蟻の棲み家(新潮文庫) 木部美智子シリーズ [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 世に「親ガチャ」という言葉が広まったとき、自分はこの言葉をひどく嫌った。他責の極みみたいな言葉だなと思った。でも、そう思えた時点でこの作品の主題とされる人々とは既に目線が、土俵が違っていた。貧富の差だけが「親ガチャ」ではない。もっと根源的な、「無償の愛」を媒介とする関係性が欠如している人々を、そうでない我々がどうやって理解できるのだろうか。被害者たちが死をもって権利を手に入れたという文言が頭から離れなかった。記者目線というのが客観性を担保するが人物の掘り下げはもっとできたのではないかとも思った。

  • なんだろな…派手さはなくて、インパクトもなくて、なんだけどなんかじわじわと、後からずっしり重みを感じるというか。こういう系の話は慣れてるはずなんだけど。
    貧困から抜け出すことの難しさ。落ちていくのは簡単で、楽で、さらにそこらじゅう一帯に穴があいており、何に足元を取られるかわからない。底は見えない。
    そしてそういう生活、そういう人間関係の中にあってなお、まともな心でいることも難しい。

    殺された2人の女性+愛里はヤバかった。
    自分が屈辱的なことをされても、何も感じない。ものを盗る。あいつはさーって揶揄されることにも何も感じない。
    そういう感覚って、後天的に作られるものなのかな…「マトモな倫理観を知らない」からなのかな?どうしたら「マトモ」な感覚が身につくのかな?
    でも小学生くらいまでは、そういう同級生身近にいた気がする。遊びに来て家のものを盗むとか。あれは別に家が貧しいせいではないだろう。
    自分の欲望だけに忠実で邪魔者は強制排除するようなサイコパス、↑の人たちは彼らに利用されてしまう側の人。

    末男はまともな倫理観があって至極まともだった。
    だからこそ、勝手でワガママで図々しい人たちにいくら迷惑かけられても、安易に踏み台にしたりできなかったんだよね。自分と同じ境遇だとわかってるから。
    『教師はぼくに、運命を切り開けと言いました。でも、底のないぬかるみを進むみたいなもので、日々の生活だけで消耗する。ぼくは人の愛情を受け、それを裏切り、性こりもなく信じてくれる人に助けられ、またそれを裏切る。裏切るたびに、自分の身を切っているみたいに辛い』

    本当の最後まで、どっちがやったのかわからなかった。
    でも、そんな環境でも、マトモな精神貫ける人もいるんだって、言って欲しかったなぁ。

  • 人をカテゴライズすると分断を生みかねない、小説のストーリーよりも結末よりも何よりも面白いフレーズだった。イヤミスではない、割と展開は想像がつきやすい。

  • 貧困環境をリアルに隠すことなく表現し、貧困の現実を突きつけられる。
    物語はさまざまな登場人物視点で物事が語られる。事件が角度を変えて語られる毎に違った事件像とそれに関わる人々の人物像が乱反射。良い側面が他の人からは悪となりまた逆も…
    最終的にはタイトル通り、蟻の棲家、蟻の環境で育った人はそこから抜けられない。本質は蟻でしかないという結末。
    社会の貧困の本質を描くサスペンスで、とても面白かった。

  • 第8回紅白本合戦白組5位

     東京某所で起きた連続殺人事件。
     ある食品会社で起きた企業脅迫事件。
     一見関係ない2つの事件に実はつながりがあった。カギとなるのは板橋の谷の底にあるバラック集落出身の男だった・・・。

     望月諒子の作品は初めてで、どうやら木部美智子シリーズというシリーズ物の比較的新しい作品らしい。確かに探偵役のジャーナリスト木部美智子のキャラ設定はものすごくしっかりしていてカッコイイ。明確なワトソン役はいないが、重要な情報提供者でありお互いを出し抜くライバルでもある刑事秋月とのひりついたやり取りなどさすがシリーズ物と思わせる安定感があった。

     だが、やはり本作における最大の魅力は、鉄の意志を持った真犯人の行為・言動であろう。彼は逮捕されたが目的は達成している。

     彼は断言する、「ぼく自身含め、同情されない命はある。病気の少女に億の募金が集まる一方で、売春婦の身代金2千万を渋るのがその証拠だ。」と。

     人権という言葉と現実との乖離を感じずにはいられない読後感であった。

  • 工場の権力闘争の話がいかにもありそうで面白かった。独特な比喩表現が気にならないとは言えない。

  • 貧しさで犯罪をするしかなかった若者たちの悲哀。
    読んでいて気分が悪くなるくらい悲惨な家庭環境。しかし途中で止めるのも後味が悪いので最後までページをめくる。
    そこのハッピーエンドもカタルシスも無い。

    おススメはしない

  • いつもお世話になっている渋谷の啓文堂書店が推していた本。これを読んでいる最中に徐々にMP(文字読めるパワー)が減衰し、途切れ途切れの読書になってしまった。面白かったのに、もったいない読み方をしてしまった。

    一見関係なさそうに見えるシングルマザーの女性二人が銃殺された事件と、弁当工場への陰湿な恐喝事件。その背後に広がる社会の闇。抜け出すことのできない貧困の連鎖。
    シリーズの主人公である木部美智子は有能なライターなのだが、あくまで主役は事件。主人公でありながらどこか黒子のようでもあり、その抑制の効いた描き方がとても好ましかった。

    父の顔を知らず、母親には育児放棄され、それでも懸命に妹を守り育てようとする末男。まっとうな生き方を希求しながらも貧しさゆえに犯罪に手を染めざるを得なかった彼の生き様には、安易な同情を寄せつけない壁のような厳しさがある。

    貧困家庭に生まれついた人間、とりわけ母親と同じく売春に走る少女たちの心理に対する解像度が高いと感じた。
    単に貧困でまともに教育が受けられず、まともな職業に就けないのでやむを得ず……といった話ではなく、愛されない寂しさゆえにむしろ進んで身体を売り、遊んでいるつもりなのにお金をもらえるといった理由は考えたこともなかった。

    貧困層の女性たちにさえ容赦のない冷徹な視点はやや露悪的すぎではと思うところもあるが、とはいえ、作家が優しかったところで現実は何も変わらない。
    本作の惹句に「イヤミスの枠を超えた――」などと、「イヤミス」という言葉が使われているようだが、まったくイヤなのは綺麗事を言っていても何も解決しないこの現実社会なのである。

    それにしても、これも「大どんでん返し」とかいうて売ってんのかい。みんなどんでん返し好きなんだなあ。まあ、私も好きだけどね。

  • 貧困スパイラルはこういう環境の事を言うのかなと思った。主人公の吉沢末男はその環境の中窃盗をしながらも、妹を育て学校にも行き辛抱強く生きていたが、妹の芽衣が惚れたホストと逃げる時に2人の借金を兄の末男に押付けて逃亡する。どうにもならなくなった末男が、長谷川翼の家に転がり込んだところから誘拐や脅迫事件を起こす。2人が殺害された中野殺害事件の犯人と同じ可能性を匂わす犯人は、果たして末男か翼かどちらなのか。

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著者プロフィール

愛媛県生まれ。銀行勤務の後、学習塾を経営。デビュー作『神の手』が、電子書籍で異例の大ヒットを記録して話題となる。2011年、『大絵画展』(光文社)で、第14回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。

「2023年 『最後の記憶 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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