聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.59
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感想 : 105
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065119433

感想・レビュー・書評

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  • 2019.5.12読了。

  • 前作に比べてさらに込み入ったストーリーになっている。

    「その可能性はすでに考えた」という基本設定に加え、「誰が犯人か」を追う王道ミステリが同時に組み込まれ、そのストーリーは込み入っている。

    それでも、前作同様論証の部分を少々読み飛ばしても読み物として理解できる親切さが失われていない。作者の力量の高さが如何なく発揮されている。

    ただ、話が複雑になった分、その分反証できる余地がより広がってしまった印象も残る。例えば反証として「紀紗子は着物を汚れるのを嫌う」といった個人の志向が入り込んでいるけれど、この種の人間の感情を反証に組み込んでしまうと、「その時は『まあいいか』と思った」というような「個人の気分」という「反論」に抗しきれないのではないかなあ。

  • ミステリ界に詳しくない私の所見ですが、最近の「本格ミステリ」と呼ばれる作品には、ちょっと風変わりな要素が見受けられるように思います。

    それはセリフ回しだったり、キャラの造形だったり、世界観だったりと作品(作家)によってマチマチですが、少々現実離れしたものを目にすることが多い気がしています。

    そんな作品を書く作家陣の中で、本作の著者が頭一つ二つも抜きんでているように思います(当然ですが、あくまで私が読んだ狭い範囲での話ですけど……)。

    それは尖がったキャラの造形や性格だったり、真相を突き止めるまでのプロセスだったり……あらゆる要素に突き抜けた差別化感があるところ。荒唐無稽に感じることもありますが、それを凌駕するエンタメとしての面白さがあるように思うのです。

    前作「その可能性はすでに考えた」に登場した、強烈な個性をもった人物たちが、本作でもそれを遺憾なく発揮。言動の予想のつかなさと、次々に披露される推理とその反証の連続が、モチベーションを低下させることなく読ませてくれます。

    中盤で判明する犯人も意外過ぎて驚き。上苙丞が真相を突き止めてしまうことは確実なはずで、でもそうすると犯人は“処分”されてしまうわけで……いったいどうなるのか? 気になって気になって、中盤以降はほぼ一気読みでした。

    今回も奇蹟の証明はできず、まだまだ上苙丞のお話は続きそうで。続きが楽しいであります。

  • 2019/03/08

  • 2019.01.31読了
    つまらない作品を最後まで読むのは苦痛だ
    それこそ、最後まで読んだところで毒にも薬にもならないとわかっていながら途中で挫折するのがどうにも嫌で意地になって最後まで読みきってしまう
    この作品、まさにそんな作品だった(涙)

    設定は悪くないし、フーリンは魅力的な登場人物だ
    もっと彼女の暗黒世界を上手に巻き込んで欲しいもの。

    起こったのはもちろん殺人事件。解決に至るまでもうとにかくくどい!理屈をこねくり回しまくりだ!
    堂々巡りが過ぎる。
    最後の方はマジで斜めに読んだ。付き合ってられない。
    こんなもん、100ページで済むやろ

  • 前作と同じくウエオロが挑むは奇蹟の証明。だけど今回は事件の核心部分にフーリンが絡みます。相変わらず証明の積み上げ方がすごい。ものすごい量の論理や証明をあっという間に披露している。
    前作の方がライバルたちの持ち出す「真実」がよりぶっ飛んでいて楽しかったのと、今作は反証に他人に罪を着せるという動機や意図の要素が入っていたのはちょっと論理を脆くしているようには思った。でも、相変わらずキャラはみんな立っているし、登場人物たちの語り口も楽しいし、今作もとても楽しかったです。

  • 〇 総合評価  ★★★★☆
    〇 サプライズ ★☆☆☆☆
    〇 熱中度   ★★★★★
    〇 インパクト ★★★★☆
    〇 キャラクター★★★★☆
    〇 読後感   ★★★★☆
    〇 希少価値  ★☆☆☆☆

