- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044271046
作品紹介・あらすじ
奉太郎は千反田えるの頼みで、祭事「生き雛」へ参加するが、連絡の手違いで祭りの開催が危ぶまれる事態に。その「手違い」が気になる千反田は奉太郎とともに真相を推理する。〈古典部〉シリーズ第4弾!
感想・レビュー・書評
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前作の「クドリャフカの順番」で一区切りと思われた中でも、毎回、手を変え品を変えと楽しませてくれた米澤穂信さんの〈古典部〉シリーズ、今回は一年間を描いた初の短編集であり、まあ、これだけたくさんの抽斗を持っているものだなと思いつつも、実はこの四作目が、今後に於いて重要なターニングポイントとなり得る可能性もあるのではないかと感じられた、これまでとは少し違う一種独特な雰囲気があった。
おそらくそれは短編ということもあるのかもしれず、長編のようにある程度ページ数の多いものは、その伝えたいことに着地する前に様々なエンタテインメントの要素を取り入れることで、やや印象が薄まってしまう場合もあるが(それくらいがちょうど良いという考え方もあり)、短編の場合、それが限られているためオブラートに包む余裕も無く、伝えたいことがよりダイレクトに、読み手の心に突き刺さっては深く染み込んでゆく、そんな印象を抱くものが幾つか本書に見受けられたことに、米澤さんは様々なミステリの素晴らしさも伝えつつも、いちばん大事にしているのは古典部メンバー四人の心なんだということをはっきりと実感する。
勿論、趣向を凝らした様々な謎解きの楽しみや、知られざる四人のパーソナルデータを知る喜びもあり、例えば細かい事を書くと、四人の中で誰が携帯を持っていて持っていないのかといった、そんなファンならではの楽しみ方もできる辺り、まさにエンタテインメントなんだけれど、読後に漂わせる雰囲気は決して明るいものだけでないことには、人生16年やそこらで中々達観できる人なんかいないよと言いたくはなるのだけれども、その時はそれに気付きようがないし、それが後々の人生の大きな糧になるのかもしれないし、そもそも感じ方や考え方は人それぞれで全く違うということを、ここまで熱心に何度も繰り返し書く人は初めて見たかもしれない、米澤さん自身の繊細さが本書のみならず、何よりもこのシリーズの核なのかもしれない。
全部で7つある短編は、一学期から春休みへと順番通りに読むことで、古典部メンバー四人の高一の一年間の変化も楽しむことができる。
「やるべきことなら手短に」
「千反田える」がまだ「伊原摩耶花」を知らない、4月もそろそろ終わりを迎えようとしたこの時期は、「折木奉太郎(ホータロー)」もまだ千反田のことをよく知らない時期ということから、おそらく条件反射に近いものもあったのかもしれないが、のっけから渋い謎解きを絡ませながらの結構ビターな終わり方には、居住まいを正す思いとなりながら、この出来事がホータロー自身をちょっと変える、そもそものきっかけだったのかもしれないと思わせるものもあった、それは後になってみれば、千反田にとっても良かったことなのではないかな。
「大罪を犯す」
本書では割と多く感じられた、千反田のいろんな一面の一つがほのかに描かれていた6月の出来事、というのはホータロー主観の文章ということもあって、読み手が千反田の本音を慮ろうとしても中々難しい点に、人間の奥深さは高校一年生も変わらないということを教えてくれる。
「正体みたり」
古典部部長の千反田による、『氷菓』事件解決に感謝の気持ちを込めた、夏休みの古典部温泉合宿は、夏ならではの幽霊要素も上手く盛り込んだ、謎解きの面白さが光る一方でやはり千反田が最後に抱いた思いには・・・でも、こうした場面を毎回ちゃんと見ているのがホータローだと思うと、周りの皆が思っている以上に良い奴なんだとも思えてくる中、千反田には感受性が豊かなことは決して悪いことではないよと言いたくなった。
「心あたりのある者は」
11月始めにホータロー自身の人生に関わる問題を賭けて、彼と千反田が行ったゲーム、『十月三十一日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい』という放送から、何があったのか様々な推論を重ねていく、そのミステリ嗜好の展開には、ハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」への入り口となってくれればという米澤さんの願いが含まれていたことを、あとがきで知る。
