死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207445

感想・レビュー・書評

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  • 1959年2月、ソ連のウラル山脈北部でウラル工科大学トレッキング部の登山チーム9名が消息を絶つ。
    彼らを探しにいった仲間たちによって、最初に空のテントが発見され、その後3か月におよぶ捜索の結果、9人のメンバー全員がテントから1キロ半ほども離れた場所で、いくつかのグループに分かれて遺体で発見された。
    遺体の様子は異様だった。氷点下の冬山のただ中でテントから外に出た様子にも関わらず、全員靴を履いていない。皮膚はオレンジ色に変色し、一部の者は頭蓋骨や肋骨を骨折。女性メンバーのひとりなど、舌が無くなっていた。誰もがろくに衣服を着ておらず、あるものは焼け、あるものは切り裂かれていた。さらに一部の衣服からは高濃度の放射線も検出されたという。
    彼らにいったい何が起こったのか。いくつもの謎が浮かびあがる。しかし地元警察などによる捜査は、9名を「未知の不可抗力によって死亡」とする最終報告書をもって幕を閉じてしまう。

    森林限界を越えた雪の斜面。それゆえ地元住民に「死に山」と名づけられた遭難現場。そこは厳しい環境ではあるものの、トレッカーとしては高い技術を持っていた大学生のチームが、慌ててテントから氷点下の野外へと裸足で逃げ出す理由とはなんだろう?
    雪崩、強風、先住民の襲撃、武装集団の襲撃、兵器実験の巻き添え、UFOとの遭遇……事件のおきた当時が冷戦下のソ連という背景もあって、陰謀説からオカルト説まで原因には様々な臆測が飛び交う。
    そして50年以上の時間が過ぎ、ソ連崩壊前夜の情報公開(グラスノスチ)によって国内外に知られるようになったこの「ディアトロフ峠事件」の真相に、ひとりのアメリカ人ドキュメンタリー映画作家が挑む。
    当時の様子を知る人びと――死亡した学生たちの兄弟や、登山チームの一員ながら持病の悪化で途中で引き返したために、唯一の生き残りとなったユーリ・ユーディンへの取材。捜索に参加した人びとからの話の聞き取り、公開された文書の精査。さらには自ら学生たちの足跡をたどり、冬の遭難現場「ディアトロフ峠」へと足を運ぶ。そして根拠なき臆測をひとつひとつ消していったそのあとに、見えてきたあの夜の出来事とは――。

    2012年にはレニー・ハーリン監督によって『ディアトロフ・インシデント』という映画にもなった世紀の未解決事件、「ディアトロフ峠事件」の真相に迫るドキュメンタリー。大学生たちの旅立ちから遭難、遭難発覚後の警察などによる捜索、そして著者が調査を行う現代。3つの時系列が織りなすミステリー解明のロジック。著者が真相に至る場面は、まさに事件当夜の大学生たちの恐慌が目に見えるようだ。
    そして導き出される結論はつまり「この世には、不思議なことなど何もないのだよ」という、あの名言そのものである。

    2019年にはロシア連調査委員会によって事件の再調査がなされ、結論は雪崩や暴風など自然現象が原因との見解を示したが、それを知る前に2013年に亡くなった登山チーム唯一の生き残り、ユーリ・ユーディンの言葉がやるせなく心に残る。

    「もし神にひとつだけ質問できるとしたら、あの夜、友人たちにほんとうはなにが起こったのか訊きたい」

  • 未だに「未解決事件」とされているディアトロフ峠事件。実は原因は解明されていた。

    丹念に事実を積み上げた労作。

  • 1959年、冷戦下のソ連・ウラル山脈で起きた遭難事故。9名の学生登山サークルのメンバーは、吹雪の中、テントから一キロ以上離れた場所で、凄惨な死を遂げる。衣服をろくに着けておらず、靴も履いていない。三人は頭蓋骨折などの重傷、女性メンバーの一人は舌を失っている。遺体からは異常な濃度の放射線が検出された・・・最終報告書は「未知の不可抗力によって死亡」と語るのみ。なんでこんな縁起の悪いタイトルの本を選んだんだろうか。よくある都市伝説ではないか、と思ったが、読み進めると止まらない本。本書としての結論に驚かされる。ネットでいまだに世界中で様々に語られる事件であるが、ネットの向こうにリアルな人間がいて、真実があると強く感じる。

  • NHKのミステリー番組を見たときは謎のまま終わっていたので、本書ですっきり。予備知識があったのですんなり読めた。どんなに準備をしたところで、この土地に留まってはいけなかったのね。実に不幸な事故。

  • ツイッターでアライさんの投稿にてこちらの書籍を知りました。

    事件に関しても知らないまま読んだのですがなんとも引き込まれました。そしてアイカーさんの執念と探究心がすごく伝わってきました。初めの方に事件で亡くなった方達の顔写真や現地のルートの図形が載っているので、この子はどの子だ?と分からなくなった時にすぐ照らし合わせられたのが便利!後半は警察の方や研究者?他にもたくさんの人物が出てくるのでリストがないと混乱します。なので後ろのページに職業を含めたリストがあるのは本当に助かる!

