失敗学のすすめ (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062747592

感想・レビュー・書評

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  • 失敗をネガティヴに捉えるんじゃなく、ポジティブに捉えましょう、って本。

    正解ばかり知りたがり、学び続けると応用が利かないのでいざという時に辛いですよと。これからの世の中必要とされるスキルは〜的な話から始まって失敗を分類しながら丁寧に説明…なんだけど、なんだか読んでいてピンと来なかった。なんでだろう?

    まぁ歩かなきゃ転ばない訳で、失敗恐れて進まないのはいかんよなって話だと思います。

  • 「失敗する勇気を与えてくれる本」、ではなく、「失敗をしていい環境が求められている、それはなぜか?、その環境のためにはどんな前提が必要か」についての本。

    【失敗とは?】
    人間が関わっている、望ましくない結果

    【失敗は良いことか?】
    あらかじめ手本を示して真似させる、いわば正解への近道を示すことは、失敗を避けると同時に、本人の成長は得られない。
    →まず、やってみる(害のない範囲で)。失敗すれば知識の必要性に気づき、成長しなきゃという気持ち・行動の原動力が生まれる。

    【ハインリッヒの法則】
    1件の重大なミスの裏には29券のかすり傷程度のミスがあり、更にその裏にはけがまではいかないヒヤリハットが300件ある。
    →日々のミスを溜めておき、定期的に振り返る。

    【失敗の共有】
    失敗の共有で大切なことは、自分の問題に置き換えてリアルに感じさせることができるかどうか(Ex.フッ酸の事件)。
    →MBAでの学びもだが、いかに身に引き寄せて考えられるかが大切。これは他人の失敗、チームの失敗でも同様。周囲の失敗を身に引き寄せて、どんな行動をすればいいんだろう?どんな知識が必要?と言えば、1回きりの人生で多くの人生を経験することができる。

    【マニュアルの功罪】
    マニュアルは先人たちの知の集積だ。これにより生産性が上がる一方、頼り過ぎは思考停止につながり、こなし作業だけになる。
    →どこまでをマニュアルに依存し、どこからが個人の判断にするのか?という線引きをリーダーは与えなければならない。最終的には「あなたがどうしたいか?」それがそもそもマニュアルと大きくずれるのであれば、その会社やコミュニティとは価値観が合わないということだから、場所を変えるべき。少しのずれは話し合いか自分の知識不足の可能性があるので、改善の余地はありそう。

  • 失敗は成功の母。成功という高みに登るには、失敗の山を積み上げ足場を作らなければならない。それを科学する。


     人は成功の話よりも、失敗の話の方が惹かれる。本能でわかっているんだな。失敗の方が価値があるということを。

     それでも、失敗は何でも価値があるわけではない。いかに価値ある失敗をできるか、失敗を価値あるものにできるか、価値ある失敗だけを抽出できるか。これが大事。失敗の管理も大事。

    ______
    p26 失敗とは
     「人間が関わっている」「望ましくない、予期せぬ結果が生じる」この二点を満たしているのが失敗。
     例えば、自然災害は人間にとって不可抗力だから失敗ではない。

    p33 社会を発展させた三大事故
     ①アメリカ、ワシントン州の1940年タマコ橋事件。自励振動という、振動が新たな共振を産み、振動が強まっていく現象のこと。この橋が完成後に風速19mの風で崩壊したことで、自励振動が解明され橋建築の技術が飛躍的に向上した。このおかげで瀬戸大橋も今にある。
     ②イギリス、1952年のデハビラント・コメット飛行機の連続墜落事件。当時不明だった、金属疲労のメカニズムがこの事件で解明された。
     ③第二次大戦中のアメリカ、リバティー船という輸送船の連続沈没事件。金属が低温脆性によって亀裂が入るメカニズムが明らかになった。

     これらのように海外では失敗によって、そのメカニズムが追及されて、同じ轍は踏まないように生かされている案件がきちんとある。
     これが、失敗はあってはならないものだから、隠すべきものになっている社会では、同じ轍を踏んでしまう。

    p86 ハインリッヒの法則
     一件の重大事故の裏には、29のかすり傷程度の軽災害があり、さらにその裏には300のひやりとした体験があるという、法則。
     
     自分自身、仕事でなにかヒヤリとしたら、それがその300のうちの一つだということを忘れてはいけない。

    p93 「貸家と唐様で書く三代目」
     諺、心が痛い。
     初代が苦労して大きくした事業、その父の背中を見ていた二代目も理念を受け継いでいく。
     しかし、三代目になるとそうはいかない、ここで先代の蓄えを食いつぶすことになることが多いという諺。

     初代は気合で操業する。たいてい、学もないけれど自分で世の中から全てを学んで、立身出世する。それに対して、三代目は恵まれた環境で教育を受けるから初代や二代目よりも絶対に教養は高い、それ故に机上の空論の気が強くなって、何もできなくなってしまうということである。…俺か…??

