望み (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041082096

作品紹介・あらすじ

建築家の石川一登は、家族四人で平凡な暮らしを営んでいた。ある日、高校生の息子・規士の友人が殺された。事件後も帰宅しない息子の潔白を信じたいが――。家族の「望み」とは何かを真摯に問う。

感想・レビュー・書評

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  • 雫井脩介さんの「望み」、初読みの作家さん。非常に重厚で難解なテーマの作品だった。

    自分の高校生の息子が失踪し、高校生同士の殺人事件に関与している事が発覚する。
    息子は被害者なのか?加害者なのか?
    親はその重い心情を胸中に抱えながら事件の進展と同時に希望を張り巡らす。

    この作品の核なのがこの「希望」の部分で、当然家族としては息子が殺されているとは考えたくない。そうなると逃亡している加害者になってしまう。
    逆で加害者ではないとすると被害者として殺されてしまっている事になる。
    どちらを「望む」か?
    それを終始問いかけられている。

    そしてこれは究極の2択の選択になるのかもしれないが、そうなる前に手を打つべきだと考える。
    中高生では先の展開や近い未来が見えず、大きな過ちを犯してしまう事も容易に考えられる。
    「道徳」や「現代社会」「朝礼」「ホームルーム」等の学校、授業、もしくは家庭内でも注意喚起も含め啓発し考えさせておくべきだと感じる。自分のせいで親や家族の立場や境遇が変わる可能性、自分の今後の人生、罪そのものにもきちんと事前に向き合わせておく。
    そうする事で事件はゼロにはならないだろうが、少なからず数件の予防策にはなるのではないか?

    今の自分でも答えの出ないこの「望み」の核の部分。
    深く難解な事だけれど、とても深刻で大事な事だ。
    そして「望む」ならばこういう事がないこと、それに尽きる。

  • 「火の粉」に続き2冊目読了。
    本作は、
    子供が加害者なのか、
    被害者なのか、被害者の場合は死んじゃってる可能性が高い
    どちらの選択肢でも最悪の状況。父母、妹、親族の心境からの目線で語られる。

    突如、息子が帰宅しなくなってから事件として報道されつつ、数日間のリアルな日常。

    あなたならどちらを望みますか?と問われても辛い気持ちにしかならないし、現実感ありすぎて最後まで一気に読めた感じ。まあ、重いです。

    母親は加害者としてでも生きててほしいと願っており、父親は被害者としてを願っている。加害者なら仕事は全てなくなり引越しもしてこれから家族はどう生きていけば良いのか?までの長い未来を考えた上での願い。
    そんな中で母側の母親からの言葉「今大事なのは覚悟だからね。ちゃんと覚悟すれば何にも怖くない。あなた、今までと違う人生を生きていくの。頭をずっと低く低くして風が当たらないように息をひそめて。お母さんはね、立派な家に住んで、美味しいもの食べて、家族笑いが絶えない幸せな人生を送ってほしいと思っていた。でもそういうのはあなた、もう十分味わったじゃない。」のように自分の息子を守り抜く覚悟をしなさい的な声かけのシーンとかリアルで、、、。まだどちらかわからない時に家の中での話し合いや、夫婦間の話し合い、親族からの探りの電話など、リアル描写がすごい。
    ラストも良かった。。

    どっと疲れました、読了後昼寝3時間くらいしてしまいました(( _ _ ))..zzzZZ

    雫井さんの書き方は私読みやすい!
    他も読もう。今の所、2冊とも面白かった!!

  • 社会派の作品です。

    石川一登、貴代美夫妻の家は建築家の一登、校正ライターの貴代美、高校一年生の規士(ただし)中学三年生の雅の四人家族です。

    夏休みの終わったある日、高校生の男の子がリンチ殺人のあげく車のトランクに入れられたのが見つかります。
    犯人たちは車を乗り捨ててそのまま逃走しています。

    そしてその晩、規士が家に帰ってきませんでした。
    一登と貴代美は規士が事件に関与しているのかと思い始めます。

    その後警察の調べで、行方不明になっている男子生徒は三人で、逃げているのは二人であるということがはっきりします。
    もう一人、リンチ殺人の被害者がいるのです。

    貴代美は「どっちかなんて話をするなら、犯人のほうがまし」「生きてたら、どうとでもやり直せるの。でも人間、死んだらそれで終わりなのよ」といいますが、一登は「規士は被害者である」と信じています。
    雅は自分の高校受験、その他の将来を見据えて「犯人じゃないほうがいい」と言います。

