星の子 (朝日文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 今村夏子の『星の子』は雑誌掲載時から話題になっていたが、単行本の発売直後に芥川賞候補作に選ばれてさらに注目され、新たな読者を増やしているようだ。

    物語の語り部「わたし」は中学3年生、林ちひろ。ちひろは未熟児で生まれ、生後半年目には原因不明の湿疹に苦しむ。両親は医者が薦める薬やあらゆる民間療法を試したが、効果はない。困り果てた父親は、勤務先の同僚がくれた「金星のめぐみ」という水を持ち帰り、助言どおりちひろの体を洗う。すると、ちひろの夜泣きが減り、2カ月目には全快したのだった。

    これを機に、両親は水をくれた同僚が所属する新興宗教にはまっていく。父親は会社を辞めて教団の関連団体に移り、母親は怪しい聖水をひたしたタオルを頭にのせて暮らすようになる。叔父が忠言しても両親は聞き入れず、家は転居するたびに狭くなり、ちひろより5歳年上の姉は家出する。

    読者から見れば、この展開は林家の悲惨な転落話となるが、ちひろはそうでもないらしく、淡々と冷静にこれまでの家族の内実を語っている。親の愛情を日々実感しながら育ったからか、外は外、内は内で対応してきたのだろう。しかし、将来がちらつく中学3年生になると、ちひろにも変化が訪れる。今村はその予兆を、そして実際の場面を丁寧に、これでもかと繊細に描いてみせる。

    人の内と外がつながることを「成長」と呼ぶかどうかは知らないが、そのとき人は、それまでの自分と決別する。『星の子』はちひろと両親の別れを予感させて終わり、読者には、自身の過去の分岐点を思い出させる。

  • ラストの、流れ星が見える/見えないの会話は印象的だった。ちひろには見えて両親には見えない、見えるタイミングがどうにも一致しない。これはちひろと両親との決定的なわかり合えなさ、彼らのように信じることはできない、のだろうなと想像させるラストだと思う。両親がちひろを純粋に愛しているのがわかっているからこそ、痛くて辛い。

    南先生の切れ味鋭い悪意には震えた。やさしい文章の中で、ある一文、ある一言で急に悪意が首をもたげる。私は素人だけどあの文体はすごいと思う、恐ろしさすら覚える。『あみ子』もそうだったけど、優しい少年が最後出てきてくれるのは救いかな。

  • 映画を観てから原作を購入

    主人公は体が弱く生まれ、両親は水を買うところから宗教にのめり込んでいく
    姉は家を出ていき家族は孤立していくが主人公には友人がいる
    物語だけどどこかにありそうな現実味のある作品

  • むらさきのスカートの女同様、独特の語り口。作者はちょっと感覚のズレた人の描写が上手いなと思う。

    淡々と進み、特に大きな出来事もなく進んでいく。はるちゃんが変わった理由とか、海路さんの事件の真相とかは明かされないので少しモヤモヤ。先生に責められるところは胸がギュンとなる。

  • 昔読んだ本

  • 私はこのお話が不幸な女の子の話だとは思わなかった。所々出てくる脇役は何故か彼女をまともに見せる、全然一般的な子供ではないのに。ただ抗えない状況に振り回されているだけの弱い子供にも思えなかった。きっと自分の目で見たこと、感じた事を通して強く生きてくんだろうな、と思う。ラストのシーンは、とてもとても良かった。自分にも幸せが確かにあったな、と空を見上げる。

  •  とにかく読みやすいので一気に読破。
     宗教二世の話だと聞いていたので読んだのだが、これはとある少女の人生の話だった。自分が主人公ちひろの人生を生きていたならということをまず思う。
     というのもこの小説の視点は徹底してちひろの視点でそれ以上の情報はない。自分の経験でちひろの目を通して得た情報で考えてしまうのだ。
     それゆえにラストシーンの解釈は読んだ人分違う解釈があるかもしれないというものだった。
     たまたま自分はいまの自分の人生を生きている。たまたまちひろの人生は両親が宗教に傾倒したいた。おなじ世界の中にいる。考える。生きるってみんな必死だよな。そんなことを考える。子どもだって、大人だって、年寄りだって。みんな必死なんだよな。

  • (怪しめの)宗教一家の娘視点での話。中学生時代までで話が終わるので、本人は違和感は感じつつもそこまで悲壮感なく宗教環境を受け入れそこそこ普通に暮らしていく。ただ、姉は宗教を受け入れられずにぐれて家出、周りからも自分の家が普通ではないということを指摘され本人もうすうす気付きつつあり、かたや宗教側も不穏になっていくところで、しかし宗教どっぷりな父母と娘(姉は家出したまま戻らないままだが)が絆を確かめ合いながらも終わりを予感させるところで唐突に話が終わる。中学生の娘視点かつ会話が多いので、非常に平易な言葉で書かれており速攻で読み終わるのだが余韻がなかなか良かった。最後に筆者と小川洋子さんの対談が載っていて、その対談によると当初はこの後宗教に取り込まれる含みをかなり強く持たせてもっと不穏なまま終わらせていたらしいのだが(そっちだとさらに好みのラストに思えるが)、本編ではこの後父母と宗教を振り切って旅立つ感じが強い終わり方だった。

    最後に、筆者の方について全然知らなかったのだが結構いろんな賞をもらっていて、極めつけは数年前に芥川賞もとってるらしい。最近(と言ってもここ10年くらい)の作家さん、読んでないんだなぁと改めてびっくりしました。

  • カルトな宗教の二世の話……となると暗く悲惨な話に思われるのだが、悲壮感ただようことはない不思議な話。学校、恋愛、両親、友達。
    合理的ではない、科学的に正しくない、と思ってしまうけれど、よく考えれば明確な宗教を持たない人は世界人口でみれば少数派で、よほど悪徳カルトでなければ、合理的でない何かを信じることで幸せに豊かに生きられるものなのかもしれない。

  • 信じる、とは。

    実写映画化されて、気になっていた。
    芦田愛菜ちゃんが「信じる」ことについて映画の記者発表で話している動画を見て、原作も気になった。

    愛菜ちゃんは「信じる」ことについて、確固たる考えを持っていたけど、主人公のちひろはまだ「信じる」ってなんなのか、あまり意識して考えていないような印象を受けた。

    小さいときの自分の話が出てくることが多かったので、主人公が大人になって、考えが変わったり、はたまた変わらなかったりするところまでの物語なのかな、と思って読み進めていたら、中学三年生までで終わってしまった。

    お姉ちゃんはどうなったのか?おじおばいとことの関係は?海路さん昇子さんの疑惑は?お父さんお母さんは死ぬまで信じ続けたのか?いろんな謎が残ったまま。

    中学三年生のリアルはこんな感じなのかもしれない。自分に特に意思があるわけでもなく、更に自己主張の強くない主人公のような性格の人であれば、他人がいないと決められない、というようなことはままあるのかもしれない。

    親の信じるものについて、疑問を持つことは難しいのかもしれない。子どもに客観的な視野を持って、と言ったところで、親のことをすぐに否定することはしないような気がするから。

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著者プロフィール

1980年広島県生まれ。2010年『あたらしい娘』で「太宰治賞」を受賞。『こちらあみ子』と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で、11年に「三島由紀夫賞」受賞する。17年『あひる』で「河合隼雄物語賞」、『星の子』で「野間文芸新人賞」、19年『むらさきのスカートの女』で「芥川賞」を受賞する。

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