「あきましておめでとう」
一年の計は元旦にありともいわれる、その日の初詣で思わぬ事態に巻き込まれたホータローと千反田ではあったが、残りの二人も絡めて、その後の二元中継で展開する物語と、これまでの短編の出来事まで含めた壮大な伏線が面白く、おそらく七つの短編の中で最も素直に楽しめる内容に加えて、私も読みながら薄々感じていた、ジャック・フットレルの「十三号独房の問題」と似ていることが、まさか米澤さんのあとがきでその通りだとは思わず、これは嬉しかった。
「手作りチョコレート事件」
タイトルに反して最も胸を締め付けられる話で、千反田も摩耶花もそれぞれに抱えた思いはあったけれども、ここではホータローの親友「福部里志」の自らも持て余しているような胸の内の葛藤がやるせなく、彼は四人の中で最も落ち着いていて内に強いものを秘めた印象でありながら、実は密かに悩み苦しんでいた、そこには自分だけではなく周りにいる人達の存在もあったからというのが、また言葉にできないものがあって、もっとシンプルにとか相手のことも考えればとか、横から言うのは簡単だけれども、そこにこそ人それぞれ違うんだという、その人にしか分からないガラスのような繊細さがあるのだと思い、里志は里志なのであって当然ホータローとは違うということを、時には割り切れないときだって人間ならばあるのではないかということを、何気ない対戦ゲームの中でもさりげなく伝えていたことに、読み終えてからようやく気付いた。
「遠まわりする雛」
春休みのある出来事を描きながら、前の短編でホータロー自身が実感として湧かなかった部分を補っている展開が見事で、それはまさに彼が千反田に抱いたある気持ちという、何よりも確かな説得力があるものだからこそ読み手もきっと共感を抱くことができる、そんな兆しが見えるのが嬉しいやら切ないやらには、如何にもな青春の一ページといった印象だが、米澤さんの場合、こうした時に簡単に「恋」とか「好き」とか使わないで表現するから、とても奥ゆかしさがあることに却って、もどかしさというか、どうしたもんだろうと思ってしまうことには共感しかない。
『俺はいま、千反田の表情を見たかった』
あとがきで、登場人物たちの距離感の変化を描けていることを願っていた米澤さんは、その思いが、それまでのいつまでも変わらないままで四人がいることを望む気持ちがあったことが発端であることからも痛いほどに伝わってきて、変わることは確かに怖くもあるけれども、決して悪い方向ばかりではないということを私は信じたい、それはタイトルにも表れた、たとえどんなに緩やかな速度で遠回りと思われようとも、着実に何かに近付いていることだけは確かなのである。 -
この作品を読んで、
著作がこのシリーズを、
そしてこの4人のキャラ達を、
とても好きなんだろうなって、
すごく感じました。
私も同じくらい(恐らく少し下)に、
このシリーズとキャラが好きです。 -
〈古典部〉シリーズ第4弾は短編集でした。
一話目は四月の終わり頃、まだ数回しか言葉を交わしたことがない奉太郎と千反田が、今ではとても懐かしく思えます。
一年を振り返るような形で7つの話が進んでいきます。
夏休みに四人揃って古典部の温泉合宿へ出かけたり、正月の伊原の巫女さん姿や千反田の晴れ着姿など、今回は学校以外の場所での四人の様子が見られて楽しかったです。
高校生の日常の何気ない疑問をミステリー風に仕立てた作風には、若者らしい想像力や思いやりが感じられて、読後がとても爽やかです。
中三から高校受験を経て高校生になって一年。
恋愛模様も描かれていて、相手の意外な一面を知ったり、将来のことをすでに考えていたりと、この先の四人の成長が楽しみです。 -
古典部シリーズ第4弾。
青春ミステリとして楽しめた。省エネ主義の奉太郎の鋭い洞察力で真相を推理する姿が良い。今後が気になるところ。 -
ホータローが生き雛の千反田を見た時の気持ち、あまりに甘酸っぱい。
今回はずっと期待していた恋愛要素が絡んできて大満足。
手作りチョコレート事件が1番自分好みだったかな。
人の死なないミステリー。ハラハラする読書に疲れた時に読みたくなるような、そんなシリーズだと思った。 -
シリーズの過去作と比べ、古典部員それぞれの核となる価値観が、より色濃く描かれている。
