([ほ]4-3)活版印刷三日月堂 庭のアルバム (ポプラ文庫)

  • ポプラ社
4.23
  • (156)
  • (192)
  • (55)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 1407
感想 : 132
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591156865

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 失われようとしつつあるものへの視点がいい。
    優しい、温かい、理解したい、時間がかかる、向き合うのが怖い、目を反らしたい。
    どれも否定しない。

  • ”自分が印刷に願うのはそういうものだ”…旅行雑誌めぐりんへの三日月堂の掲載→それを見た弓子の亡き母のサークル仲間が、弓子へ会いに来て母の生きていたときの話をきかせてくれ、母の短歌を三日月堂で活版印刷し大学時代のサークル仲間へ配布→それを受け取ったサークル仲間の娘の楓が活版印刷に興味を持ち→楓も参加した活版印刷イベントで弓子は盛岡の印刷会社で働く悠生とその大叔父と出会い、彼らにとって思い入れのある八木重吉の詩集を活版で組む。今回も活版印刷の呼ぶ縁でつながりがつながりを読んで、人生に惑い、もやもやしたものをかかえ、何をしたらいいかわかってなかった人たちの背中を、弓子や活版印刷がそっと押して、それがまたつながっていく様が描かれていて、読んでいて暖かい気持ちになれる。/弓子「でも、わたしは…」「たぶん、本を作りたいんだと思います」/悠生「亡くなる少し前、あの版を見ながら祖父は言っていました。この人の言葉に、この人と華族がこの世界にいたことに、いつも心打たれる。いつまでも残しておきたいと思う。自分が印刷に願うのはそういうものだ、って」/八木重吉の詩集「貧しき信徒」、詩「虫」「雨」「悲しみ」「ふるさとの川」「夜」「雨の日」「冬」「踊」、読んでみたくなる。

  • 大型印刷機で、大きな紙に刷り上がっていく様子がワクワクする。
    弓子さんが悠生さんと出会えてよかった。

  • 「チケットと昆布巻き」
    何故この職を続けるのか。
    伝統文化などとして受け継がれてきた物でなく、今では廃れた業界となると疑問に思うのも仕方がないのだろうな。

    「カナコの歌」
    亡くなった者の言葉を今。
    勇気を出し逢いに行ったからこそ、再び縁が繋がり故人である彼女の想いを皆の元に届ける事が出来たのだろうな。

    「庭のアルバム」
    自分と向き合える唯一の。
    認めて欲しいという欲求は誰しもが持つだろうが、どんな事でも一番最初に見て欲しいのは両親ではないだろうか。

    「川の合流する場所で」
    求めいた物が今動き出す。
    偶然だとしても話を聞いて直ぐに行動に移したからこそ、新たな繋がりと共に問題解決への道が出来たのだろうな。

  • 今巻も良かった。言葉とデザインの力で、みんなが前向きに進んでいけるのがいい。特に心に残ったのは「庭のアルバム」。「そりゃ成長すれば、親に認められただけじゃ満足しない。そうやって世の中に出て行く。けどそれは、親が子どもを認める役を降りていい、ってことじゃないのよ。子どもがそれに感謝しなくなっても、関心を持たなくなっても、親は淡々とそれをやるの。そうしなかったら、子どもは卑屈になるだけだよ」。続きもさらなる進展がありそうで楽しみ。

  •  仕事のこと、身近な人の死……何となく今の自分の心に寄り添ってくれるような本だった。心の中でユーミンの声をBGMのように思い浮かべながら読んだ。今手の印刷会社の人が出てきた。4巻で完結らしい。この後どうなるんだろう?図書館で借りて読んだが、手元に置いておきたい気がする。