    物語のほとんどは引き返して生き残った方の話をもとにしてるから本当に辿っているようでワクワクして読みました。当時亡くなった方の遺品で、残っていた日記やフィルムを現像したものが多く載っている為、メンバーの様子や雰囲気も表情から汲みとれやすいのもよかったです。(不謹慎ですが、失踪事件が大好物なわたしにはドキワクもの)

    読み終わって数ヶ月後に、再放送のアンビリーバボーでこの事件が取り扱われていて、映像で見られたのは良かった!!けど吹雪いてるシーンで画面はそれなりなのに、隊員たちの服装に雪がこれっぽちも付いてなかったりと演出としてちょっぴり残念で気になりました。。

  • とても面白い!
    ノンフィクションだけど、全く知らない世界の話で、重く厚い本だったけど、2日で読んだ。
    通勤電車の中で読んでいて、降りたくない、と思ったり。
    真相は誰にもわからないだろうけど、私はこの解説に納得できた。

  • 良くぞ、遭難原因を突き止めました。

  • 他の方々の評価どおり非常に面白い作品。
    陰鬱でしかない事件を、3つの視座と時間軸で描き色彩を変えている、素晴らしい構成力。ホームズ流の消去法のくだり(全部消えちゃう!)にはクスリとしてしまった。
    洒脱な著者はもちろん、安原さんの翻訳も素晴らしいのでは?銀河ヒッチハイクガイドは風見訳で青春を過ごしたけど、安原訳も読んでみたい。

  • 1959年に冷戦下ソ連のウラル山脈で起きた学生メインのトレッカーさんたちの死亡事故「ディアトロフ峠事件」の真相を追った本。

    彼らがキャンプしたホラチャフリ山(別名「死の山」)の緩やかにラウンドした山頂の形がカルマン渦を発生させてテントの周囲に超低周波音を生み出し、彼らをパニックに陥れたことが原因という結論になっていました。

    そうなると、衣服から高濃度の放射線が検出されたことや、別のパーティーが空に火球が見えたと証言したこと、当時の政府がこの事件をやたらと機密扱いにし、事件現場を3年も立ち入り禁止にしたことなどは特に関係がなかったってことなのかな?

    結局、アメリカの映像監督という方は本にしたり作品にしたりするためには現地に赴いていろいろやるものなのだなぁ…と思ったことと、被害者たちのリーダーで事件の名前にもなったイーゴリ・ディアトロフさんはミラ・ジョボビッチさんに似た顔だなぁ…と思った程度で自分としては中途半端な2時間映画を見たような気持ちで終わりました。

  • 読売新聞書評で見たときから気になっていて、そのすぐ後で、テレビ番組で特集されたか何かで話題になった作品。いつか読みたいと思いつつ、入手に至らずにいたもの。無事図書館で発見し、早速トライ。煽り文句効果も相俟って、国家の陰謀とかあり得ない暴力とか、そっち系に結論付けられるのかな、って予想しながら前半の頁をめくる。最近読んだ『ロストシティ』同様、現在と過去の視点を往復する展開で、吸引力は申し分なし。随所に挿入される写真の数々も、ノンフにおいては理解の助けに大いに役立つ。難しいロシアの人名も、それによってこんがらがらずに済む。物語が確信に進むにつれ、だんだん科学的な見解が優位に立ってくる。そして、語る人間がいない以上、もちろん真実は闇の中かもしれないけど、限りなくそれに近づいたと思われる”物語”でもって、本編は閉じられる。これがまた切なくて、タイトルとか当初のイメージからはかけ離れた、大いなる感動につつまれることとなる。素晴らしかった。

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著者プロフィール

フロリダ生まれ。映画・テレビの監督・製作で知られる。新しいところでは、MTVの画期的なドキュメンタリー・シリーズ『The Buried Life』を製作。カリフォルニア州マリブ在住。

「2018年 『死に山』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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