文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫 ダ 1-1)
- 草思社 (2012年2月2日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794218780
感想・レビュー・書評
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個人的に「サピエンス全史」に続く衝撃の良書。本書は、「サピエンス全史」で考察されていた一部分を、別の角度から深く掘り下げたような内容だ。始まりからワクワクしっぱなしで、知的好奇心が満たされていく。翻訳が簡潔で読みやすい。この手の本は再読時に自分の変化を感じることが出来るため、是非手元に残しておきたい。上巻を読み終えたばかりだが、数年後の再読がもう楽しみで仕方がない。
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大変ボリューミーな上下巻からなる歴史本をやっとのことで読み終わったので、メモを残しておきます。
著者ジャレド・ダイアモンドがあるニューギニア人から聞かれた問いから始まる。「あなたたち白人はニューギニアに多くのものをもたらしたが、なぜニューギニア人は白人に何ももたらさなかったのだろう」
つまりは、世界を征服した旧世界側 (ヨーロッパ系・中国系を始めとしたユーラシア大陸側) と征服された新世界側 (アメリカ大陸、オーストラリア大陸、アフリカ大陸、その他多数の島国など)、その決定的な差はなんだったのか。大陸によって技術、文明の発展に大きな差があったのはなぜか。
例えば、センセーショナルな歴史的出来事で言うと、南米で強大な帝国を築いていたインカ帝国をスペインが征服できたのはなぜか。直接的要因はまさにスペインが「銃・病原菌・鉄」を持っていたからだ。銃で圧倒したという話はよく知られるが、一方で実は旧世界にしかいなかった病原菌が新世界を襲ったという事実もよく知られている。(スペインによる殺戮より、病原菌で死んだ人数のほうが多い)
しかし、ではなぜスペインは「銃・病原菌・鉄」を持っていて、インカ帝国は持っていなかったのか。他の新世界・旧世界の各国にも同様に。これがこの著作で最も重要な論点。
著者の結論は「それは人の差ではなく、その環境の差」だったと言う。決して、人種の能力の差ではない。ただヨーロッパ人・中国人はラッキーだったのだ。例えば、農耕・牧畜と言った食糧生産を行う民族は歴史的に強い(そうでない民族を圧倒している)ことがわかっているが、しかし、それは人種・遺伝子的な差異ではなく、偶然、そこに肥沃の三日月地帯のような食糧生産に適した環境があったためであり、偶然ユーラシア大陸は東西に長いからこそ、その技術を伝播することができた。
このような論理を人類史における様々なシーンから説明する。今、恵まれている人々もただただ自分たちはラッキーだっただけ、ということを忘れてはいけないし、間違っても優れた民族なのだ、などとは考えてはいけない。
非常に興味深い本であることは間違いないが、一方で、著書の解釈次第じゃないかと思わせる部分もあったり、遥か昔のことなのに異常に当時の様子が克明に描かれていたり、信憑性がやや怪しい部分があるので、その違和感は忘れずにいたいところ。少なくとも「日本人が不便な漢字を使い続ける理由は、漢字は社会的ステータスが高いからだ」というのは大間違いだと思う。(下巻p72、230)
あと、タイトルが若干釣りっぽいというか、確かに歴史において銃、病原菌、鉄は重要な要素として紹介されるものの、一番重要な主張は前述の通り。 -
歴史・人類史に漠然とした興味を持ち始めていたので気になっていた1冊だったが、堅いタイトルに怯んで?手を出さずにいた。何度目か本屋で目次をパラパラ見た際に、第3部(第11章)がこのコロナ禍に読むのにぴったりな内容だったのでようやく読んだ。
普段文芸書ばかりでこの様な本を読むのは初めてだったが、非常に興味深い内容だった。途中何度も同じことを言っている場面が多く感じたりもして、頑張って読み進めたところもあるが、上巻で言いたいことはP.153の図4-1に尽きると思う。大陸の形がこれほどまでに色々と影響を及ぼすとは、考えたこともなかった。
それとやはり期待通り第3部(第11章)はとても面白かった。感染症についての歴史や知識を知れて、この章だけでも読む価値があると思う。
この本を読む際には、傍に世界地図や地球儀があるといいな〜と思った。 -
コロナの影響で一時的に在宅勤務指令が出て、家で仕事をするはめに。家だとついダラダラしてしまうので、仕事するだけで精一杯になってしまい、他の集中力を要することに力を割くことができなくなってしまった。
おかげで、プライベートのネット時間、および読書時間が激減中。
この本は、特に集中力が必要とされる本なので、読み終わるのに恐ろしいほどに時間がかかってしまった。
しかし、本当におもしろい。
最初のプロローグを読んで、体が震えるほど興奮した。激しく好奇心が掻き立てられて、かぶりつくようにページをめくったのを覚えている。そして、章を追うごとに、そのプロローグで提示された命題が少しずつ解き明かされていく。
まるでおもしろすぎる海外ドラマを見ている時のような精神状態に。
うおー、そういうことか!