  • 昔、ウチの会社が印刷会社だった頃に、新人研修で現場の見学をしたことを思い出した。
    刷版、輪転機、枚葉機、断裁機、機械が動く大きな音、それに負けないような大きな声、インクの匂い…。
    全ては無くなってしまったけれど、あの頃のわくわくした想いが蘇った。
    デジタル化される少し前のことだ。
    とはいえ、その頃既に活字ではなく印字になっていたのだが、今よりは手作り感が強く、出来上がったカタログには今とは違う重みがあったように思う。
    活字で本を作る。
    なんて素敵で、なんて無謀なんだろう。
    人と人のつながりの輪がどんどん大きくなっていく三日月堂の仕事。
    続きがとても楽しみだ。

  • 川越にある印刷所の店主とお客さんとのやり取りを綴ったシリーズ3作目。今までのような印刷所でのお客さんのやりとりだけじゃなくて、少し事業として展開してきて、今回は印刷所外での展開が進んできて、これからの三日月堂がどんなお仕事するのか。どんな人と出会うのか楽しみです。

  • ・旅行情報誌の編集者が川越で取材し三日月堂に行き着く。
    ・弓子の亡くなった母カナコの学生時代を知る友人たちが旅行情報誌の記事で弓子の現在を知り集う。
    ・なんとなく楽しくない感じのしている少女が母の持ち帰ったカードで活版印刷に出会って。
    ・盛岡の印刷所を営んでいる一族の二人の男が東京の活版印刷のイベントにやってきた。印刷機に詳しい人との出会いは三日月堂のターニングポイントになりそう?
    ・ずっと前の話が次の話につながるリレー形式の短編集でここまで続けると人の縁の広がりかたを見るようでもある。

    ▼三日月堂についての簡単なメモ(第一巻からの累積)

