生きていくうえで、かけがえのないこと

著者 :
  • 亜紀書房
3.80
  • (8)
  • (8)
  • (6)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 140
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750514826

作品紹介・あらすじ

休む、食べる、嘆く、忘れる……

わたしを立ち止まらせる
25の人間のすがた

『ボラード病』『ハリガネムシ』『クチュクチュバーン』で知られる異能の芥川賞作家による初のエッセイ集!

精神的に大きな喪失感を味わったり、希望が打ち砕かれた人にとっては、あらゆる刺激が痛過ぎて受け容れられない。そういう人が力を回復するまでには、何年何十年を要するだろう。私の身近にもそういう人がいる。「休んで下さい」「眠って下さい」という言葉さえ、その人を充分に傷付ける。
(「休む」より)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 生きていくうえでかえがえのないこと、をテーマに選ばれた25の動詞。それについて書かれたエッセイ。多分時々繰り返し開きたくなると思う。読みやすく、面白かった。

    他の方が感想に書いていらしたような、背筋が伸びる感じや、横面を張られたような感じは私は受けなかった。
    あゝ、自分が興味を持って若い頃読んだ本が結構出てくるな、同じ世代かと思っていたら、本当に一歳違いで老いに対して共感する所が多いな、そう思った。反面、深い虚脱感に見舞われた人々の生きる難しさにこんなにも寄り添う、哀しいほど優しい眼差しを文章から感じたのは初めてかもしれない、と思った。「休む」「聴く」「働く」…そこには休むことも、働くことも、音を聴くことさえ出来ないほどに深く心の芯を喪った人々への祈りにも似た、それでも「生きていて良い社会」への願いがある。

    人の弱さ、無力さ、儚さをしみじみと噛み締めながらも、「ときめく」「見つめる」の章に何か生きることの煌めきを感じさせて貰う。

    そして「祈る」の章で「真の祈りは届かない。絶対者は何も応えてくれない。この沈黙こそが、我々の祈りに天が応えてくれたということかも知れない」略…「その向こう側は、人智を超えた領域である」との一文にとても心を打たれた。

    だから祈らないのではないない。吉村さんは多分、いつもこの地球上で起きている様々な事に祈っている人なのだ。そして「読む」で本を女性に例えた時、一番付き合いが長くて、これからも付き合うだろう女性は、ハイデガーの『存在と時間』だと言う吉村さんは、やっぱり私が唯一読み切り、心に深く入り込んだ『ボラード病』を書いた人だと思った。

    実存、存在、生きる意味、生きがい、人間が生きる価値。そんな事を沢山考えて来た人の書く言葉は、読んでいて息苦しくならない透明な水のようだった。

  • まとも。
    あまりにもまとも。

    吉村さんの小説から見て、真逆の場所にありそうな言葉が綴られている。

    でも、こうしたまともな感性や考察が、あの吉村さんの異様な小説群の背骨を、スッと立たせているのだろうと、納得のエッセイ集。

    まともで真面目な人にしか、意図的な逸脱はなし得ないのだろう。

  • 2023/4/1購入

  • 著者の小説を読んだことがないため55歳の等身大の考えを知るという読書になった。
    小説が突飛な内容ということだが本書の内容に突飛な部分はほとんどない。
    55歳という老いに向けての寂しさなどがリアルで怖い。
    その中で『働く』ということについて人の役に立つという動機が信用ならないという内容が新鮮に感じた。

  • 選ばれた動詞をテーマにして綴られたエッセイ。眠る・食べる・出す…といったありふれた動詞から著者の視点を垣間見ることができる。それらを知ることでまた新たな視点で世界を視ることができる。
    著者の今まで生きてきた歴史・経験があるからこそ紡がれる言葉には力がある。
    例えば「働く」ことに関していえば、「人の役に立ちたい」という裏にある「人の役に立たなければ存在価値がない」という強迫観念めいたことがある社会をバッサリ切る。どうしてもそうできない人達はいるのだから、価値がないとしてしまうそんな社会は駄目だと。

    力強くも繊細な文章に心が動いた。

  • 詩人の若松氏とコラボして作らされたエッセイ集。
    日々の生活、生きる上で必要な行為。それを表す言葉をテーマにして著者の中に浮かんできたことをエッセイとして記している。

    言葉の端々に苦しみや後悔などが詰まっていて、共感できることも多く、気づきもあった。

    良いエッセイ集だった。

  • 実は私が現代日本文学を読んでいて、これが小説だと唸らされたのが「ハリガネムシ」の我が糞を手でつかんで潰す場面。
    その衝撃以来、つかず離れず追ってきたが、その作者による初のエッセイ集。
    この人の作品を構成している要素は色々あるが、日記、文字への偏愛、場末趣味、廃墟趣味、暴力と滑稽、アフォリズム言いたがり、などなど。
    このエッセイ集ではそれらももちろんだが、雅俗自在というか雅俗一如というか、穢れは極点で聖へと転化するという世界観が、特に見て取れた。(中島らも。バタイユ。)

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

1961年愛媛県生まれ、大阪府育ち。1997年、「国営巨大浴場の午後」で京都大学新聞社新人文学賞受賞。2001年、『クチュクチュバーン』で文學界新人賞受賞。2003年、『ハリガネムシ』で芥川賞受賞。2016年、『臣女』で島清恋愛文学賞受賞。 最新作に『出来事』(鳥影社)。

「2020年 『ひび割れた日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉村萬壱の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ミヒャエル・エン...
西 加奈子
今村夏子
ヴィクトール・E...
西 加奈子
塩田 武士
米澤 穂信
柚木 麻子
村田 沙耶香
恩田 陸
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×