- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043736027
作品紹介・あらすじ
古書店『無窮堂』の若き当主、真志喜とその友人で同じ業界に身を置く瀬名垣。二人は幼い頃から、密かな罪の意識をずっと共有してきた-。瀬名垣の父親は「せどり屋」とよばれる古書界の嫌われ者だったが、その才能を見抜いた真志喜の祖父に目をかけられたことで、幼い二人は兄弟のように育ったのだ。しかし、ある夏の午後起きた事件によって、二人の関係は大きく変っていき…。透明な硝子の文体に包まれた濃密な感情。月光の中で一瞬魅せる、魚の跳躍のようなきらめきを映し出した物語。
感想・レビュー・書評
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本編と付録2編が入った内容。
古本屋の「無窮堂」の店主、真志喜とその友人の瀬名垣、及び友人夫婦の物語。本編でも付録でもBLの雰囲気が濃厚に出ていてギリギリの表現が更にドキドキ感を増す。何かの事件があって、罪悪感や後悔の元になっているのが、後半に明かされる。真志喜の父親の失踪が意外なところで顕在化する。こちらの古書買取勝負もドキドキしてくる。
値段の勝負は結局どうだったのだろうか?
本に掛ける二人の情熱が凄い。
付録の中では男性教師や友人女性にも好かれる真志喜が描かれる。脅されながらも従う教師が可哀想になる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『「へえ、泊まっていっていいんだ」、茶化すような瀬名垣の言葉に、細い真志喜の首筋がうっすらと桜色に染まった。』『瀬名垣は離そうとする真志喜の手を許さなかった。逆に真志喜の指先を、左手で包むように握る』、古本屋『無窮堂』の若き店主・本田真志喜とその友人・瀬名垣太一が紡いでいく二人の主人公の物語。えっ!と思わせる淡く揺らめく『BL:ボーイズラブ』の描写で物語は始まります。
読者に、もしかしてこの二人って?という気持ちを抱かせる一方で文体は見慣れぬ漢字が多く並ぶなんだかゴツゴツした印象。これは何時の時代の話なのか?『硝子戸の鍵』、『天の岩屋戸』、『葡萄茶の着流し』というような感じで時代感が今ひとつはっきりしません。そんな中、真志喜の家に泊まることになった瀬名垣。
『月に照らされ、池と、枝を伸ばした木々の生い茂る築山が、影の濃淡で幽玄の世界を現出させる』
『冴えた月光は、澄み渡った銀色の触手で部屋を一撫でし、部屋の温度をますます下げた』
『つぶやきまでもが月光に漂白され、部屋を寄る辺なく彷徨う』
もうため息が出そうに美しい、月のある情景です。漂っていた二人の一種妖艶な空気が、一気に透明で冷徹な空気に入れ替わった感じを受けました。
この作品で描かれるのは古書の世界。『古本業は、本を買い取る基準も、それを売る値段の基準も、それぞれの店主の価値観と力量に委ねられている。日々、研鑽を積まなければ、アッという間に客に足もとを掬われ、同業者の笑いものになる』という、この世界で生きていくことの厳しさが語られます。古本屋との関わりは人それぞれだと思います。その独特な空気感にあしげく通われている方も多いと思います。
『「無窮堂」にある本は、正確に言えば私の本じゃない。ふさわしいひとの手に渡るまで、私が預かっているだけだ。いつも自分にそう言いきかせていたはずなのに、いつのまにか愛着を抱いてしまっている自分に気づいて、愕然とした』という真志喜。店で目録を作って顧客や図書館などに配り、注文を募る通信販売を大切に思う真志喜。目録はその店の店主の趣味を色濃く反映できるため、そのことに情熱を燃やします。そんな彼と対極に、店を持たず、一般の人から本を一度に買い付けて、そのまま市場に流して古本業者に売る卸専門の瀬名垣。そんな対称的な二人には少年時代にある事件でその後の人生に大きな影響を与えられていました。そんな二人が古書の一括買い付けに赴いていく…。