    そして一登は仕事先から付き合いを断られ更なる事の重大さに気づきます。
    でも一登は規士の家に残していったナイフを見つけていいます。
    「警察が言わなくたってわかる!規士はやってないんだ」

    結末が早く知りたくて、ページをめくる手が止まらなくなる話でした。
    犯人でもいいから生きていて欲しいと願う母親と、絶対に犯人であるはずがないという父親。

    残念ながら、確かに、この事件に平和な真相はありませんでした。

  • う〜ん…

    究極の選択やな…
    ムスコが行方不明に…
     生きている:加害者
     死んでいる:被害者

    どうあっても、生きて欲しいと願う母
    VS
    人殺しなんかしないと願う(=死)父

    事実が分からない中、この2つに揺れる家族…
    自分の子供なら、どうか?
    分からないというのが正直なところ。
    父寄りやとは思うんやけど…どうあっても生きてて欲しいとも思う。
    あかん!どっちかってのはムリ!

    しかし、真実は、時間とともに明らかになっていく…
    ホッとしたような…ポッカリ穴が開いたような…

    揺れる恋心はええけど、こんなのに揺れるのはキツい!
    とにかく、こんな経験はしたくないのは実感出来た〜
    面白かった〜あくまでも小説だからやけど^^;

    ハッキリせんうちから、家の周りで騒ぐマスコミさんは何とかして〜

  • リアルな事件であればあるほど辛さが先に立ってしまいます。展開がどうのより、読むのがキツイ自分がいます。この場合特に親の立場で考えるから。
    犯罪に巻き込まれた息子。無事を祈る両親の揺れ動く感情。
    一登(父親)の仕事柄、家への愛着は人一倍と見える。
    一登のつくる家、一登が描く理想の家がスライドする。
    守りたかったものが崩れてゆくのは何故か。
    どちらを選ぶか、ということではない気がする。息子を信じることが、最悪の事態でも、ということではないと思うし。なぜこのような事態になったのかということに目を向けると、本当の息子の気持ちを理解していたのか、という点に行きつく気がして。
    唯一の救いが見えましたが、それが気持ち的に希望にまではいかなかった。読後も重い気持ちを引きずり、泣けるというよりしんどい。(私は)映画は観れないなぁと思う。

  • 教科書に載せた方が良い作品

    登場人物一人一人、家族、仕事関係者、マスコミ、友人…どの立場になって読んでも
    絶対に大事な物を感じられるし考えさせられます

    自分の子供にもこの作品読ませたいと思ってます「映画を観てもらうのもありですね」

  • 最近忙しくハイペースで読書が出来ない環境の中、意欲的に時間を削って一気に読み終えた。

    自分のかけがえのない存在、例えば家族や恋人や自身の子供が、事件に巻き込まれる想像だけで胸が苦しくなる。ましてや加害者か被害者かわからない状態なんて発狂してしまうだろう。本書は、息子の安否に対して不安と葛藤を抱えた父と母の切実な望みが表現されている。なんと辛い。

    少年の描写は殆ど無い。彼の気持ちや心を覗きたかった。

    決して遠くない「絶望」。このタイミングでの映像化に社会の焦りを感じる。

  • 雫井脩介さんは『火の粉』に続き2作目。

    『望み』
    今回も非常に重たい内容だったが、シンプルな構成でテンポよく進むため一気読みしてしまった。
    

    【あらすじ】
    建築デザイナーの石川一登は、妻・貴代美と、高一の長男・規士、中三の長女・雅の四人暮らし。
    9月のある週末、規士が家を出たまま連絡が途絶えてしまう。程なく規士の友人が殺害される事件が発覚し、胸騒ぎを覚える石川一家。事件後逃走した犯人は2人だが、行方不明の少年は3人。
    果たして息子は加害者なのか、それとも被害者なのか・・・


    【レビュー】
    行方不明の息子が事故と何らかの関係があるとは分かりつつも、それが加害者なのか、被害者なのかによって立場が180度変わる。
    被害者ならば、恐らく命は助からないが無実だ。加害者ならば、命は助かってもその後の人生は家族共々茨の道を歩むこととなる。

