ウエハ-スの椅子 (ハルキ文庫 え 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758431026

作品紹介・あらすじ

「私の恋人は完璧なかたちをしている。そして、彼の体は、私を信じられないほど幸福にすることができる。すべてのあと、私たちの体はくたりと馴染んでくっついてしまう」-三十八歳の私は、画家。恋愛にどっぷり浸かっている。一人暮らしの私を訪ねてくるのは、やさしい恋人(妻と息子と娘がいる)とのら猫、そして記憶と絶望。完璧な恋のゆく果ては…。とても美しく切なく狂おしい恋愛長篇、遂に文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 私はあの白いウエハースの、きちんとした形が気に入っていた。もろいくせにみごとにスクエアな、きちんとした、ほそながい。私はそれで椅子をつくった。小さな、きれいな、そして、だれも座れない。

    壊れるとわかっているのに一生懸命つくり、壊れては泣く、でもまた一生懸命つくってしまうわけです。
    切ないなぁ、、、

  • 自分は作者と遠い感覚の所に居るなという感想。

    純粋にこの感覚に触れた感想として
    この人苦手だなーという感じ。
    どうしようもなく自分勝手でそれと同時に
    無気力で虚しさを常に抱えている。

    『昼食がわりハーブティー』はしんどいので
    ハンバーグオムライスとか食ってくれ。

    繊細な線で描かれた美しい風景でした。

  • 孤独なのに温かい。
    読んでいると不思議と主人公の子供の頃の描写と共に私の子供の頃の風景がくっきり思いだされます。
    今まですっかり忘れていた家の中や小学校の様子や妹とのやりとりが。

    そして何よりも、ウエハースの椅子の話、お話の中にあるのとおんなじことをしていたことを、はっきりとウエハースの手触りや匂いと共に思い出したのは本当にびっくりでした

  • 恋愛選書きっかけで。
    久しぶりの江國香織さん。
    前は直木賞受賞作の「号泣する準備はできていた」を読んで、ちょっと苦手かな…と思っていたが、
    今作は文章がとても美しく、表現が独特で、するする読めた。けどストーリー性がないので、私の好みには合わなかったかも…。
    恋愛選書きっかけで江國香織さんはあと2作品購入していて、そちらはストーリー性がある作品なので楽しく読めたらいいな。

    ✎︎____________

    ウエハースの椅子は、私にとって幸福のイメージそのものだ。目の前にあるのにーーーそして、椅子のくせにーーー、決して腰をおろせない。

    淋しさは、突然ぽっかりと口をあける。私はそのたびに足元をすくわれて、まんまとそれにのみこまれてしまう。

    愛されても愛されても足りないから。愛されれば愛されるだけ足りなくなるから。きりがないから

    感情を言葉にしたというよりも、言葉が感情をつくるみたいだった。

  • 女だなぁ、と思うとともに、女のこの心の機微を表現してくれる江國さん本当にすごいなぁと。

    ラブラドールのジュリアンが愛情の扱い方をきちんと心得ていること。それは他の誰のものでない自分の意思である場所にいて他人からの愛情を過信せず受け取れること。誠実でいること?それに反して、読んでいると主人公は途方に暮れ飼い主の帰りを待つ茶色の犬と似ているというのはなんか分かった。

    主人公と恋人の会話や仕草がぴったりで、お互いがお互いの思っていることが分かりながら会話をしている戸惑いやいらつきがない感じ。でも甘すぎてどこか綺麗すぎて。だから夢みたいなんだなと。最後にジントニックを恋人に掛けた時からやっと崩れる。