    【アウラ】複製が自由自在でなかった頃のオリジナルの持つ一回性のようなものらしい。ベンヤミンが提唱した概念らしい。活版印刷にはアウラがある?
    【育児】カナコいわく子育てで言葉でできた世界が崩れてしまったとか。
    【一倉ハル】蔵造りの町並みの中にありやはり蔵造りの建物だった川越運送店一番営業所の所長。顔も広く川越市の生き字引的存在。今度北海道大学の森林科学科に進学する息子森太郎(しんたろう)がいる。高校を卒業するとき親に三日月堂のレターセットを作ってもらった。大事に取っておいた最後の一枚を使おうと思う。
    【今泉治人/はると】著名な版画家。版画工房を主宰している。
    【印刷】《印刷ではちがう。実体の方が影なんだ》第一巻p.71。《昔の活字は物質だったんだ。》第一巻p.85。
    【印刷物】《印刷物は言葉の仮の姿だと思うんです。》by弓子、第二巻p.199。
    【大島聡子】カナコとバンドを組んでたことがある。ピアノ。大学院を出てからずっと校閲の仕事をしている。今は父の介護もしている。父は編集者だった。独身。
    【大城活字店】今も銀座で営業している活字店。
    【大西】大学院生。川越運送店一番街営業所の建物に同居している観光案内所でバイトしている。ハルさんのジョギング友だち。
    【岡野】珈琲店「桐一葉」を伯父から継いだ。自分自身の個性欠如に悩んでいる。ハルさんに紹介された三日月堂で思いを練り込んでいく。
    【遠田真帆/おんだ・まほ】鈴懸学園の国語教師で文芸部顧問。「桐一葉」の岡野から三日月堂のことを聞き生徒とともにたずねる。学生の頃演劇部で「銀河鉄道の夜」のジョバンニを演じたことがある。
    【楓】カナコの短歌が活版で印刷されたカードを見て活版印刷に興味を抱く。なんとなくものごとが楽しくない気分で日々を過ごしている。美術部に入っているがアニメやマンガっぽい絵を描く人たちばかりでいまいち乗れない。彼女自身は写生派で植物を描くのが好み。レギュラー入り候補。
    【輝く遠い場所】《きっとどこだっていいのだ。輝く遠い場所さえあれば、旅立つことができるのだから。》by片山隆一、第二巻p.313。
    【活字】鉛製で産業廃棄物になるので捨てるのも簡単ではない。
    【葛城】ガラス店兼工房を経営している。ハルさんのジョギング友だち。
    【片山隆一】編集者崩れのライター。映画好きで映画の紹介文を書くのが主な仕事だった。こだわりが激しく仕事を干されぎみだった。三日月堂、弓子の祖父と親しかった。映画同人誌で人気のあった「我らの西部劇」というエッセイの著者で三日月堂で印刷する予定だったが最後の一編が行方不明で中断されていた。
    【片山隆一の息子】たぶん片山慎一という名前。第二巻「我らの西部劇」の語り手。好き勝手なことをしていた父に反発し地道なサラリーマンとなって真面目に働いていたが。身体を壊して退職し居場所がなくなりかけている。
    【カナコ】故人。弓子の母。旧姓は村田。盛岡出身。弓子はカナコそっくりらしい。地方から東京の大学に入りギターがひけたのでバンド活動なとして卒業したら教師になった。短歌を書いていた。、弓子が三歳のとき血液の病気で亡くなった。
    【金子】デザイナー。活版印刷に関心を抱く。
    【川越】空襲を免れたので古いものがけっこう残っている街。
    【桐一葉/きりひとは】珈琲店。伯父のあとを継いだ青年岡野が経営しているがいろいろ悩みは多い。店名の由来は高浜虚子の句「桐一葉日当りながら落ちにけり」から。
    【雲の紙】弓子が勝手に名付けた。本当の名称はパルパーといって凹凸がふわふわしている。
    【kura】川越の「大正浪漫夢通り」という洋風建築や土蔵が並ぶ通りにある蔵カフェ。二ヶ月に一度黒田の朗読会が開かれている。
    【車のいろは空のいろ】あまんきみこの著書。
    【黒田敦子】カルチャーセンターで朗読講座を開いている。
    【幸治】盛岡で「本町印刷/もとまちいんさつ」という印刷所の経営に携わっている。印刷機や活字の引き取り手を探している。
    【広太】三咲の生徒。小学五年生。活版印刷の機械に興味津々。最近になつまて幼い頃に亡くなった姉、あわゆきがいたことを知った。
    【個性】《まわりから見て個性に映るものって、その人の世界への違和感から生まれるものなんじゃないかな。》一巻p.179。
    【佐々田】旅行情報誌「月刊めぐりん」編集長。川越出身。
    【小穂】さほ?読み方不明。図書館司書。黒田敦子の朗読講座に参加している。朗読会を開くことになり案内を活版印刷でと考えた。
    【シアター川越】いわゆる昔ながらの「町の映画館」。一度閉館したが復活。「ウェスタン」主宰の西部劇特集を企画、旅行情報誌「めぐりん」が取材に来た。
    【渋沢】kuraの店主。
    【修平】弓子の父。天文学を学んでいた。高校教師になった。
    【樹脂凸版】データを樹脂でハンコみたいにして印刷する。活版印刷とは別物だがある程度の味は出せる。
    【杉野】片山隆一とともに映画の同人雑誌「ウェスタン」をつくっていた。
