読書の技法

著者 :
  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492044698

感想・レビュー・書評

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  • 佐藤優の圧倒的な読書の質と量は『獄中記』ですでに示されていたが、本書は著者がその読書という知的活動をどのように効果的に営んでいるのかを記した本である。

    著者は、読書を熟読と超速読と速読に分類する。そして超速読も速読も、熟読すべき本を選択するための手段というのが著者の意見だ。「基礎知識は熟読によってしか身につけることはできない。しかし、熟読できる本の数は限られている。そのため、熟読する本を絞り込む、時間を確保するための本の精査として、速読が必要になるのである」というのが著者の基本的な読書に対する姿勢だ。
    そのため、超速読や速読の意義については述べているものの、速読の技術についてはほとんど何も述べていない。それは本書の目的ではないのだ。代わりに熟読の技術については詳しい。

    ちなみに超速読は、読書というよりもいってみれば立ち読みに毛が生えたほとんど目次による中身の確認だ。そういった超速読も含めているので、月間300冊以上というのは水増しのような気もしないでもない。しかし、最初は「月間300冊以上」という大量の読書量に目を奪われるのかもしれないが、その冊数よりも、著者が毎月それだけの量の本に目を通した上で、熟読すべき本を選んでいるということが本書の主旨に照らしても重要だ。

    そして、本書で示された熟読の方法論に照らして自分の読書法を振り返ると、その量は相当違えども、そのアプローチはそれほど大きく違わないと感じた。自分なりの熟読は、大学時代に有名どころの哲学書を読み始めたころから始まったと言える。自分もシャーペン片手に気になったところに線を引き、余白にメモを取り、読書ノートを使って気になるところを引き写すということをしていた。フーコーの『言葉と物』や『監獄の誕生』、柄谷行人や蓮見重彦などを読んでいたが、それらの本は、そのようにしないと理解ができなかったからだ。「言葉の意味がなんとなくわかるということと、テキストの内容を理解することは、本質的に別の事柄だ」とあるが、熟読すべき本に会うとそのことがよく分かる。ここ数年は読書後にはBooklogに、読書ノートを上げているが、このことは確実にその本に対する理解レベルを上げている。必要性と意志から自然と実践した読書法だが、結論としてもあまり間違えていなかったのだと言えるのかもしれない。
    今後、電子書籍が一般的になったとき、読書の技法は別の形式を獲得することになるのかもしれない。読書ノートなどは、Evernoteのようなクラウド型のアプリが活用されるべきだということになるだろう。著者は、電子機器は壊れたときにその内容が失われてしまうこと怖れて紙のノートを重要視しているが、現在では紙のノートよりもクラウドでの保存の方が信頼性が高いということが当然ありうる。ただ、そうやって具体的な手法が変わったとしても、超速読、速読、熟読の区別からなる読書の技法はそのまま生き残ることだろう。

    また本書では、方法論だけでなく、その方法論を適用した様々な分野の書籍が取上げられている。小説の分野で取上げられているのが村上春樹『1Q84』とミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』である。自分の趣味とも合っていて少しうれしい。どちらの作家の作品も大抵読んでいる(そういう作家は多くない)。クンデラがチェコの作家であり、著者の専門の神学で研究対象としたのがチェコのフロマートカであることを考えると、よく知っていることは理解できる。当時の共産圏の知的状況を知る上でも有用なのだろう。また村上春樹は「時代とともに歩いていくことのできる数少ない作家である」と持ち上げる。賛成。ただ、『1Q84』を合わせて出したのは、クンデラの父親が『1Q84』で出てきたヤナーチェックの高弟で、ヤナーチェック音楽大学の学長であったという蘊蓄を実は語りたかっただけなのかもしれないな、とも少し思う。『1Q84』の2つの月の解釈や、鳩山由紀夫の沖縄を巡る右往左往、ゲゲゲの鬼太郎のねずみ男に対する解釈は面白いが不思議。

    また、著者は超速読、速読をするためにも基礎知識を身につけることの重要性を説いているが、その基礎知識を身に付けるためには、高校受験解説書が役に立つとして、かなりの紙幅を割いている。ちなみに自分は高校受験で倫理政経を選択したため、日本史も世界史も知識面が非常に弱い。高校での勉強を高く評価しているが、確かにそうだろう。自分でもそのころ身に付けた知識と論理と技法がベースになっている。また高校の勉強は基本的には知識と論理の2つを問い、各教科はその配分が違うだけだと言うが、現代文がほぼ論理の教科だというのは、目からうろこだ。

