掏摸(スリ)

著者 :
  • 河出書房新社
3.34
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本棚登録 : 1746
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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309019413

感想・レビュー・書評

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  • 「掏摸」
    ずっと悪。


    男は、掏摸を生業として生きている。男は、自分が悪である事を十分に承知しているが、悪から脱しようとしない。脱し切れない理由は、木崎が現れた事が大部分を占めているように見えて、でもどこか掏摸を受け入れているようにも見える。何やら不思議だ。


    男を苦しめるのは、木崎と言う悪である。木崎は、男の仲間を消し、男に仕事を依頼し、男の人生をコントロールしていく。そんな木崎に翻弄されながらも男が最後に繰り出した一手が、今度をどう転がすのか。そこが注目です。どうやら「王国」と言う作品が続編かも知れないらしいけど、どうなんだろう。


    悪をどこかで享受しているような男が、子供に悪を辞めさせる姿は少し儚いけど、力強い。自分が掏摸をやめられないからこそ、見知らぬ子供でさえも悪の道に入って欲しくないのだろうか。


    男と子供の交流は、随所に出てくるのだけど、男の心情はあまり描かれていない為、彼の真意を図るのは難しい。しかし、彼はどこかでそう思っている、そんな気がします。


    全体的に淡白である中で能動的なスリリングは掏摸と木崎とのひりひり感にあるけど、静動的なスリリングは、男と子供の交流の中にある。ひきつひかれない2人の距離感が、魅力的。


    ただ、ここまで悪だ悪だと言った木崎ですが、あまり実態が見えない。だからちょっと悪の厚みが無いのが気になるかな。

  • 本格ミステリとしておもしろいのは
    洋服に縫い付けた書類をすり
    すったことがばれないように
    ダミーを戻すところ

    このミステリ?を面白くしているのは
    悪党(主人公もスリだが)の
    悪党ぶりが際立っていること
    他人の生き方、死に方、人生を規定することに
    喜びを見出す、まるで神のような悪党を
    作り上げたこと

    これがただの組長やブローカーなんかじゃないとこが
    ミステリ作家の書くものとちがうなと思わせる

  • 情景描写が容易くできます、まるでその場にいるかのように。くどい言い回しをせずたった一行で。それに惚れ込みました。
    最後の一行のためにこの本を読んだといっても過言ではないです。絶望の境地からほんの僅かな光を残していきました。読んだあとに残る想いが凄く強かったです。

  • 「掏摸」中村文則◆掏摸をはたらくたびに、幼き頃見た美しい塔の幻影は遠ざかる。理不尽な世界で男は気づけば大きな企みに呑み込まれていて、人生は不可解だ。ざらざらとした空気が漂い決して心地良くはないのに、掏摸の瞬間に感じるスリリングな感覚に引き摺り込まれて暗い場所へと落ちていきそう。

  • 小さい頃、遠くには、いつも塔があった。

    スリをしながら、たくさんの犯罪を重ねてきた僕が目をつけられた相手は、木崎という、途方も無い闇社会の重要で圧倒的な存在の人だった。

    スリ仲間として一緒に手を組んでいた石川は、殺され、歯だけが海にばらまかれ
    親しくしていた佐江子も、自らの手で死んでいった。

    親に万引きの手伝いをさせられる子供の世話を気まぐれでし
    木崎から命令されたスリをすることで堕ちていく日々。

    王国含め、木崎っていったい何者なのーw
    国の上部の人間が不可解な死に方しすぎでしょw日本はそこまで治安悪く無いと思うw

    本当の悪になるためには、善を知ること。

    目の前で無残に死に喘ぐ人をただ憎しみを込めるだけではなく
    その人の背後にいるこれまでの生き方や肉親のことを気の毒に思いながら涙を流し
    それすらも自身の快楽に変えられることが出来て
    はじめて本当の悪を知ることになる。

    僕は本当の悪にはなれずに
    自分の命にしがみついて殺されかけてもなお
    生き延びるんだと思う。

    お話の背景はうすぼやけていていまいちだけど
    面白かった)^o^(

  • 黒い世界とのつながりが気になりながら、曖昧な終わり方。

  • (175)

  • 書店で好きな役者さんが推薦されていたので読んでみた。
    この方の著作初めてなのでどんな方なのかなというドキドキとわくわくも混じりながら読んだ。

    全体的に、えっこれで終わっていいの?なにもわからないまま終わっているけどいいの?とかなり戸惑った。
    先輩や昔付き合っていた人との関係がちらちら出てくるけどすべてちらちら出てくるだけで終わり。
    確かに木崎から与えられる人生は理不尽な暴力ばかりだから、主人公とともに読む側も全体が見えない小説もありかもしれない。
    でも、わたしには合わないかな。
    何が起きているのかもどういう人なのかもわからないまま終わっていいのであれば、暴言かもしれないけど、誰でも書けるよねと思ってしまうほどだった。

    出会いがこの本ではないほうが良かったのかな?次に中村さんの作品を何か読んでみたい、とは決して感じなかった。

    ちなみに推薦していた役者さんがやるならどれかなあ木崎かなあと思ったけどご本人は主人公と思っていたみたい。
    どうにも主人公像を掴めないから、映像化するなら最後のところだけ他者アングルから映って、木崎も主人公も同じ役者さんがやっていた、くらい謎を残しても面白いかも。

  • うーん…イマイチぐっと引き込まれる作品ではなかった。
    出だしがどうにも自分的にツボではなくて。
    クライマックスになってようやくドキドキ感があって
    面白いと思ったけれど、
    がっつり味わえたとは言えなかった。

    読み終えて感じたのは非常に映画的だなぁと。
    しかもアメリカ映画。
    自分を振り返るようなモノローグから入るタイプのやつ。
    『あの頃僕は…~で。そんな自分が~だった』みたいな。
    クライマックスに繋がる『仕事の依頼』においても
    非常に映像を意識している作品と思えてならなかった。
    当然ラストも。

    救いようのないエンディングかと思いきや
    まぁ希望が持ててよかったなぁと。

    主人公が出会ってしまった親子との関わり方とか
    彼自身の生い立ちを絡めての、なんでしょうが
    うーん…イマイチ。
    もちょっとグイグイ感が欲しい自分にとっては物足りない。

  • 最後のスリのシーンは緊迫感があってよかった。
    もうひとひねりあればなお良かったけれど、終わりかたは悪くないと思う。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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