『図書館に入ってしまったら、本は死んでしまう。流通の経路に乗って、欲しい人の間を渡り歩ける本を、生きている本と呼ぶんだ』という真志喜の語る言葉は強く印象に残ります。今この瞬間も世界のどこかで、日本のどこかで、新しい本が生まれています。一生かかっても踏破できない本の山。本と言ってすぐに思い浮かぶのが図書館である分、ショックな視点だと思いました。そして、『店にあるときの古本は静かに眠る。これらの本を書いた人間たちは、すでにほとんど全員死者の列に連なっている。ここに残されているのは、この世にはもう存在していない者たちの、ひっそりとした囁き声だ。真志喜はそれらの本の発する声を、じっと聞いているのが好きだった。』という表現など、本を愛するということを突き詰めた世界、古書に魅せられた人たちの生き様が強く描かれていました。
他の方のレビューにも、『BL』という文字が踊っています。実際、モヤモヤとした雰囲気が最初から最後まで付き纏います。古本業の極めて細かいリアリティに溢れる描写の一方で、『BL』を匂わすようなリアリティから遠い茫洋とした淡い空気感の併存、それがなかなかに捉え所のない摩訶不思議な世界観をこの作品の中に作り出しているのだと思いました。
辞書という舟を編み、この世に送り出す仕事を描いた「舟を編む」の次に読んだのが、その本の旅の先を取り次ぐ、いわば本の旅行代理店のような仕事を描いたこの本でした。いずれも本を愛し、本に魅せられた人たちの生業という共通点。三浦さんの描くお仕事世界を独特な空気感と共に楽しませていただきました。 -
三代にわたって古書店「無窮堂(むきゅうどう)」を営む本田真志喜(ましき)24才と大切な親友瀬名垣太一25才の友情の物語です。
天性の古書に対する才能を持つ瀬名垣が、10才の時に、無窮堂の二代目、真志喜の父が廃棄する本と区別した中から売れば億円する本を見つけたことで、父親は居場所がなくなったと思い無窮堂を出て行った。それから真志喜は、父に会っていない。
瀬名垣は、真志喜の父を追い出したという負い目を抱き、心に負担を感じて生きてきた。真志喜は、瀬名垣を一目見た時から気に入りひかれていく。その気持ちを止めることが出来ずにいる。そんな二人が、醸し出す物語です。
古書の世界のことが書かれています。私は、無窮堂のように店舗をかまえて古書を販売する事しか知りませんでしたが。古書業界ではこれを正統派といいます。そして瀬名垣が営んでいる多くの本の中から価値ある本を見つけて、図書館とか、コレクターなどの特定の顧客に売る「せどり屋」という商売があるのを知りました。
三浦しをんさんの本を読むのは初めてです。
【読後】
変な名前の本だなと思いながら読んでいました。こんな事柄を書いた本は、いままで読んだ事のない本でした。綺麗に、丁寧に書かれているのにビックリします。最初は、あまりにも真志喜と瀬名垣の距離が近いので、もしかして変な関係なのかと思っていたのですが、読み進むと二人の想いが感じられてこんなふうに、信じられる間柄の人もいるのだと思いビックリしています。
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【音読】
2022年11月25日から30日まで、音読で三浦しをんさんの「月魚」を大活字本で読みました。この大活字本の底本は、2004年5月に角川文庫から発行された「月魚」です。本の登録は、角川文庫で行います。
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月魚(げつぎょ)
2022.05埼玉福祉会発行。字の大きさは…大活字。
2022.11.25~30音読で読了。★★★☆☆
水底の魚、水に沈んだ私の村、名前のないもの、の短編3話。
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「参考」
※参考は、私のメモ書きです。本の感想ではありません。
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「せどり(競取り、糶取り)」とは、「同業者の中間に立って品物を取り次ぎ、その手数料を取ること。また、それを業とする人」を指す。古本用語を元にした「掘り出し物を第三者に転売すること」を指す言葉。 -
私は「舟を編む」を読んで以来、三浦しをん さんのファンになったと言えるのですが、こちらの作品も「舟を編む」とはまた別の”恋慕”が描かれています。
無窮堂という古書店を営む三代目当主の本田真志喜(ほんだましき)と、その幼馴染で自身も卸の商売をする瀬名垣太一(せながきたいち)の出会いから現在、そして未来を感じさせるところでこの本は終わるのですが、二人の関係が綿密で繊細であるということを、著者は素晴らしい筆致で表現しています。
