永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313593

感想・レビュー・書評

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  • 戦後日本は、米国に対しては敗戦を受けいれへつらうが、中国や韓国には敗戦を否認し居丈高に振る舞ってきた。東京裁判や憲法を否定するが、押し付けた米国には盲目的に従属する。これらの歪みを伴う従属の構造によって、各界に張り巡らされた利権の構造を維持できるためだ。しかし最初は自覚的で、平和憲法を引き合いに無理な要求を退け、いいとこどりしていたのに、最近は無条件で従属しそのことが自己目的化するようになってきた。他国の政策が道義的かどうかではなく、自国内に無条件で従属する勢力によって国政の舵がきられていることが問題だ。

  • 「永続敗戦」とは、「国内およびアジアに対しては敗戦を否認してみせることによって自らの「信念」を満足させながら、自分たちの勢力を容認し支えてくれる米国に対しては卑屈な臣従を続け」る状況をいい、著者は、この永続敗戦こそが“戦後”の新たな“国体”であったという。
    さらに筆者は、対アジアでは日本の経済的な優越が終わりつつあることによって、また、対アメリカではアメリカの国際戦略が変化したことによって、”永続敗戦”レジームはもはや賞味期限切れとなりつつあり、その矛盾は、原発事故処理のごたごたや領土問題の泥沼化の形をとって噴出している、とする。

    「永続敗戦」的なアプローチは、古くは岸田秀、最近だと内田樹老師もしていて、さほど目新しいものではないのだろう。
    とはいえ、領土問題等アクチュアルな問題への展開は鋭いし、何より、右も左も政官財学も見境なくぶった切るにあたり、ぎりぎりアウトのところを攻める危うさがいい。
    曰く、「いじましいマスターベーター」「子どもじみた単細胞」「狂気の域」「目も眩むような空想性」。
    飼い主アメリカの手を靖国参拝で噛んだ飼い犬(自民党)をアルカイダに例えた件は笑った。
    (対左でも、思考停止のお花畑で、永続敗戦レジームに胡座をかいた共犯だと手厳しい。反日サヨクの妄言だとか本書を非難する國士さまは、読んでいないか、読解力がないかのどちらかだろう。)

    賞味期限切れの「永続敗戦」レジームは、早晩、精算しなければならない。
    精算する手段は、もう一度“正しく”敗けなおすか、もう一戦交えて今度は勝つかの2つに1つ。
    知性と倫理(p185)に照らせば、前者の手段を採ることになるし、そうあるべきだ、と思うけれども、なんとなく分が悪いんじゃないか、とも思える。

    その辺の漠然とした不安や閉塞感の根源は、本書の理路から辿ることができるのだろう。

  • 胸に染み入る後書き。しっかりしなければ。

  • 臥薪嘗胆?

    客観的事実に基づく現状の認識=日本の敗戦国としての立場(勝てば官軍、負ければ賊軍)→ドイツ/フランス=領土割譲

    日本は戦争に負けました。だけど、本当に負けたとは思っていない。

    臭い物には蓋で通ってきた時代が終わり、蓋が無理やり剥がされる時代が始まった。 →原発事故、センガク諸島問題

  • 正月、若手論客がニッポンを議論する、毎回嫌な気分になる番組を懲りずに見た。いつも、自分の世代に欠如するものがよく解り、それに無知であることに居た堪れなくなる。で、今回その欠如をぶっ刺したのが著者だった。国家権力と闘うことを教育されておらず、国からナメられていることになぜ気づかないのだと。もはや戦後を学ばざるを得なくなった局面で、鈍い思考回路に鞭打たなければ呑気な理想も語れない。世界変えるとか言ってないで、世界に自分が変えられないことをまず学べと私でさえ思う今日この頃。

  • この本のあとがきを読んでいる時に、沖縄の名護市の基地移設に反対する首長が再選されたというニュース速報がテレビ画面を流れました。グーチョキパーのように永遠にぐるぐる回り続ける戦後という時間。回り続けるというよりまんじりと動かない時間かも。それが著者のいう永続敗戦か。それを終わらせる機会だったかもしれない、1960年の安保改定反対闘争、近くの1993年んの細川内閣の成立、2009年の鳩山由紀夫内閣の成立についてのifを問うて見たくなりました。