    本書でも紹介されているが、著述と読書を繰り返す著者の生活はある種自分の理想でもある。読書の技法の前に、生活スタイルの技法であるようにも感じた。

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    ところで、高校時代の同級生が書いた『モスクワの孤独』を佐藤優が読んだとしたら、どういう評価をするのか、とても気になった。サントリー学芸賞を受賞したロシアのインテリの世界を描いたこの本は、著者の熟読の対象なのだろうか。自分の部屋で積ん読状態のこの本の価値を教えてほしい。

  • 知は力であり、力は知である。知力をつけるために必要なのが読書。
    知は基本的に先人の遺産を継承したうえで成立している。このことを理解せずに高望みだけして、難しい本を力技で読んでも知識は全く身につかない。

  • 思い描いていた本とはかけ離れていて、蔵書もさることながら読書 量もレベルも違いすぎる中、参考にはなった。
    一生で読める本の数 は限られているからこそ速読の目的は読まなくても良い本をはじき出すことと仰る。
    歴史小説読むより先ずは教科書を読む事の大切さ なんですね。
    教科書も学生時代受け入れられなかったが、今一度読むときっと為になるだろうな!

  • これまで殆ど本を読むことはなかったので、残り短い人生でより多くの本を読む為、自己啓発の為、本物の読書ができる様に購入しました。
    ただ読むだけでなく利点を得て吸収出来る様に必ず熟読速読を体得します。

  • 元外交官で超読書家の読書ノウハウ本です。速読の仕方、というより、本の選別の仕方。読書ノートの作り方。本を読む上で、不足している知識の補完方法。など、知りたかった内容で概ね満足です。201308

  • 佐藤優氏の本は意外にも初めての購入であったが、氏の知性の高さはすごいと思った。
    読書法については、速読モノを中心にいくつか読んだけれどいまいち小手先のテクニックという感がいなめず定着しなかった(大学1年のときに読んだフォトリーディングの本などは確かに役立っているけれど)。昨年就職をし、本当に時間をかけて本を読む時間の確保が難しくなり、切実に速読する必要性が出てきた。そこで、この本に出会ったわけだが、速読だけでなくもっと包括的な本の読み方についての指針が書かれており、非常に参考になった。
    半分くらいのことは自分でできているような気がするけれど、残り半分はシンプルながら王道を行く方法で、むしろ佐藤氏がこうしているのなら間違いないと自信を持って実践していこうという気にさせてくれる。

    その他感想としては、以下の通り。
    ・佐藤氏は猫好きらしい。小室直樹はじめ、優れた孤高の思想家は猫好きが多い。これは、スポーツなどをせずに、脱力=創造力の源泉を得る効果的な方法だからかもしれない。
    ・洋書を読むときに定規を使うことは、新しい指摘。早速試してみたい。
    ・佐藤氏はメモは大学ノート一冊にまとめている。記録・学習・仕事を時系列に集約。やはりシンプル・イズ・ベストなのでしょう。
    ・高校の教科書レベルの習得の徹底に同意。自分は工学部出ましたが、はっきり言って数学は単位は取れても、意味などあまり理解できていなかったと思う。それは高校でやる内容・および意識と、大学で教わるときに期待されるレベルが違っていて、急に飛躍的に難しく感じるようになっているからだと思う。そのため、最近多く出ている社会人向けの高校~大学レベルの本を買って、線形代数などの焼き直しをしている。むしろ、受験とか単位とかから開放された社会人のほうが、純粋に数学を楽しめて面白い。課題は、日本史・世界史。これは、もう丸暗記が苦手で高校時代避けて来たのだけど、少し上の年代の人と話していて自分の世代が「世界史が必修でない」ことのギャップを感じるときが、ままある。(その代わり自分は地理が大好きだったので、今アフリカに仕事で行ったりできているのだが。)どうも自分は、今こういう問題があって、その原因は何なのだろう-という勉強の仕方しかできない。これは、もう少し必然性に迫られるまで改善しないような気が。。。
    ・鳩山首相の知性の高さには、私も同意。安全保障は、うまくいかなくて辞任に追い込まれたけれど、「新しい公共」の定着など民主党政権でしかできなかったであろう仕事もした。小泉さんのように、既得権益にくみしない改革を断行しながら、靖国訪問や国民の心をつかむマスコミ対応など、権力を維持する力量がなかったことが残念。