ある一定以上距離を詰めないと分からない、お互いの心の動揺を感じ取る一種の以心伝心であったり、相手を思うが故に手出しできない暗黙の縛りのようなもの。それらを物語の隙間に的確に挟み込むことによって、読者が「この二人の関係は単なる幼馴染ではないんだな」と感じるように構成されています。
ところで、私がもしこの著者の作品の「どこか一点だけを好きな部分として挙げなければならない」と言われたら「文体」と答えます。
作品の雰囲気や人物描写、読みこんだときの没入感を左右する決め手となるもので、ここがあやふやになっていると読んでいてもイマイチ分からなかったり、逆に装飾が多すぎるとゴテゴテした文体に辟易してしまったりするからです。
私にとって著者の文体は一番すっと自分の中に入り込んできてくれて、物足りなく感じず多すぎるとも思わない、絶妙なバランスです。
三浦しをんさんの描く話というのは、ドキドキハラハラというものではありませんが、だからこそ人物模様やそこにいる人たちの機微が感じられて、繊細で美しい。
月魚もそんなお話だと感じました。
真志喜と瀬名垣の高校時代を描いた短編も甘酸っぱい青春、という感じでとても楽しんで読みました。
文庫版には短い書き下ろしがありますので、文庫版をオススメします。 -
作者の作品を何度か読んでみたけれど今回は読み始めてあれっ?と思う作風?でした。
今までに無い小憎たらしい登場人物になんだか艶めかしい場面もあったりと全く別の作者の話しのようでした。個人的には登場人物の高校時代の話が本当にイラッとするムカついてしまいました。
本を読んでいて登場人物をこんなふうに思うのは初めてかもしれないです。 -
古書店『無窮堂』は,雑木林の奥,深い闇のなかにひっそりと佇んでいる。
店主の本田真志喜(ほんだましき)は,この古書店の三代目。
二十五歳の若さであるが,生まれたときから祖父に古書のイロハを叩き込まれた生粋の古書店主である。
瀬名垣太一(せながきたいち)は真志喜と幼馴染のやはり古書店主である。真志喜とは違い卸専門で小売はしない。
昔からの因縁,それぞれの父親との関係,瀬名垣の古本屋としての才覚,内輪のしきたりに囚われすぎる古本業界。様々なものが,背名垣と真志喜をがんじがらめにする。
古書というある意味閉ざされた業界と,才能はあっても若いというだけで見下される二人。
あるとき,故人の遺した蔵書を買い取る依頼を受けた瀬名垣,真志喜と共に軽トラックで出向くが……。
文章そのものが美しいし,耽美だし,古書を通した世界観が現実のものではないような,ある種閉じ込められた世界のように感じた。
古書を扱いながら,そこには人の営みがあり,それは綺麗なものだけではなくて,欲に溺れた醜さもあり……。
オイラの文章では全く月魚の小説の美しさは出てこないが,うん。すごいよ。素晴らしいよ三浦しをんさん。
ただ,好き嫌いは分かれるような気がする。同性愛の匂いも感じさせるし。そこが売りでもあるけれど。 -
本をこよなく愛する、本に魅了された、本を取り巻く男たちの物語なのか、美しい青年らの美しいプラトニックなBLなのか…どっちもなんだけど、どちらに神経を研ぎ澄ませは良いのかと言うところでどちらもじれったく結果ぼんやりと終わってしまった。
そんなわけで同時進行ではちょっと勿体無いかなと思いました。
勉強不足で申し訳ないのですが、瀬名垣(せながき)と真志喜(ましき)の物語はこれで終わり?
2人で古本にまつわる謎解きシリーズなどあれば読んでみたいと思う。そんなお話し。
ちなみに月魚…げつぎょと読むそうで、言葉としての意味はないようです。
月と魚は決して同じ場所に共存することはできない…池に映る月くらい危うい関係という比喩的な意味合いであると受け止めました。
今年の7冊目 -
久しぶりに透明感のある耽美系ラヴストーリーを読んだ。なんというか、昭和初期の恋愛ものに京極堂と書楼弔堂に谷崎を足して回して”腐”を入れた感じ。特に水に沈んだ私の村が素敵ですねぇ。この短さもプラスにはたらいているといえるだろう。
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jubeさん、はじめまして!
私、この作品、三浦さんの2作目で読みましたが、ため息が出そうに美しい情景描写に酔いました。また、jubeさん...jubeさん、はじめまして!