  • 対米従属、アジア諸国に対する目線、侮辱され続ける僕ら。薄々感じ続けながらも、自分の中で無かったことにしている事を、グサッとえぐられる論説でした。
    時間はないかもしれないけど、自分自身でもう一度考えよう。あとがきで白井さんが引いている、ガンジーの言葉が印象に残りました。

  • 筆者が主張する「永続敗戦」概念について、それを主張したい相手と執筆前に少しでも議論していれば…と思わされる内容。いわゆる左翼視点のステレオタイプが強く、観察も歴史観も妥当性や有効性が疑わしい。

    もう少し学会などでの議論に耐えた主張を単行本にすればいいのにと思うが、この分野はそういうものなのか。

  • 1945年8月15日第二次世界大戦は、日本の敗戦で終了した。
    しかし、日本国は敗戦を認めず、終戦という曖昧なことばの裏に、敗戦という事実を隠した。そして、敗戦を隠した故に、敗戦の総括は行われることなく、責任の所在は曖昧なまま隠され続ける。さらに、アメリカに敗戦した事実は、そのまま保存され、日本はアメリカに従属的な立場をとらされ続けている。
    敗戦の総括がなされないまま、戦争の当事者でもない現中国共産党政府に脅され続け、当時は存在もしなかったロシア、韓国に領土を侵され続けている。
    敗戦したこと、失敗したことを認めないまま、無視したままで、負の遺産を抱え続けるこの構図が、原発事故が起きたこと、放射能汚染が拡大していることを無視したまま浮かれている今の日本に重ならないことを切に祈る。

  • 明晰で厳しい論説だ。読むものは否応なく、
    自己の矜持を問われるだろう…まさに、その通りであるからだ。
    本書は「私らは侮辱のなかに生きている」という一文から
    語りはじめられ、戦後日本を「永続敗戦」にあると云う。

    ―敗戦の帰結としての政治・経済・軍事的な意味での直接的な
     対米従属構造が永続化される一方で、敗戦そのものを認識に
     おいてのみ巧みに隠蔽する(=それを否認する)という日本人の
     大部分の歴史認識・歴史的意義の構造が変化していない、という
     意味で敗戦は二重化された構造をなしつつ継続している。無論、
     この二面性は相互を補完する関係にある。敗戦を否認しているが
     ゆえに、際限のない対米従属を続けなければならず、深い
     対米従属を続けている限り、敗戦を否認し続けることができる。
     かかる状況を私は、「永続敗戦」と呼ぶ。

    著者は、その歴史認識に立ち、領土問題、北朝鮮問題…日米関係へと
    論をすすめる。そして、それらの問題が現在にいたっているわけを、
    国体護持のためとする。まさに、今、そこに手を入れろと迫るのだ。

    ―私は、国体なるもののの本質とその戦後における展開の軌道を
     見通し得たと信ずる。問題は、それを内側からわれわれが
     破壊することができるのか、それとも外的な力によって強制的に
     壊される羽目に陥るのか、ということに窮まる。前者に失敗すれば、
     後者の道が強制されることになるだろう。それがいかなる不幸を
     具体的に意味するのか、福島原発事故を経験することによって、
     少なくとも部分的にわれわれは知った。してみれば、われわれは
     前者の道をとるほかない。

    ここまで読んで足がすくんだ…広い荒野にぽつんと取り残された
    子どもの気持が去来した…そしはまるで、自分が自分であることを
    突き詰めて考えろと迫るのだ。しかし、本書の論調は、腑に落ちる
    ものであった…あとは覚悟の問題だ。著者は終章で次の一節をひく…

    ―あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでも
     しなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を
     変えるためではなく、世界によって自分が変えられないように
     するためである。 (ガンジー)
     

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。思想史家、政治学者、京都精華大学教員。著書に『永続敗戦論─戦後日本の核心』(太田出版/講談社+α文庫)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)など。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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