永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313593

感想・レビュー・書評

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  • 【由来】
    ・図書館システムのチョンボである「秘録核スクープ」についてamazonで検索、関連本で「大戦略の哲人たち」、その関連本でこれが出てきた。

    【期待したもの】
    ・加藤典洋本とのシントピカルにいいかと。ただし図書館で36人待ち(11/27現在)。

    【要約】


    【ノート】

  •  仕事の資料として読んだ。各紙誌絶賛、若手政治学者による話題の日本論である。

     難解な論文かと思いきや、意外なほどわかりやすい本だった。歯切れよいクリアカットな言説に、格調高い文章。日本の支配層の平和ボケと無責任ぶりを批判する筆鋒は鋭く、随所に胸のすくような痛快なフレーズがある。

     書名にいう「永続敗戦」とは何か? 帯の言葉をそのまま引こう。 

    《「永続敗戦」それは戦後日本のレジームの核心的本質であり、「敗戦の否認」を意味する。国内およびアジアに対しては敗北を否認することによって「神州不滅」の神話を維持しながら、自らを容認し支えてくれる米国に対しては盲従を続ける。敗戦を否認するがゆえに敗北が際限なく続く――それが「永続敗戦」という概念の指し示す構造である。今日、この構造は明らかな破綻に瀕している。》

     戦後日本で延々とつづいてきた、「敗戦を否認しているがゆえに、際限のない対米従属を続けなければならず、深い対米従属を続けている限り、敗戦を否認し続けることができる」という倒錯的状況――それを指す概念が「永続敗戦」なのである。
     その「永続敗戦」を「認識の上で終わらせること」を目的に、本書は書かれたという。

     ……というと、「政府が対米従属をつづけるのはケシカラン!」とアジるサヨ臭ふんぷんの本を想像するかもしれないが、そうではない。著者はむしろ、右派からも左派からも一歩距離を置いた視点から、冷徹に状況を鳥瞰している。
     たとえば、終戦後に米国が天皇の退位も求めず訴追もしなかったことについての、次のような記述。

    《占領軍の「天皇への敬愛」が単なる打算にすぎないことを理解できないのが戦後日本の保守であり、このことを理解はしても「米国の打算」が国家の当然の行為にすぎないことを理解しないのが戦後日本の左派である。言うなれば、前者は絶対的にナイーヴであり、後者は相対的にナイーヴである。
     ちなみに、天皇の戦争責任をめぐる左右のこうした構図は、憲法第九条に対する見解においては、鏡像反転したかたちで現れる。周知のように、右派は憲法第九条を戦後日本にとっての最大の桎梏とみなし、護憲左派はこれを対日占領政策のうち最も評価すべきものに数える。こと憲法問題にかぎっては、親米右派は大好きなアメリカからの貰い物をひどく嫌っており、反米左派は珍しくこの点だけについてはメイド・イン・USAを愛してやまない。》

     本書の「『永続敗戦』という概念によって、日本の現在と近過去をとらえる試み」は十分成功しており、時事的政論として一級の出来である。

     とくに、日本が抱える3つの領土問題(尖閣・竹島・北方領土)についての簡にして要を得た分析は見事。この問題について論じたどの本や記事よりも、私にはわかりやすかった。
     本書を全部読むヒマがないという人には、この部分(第二章第一節「領土問題の本質」)だけでも一読をオススメする。

  • 中野重治の言う「侮辱の中に生きている」意味を丁寧に説明し、ガンジーの言う「世界によって自分が変えられないためにしなくてはならない」に繋げる。
    敗戦を認め、アメリカの保護国である現状を見つめた先にしか誇れる政治も国もあり得ない。