また、恋愛要素も強調されており、一層青春ミステリ感が増して、甘酸っぱさが良かった! -
古典部シリーズ第4弾。
今までは大きい謎で一冊分だったが、本著は7つの短編に分かれていた。
どれもおもしろかったが、特に「手作りチョコレート事件」と「遠まわりする雛」が興味深かった。
自分の力量をそろそろ自覚してきて、好きになった人が自分よりも高いところにいるとわかったとき、こんな気持ちになるのかなと思った。
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なんと丁寧なボーイ・ミーツ・ガールでしょう。四冊かかったわよ。もちろん、四月の地学講義室でもうすでに出会ってしまっていたよね……という見方もできるわけですけれど。
このシリーズの特徴のひとつに、芝居がかったような、インテリっぽい、凝った言い回しの口調がある。そのへんにいそうな高校生らしさがあるかどうかというリアリティの問題はおいといて、小説世界の味としてはこれは私好みの要素である。小難しい熟語を駆使してどんな複雑なことでも言い表せそうな、その気さえあればいつまでも語り続けられそうな、実際の口数の多寡とは関係なく少なくとも独白の世界では弁の立つ、そんな男子が語り手である世界で、表題作『遠まわりする雛』における“絶句”のシーンは印象的。文理選択の話題から、おーおーもうそこまで行き着いたかホータロー! と関係ないおばさんとしては微笑ましいような、感情移入して読んできた読者としてはそんな余裕なく胸を突くような、ああ楽しい。
ここまでのシリーズ四作の構成も、この短編集の中の構成も、なんとも心憎い。こんなうまい緩急の付け方でじっくりそしてするすると一年間を描いてしまうなんて。濃厚な、忘れ得ないひとときを三日月湖のように残しながらも、時は確実に流れていくのだなあ。米澤穂信さん恐るべし。
ミステリー勉強ネタとしては、『九マイルは遠すぎる』は知っていたが『十三号独房の問題』は知らなかったので調べてみよう。-
たださん、こちらにもコメントありがとうございます♪
やっぱりここにグッと掴まれてしまいました。言えなかったあのセリフ、いつか言うのでしょう...たださん、こちらにもコメントありがとうございます♪
やっぱりここにグッと掴まれてしまいました。言えなかったあのセリフ、いつか言うのでしょうか、言っちゃいなよああもう、とモダモダしちゃいました(笑) 「修める」という動詞のチョイスもなんか、らしくて、好きです。
ついついこの話だけに絞ってしまいましたが、里志と摩耶花のほうもなかなか渋い展開をしていて、続きがまた楽しみですね。2024/09/06 -
2024/09/06
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111108さん、コメントありがとうございます♪
「大人のためのファンタジー」→モダモダしてる私は思うツボですね!(笑)
でも四人の関係とい...111108さん、コメントありがとうございます♪
「大人のためのファンタジー」→モダモダしてる私は思うツボですね!(笑)
でも四人の関係といえば“色恋沙汰”以外にも、同性同士の結束や、嫉妬や、プライドのぶつかり合いなど…読みどころたくさんありますよね。
三日月湖拾ってくださってありがとうございます^^; 正しいかよくわからないけど、激しく流れた川が残していくのかな〜と例えてみました。2024/09/06
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古典部シリーズの手が届かなくて痒かったところがギュッて書いてあってこれが読みたかったの!ってなるのと同時に、まだまだ距離の詰め方が古典部!って感じで歯痒い気持ちになった。
いつもみまいなものすごい謎がある訳じゃないけど、どれも小さな謎を軸に古典部ワールド全開になるから楽しく読めた。 -
「古典部シリーズ」を
初めてよんでみた
正直「小市民シリーズ」ほど好きではないがそれなりにの青春
「遠まわりする雛」が良かった
短編も良さそうですね!私ももうこれ手元にあります♪
短編も良さそうですね!私ももうこれ手元にあります♪
コメントありがとうございます(^^)
なんと、既に手元にあるのですね!
これまでにない速さに驚き...
コメントありがとうございます(^^)
なんと、既に手元にあるのですね!
これまでにない速さに驚きですが、気に入っていただけたようで嬉しいです。
レビュー楽しみにしております。