ええっ、うそでしょ?
えーっ、そうだったの?
・・・みたいな。
続きが気になるのもドラマと同じ。
著者のストーリー・テラーぶりには本当に驚く。
こんなに複雑な話を、いとも簡単に、大変にわかりやすく展開していくので、私の愚鈍な頭にも実にすんなりスッキリ入っていく。こんな壮大な話なのに、どうしてこんなに分かりやすいのか。
とにかくその筆力に茫然。同じ人間とは思えない。それこそ、生物学的差異があるとしか・・・(笑)
NHKでこの本の解説ドキュメンタリーやってくれないかなぁ。著者が直接語るところを聞きたいし、この内容をビジュアルを駆使して展開したものがぜひ見たい。やってほしいなぁ。
コロナのせいで、病原菌のところは特に興味深かった。
しかし、恐怖心は増幅された。
今って、全地球規模で人が往来しているから、病原菌に必要な出生率は常にどこでも維持されている状態になるのね。
一風土病も地球規模に流行する条件がすっかり出来上がっていることは、今、まさにコロナが証明している。
おそろしい~。人口の95%が疫病で失われたと推測されるアメリカ先住民の恐怖は、こんなものじゃなかっただろうけれど。
著者が「この本を執筆した最大の理由」についてもいろいろと考えさせられた。それも書き留めておきたいところだけれど、ひとまず続きの下巻を読んでから・・・・ -
p 71ネアンデルタール人とクロマニョン人とが混血したという痕跡は、まったくといっていいほど残されていない。
これについては、現在、混血していたことが分かっています。執筆された2000年当初からは、アップグレートされた情報もあるかもしれない、ということを念頭において読み進めました。
疫病がもたらす恐ろしさについては、奇しくもコロナを経験した私たちにとっては周知の事実ですが、そういったウィルス側からみた生存戦略と段階(家畜から人間に稀にうつるがヒトヒト感染はしない段階から、直接人間を媒介にして感染するようになり、そのうちに人間だけがかかり大流行する)はとても面白かった。
ヨーロッパ人が、家畜との長い親交から免疫を持つようになった病原菌を、とんでもない贈り物として、進出地域の先住民に渡したからだったのである。
著者の表現もウィットに富み、難解な専門用語などもないので、するすると読めます。 -
この本は歴史書、広く言えば科学的なノンフィクションなわけだけれども、まるで長編大河小説もしくはルポ文学を読んでいるような、ページを繰るワクワクドキドキが止まらない本だった。あまりにもエキサイティング。
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1500年代、スペイン軍は新大陸アメリカに乗り込み、インカ帝国を滅亡させる。戦闘はわずか200人のスペイン兵士が8万人のインカ軍に圧勝した。勝因は、棍棒しか持たないインカ軍に対して、スペイン軍が銃・鉄剣・軍馬、そして伝染病への免疫力を持っていたからだ。
この勝利をきっかけにヨーロッパ白人は文明が遅れていたアメリカやアフリカを次々と征服しては植民地化する。白人がリードする時代の始まりだ。
では、なぜ銃や鉄、病原菌の免疫をインカ人は持たず、ヨーロッパ人は持っていたのか。なぜ人類文明の進歩は地域ごとに格差があるのか。地球上の最初の人類はアフリカで誕生したのに、なぜアフリカの文明進歩は一番じゃないのか。
本書の上巻ではこうした人類文明進歩の地域格差を主に農業、畜産の拡がり方から考える。ユーラシア大陸が東西に伸び、アメリカやアフリカ大陸が南北に伸びていることが格差の大きな理由となったという説はなかなか興味深い。 -
要約・メモ
・人類の種類(人間以外にも沢山いた)
ホモ・サピエンス
ホモエレクトゥス(旧称ピテカントロプス)
ネアンデルタール人(ちょっと交配済み)
ホモ・フローレシエンシス
ホモ・サピエンス・イダルトゥ
・氷河期が終わった紀元前11,000年の時点では、各大陸の人類はみな狩猟採集生活をしていた
→そこからバラけた(大陸ごとの発達レーススタート!)
・五万年前くらいから脳と喉が発達?言語能力アップ
→ネアンデルタール人を駆逐
→ニューギニアとかの島に舟で渡って、動物を絶滅させまくる(今日も大型動物はカンガルーくらいしかいない)
・人類が最後に移住した大陸がアメリカ大陸
舟に乗るか、ベーリングを歩くしかなかったのでハードル高かったはず
・アフリカに住んでいた人々が一番歴史が長いので有利かと思いきや、他の島に舟で渡ったり、寒さに順応しようと頭を使った人達の方が脳が発達した?