  • 犠牲を強いる社会システム 国体

    国体支持者が怖れているのは、人々の意識が変わること。
    しっかりしたアイデンティティを持ち、自分なりの生き方を定めて、そのために善く生きたいと願う人々、自律して生きる人々を恐れている。

    http://www.ndl.go.jp/constitution/e/etc/c06.html
    http://www.ndl.go.jp/constitution/etc/j06.html

    http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/docs/19510908.T1J.html
    http://www.chukai.ne.jp/~masago/sanfran.html

    https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html

  • 予想以上に重い本でした。
    言わんとしている事は分かりますが、世の中って多くのモノが損得勘定で動いていると思います。確かに精神的な部分での矜持や行動も大事ですが、それだけでは解決できないほど世の中は複雑なんだと感じます。憲法9条が戦後日本の復興に上手く利用されてきたことも良い面も悪い面もあって当然なのではないでしょうか。人のやることなんですからキレイ事ばかりでは進んでいけないのがリアルなんだと思います。清濁併せ呑んで一方を断ずることを止めればいいんだと思います。北朝鮮や中国など日本を取り巻く環境も米国や欧州を取り巻く環境も大きく変わってきていると思います。日本も日本人も大東亜戦争や戦後という時代がが本当はどういうモノであったのか少しずつですが、知る機会や感じる機会が眼前に現れるようになってきたと思っています。戦後日本の正負の両面を知る機会としてはいい本だと思います。一読有れ

  • 1945年8月,ポツダム宣言を受け入れる際に,体制側が最も重要と考えたのが,国体の護持だったが,この発想は敗戦自体を否認していると著者は強調している.永続敗戦という流れを断ち切ることができていないとも言っている,的確な指摘だ.核兵器に関する事項で,"原爆を落とされたことは恥ずかしいことだ"すなわち恥辱の経験だという発想が出てこないことに永続敗戦レジームがはびこっているとの懸念を発している.素晴らしい視点だと感じた.第2章の領土問題に関する論考は納得できるものが多かった.永続敗戦レジームが日本の親米保守勢力と米国の世界戦略によって形つくられており,それを打ち破ることが喫緊の課題だろう.

  • 個人的には、領土問題について蒙を啓かれるところ大であった。
    それにしても、こういう著作を読むにつけ、現政権へのやり切れなさは募るばかりである。しかし、それも国民からの信があっての政権である。
    あとがきのガンジーの言葉が印象的だった。

  • 第二次世界大戦の敗戦を認めないがゆえにアメリカに従属せざるを得ない。これが永続敗戦という概念。
    しかし敗戦を否認するとどうして対米従属になるのかよくわからなかった。

  • 著者の政治的信条や行動に賛同するわけではないが、本書は非常に示唆に富む分析をしており、かつそれをよく言語化している。
    感覚としては、柄谷行人の「憲法の無意識」を読んだときに近い。本作品とは関係がないが、一般に左翼的な批評のなかでよく言及される陰謀論的主張について、私は人々が多様な政治的利害、立場をもつなかで、それほど単純な因果関係が素直にまかり通るとは考えていない。一方で、政治、経済、歴史、文化などさまざまな環境の中で形成された国民大衆の「無意識」がもたらす力は相当に大きく社会を規定すると考えている。それゆえに、日本文化に限らずそうした各社会の「無意識」を分析することは重要であると思う。その無意識をうまく利用することは、希望にもなりうるし、悪夢にもなりうる。いわゆる「指導者」となるものはそのことを念頭に置いておかなけれらならないと強く感じており、この「永続敗戦論」はそうした無意識の分析に関し説得力のある主張であると感じた。

  • 政治に疎い私がこの本を読んで思ったこと:
    著者の主張にどれだけ根拠があるのか分からないが、日本の確固たる主権の無さに対する切実な問題意識が伝わってきた。
    今まで政治や歴史に興味がなかったが、それらを学んではじめて誇り高い人間になれると思わされた。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。思想史家、政治学者、京都精華大学教員。著書に『永続敗戦論─戦後日本の核心』(太田出版/講談社+α文庫)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)など。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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