    「私の恋人は完璧なかたちをしている。そして、彼の体は、私を信じられないほど幸福にすることができる。」
    「死は、残った者たちの新しい生活をつくる。」
    「男たち。〜得体の知れない思考と幸福な体温を持ち、芳しく、骨ばった生き物。」
    「かくということ、それは、閉じ込めることよりもむしろ解き放つことに似ている。」
    「それはほとんどゆるやかな自殺のようだ。彼は私を愛している。私はそれを知っている。私は彼を愛している。彼はそれを知っている。私たちはそれ以上なにものぞむことがない。終点。そこは荒野だ。」
    「私が学んだ数すくないことの一つに、ひとはどんなふうにでもあれる、ということがある。私たちは、だからどんなふうにでもキスをすることができる。昏倒せんばかりの愛情をこめてすることも、すすり泣くようなせつなさですることも、あるいはまた、たとえば天津甘栗をつまむほどの気安さで、ふいにかるがるとすることも。」
    「何の過不足もない、ということは、それ自体何かが欠落しているのだ。」

    作家が自作の中で1番気に入っているものは、と聞かれたときつねに最新作だと答えることが、そうであるべきなのではなく、そうでしかあれない。恋愛もそう?

    一緒の小説を読んで2人が読み終わったら感想について話すのよいなぁ。そんな相手がほしい。
    妹と両親の墓参りに行くシーン好き。

    人生は荒野で道はないけれど、みんなが通ってしぜんについた、歩きやすいけもの道はある。でもせっかくけものに生まれたのなら自分でけもの道をつけたいと、主人公は思う。

  • 古本屋で購入しその日から2日で読み終わりました。日記を読んでいる感覚に似ていた。しかも自分の。私も今、絶賛恋愛中。どっぷりハマってしまっているので自分の日記にそっくりだった。言葉のつかいかたがとても綺麗で感動した。記憶をなくしてもう一度読みたい。

  • 儚くて、薄暗くて、ひんやりした空気感がとても好きな作品だった。
    主人公はお育ちがよろしそうだなあ、江國さんみたい。女の人好みの作品な気がするけど、男の人でもこの本が好きっていう人いるのかな。

    姉妹の関係性が素敵だった。
    妻子持ちの男と6年も付き合っている主人公と、ひとりの男と半年以上続いたことのない妹。
    妻子持ち不倫なのに、彼女の妹とも仲良くしてるのすごい。妹がいなかったら主人公はもっともーっと世界から隔絶されて閉じ込められているような、現実世界に生きていないような気持ちになっただろうな、と思う。

    主人公みたいに穏やかに、水泳に行きたくなったら行き、お風呂に入りたくなったら入るように、思い立ったまま自然に生きてみたい。わたしは気合い入れないと動けないから。主人公は雨の日によく水泳に行きたくなるみたいだったけど、わたしは逆に雨の日は行きたくなくなる。

  • あくまでも一男性個人の感想ですが。
    嫉妬を超越するぐらい理想の愛に思えました。
    とりあえずこんなふうに思える恋をしてみたい

  • きらきらひかる、落下する夕方、と三角関係の作品を続けて読んだあとだったので、登場人物が少なく、ストーリー展開も大きく変化がない今作で、少し物足りなさを感じた。
    しかし、それゆえに、文章の温度感を深く味わうことができ、恋人との別れが差し迫っている様子をひしひしと感じとれた。
    シンプルなストーリーに丁寧な心情描写を肉付けしていくようなスタイルが好きで、そういう意味では、江國香織作品の中では、この作品が一番それに近いと思う。
    この作品は、日曜の昼下がりに、日当たりの悪い部屋(よく言えば日陰の落ちついた部屋)で読むのがいちばんいい。

  • 1年ぶりに再読した。とても美しく、とても悲しい物語。この物語に出てくる男たちは本当にズルい。主人公は恋人とマジョルカ島で暮らせたかな。私はゆっくり壊れていくとか、まだ決めたわけではないのに、とかところどころの江國さんの表現が好き。
    見習いたいところもあった。この主人公はとても健気で辛抱強い。私はすぐに返事を期待してしまうし、当日に返ってこないだけで絶望してしまう。私も恋人のいない時間を、恋人なんてそもそもいない世界であるように過ごせたら楽なのに、と思う。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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