・有史…個々の文化において「文字で」歴史が残され始めたとき
→日本は古墳時代(3世紀)、人類全体としては6,000年前
★農耕
最も早かった地域はメソポタミア
元々みんな狩猟採集民だったが、獲物が減ったりして止むを得ず農耕スタート
たまたま育てやすくて収穫効率の高い植物が近くにあった地域が早く始まった?
・いったん農耕が始まると人口が増える
→養うためにさらに農耕頑張る、の自己触媒ループ開始
→狩猟採集民を数の上でも圧倒できたので広がった
★栽培
・植物は元々甘い果肉で引き寄せつつ、種子は苦くさせることで、動物に吐き出させたりして子孫繁栄
→人間にとっては果肉がデカく、苦くない種子、収穫しやすい植物が理想
→突然変異でたまたまそのような形質を持った植物を人間が収穫し、その種をまた植えたりして知らず知らずのうちに「栽培」が始まった
・植物によって難易度が異なるので、育てやすく収穫しやすい植物が早い段階で栽培された
また、好ましい形質が遺伝的に遺しやすいか、自植生か、食べやすさなどの要素も
→メソポタミアではこれらの条件が揃っている植物が多かった
→なぜか?一つは地中海性気候、栽培化しやすい穀物が多く自生していた
一つは起伏に富んだ地形、多様な植物の種類、収穫期のズレ
家畜化できる動物も豊富
→地域ごとに栽培が始まった時期にバラつきがあるのは、遅かった地域の人々がアホだったとか、文化的に栽培を拒否したというより(ミクロのレベルではあったかもしれないが)、単にその地域に栽培しやすい植物がなかった
★家畜
・アンナカレーニナの法則
適する要件が一つでも欠けると家畜化は無理
栽培と同様に、現地の人々に問題があったわけではない(飼育はできたとしても)
→家畜に適した形質を繰り返し交配することで、今日の家畜になった、猪→豚など
・家畜化が難しい生き物の問題点
①餌
生き物は食べ物の1割しか吸収できない
10キロの肉食動物を育てて食べようとすると、100キロの餌(肉)が必要
→100キロの餌(草食動物)を育てるには1トンの草が必要
②成長速度
遅いとコスパ悪い、ゴリラとか
③繁殖
人に交尾を見られたくない、求愛行動が複雑など
④気性が荒い
アイヌでは小熊を育てて食べるが、大きくなると危険なので一歳までしか育てない、シマウマやカバも
⑤パニックになりやすい
勝手に柵にぶつかったりショック死したりする
⑥序列性のある集団を形成しない
人間をトップと認識しない動物は飼いづらい
→猫はそうだけど食用ではない
ユーラシア大陸は大きくて多様なので、家畜化に向いている大型動物が多かった
他の大陸は少なかったか、既に絶滅していた
★大陸
なぜユーラシア大陸で栽培も家畜も広まったのか
→同緯度の地域は気候が似ており、東西へすぐに伝播した
★病原菌
・ユーラシアでは家畜に向いている動物が沢山いて、それらの家畜と触れ合ううちに病原菌への抵抗がついた
→新世界ではそれらの家畜がいなかった=病原菌への免疫がなかった
→銃や武器よりも、そのことによって侵略者によって壊滅的に滅ぼされた -
世に蔓延る地域格差のメカニズムは、
先天的な遺伝/人種的優位性では決してなく、
東西に広がるユーラシア大陸という地形的利を端とする農耕社会や群居性が高い動物によって生み出された、銃や鉄製武器に代表される軍事技術・疫病への耐性・政治統治制度・文字の掌握であった
アンコンシャスバイアスとして存在する、西洋がアフリカなどに比べ優性であると言う思考は優生学を論拠とする主張があるもののそれは勘違いであり、
安定生産/飼育ができる植物や動物が多く存在するユーラシア大陸に西洋が存在したから、という「たまたま」により格差が広がってしまったことを認識しないといけない
以下メモ
・炭素14年代測定法
炭素14から炭素12となる半減期5700年を利用して年代を測定する方法
・疫病により北米先住民の95%が死亡した
これは戦争による死者よりも圧倒的に多い
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『サピエンス全史』とは異なるアプローチで人類史を俯瞰できる。めちゃ面白い。
ピサロによるインカ帝国滅亡は武器の性能差だけによらず、彼らが持ち込んだ病原菌による帝国の混乱によって招かれたものである。そして歴史的にほとんどの戦死者が病原菌によって死んでいる事実には驚く。
病原菌・家畜・栽培が長い人類史の中で自然淘汰されて現在に至っていること、それが緯度を同じくする地域(特にユーラシア大陸)に伝播しやすかった。
プラトンの『饗宴』における第三段階の愛ではないが、自然淘汰にある種の美を感じた。
情報量が多く、上巻だけなので有機的に理解できていない部分も多いが、その分下巻が楽しみ!