    【田口健介】広太の父。
    【田口広太】→広太
    【田口理子/さとこ】広太の母。
    【竹野】旅行情報誌「月刊めぐりん」編集者。川越の取材で三日月堂に行き着く。弓子がなぜ活版印刷を継いだのか気になる。
    【短歌】短歌を媒介にしてカナコとその友人はコミュニケーションとりやすくなった。
    【手キン】手動で印刷できる機械。三日月堂再開時にはこれだけで印刷できるものを印刷しているが今後どうなるか?
    【デルマックス】小型印刷機。手キンと違い多少多めの印刷ができる。ハガキや名刺を刷るときに使うことが多い。
    【ちょうちょう】小穂、遥海、三咲、愛菜の朗読グループの名前。プシュケー(魂、息、蝶)にちなむ。
    【月野弓子】→弓子
    【銅版画】《傷が線を作る。まっさらな金属の板では何の像も浮かばない。傷があるからこそ形が生まれ、命が宿る。傷がない人生は生きているとは言えない。》by田口、
    第二巻p.226。
    【中谷三咲】→三咲
    【原田】岡野の大学時代の恋人。同じ俳句部員だった。独特の句をつくった。高浜虚子の桐一葉を怖いと言った。あるとき姿を消した。
    【遥海/はるみ】黒田敦子の朗読講座を受けている。遊園地の場内アナウンスをしている。心が入っていないと言われることがある。
    【平台】三日月堂にある大きな印刷機。故障していて調整の仕方もわからずしばらく稼働していない。
    【平田雪乃】市立図書館で司書をしている。たぶん25歳前後。曾祖父が活字屋を経営していた。小学校の同級生(当時は天敵)だった宮田友明と結婚する予定。活字屋は銀座にあったが空襲で焼け廃業。五号(ほぼ10.5ポイント)の仮名文字だけ形見のように残っている。
    【裕美/ひろみ】カナコとバンドを組んでたことがある。ボーカル。旧姓岩田、結婚して斉木になった。今は「飛行機雲」という雑貨店をやってる。
    【ファースト名刺】生まれたばかりの赤ちゃんのためにつくる名刺。おおむね名前しか入っていない。
    【古いものを守る】《守るためには、ずっと同じことをしてたらダメなんだ。》第三巻p.73
    【昌代】田口健介のいとこ。広太から「あわゆき」の名刺をもらった一人。昔銅版画をやっていた。
    【愛菜/まな】黒田敦子の朗読講座を受けている。子ども英語教室の講師。型にはまりすぎているところがある。
    【三日月堂】川越市にある活版印刷の印刷所。一度廃業したが最近再開した。トレードマークは三日月とカラス。《三日月堂の活字の棚や印刷機を思い出した。たしかにあそこには魔力が宿っていそうだ。》一巻p.238
    【三咲】黒田敦子の朗読講座を受けている。小学校の教師。まっすぐで馬鹿正直すぎると言われることがある。
    【村崎小枝】鈴懸学園文芸部部長。二年。
    【めぐりん】月刊の旅行情報誌。編集者の竹野、編集長の佐々田、カメラマンの深沢などがいる。
    【八木重吉】詩集「貧しき信徒」を悠生の祖父が印刷する予定もなく組版していた。東日本大震災の後。シンプルなことばでやさしくせつない世界。本町印刷では状況をかんがみてもその気はないと思われるので、著作権はなくなっていると思われるしいずれ三日月堂が印刷、出版することはあるかも?
    【山口侑加】鈴懸学園文芸部員。二年。独特の才能がある。
    【悠生/ゆうき】本町印刷埼玉支社勤務。経営者一族の一人。オンデマンド機の導入を試みている。活版印刷の機械についても大叔父の幸治の手解きを受けそこそこ詳しい。三日月堂のターニングポイントを担う人物となるか?
    【雪乃】→平田雪乃
    【幸彦】以前、昌代と同棲していた恋人だが別れた。
    【柚原】三十代後半だが二十代に見える一番街のマドンナ。ハルさんのジョギング友だち。
    【弓子】祖父の経営していた三日月堂を再開した。どこか憂いを帯びている。すっきりした顔立ちで質素な感じだが肌がきれいで透き通るよう。《やりきった、と感じるまではやめられないですよ》第三巻p.73。
    【弓子の祖父】故人。盛況だった頃の三日月堂を経営しバリバリ印刷していた人。活版印刷が好きだった。古い知人には「カラスの親父さん」と呼ぶ人も多い。ゲイリー・クーパーになりたかった。
    【弓子の父】故人。天文学者。
    【弓子の母】→カナコ
    【我らの西部劇】片山隆一が「ウエスタン」という映画同人誌で連載していた人気エッセイ。行方不明だった最後の一編が見つかり三日月堂が印刷した本。三日月堂の見本ともなる一冊。オール活字で、製本も手がかりで、表紙は布張り。そういえば布張りの本って少なくなってきたなあ。

  • 読むたびに活版印刷へのあこがれが強くなる。ステキなお話ばかり。庭のアルバム、ぜひ作ってほしい。

全132件中 61 - 70件を表示

著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ほしおさなえの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×