     というか、現代の日本はまさにそうである。みんなが高い教育を受けられるようになったけれど、それゆえに実行力が無くなった。それだね。

     この諺を忘れないようにしよう。

    p104 チェルノブイリ
     ソ連がチェルノブイリ原発事故が発生した当初に発表した情報では、発電所の作業員の規則違反によるものだという発表で、原発の構造的問題は隠されたということはあまり知られていない。
     これこそ、間違った「失敗」の扱い方である。
     
     しかし、この件は西側諸国でもあまり触れられなかった。それは、自国の原発のかかえる危険性を明らかにしたくないからだったのだろう。原発はロクなもんじゃない。

    p114 客観性
     失敗情報はどのように記録されるべきか。
     得てして、報告書は客観性をもって書かれる。そのせいで重要な情報が抜け落ちることがある。
     失敗情報から多くを学ぼうとする人からとっては、無味乾燥な情報は物足りない物である。大事なのは、経験者が何を思って、どんな環境にいて、どんな人間関係があってその失敗が起きたのか、生きた情報が必要なのである。そういうことを意識して失敗の報告書はかこう。

    p140 世の中に正解は少ない
     実社会では「正解」のある仕事は少ない。ほとんどない。
     でも学校で学ぶのは「正解への最短距離」である。この近道の能力は必要だが、道に迷ってもそこから無事生還する力も必要なのである。いや、それこそ人生では必要である。一人で生きていく人生には必要である。

    p155 真のベテラン
     ベテランには二種類いる。真と偽である。
     偽のベテランは、経験は多いがそれを知識と連関せず、他人が使えるように加工していない人間である。ただ経験を知っているだけの人。
     真のベテランは、経験と知識をともに身に付け、それを生かしている人である。だから真のベテランは何でも知っている。

    p170 いも
     機械工学の世界には「いも設計」という言葉がある。設計した機会がただ動くだけ、「それが長持ちするか、デザインはいいか、効率は良いか、改善点はあるか」そういった次なるものが無い、機械の完成で思考停止してしまっている物を「いも設計」という。

     これはどんな分野でもある。何か一つ作業が完了することが目的になってしまい、思考停止してしまう。そのせいでさらなる向上がされない。そういう物はすべて「いも」である。
     たいていお役所仕事はイモだね。自分がそうなっていないか、問い続けよう。

    p174 捨てる
     捨てる勇気が大切。
     アイデアや制作過程で出た作品も、その完成品に不要ならバッサリ捨てることが大事。もったいないとなんでも詰め込もうとすると悪くなる。
     そこには人情が発生するかもしれないが、それでも捨てる勇気を持とう。捨てることはそんなに悪いことではないということを教えていかなくてはならない。

    p188 メモ
     企画書や計画案において一番大事なのは、メモ。何の脈絡もなくても良い、その企画にどれだけ分厚い背景が隠れているか、それが良い仕事に繋がる。その企画のその後の明暗を左右する。
     企画書の清書である「表プラン」に目を奪われないようにしよう。それは定型のありきたりなことしか書かれていない。「裏プラン」を大事にしよう。
     メモには五つの種類がある。
    ①迷いメモ②決定理由メモ③結果メモ④省察メモ⑤伝承メモ、、、これらの裏プランを大事にしよう。これを意識して、メモをしよう。

    p240 失敗の予兆
     単純な理由で致命的なミスが起きるには原因がある。
    ①技術が成熟している。余裕ゆえの油断がある。
    ②大増産、コストダウン、リストラによって生産バランスがとれていない
     これらが起きている現場は致命的ミスが起きやすい。それは致命的なミスになる。長期的に見て挽回できない損失を被る。

    p252 ISOも危ないぞ
     ISOという世界基準も惰性になりかねない。これを取っているから安心という油断を招きかねない。
     安全基準は不断の努力を必要とする仕組みのものでなければならない。それを覚えておこう。
     今の日本は安全基準突破が商品品質の差別化に使われてしまっていて、なんかずれている。これは…予兆…。

    p256 会議が多すぎる
     日本は会議が大好きである。そのせいで一つ一つの会議に重みが無くなっている。
     日本人にとって会議は「皆で決めた既成事実」を作る場で、責任の分散のために開かれている。これは江戸時時代の風習から来ているからしょうがないのかもしれないけれど…。
     本来会議は「議論で結論をえる」「決定を報告する」この二つの役割の場であるのに…。