私、この作品、三浦さんの2作目で読みましたが、ため息が出そうに美しい情景描写に酔いました。また、jubeさんの書かれているとおり、この短かさもポイントかもしれませんね。とても印象的な作品でした。
今後ともよろしくお願いします!2020/06/07
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文章に心地の良い重みがあり、ライトノベルにやや飽きが来ていた自分にとっては「そうそう!コレダよコレ!」になった。ハマる人はハマる世界観だと思う。
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直接的な表現はないけれど、おそらく主人公2人は友人関係を超えた関係にあると思う。
それがちょっと思わせぶりに、そして美しく描かれていて、少し幻想的なイメージも持った。
こういうのが苦手な人もいるかもしれないけど、私はすごく好きな作品だった。 -
真志喜、父と祖父そして瀬名垣。
厳重郎と美津子… 古書に関するそれぞれの物語に惹き込まれる。
自分を苦しめる辛く忘れられない思い出を、美しく整理した文章が出てくるのだけど、僕の中にもあるつっかえが取れたような気がした。
ええとBL… ちょっと焦りました笑 -
古書店業界という、またしても独特で魅力的な業界を舞台に、三浦しをんさんお得意の、彼女ならではの個性的な登場人物たちを縦横無尽に踊らせる素晴らしい演出。
瀬名垣と真志喜という二人の青年の、お互いに向けた秘められた想いのあふれるような所作に、その描写に思わずドキドキしてしまう。
すげぇな。
ノンケというかどノーマルのわたしですら、これなんだからさ。 -
古書店、無窮堂の若き三代目である真志喜は、美しく中性的な容姿で、どこか浮世離れしていて人を寄せつけない雰囲気を持つ。そして同じく古書店を継いだ瀬名垣は、人好きする性格だ。
対照的ながら幼馴染である二人は、幼い頃に起こったとある事件から、深く入り込めないのに離れられないという因果を引きずったまま、25歳になった。
本を愛する二人の、古書店としての日々。そしてお互いへの想い。
これは三浦しをんさんが真面目に取り組んだ淡いボーイズラブ、ということになるのだろうか。直截的な表現はないものの、きっとそうなのだろう、と匂わせる部分はそこかしこにあって、そういうものに嫌悪感を持つ人はもしかしたら駄目かもしれない。
でも何か低温というか、透明感が漂っているというか。
まさにタイトルの感じ。魚が泳ぐ夜の水面に、月がゆらゆらと写っているような、そういう雰囲気の小説だと思った。
そして、古書店の仕事を垣間見ることが出来たのはとても興味深かった。古めかしい昔ながらの古書店って私の地元にも何軒かあるけれど、たくさん人が入っている様子はないし、こういうお店の人はどうやって稼いでいるのかという疑問が解けた。
貴重な古書を見極める目を持つには勉強も必要だけど、持って生まれた才もかなり左右するということ。
本を間に挟んだ人と人とのつながりであったり、本を愛する人の想いであったり。そういうものを見極めるのは、勉強よりも持ち前の才なのだと思う。
そしてこの物語の核になっているのは、人は罪の意識を背負ったままで誰かをまっすぐに愛することが出来るのか、ということなのではないかと私は解釈した。
この物語の二人もお互い惹かれ合ってはいるのに、昔の事件からくるお互いへの罪悪感に縛られていて、だからこそ惹かれ合うのかもしれないし、そうではないのかもしれないし…という複雑なところに身を置いている。
その危うさがこの物語に透明感を与えているのかもしれない。
二本目に二人の高校時代をとある国語教師の目線で描いた短編と、最後に書き下ろしの超短編という、充実した内容。
真志喜の人を寄せつけないのに人を惹きつける感じが良かった。遠くから見つめていたい、という気持ちがとてもよく解る。 -
代々古書店 古窮堂を営む真志喜と、せどりの息子と言われながらも確かな目を持つ瀬名垣。
本を愛し本に愛される二人の青年は、罪や傷を共有することでより強く結びつく。共に被害者でありながら共犯者でもある、密な関係。
漱石の世界のように流れる言葉、萩尾望都の世界のような官能、さらにもう亡くなってしまったけれど北森鴻の古美術 冬狐堂シリーズを彷彿とさせるような。
古いものはその歴史の分だけ、手に負えないなぁ。 -
2001年(平成13年)。
古書に魅せられた者達の情念と業。
内に秘められた官能の世界。
青白い炎の方が熱い、と言っていたのは誰だったろう…。
「罪」は、逆から読むと「蜜」なのだ。 -
古書店の若き三代目・真志喜と、幼なじみで
同じ古書業界に身をおく瀬名垣。
この二人は、それぞれに負い目と罪悪感を
持っていて、なかなかお互いにまっすぐ向き
合えない。
(少し誉めすぎかもしれないけれど)このあたり
の男同士の心模様を巧みに描いたという点で、
向田邦子さんの『あ・うん』を思い起こさせた。
ただ、BLチックなところがあちこちに出てくるのが
どうもいただけない。
そうする必要などまったくないのに。 -
会社の方に貸して頂いた一冊。
ミステリー好きの自分がまず購入する可能性ゼロの本。
恋愛小説ともまた違う。
これはなんと言うか、所謂ボーイズラブというジャンルなのか?はたまた文学なのか?
ボーイズラブの分野には詳しくないので何とも(^_^;)
着流しを着る古書店の店主。
古書店への道は近づくにつれ、わずかだが細くなり、昼間にこの道を行くと遠近感が狂うという。
まさかこれは、京極堂へ続く目眩坂かと(^_^;)
着流しの店主はまさか京極堂!?
なんて期待もしてしまったが、全く種類の違う人間だった(^_^;)
悪くはない、、、
語彙も豊富。
でも何だろう?
それらの語彙が私の好みの使い方ではなかった(T_T)
京極堂と見誤って期待度が上がりすぎたのか!?