    いろいろ書きましたが、これからより多くの優れた書物を死ぬまでに味わうために、この本はとても参考になると思います。

  • 読書の技法と言うよりは、ビジネスマン向けの勉強法を著者なりにまとめた本です。
    個人的には、ただ娯楽として本を読んでいるので、その技法は参考程度ですが、引用やそのまとめ方が非常に上手で、紹介されている本にも興味がわいてきます。
    また、人生のうちで読める本は限られているということについて。
    自分の場合、読み始めて面白くなさそうだと言う本もとりあえず全部読んでしまってますが、やめてしまうことも必要だなぁと感じました。

  • いわゆる「鈴木宗男疑惑」に関連して逮捕、投獄された元外務省職員、佐藤優。
    僕はその著書『国家の罠』に書かれていた、国家権力による捜査、および外務省の人達がどのような仕事をしているかについての記述を、興味深く読ませてもらいました。
    外務省を失職した後、専業作家となり、数多くの著作を発表しています。
    その佐藤優がはじめて、自らの「読書術」を公開した本を出版したということで、読んでみることにしました。
    著者の読書量はなんと、月に300冊。
    多いときは500冊までに達するという、壮絶な分量です。
    在ロシア日本国大使館に勤務していた期間に習得したというのが、膨大な量の情報に目を通し、選別する技術。
    大量の本をまずは5分程度で「超速読」する。
    その中で、①そのまま終えるもの、②「普通に」速読するもの、③熟読するものに分ける。
    これが、著者の読書技法の根幹と、理解しました。
    その上で、どのように熟読するか、どのような本を熟読すべきものとして選ぶかが、本書には書かれています。
    その中で特に印象に残ったのが、「高校の教科書を読むべし」という部分。
    最近特に、基本的な知識が無い/忘れてしまっている自分を自覚しているので、このように勉強すればよいのだなあと、気づかせてもらえました。
    そして大事なのは、「目的意識を持って勉強すること」。
    自分なりに、補強したいと考えている分野がいくつかあるので、この本を参考にさっそく、取り組んでみたいと思います。

  • 「本の読み方」ではなく、「読書を通した知の身につけ方」を学べる本
    ちょうど歴史を知る必要があると思っていたのでありがたかった。

  • 体系知を構築すること、高校レベルの基礎知識の重要性を説く一冊。

    ◆「超速読」の技法
    目的=本の仕分け作業、本全体の中で当たりをつける
    ①5分の制約を設け、最初(序文のはじめ1ページ)と最後(結論の最後1ページ)、目次以外はひたすらページをめくる(文字を追わずにページを見る)。
    *基礎知識のない分野の本は速読も超速読もすることができない。

    ◆「普通の速読」の技法
    ①「完璧主義」を捨て、目的意識を明確にする
    *もう2度と読まないという心構え、何を学ぶかという目的意識・問題意識を持つ。
    ②雑誌の場合は、筆者が誰かで判断
    ③定規を当てながら1ページ15秒で読む
    ④重要事項はシャーペンで印をつけ、ポストイットを貼る
    ⑤本の重要部分を1ページ15秒、残りを超速読する。
    *もくじ・序文・結びを注意深く読み、重要部分に当たりをつける。その重要部分を1ページ15秒で。
    ⑥大雑把に理解・記憶し、「インデックス」をつけて整理する
    *「この部分にこういうことが書かれている」というインデックスをつける。必要なときに取り出せるよう管理する。
    =速読は新聞の読み方の応用。見出し・もくじからどれを読むか当たりをつける。その上で既知の情報は適度に読み飛ばし、未知の情報を拾い読みする。

    ◆熟読の技法
    *基礎知識を身につける際は、欲張って応用知識まで手を出そうとしない。
    ①まずは真ん中くらいのページを読んでみる。
    →その本の水準を知る
    *熟読法の要諦は本を3回読むこと
    ②線を引きながらの通読
    *地図を見ながら目的地を探すときの緊張感を持って
    *わからない部分には?マーク
    *思いついたこと・疑問は余白にメモ
    *重要か迷う部分にも線をひく(通読し終わったあとに重要か再度検討)
    ③ノートに重要箇所の抜き書き
    *線がある部分の周辺に囲みをつくる→囲みを書き写す
    *欄外に自分の評価を書き込む(「◯◯の言説と対立」とか「ここは違う」など)
    ④最後の通読
    *目次を頭に入れ、結論を3回読んでから通読開始
    →1冊基本書を終えると、他の基本書の処理速度が上がる

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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