     この会議の在り方に現れるように、責任を分散しようとする組織は責任意識に乏しく、ダメな管理職が率いるダメ組織である。こういう組織では失敗は追及されずに、いずれ大問題を起こす。
     こういう組織に自分がいるか、意識するのが大事。
     
    p261 下見
     悪い下見は「こんなもんだろ」とただコースを辿るだけ。得るものが少ない。
     良い下見は「もしかしたら…」をすべて想定して、その答えを見つける行程を取る。

    p268 データベースの300という数字
     データベースにどれだけ情報を蓄えこんでも、多すぎる情報は意味を持たない。人が処理できる情報の限界は300くらい。落語の噺家も名人でも300のストックが質を維持できる限界である。
     情報の多いデータベースでも、選別をしなければもったいない。情報価値の高い上位300のデータをソートできる仕組みづくりが大事。

    p282 マネ文化
     日本はマネ文化。明治維新も西欧文化のマネ。はるか昔の律令制度も大陸の中華帝国のマネである。日本人はマネを精鋭化させる技術が高いからここまで素晴らしい国を作れたといえる。
     
     「マネ」のメリットは他人の失敗を生かせる。でもデメリットは自分たちで失敗マネジメントする力が養えなくなるという点である。
     日本人の失敗の価値観は歴史的な物だとわかる。

    p298 上越新幹線の例
     2004年の中越地震で上越新幹線が脱線事故を起こした。これに対するマスコミの報道は「新幹線の安全神話の崩壊」だった。怪我人0だったのに。
     しかし、著者はこの脱線事故を、事故被害の最小化の例として高評価している。JR東日本は2003年に起きた宮城県地震で高架線が地震でくずれるという失敗をうけて新潟の高架線を補強工事していた。そのおかげで中越地震の時には高架線が崩れることはなかった。そういえば阪神大震災でも高架線が崩壊していた。もし新潟でも高架線の崩壊が起きていたら、脱線事故なんてレベルではなかったはずである。


    ______

     

     大事なのは失敗に真摯に向き合うこと。それを追及すること。

     日本はやさしい人柄の国のはずだけれど、でもどこかで欧米よりも失敗に対して厳しい雰囲気のある国である。それは昔から言われている。

     だからこそ、失敗に真摯に向き合わなければならない。「失敗に目を閉じる失敗」それに真摯に向き合う必要がある者こそ、日本人なのである。

  • 機械工学の専門家による失敗について視点がとても新鮮。体験に基づく知恵は理解しやすく、論理思考に関する解釈も鋭く気づくを与えてくれる。
    ビジネスだけでなく様々な事に応用ができる。

  • 失敗に正面から向き合うことでさらに発展できる。工学に限らず失敗への向き合い方が書かれていて非常に説得力のある本だった。 
    ・全体を理解することで失敗を予測できる
    ・リーダーの資質が重要
    ・樹木構造の見えないリンクを見る
    ・成熟技術、大増産時やコストダウン時が危ない
     
    失敗を恐れるあまり何もアクションしない人と併せて、失敗することをまったく考えず突き進み失敗から学ばない人もあげられていて、ギクリとした。

  • 20141224第4章まで読了
    2000年刊行、2005年文庫化。失敗を知識化するためには、当事者を批判しないこと。内容は興味深く、改めてじっくり読んでみたい本。

  • p294 よりよい方法があるかもしれない

    理論が、賛否両方の基に築かれるのと同様、
    人間(の行為)も失敗成功の上に立ち上げれているほうが

  • 失敗という事象を多角的に捉えたもの
    エンジニアリング分野の先生なので、その業界でおこる失敗を出発点にビジネスが倒産に追い込まれ信用を失う失敗にまでつながることを細かく書いた良書。創造的な考え方の方法論も載っていて、参考になる。もう一回数年後に読み直したい。

  • [雑感]
    ■失敗に寛容で,ポジティブであることが
     逆に失敗を減らす。

    [備忘録]
    ■単純な理由で致命的な失敗が起こる原因を簡単に
     まとめておきます。
     ①技術が成熟していること
     ②大増産,もしくはコストダウン対策やリストラ策が
      はかられているところ
     (p240)
    ■局所最適と全体最悪(p240)
    ■失敗は誰にとっても嫌なものだが,
     人間の活動につきもので人が生きているかぎり
     避けて通れない。そうであるなら大切なのは
     失敗しないことではなく,失敗に正しく向き合って
     次に生かすことである。
     (p301)

  • 工学部の「命に関わる」実験の歴史から生まれた、失敗学。
    どう使い勝手が良いデータベースが作れるかが問題。

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著者プロフィール

1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主 宰。2002年にNPO法人「失敗学会」を、2007年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『図解 使える失敗学』(KADOKAWA)、『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』(講談社)『技術の創造と設計』(岩波書店)、『続・実際の設計』(日刊工業新聞社)『3現で学んだ危険学』(畑村創造工学研究所)など。

「2022年 『やらかした時にどうするか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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