    〇 評価
     結婚式で,盃を回し飲みしたところ,回し飲みをした人物のうち毒死した者と,毒死しなかったものが交互に出る。また,闖入してその酒を飲んだ犬も死亡する…というった不可能状況が魅力的な謎として提示される。
     序盤は,結婚式に参加したメンバーによる推理合戦。使われた毒が花嫁が持っていた砒素だったことから,花婿の姉妹は花嫁を疑う。その場に訪れたのは,結婚式に参加していた少女,双葉の依頼を受けて花嫁の嫌疑を晴らしにきた少年探偵,八ツ星聯。あまたの仮説をことごとく退け,誰が犯人か分からない状態で1章が終わる。
     2章は場面がガラッと変わり,中国の裏社会のボス的存在である沈老大(シェン)が現れる。結婚式で,巻き添えのように死亡した犬はシェンの愛犬だったという。その犬を殺害した犯人に復讐するために,シリーズキャラクターでもある元中国裏社会の住人,金貸しである姚扶琳(フーリン)に拷問を依頼する。しかし,フーリンこそ結婚式の場で,自分の会社に損害を与えた俵屋家の人物を殺害しようと計画した黒幕だった。シェンの前に八ツ星聯が現れ,改めて推理をする。結婚式の後の推理合戦以上に「可能性」だけを示す,荒唐無稽な推理が連発。カヴァリエーレ枢機卿から,無礼のお詫びとして提供されたというエリオ・ポルツォーニや,フーリンのかつての相棒,儷西(リーシー)などの仮説に八ツ星は圧倒されるが,上苙丞が登場し論破。シェンはフーリンが少女や家政婦を庇おうとしたことからフーリンの犯行を疑うが,上苙はフーリンが黒幕として計画した殺害計画が失敗していたことを示す。上苙は,人間3人の殺害は奇蹟。犬の殺害はエリオが仕込んだ毒のせいだと示す。
     しかし,最後に真相は花嫁の父と花嫁の叔母の共犯だったことが分かるというオチ
     前作「その可能性はすでに考えた」と同じように奇蹟の証明をしようとする話だが,前作よりはゲーム的なノリ,推理対決という要素は減っている。前作は推理対決という様相だったので,上苙の「対戦相手」としてキャラクターが立っていたが,今回はそこまでのキャラクターはいない。しかし,その分,物語の展開としてはバラエティに富み,話全体として飽きさせない。今作も「推理対決」だとマンネリ感も出ただろうから,この展開はよいと思う。
     問題は,前作でも思ったことだが,真相の弱さだろう。荒唐無稽な仮説に対し,まじめな論理で対抗していく途中のシーンの面白さに比べ,真相が凡庸すぎる。前作以上に凡庸。被害者サイドに犯人がいた可能性を考えないで奇蹟というのはなんとも無茶だ。途中の論理も,「花嫁が厳重に管理している砒素を使ったのは誰かに濡れ衣を着せようとしているから」という前提で,濡れ衣を着せることができる相手がいない犯行を否定している点が疑問。論理的にはそれで正しい論理かもしれないけど,花嫁が厳重に管理していた毒を使って全員が共犯とか,あり得る気がする。物証などで否定するわけでもなく,濡れ衣を着せる相手がいないから全員犯人はあり得ないとか,やや納得しにくい推理ではある。
     とはいえ,魅力的なキャラクターによる仮説・推理といった謎解きシーンが連発される展開は,やはり面白い。読んでいるときの充実感はなかなか。真相にもっと意外性があれば傑作になっていたと思う。★4で。


