永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313593

感想・レビュー・書評

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  • 日本が未だに国として成熟していない感があるのは、永続敗戦が今も続いているからだと著者は語る。現在も領土問題が存在する、北方領土、尖閣諸島、竹島だが感情的に、また宣伝により全て日本固有の領土だという思考停止状態になっている日本人が圧倒的な中、冷静な領土論が展開される。尖閣諸島問題が急速にクローズアップされた2010年漁船衝突事件の民主党政府のお粗末対応から都知事による単細胞的感情爆発による東京都購入宣言、更に政府による国有化までの流れが、先人の日中両国関係を鑑みた対応を台無しにし、両国の先鋭化を招くという事態に発展させた。絶望的なのはこの国の指導者層がこの問題についてかくすればかくなるという想像力が全く働かないことであろう。そもそも本当に日本固有領土なのか。外務省はその根拠をサンフランシスコ講和条約によっているが、中国はそのサンフランシスコ講和会議に出席を拒否されている。そこで彼らは中国領だとする根拠をポツダム宣言によっている。どちらが法的に有効なのかは、冷静に考えてみれば微妙だといわざるを得ない。また北方領土にしても日本は日ソ共同宣言にて千島列島を放棄することに同意している。この千島列島の範囲に北方4島が含まれるかどうかが争点だが、実はこのことについて、日本政府の態度は戦後一貫しているわけではない。実際、国会において日米安全保障条約特別委員長田中萬逸は、放棄した千島列島の範囲には南千島も含まれており、国際司法裁判所に提訴する道は無いと答弁している。その後政府見解は変節し南千島は千島列島に含まれずとなった。この都合の良い変わり身を国民は殆ど知らないであろう。法的に日本領土であることがほぼ確かなのは竹島だけであり、だからこそ国際司法裁判所への提訴を日本政府は韓国に求めているが、韓国側は「では北方領土も尖閣諸島も同様に提訴するべきだ」としている。上記の理由により日本は尖閣と北方領土を提訴するわけには行かないから、これは厄介であろう。かように領土問題ひとつとっても国民は政府の宣伝に乗せられている事がわかる。この本の広告が産経新聞に掲載されたことがあったが、産経読者のおっちょこちょいは、この本をタイトルだけ見て自分達に都合の良い理論が書いてあると思って買い、愕然とした人も多かったのではないだろうか。全国民特にネトウヨ必読の書である。

  • 自らの覚書のために


    そもそも「戦後」とは要するに、敗戦後の日本が敗戦の事実を無意識の彼方へと隠蔽しつつ、戦前の権力構造を相当程度温存したまま、近隣諸国との友好関係を上辺で取り繕いながら---言い換えれば、それをカネで買いながら---、「平和と繁栄」を享受してきた時代であった。p115

    占領軍の「天皇への敬愛」が単なる打算にすぎないことを理解できないのが戦後日本の保守であり、このことを理解はしても「米国の打算」が国家の当然の行為にすぎないことを理解しないのが戦後日本の左派である。言うなれば、前者は絶対的にナイーヴであり、後者は相対的にナイーヴである。P128

    日本が米国の属国にほかならないことを誰もが知りながら、政治家たちは日米の政治的関係は対等である(少なくとも対等なものに近づきつつある)と口先では言う。このことは、一種の精神的ストレスをもたらす。一方で「我が国は立派な主権国家である」と言われながら、それは真っ赤な嘘であることを無意識の水準では熟知しているからである。領土問題に典型的に現れるように、対アジア関係となると「我が国の主権に対する侵害」という懸念が異常なる昂奮を惹起するのはこの精神構造ゆえである。無意識の領域に堆積した不満はアジアに対してぶちまけれれる。言うなれば、それは「主権の欲求不満」の解消である。P140

