭いがうざったい新聞記者が、一度ならず何度もカミーユ班の捜査を邪魔するのだ。新聞記者の登場は、警察小説では当たり前に近いが、ここまでうざったいのはなかなか。何度も、おい、ビュイッソン!!と一人で叫んでしまった。


    犯人は、動機に加え、カミーユの作戦に飛びつく等、サイコパスの中では、快楽殺人にしか興味がない突発的なタイプに分類されるのだろうか。この事件は残酷さだけではなく、結末を含めてカミーユ班のター二ングポイントとなっている。本書を読んで、改めてアレックスに目を通すと、カミーユの変わりぶりにより一層悲しみを覚えてしまう。


    因みに「悲しみのイレーヌ」の原題は「Travail Soigne」とのこと。「入念な仕事」等の意味になる。日本語訳では読者が想像しやすい様に、分かりやすいタイトルにしたのだろうか(これだと確かに想像し易いけど、結末のイメージまでもつきやすいのが難点と思う)。カミーユ班のスコットランドまでに飛び、専門家に意見を請い、上司に黙って捜査する等を踏まえると「入念な仕事」の方が近いのではないか。


    これからもカミーユを追いかけていきたい。この偏屈で人間味のある刑事を。

  • "過去に発表されている傑作ミステリー小説へのオマージュと、「その女アレックス」で登場していた刑事たちの活躍が楽しめるミステリー小説。
    以下の小説を読み直したくなること間違いなし。未読の人は読みたくなる。
    ・「アメリカン・サイコ」ブレッド・イーストン著
    ・「ブラック・ダリア」ジェイムズ・エルロイ著
    ・「夜を深く葬れ」ウィリアム・マッキルヴァリー著
    ・「夜の終わり」ジョン・D・マクドナルド著
    ・「ロセアンナ」マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー"

  • おそらく本作を読んだ人の90%は、『その女アレックス』でピエール・ルメートルを知り、そちらを先に読んでから本作に手を出したはず。本作はカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの1作目、『その女~』が2作目であるにもかかわらず、日本での刊行年がそもそも入れ替わっているのですから。そんなわけで、ネタバレしてもネタバレにはならないはず。

    会った相手がどこを見ていいか困るほどの小男、身長145cmの警部カミーユ。けれども美しいイレーヌと運命の出会いがあり、結婚。イレーヌは妊娠中で、夫婦は新しい命の誕生を心待ちにしている。そんな折り起こった猟奇殺人事件。しかも過去の未解決事件のうちのいくつかが、同じ犯人によるものだと判明する。キレもののカミーユは、新聞広告を通じて犯人を挑発、犯人もそれに応えるのだが……。

    犯人の手口は一貫性がないように思われていましたが、実は名作ミステリーに出てくる殺人の手法を事細かに再現したもの。ジェイムズ・エルロイの『ブラック・ダリア』、ブレット・イーストン・ エリスの『アメリカン・サイコ』など、取り上げられるミステリーに心が躍ります。とても面白い。

    しかし、この絶望的なオチ。『その女アレックス』を読んだ人が知っているように、イレーヌは母子もろとも被害者となります。凄絶なラストシーンに、カミーユが駆けつけてイレーヌもお腹の子どもも助かったという展開を望むのは普通すぎるのでしょうか。普通すぎてもいいからそうあってほしかった。

    期せずして日本での刊行年が前後した本作と『その女~』ですが、個人的にはそれでよかったのかもしれないと思えます。絶望のどん底に突き落とされたカミーユが、次作の『その女~』で復活することがわかっているからこのオチにも耐えられる。カミーユとイレーヌのなれそめも本作で知ることができ、これでもう一度『その女~』を読んだら、そこここで泣いてしまうかもしれません。

  • 猟奇殺人犯を追う刑事の物語。めちゃくちゃおすすめ、めちゃくちゃ面白い。ただこのタイトルはちょっと、、、
    映像を頭の中に想像させるのがとても上手い文章なので、登場人物の表情や仕草がはっきりと頭の中で再生される。幸か不幸か、事件の描写がかなりグロく、小腸がこぼれ落ちてる所なんて見たことないのにそれもはっきりと想像できちゃう。
    小説は、残酷な描写が多々ある刑事パートと主人公の家族に焦点を当てたとても暖かいパートが交互に展開されていく。(残酷な描写もうまいが暖かいパートもものすごくリアリティがあって泣ける。)
    これ以上は言えない、できるだけ前情報を仕入れない状態で読んでほしい。映画セブンを見てる感じになった。

  • ヴェルーヴェン警部シリーズの第1作です。
    原題は「丁寧な仕事」。確かにこれだとインパクト弱いけどさ、邦題だとなんというか、イレーヌに悲しいことが起こることが予言されているわけで、なんか興を殺がれましたね、若干ですが。

    で、文句なしの傑作だと思います。
    こんなの、読んだことないです。一気読み確実です。
    第一部と第二部のバランスがおかしいなぁ、とは思ってたんですが、そういうことだったとは。

    第2作の「その女、アレックス」で一躍有名になったルメートル氏ですが、私は断然本作の方が好きです。
    もう「はい?!」と言うしかない、持っていかれた感。
    やられた感、足元すくわれた感がハンパないです。
    その果てに、救いようのない結末が待っているという。