    〇 メモ
    〇 概要
     「聖女伝説」が伝わる里で行われた婚礼の場で,同じ「盃」を回し飲みした出席者のうち,毒死をした者と何事もなかった者が交互にでる「飛び石殺人」が発生する。
     死亡したのは花婿である俵屋広翔,花婿の父である俵屋正造,花嫁の父である和田一平と犬のムギ。死因は砒素中毒。
     姚扶琳に無理矢理くっついてこの村に来ていた八ツ星聯という少年が推理を行う。
     後日,姚扶琳に,中国の裏社会の大ボス「沈老大」から「拷問」をして容疑者から犯人を割り出してほしいとの依頼がある。沈老大は可愛がっていた「犬」を殺害した犯人を見付けてほしいという。その「犬」は,先の婚礼の場で死亡した「ムギ」だった。
     双葉達の拷問を防ぐために八ツ星聯が現れる。八ツ星は,上苙丞がこの事件は奇蹟だと言っているという。ここで,改めて仮説の否定が始まる。

    〇 八ツ星聯の推理
     事件のポイントは2つ。「どうやって花嫁の砒素を入手するか」と「どうやって被害者3名及び犬を『飛び石』で殺すか」。関係者の証言をまとめると事前に花嫁の砒素を入手可能だったのは「アミカ」(俵屋愛美珂。花婿の上妹),「キヌア」(俵屋絹亜。花婿の下妹),「紀紗子」(俵屋紀紗子。花婿の母),「花嫁自身」(和田瀬那)の4名

    〇 橘翠生(愛美珂達の従兄弟)の推理
     「奇数番殺害説」。盃を飲む向きは前の人の逆になる。奇数番と偶数番は飲む方向が違う。奇数番が殺害されている。単独で犯行を実行できるのは奇数番で死ななかったアミカと推理

    〇 アミカの推理
     「時間差殺人説」。被害者が倒れたのは演技。橘翠生が介抱するときに毒を飲ませた。橘翠生は紀紗子と不倫をしていた。砒素は紀紗子を通じて入手

    〇 橘光江(橘翠生の母)の推理
     「一人前犯行説」。花婿はアミカが,花婿の父は花嫁が,花嫁の父はキヌアが毒を仕込んで殺害したという推理

    〇 キヌアの推理
     「犬故意乱入説」。花嫁と山崎双葉(式に参加していた少女)の共犯。双葉が犬を乱入させた。

    〇 八ツ星聯の推理。4つの仮説の否定
     犯行に花嫁の砒素が利用されていたところから否定。犯人が花嫁であれ,花嫁以外であれ,犯行に花嫁の砒素を使った目的は「自分以外の誰かの犯行に見せかけること」。アミカが酒を飲んだと証言していることから,自分に嫌疑を向けている。これは犯人であれば取るはずがない行動。よって「奇数番殺害説(アミカ単独犯説)」が否定される。「時間差殺人説(翠生・紀紗子共犯説)」は,花嫁とキヌアの行動が予想できない以上,アミカか双葉に濡れ衣を着せようとするはず。しかし,アミカに濡れ衣を着せようとするなら蔵の翡翠を使うはず。双葉に濡れ衣を着せようとするなら,「アミカが何回も音を立てて啜った」と紀紗子が証言するのはおかしい。よって,誰かに濡れ衣を着せるという行動を取っておらず,この仮説も否定できる。「一人前犯行説(アミカ・花嫁・キヌア複数犯説)」は,花嫁とキヌアには濡れ衣を着せる相手がいない。キヌアが犬に裂けを飲ませることで,自分が犯人と分かる可能性を上げている。犯人の行動に矛盾があるので,この仮説も否定できる。「犬故意乱入説(双葉・花嫁共犯説)」は,花嫁が砒素盗む機会を与えていないことから,誰かに濡れ衣を着せようとしていると思えず,否定できる。「全員共犯説」は,翠生にしか濡れ衣は着せることができない。しかし,翠生は砒素を入手できず,濡れ衣を着せることができない。よって否定できる。

    〇 沈老大主宰の葬儀でのエリオ・ボルツォーニの仮説
     花嫁は毒(黄色ブドウ球菌)を利用し,アミカの体調不良を引き起こした。そうすることで,花嫁は砒素を盗む機会をアミカ達に与えた。そうすると「犬故意乱入説(双葉・花嫁共犯説)」は否定できない。
     →上苙丞による否定。燃やすごみにピザが出ていない。犬が食べた。そうすると犬が元気なのはおかしい。

