([ほ]4-3)活版印刷三日月堂 庭のアルバム (ポプラ文庫)
- ポプラ社 (2017年12月5日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591156865
感想・レビュー・書評
-
主人公がますます前へと進んでいた一冊だった。本作では人々の姿に泣かされた。「庭のアルバム」では故人の祖父の不器用な優しさとこれまた不器用で頑固者の祖母に、「川の合流する場所で」は不思議なめぐり合わせで弓子の背中を押す社長と、盛岡の地で叫ぶ弓子の姿に。2,3と一気に読んでよかった。またこの作者は情景描写が巧みだなぁとあらためて感じた。活字に囲まれた三日月堂の事務所の中、川越や盛岡の風景が目に浮かぶよう。そして活版印刷で作られた作品も目に浮かぶよう。また今回は一話ごとの扉の写真がとても印象的でよかった。いい本の作り方だなぁ。本作品自体が活版印刷でないのは残念だが(難しいよね)。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シリーズ3作目。
前作のラストで作成した大作「ウエスタン」がお披露目となり、たまたま街ブラの雑誌編集者が取材したことにより、自分の仕事が他の同級生に比べ、レベルが低いと感じていた彼が活版印刷と出会うことで、自分の仕事の価値を見直す「チケットと昆布巻き」。その雑誌をたまたま手に取った弓子の母の同級生の三日月堂への再訪から始まる、弓子の母の遺した短歌を綴ったカードを作ることになる「カナコの歌」そのカードを受け取った弓子の母の同級生の娘が目にすることで、夏休みのワークショップを受けることになる「庭のアルバム」
その「庭のアルバム」で作成したポストカードを展示会で出店したことにより、出会う盛岡の大きな印刷会社の人々。
弓子が一人一人に対して誠実に対応しているように見えるが、実はその誠実さの恩返しとして、様々なアイデアを得て、弓子が成長する過程が描かれる。
動かせなかった大きな印刷機を動かせる機会も訪れ、今後、弓子の三日月堂がどう成長していくのか?
そして、これまでにかかわった人物たちの成長の様子も多分描かれると思うと、今後も楽しみな作品。
人間、完璧じゃなくても、やれることをやっていれば、いつか報われる日が来る。苦しい日々ばかりではない。
そんなことを教えてくれる作品。
今、こんな世の中だからこそ、物語だとは分かっていても、救いを求めずにいられない。
「カナコの歌」「庭のアルバム」は心に残る。 -
これは圧巻、のシリーズ第三弾。
自分と大学の同期たちとの格差に悶々とする「チケットと昆布巻き」、弓子の母の友人がでてくる「カナコの歌」、学校にうまく馴染めない高校生が植物の写生画を通して人と向き合う「庭のアルバム」、最後に大きく物語が動きそうな「川の合流する場所で」。
面白かったです。
前巻までのテイストは引き継ぎつつ、うまく乗せた感じで。
どれも胸にくるお話でしたが、身につまされたのは「カナコの歌」かな。
大学の時、自分がこんな風になるなんて、思ってもいなかったなぁ、としみじみとおもいました。
結婚して子供を持つ人、そして独身のまま変わらないようで変わってしまう家族を抱える人。
すごく沁みました。 -
活版印刷所を一人で営む弓子。今回は死と生きていく人のお話でした。すっごく、今の自分にしっくりきた。印刷業界の人だけではなく、いろいろな仕事をしていく上で、生きていく上で、私ももう人生の半分を過ぎて、死に向かっている。でも、だれでも死なない人なんていないから、死に向かっているというのは若くても変わらない。そんな中、何を残していくか、何も残さなくても何していくか、は自分が決めていくんだなあと思いました。活版印刷なんて旧文化のものだろ、所詮ファッションみたいなことを思われる「チケットと昆布巻き」。その後の三作は弓子さんの若くして亡くなったお母さんと、弓子さんが生きていく上での「活版印刷」で何をしていきたいのか、という話でした。おすすめです。
私は、どんな立場のひとでも、幸せだけでぼんやりすごしているとは思っていなくて、幸せなロマンス小説の主人公でも、なんかあるだろうなあといつも思っています。 -
小さな活版印刷所「三日月堂」には、今日も悩みを抱えたお客がやってくる。店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった想い。しかし三日月堂を続けていく中で、弓子自身も考えるところがあり…。転機を迎える、大好評シリーズ第三弾!