    打ちのめされるかんじです。
    でも、面白かったです。

    • ゆきやままさん
      私もアレックス以上の衝撃を受けました!
      私もアレックス以上の衝撃を受けました!
      2018/11/10
  • これは凄い作品だ。2作目の『その女アレックス』も凄かったが、『悲しみ~』は警察小説と言うよりは、本気ミステリである。しかもエンタメ要素ぶち込んだ系ミステリではなく、マジかよ…と言うミステリ。警察小説の様相の振りしたミステリである。凄いわー。チーム男子好きな人は読んでくれ、読めば解る。ヴェルーヴェン班の面々のやり取りがあうんの「チームワーク」で、滾るんだよ…資産家の息子で生活一切に困ってないのに刑事やってるハンサムで金持ちなルイが、真摯に警察の仕事してて博識で、あくまでも班員の一人、として描かれてるのがいい。
    ネタバレになるので書けないが、どこからが「小説」でどこからが「本編」なのか、今一度読み直してみないといけない。
    『その女アレックス』先に読んじゃったが、ヴェルーヴェン班もの第一弾のこのタイトルが深い悲劇に満ちているのは解っているのだが、読み進むのが止まらない。『ブラックダリア』『ロセアンナ』読んだ事ある人は絶対ハマる(ネタバレになるのでこれ以上言えない)。

  • 虚構と現実がうまく混ざりあっている技巧的な作品だ。前半はやや退屈だが二部以降で怒濤の展開となり面白かった。
    ただ技巧的過ぎるからだろうか、少々ご都合主義的なところが散見される気がする。上手いだけに盛り上げるためだけに用意されたようなタイミングのよさや詩的な表現、神秘的な情景がやはりこれはフィクションなのだと思い知らされる。スピード感が高まるのと同時にどこか冷めていく終盤。☆4はそれ故か。人間描写が薄いのもそれを後押ししているか。これがこの物語の「作者」の限界かもしれない。最後は「作品」に寄りすぎた感が否めない。

  • 「その女アレックス」で賞を総なめにして注目を集めた作家。
    カミーユ・ヴェルーヴェン警部のシリーズ、こちらが1作目になります。

    のっけから怖い事件が起こり、筆力で圧倒する勢い。
    よくある?連続殺人物、というには仕掛けも大胆なので、油断できません。

    捜査陣は個性的で、高名な画家を母に持つ超小柄な警部。
    巨漢の上司。
    富豪の出で何を思ったか警官になったハンサムな部下。
    対照的にしみったれた部下、など‥
    さすがフランスという、しゃれのめした雰囲気が漂います。

    外見にコンプレックスを抱き、ほとんど女性には相手にされないできた警部補が運命の女性に出会う。
    このくだりは、ほほえましく、感動的。
    それだけに‥とんでもない展開が衝撃なんですが。

    新聞記者や犯罪小説の専門家、古書店主なども登場して薀蓄をかたむけ、ミステリマニアの心をそそる部分も。
    しかし‥
    ★五つはちょっとつけられない読後感。
    一般の人向けには★三つ。
    ミステリを大量に読む人なら、はずせませんけどね(笑)

  •  何とあの大逆転作家にしてフレンチ・ミステリの新星、ルメートルの本作はデビュー作にして、カミーユ・ヴェルーヴェンの初登場作である。ヴェルーヴェンは、『その女アレックス』に登場して、おそらく記憶に留められたであろうキャラクターである。何と身長が145㎝しかないという身体的特徴が際立っていながら、非常にやり手の殺人課警部である。

     四作目に当たる『その女アレックス』に続いて、二作目の『死のドレスを花婿に』が文庫邦訳(単行本では既に邦訳済み)され、立て続けに本書と、ミステリーではないが『天国でまた会おう』が昨2015年に邦訳されている。注目度抜群の作家が日本への進撃を開始したと言っていい。

     それにしてもこれまでの二作で、あまりの逆転劇ぶりに驚き呆れた読者も、まさかデビュー作でしかも邦訳第三弾で、同レベルで超のつく逆転劇をやってくれることはないだろう、そんな姿勢で臨んだ本書だが、二度あることは三度ある、この作家はやはり凄かった。いつも読者としては手玉に取られる感を否めないのだが、まさに本書の読者は、作家のもはやあやつり人形と化すだろう、としか言いようがない。

     映画『シックス・センス』などで行われる衝撃のラストに出くわした観客は、もう一度最初からこの映画を観たくなる。ぼくの場合、その仕掛けを解説してくれるメイキング映像までたっぷりと見て、その仕掛けの深さ、凝りように、呆れ返り、匙を投げたものだった。それと同様の驚きが、本書にもしっかりとたっぷりと仕掛けられているのだ。

     仕掛けを警戒しながら読み進んでいるのに。あらゆる想定をしつつ読み進んできたのに。それでも騙される、これはもう快感としか言いようがないのである。やはりページを戻して、どこがどうだったのか確認したくなる。何が真で、何が虚なのか、見極めにくいところをチェックにかかる。

     イリュージョンのような大仕掛け小説。ヴェルーヴェン警部とその部下たちの個性にユーモラスに笑わせられながら、彼らに残虐な挑戦を仕掛ける犯人の素顔に迫る緊迫感。小説家を名乗るシリアル・キラーの断章が挿入されつつ、物語はジェットコースターのように大瀑布のような逆転の断面に滑り込んでゆく。やはり、これぞ快感、としか言いようがないのだ。

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著者プロフィール

橘 明美(たちばな・あけみ)
英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学卒。訳書にスティーブン・ピンカ―『人はどこまで合理的か』(草思社)、デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス『経済政策で人は死ぬか?』(草思社、共訳)、ジェイミー・A・デイヴィス『人体はこうしてつくられる』(紀伊國屋書店)ほか。

「2023年 『文庫 21世紀の啓蒙 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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