    父と母でどちらを望むのかに差異が生じ、年頃の受験間近の妹も心中穏やかではいられない。
    おまけにマスコミも押し掛け、仕事の関係者や親戚からは息子を加害者として疑われ、風当たりは強くなる一方で・・・
    いくら家族が大切といっても、家の外との社会生活が保たれて成り立つ家族である以上、綺麗事だけでは済まされないことを読み手に迫って来る作品だった。

    自分ならどうするだろうか・・・
    建築士として一家の大黒柱の父親だったら、
    或いはお腹を痛めて産み育てた母親だったら、
    或いは一歳違いの妹だったら、
    自分ならどう考えただろう・・・とそれぞれの胸中に思いを巡らして胸が苦しくなった。
    結末を知った後、行方不明だった規士から見えていた景色はどんなだっただろうと思いを馳せた。

    規士が行方不明の間、石川家の身の回りでは様々な変化が起こった。
    誰が正解でもないし、
    誰が間違っている訳でもないと思う。
    けれど真相が分かるまでの数日間で、人間の深層心理に深く迫った描写は、どれも痛い程に生々しく重かった。

    人と人が関わりながら暮らしている社会の中で、いつ我が身に降り掛かるかもしれないからこそ、リアルでセンセーショナルな本作は胸に響き、読後もしばし放心状態になってしまった。

    また、社会生活を営む最小単位の「家族」が鍵となる本作の中で、父親の職業がその象徴とも言える家を設計する建築デザイナーという設定も巧みだった。更に『火の粉』と同じく、母単体、母親と娘、母親と実母・実姉といった女性或いはその関係性を描く心理描写が秀悦で、その微妙な距離感や感じ方が際立っていた。

    哀しい物語だったが、どの様な事件が起きても、家族も含め、自分が接してきた方々との血の通った付き合いにおいては、周りに影響されず、見る目が曇らない様にブレない自分でいたいと思った。

    私もそうだったが、思春期の多感な時期といっても、意外と親や周りの声はしっかりと本人に届いている。
    ただ、成長過程における繊細過ぎる部分が邪魔をしたり、自分の内面を表現する術を持ち合わせていないもどかしさが胸の内の大半を占めていたんだと思う。

    けれどこの成長過程に、痛ましい過ちから起きる事件が後を絶たない。
    その様な事件が起こらない為にも、事件が及ぼす社会的な影響については、本作の様な作品を通じて学生の頃に学ぶ機会があることが望ましいと感じた。

    読後、頭を整理した先に漸く私が辿り着いた望みの境地がこれだった。
    タイトルの『望み』が意図する中に、作中の登場人物の望みだけでなく、読み手のこんな胸中まで見越されている所に、作者の強い意志を感じる作品だった。

  • 何度も目をつぶった一冊。

    息子は殺人犯か被害者か…苦しかった。

    夫の心情、妻の心情、誰の心情もが丁寧に描かれていて、その度に目をつぶり心を重ね合わせ、振り子のように心が揺れる時間を味わった。

    夫婦で食い違う意見、心の収まりどころを必死に探そうともがく姿、信じようとすればするほど勝手に拡がる不安は何度も胸を打つ。

    そんな夫婦に対する義母の言葉が印象的。

    柔らかな緩衝材のように心に残る。

    終盤は何度も目をつぶって鼓動を抑え、言葉をゆっくり追う。

    加害者、被害者、何をどちらを…これほど頭に心に渦巻きこびりつく小説は初めて。

  • 雫井脩介初読作品。
    同級生の殺人事件直後に行方不明になった息子。
    息子は加害者か、それとも同級生同様に被害者か。
    父親と母親で相違する切望と葛藤が描かれた作品。

    息子を持つ父として、やはり自分を親の立場に置き換えて読み進めていくのだが、やはり辛い辛い。

    当然ながら小説の中の家族の環境や育て方は多少なりとも違うのだが、私としては無実を信じる気持ちの方が強く、父親側の目線だった。

    どちらにしても悲しい結末なのだが、やはり辛かったな。映画も観てみよう。

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著者プロフィール

1968年愛知県生まれ。専修大学文学部卒。2000年、第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』で小説家デビュー。04年に刊行した『犯人に告ぐ』で第7回大藪春彦賞を受賞。他の作品に、『火の粉』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『殺気!』『つばさものがたり』『銀色の絆』『途中の一歩』『仮面同窓会』『検察側の罪人』『引き抜き屋1 鹿子小穂の冒険』『引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還』『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』『犯人に告ぐ3 紅の影』『望み』などがある。

「2021年 『霧をはらう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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