    こうした決議(※非核三原則についての国会決議)を(しばしば全会一致で)繰り返しながら、すでに触れたように、沖縄核密約を米国と取り交わし、あまつさえ、核武装について西ドイツに話を持ち掛けることまでしていたのが、この国の政権であった。してみれば、非核三原則や「唯一の被爆国」であることの強調が一体なんのためになされてきたのかは、ほとんど考えるまでもなく理解できる。ここには真剣なものなど何ひとつ存在しない。彼らが唯一真剣に取り組んでいたのは、国民を騙すことだけであった。そして、シニシズムを自明の社会原理としてしまった国民の側も、進んで騙されてきた。P159

    その定義上絶対的に変化を拒むものである国体に手を付けることなど、到底不可能に思われるかもしれない。しかしながら、それは真に永久不変のものなどではない。というのも、すでに見たように、「永遠に変えられないもの」の歴史的起源は明らかにされているからである。それはとどのつまり、伊藤博文らによる発明品(無論それは高度に精緻な機械である)であるにすぎない。三・一一以降のわれわれが、「各人が自らの命をかけて護るべきもの」を真に見出し、それを合理的な思考によって裏付けられた確信へと高めることをやり遂げるならば、あの怪物的機械は止まる。なぜならそれは、われわれの知的および倫理的な怠惰を燃料としているのだから。P185

  • 「永続敗戦」という表現があまりにも圧巻。戦後の概念どころか、あの戦争そのものに対する認識までも根底から覆されてしまった。「敗戦」を「終戦」という言葉に置き換え、対米従属を続けるこの国の構造。また、それにしがみつく権力中枢。その背景には国体護持という大義名分のもと、革新の芽をつぶして敗戦の道を選んだ国家的罪がすべての元凶であったと考える。かつてA級戦犯と呼ばれた人たちは、天皇庇護のために命を賭したと言われているが、海軍に罪をなすりつけられ、あげくのはてに守ろうとした国体がこんな侮辱的な様では、死んでも死にきれないのではなかろうか?そもそも戦中も戦後も、いったい我々は何を守ってきたのだろうか?敗戦どころか戦後すらも永続的に終わらない気がする。

  • 選挙の前に図書館から回ってきて読む。
    敗戦なのに終戦と言い続ける政治主導者の日本の根底にあるものとは?
    ポツダム宣言・東京裁判・サンフランシスコ講和条約・を否認する??こともできずにアメリカにすりよる…
    がゆえに敗北が無期限に続いている状態が「永続敗戦」らしい。

    この国の政治家は、平和主義憲法や不戦の誓いなんてもんは建前であり、アジアでの戦争(朝鮮戦争・ベトナム戦争)を経済発展の好機と利用し、「非核三原則」を国定としながら米国の核の傘の存在を自明的な前提としてきているわけだ。

    領土問題についてもよく書かれているので読んでみてほしい。
    しかし、安倍さんをそのままにしているアメリカに恐怖を感じる…。

  • ニホンゴてムツカシイねー
    一つの文が長いので理解しながら読むのにすごい時間がかかる。というかたぶんぜんぜん理解できてない。
    ようするに、負けを負けと認めないと前へ進めないぞってこと?

  • 目からウロコでした

  • 須藤元気お勧め

  • 侮辱の時代に生きる、怒りの書。

    3.11と続く原発で明らかになった「ぼんやりと、ただなんとなく何かが決まり、何かが進んでいた」という事実(進めていた者も、またそれを知らなかった(知ろうとしなかった)者も同罪であるとしている)。
    なぜその事実が生まれる土壌ができたのか、戦後の平和と繁栄の陰に隠れて進んできたこの事態を招いたきっかけを「戦後処理」をキーワードに問うてゆく。

    たまたま映画「無知の知」を見た後から読み始めたのだけれど、通底するものを感じた。

  • 20141107 読み方を間違えると大変な事になりそう。本当の意味での戦後を経験している人がどんどん亡くなっているので余計にややこいし。独立国とは何か、若い世代には戦争抜きで考えてもらいたい。

  • 赤坂Lib

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。思想史家、政治学者、京都精華大学教員。著書に『永続敗戦論─戦後日本の核心』(太田出版/講談社+α文庫)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)など。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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