    〇 儷西の仮説
     毒婦の花嫁と,それを糾弾するミトリダテスの娘たち。犯人は花嫁。しかし,殺害しようとした相手がアルセニック・イーター(砒素嗜食者)だったので死ななかった。花嫁はそのため自白しなかったというもの。この説は花婿の妹たちと母(俵屋家側)を殺害するために出した説。儷西は花婿の妹たちと母がアルセニック・イーターであるかどうかを見極めるために砒素を飲ませようとした。
    →砒素耐性があったとしても,毒を仕込んだのが花嫁側なら俵屋家側がそのことを告発しない事実に説明がつかない。俵屋家側が犯人の場合は,彼女らが花嫁の叔母に高価な着物を着せる理由がつかない。よって否定できる。

    〇 エリオの仮説
     黄金の衝立の婚礼。あるいはその光の陰より忍び寄る,屋根裏の暗殺者。犯人は家政婦。酒の回し飲みのときに,天井から毒を入れた。毒を入れるには管を使った。管はグレア現象(眩しい光を見たときに視覚障害を起こす現象)で気付かれなかった。よりばれにくくするために,散瞳薬入り目薬を仕込んだ。
     →家政婦は外出しており,その時間は屋敷にいなかった。そのことは「ゴムサンダル」がアルコールで濡れていたことから分かる。

    〇 姚扶琳の犯行
     姚扶琳は酒器に仕掛けをし,男女の盃の飲み方の違い資料したトリックを仕込んだ。酒を上下2層に分け,下に毒水の層を作った。着脱式の仕掛けを工作し,共犯者る家政婦に仕込ませた。
     →このトリックは実際には仕込まれていなかった。家政婦がミスをしていた。家政婦は逃亡しようとしていたのだ。それは家政婦が酒器を回収する時間がなかったのに酒器から仕掛けが見つからなかったことから分かる。姚扶琳は,家政婦から嘘の報告を受け,騙されていた。

    〇 上苙丞による奇蹟の証明(要約)
    〇 犯人が厳重管理の花嫁の砒素をわざわざ使ったのは「誰かに濡れ衣を着せようとしている」から
    〇 被害者が酒を飲んだ経路は盃,酒,直接のいずれか
    〇 摂取経路が盃の場合 9通りの実行犯の可能性があるが全て前提に矛盾する。
     →既に否定されていないパターンを要約で否定
    〇 摂取経路が酒の場合
    〇 銚子に細工をする場合としない場合に分けて証明
     →全て矛盾
    〇 摂取経路が直接の場合
     →犯行可能な人物なし
    〇 摂取経路が翠生の場合
     →共犯者がいても矛盾する。
    〇 人為以外の自然的・偶発的理由もない。
    〇 ゆえに奇蹟

    〇 犬(ムギ・ピンキー)が死んだ理由 
     犬の首輪に毒が仕込まれていた。シェンが晩酌をしていたら死亡していたはずだった。その毒がアルコールで溶けて流れ,それを飲んだ犬が死んだ。犬まで検視されなかったので発覚しなかった。なお,エリオは仮死状態になる薬を使って逃亡したと思われる。

    〇 真相
     真犯人は花嫁の父親。共犯者は叔母。叔母に身代わりさせて娘の砒素を盗んだ。アミカに罪をきせようと髪の毛を仕込んだがその髪の毛を家政婦が取り除いたため,事件が混乱した。
     つまりこの事件は,花嫁の父が仕掛けた毒と姚扶琳が仕掛けた毒が巡り巡って互いにぶつかり合い,一方では存在しないはずの毒の効果を生み出し,一方では存在したはずの物証を抹消した-この化学反応が起こり奇蹟のように見えていたのだ。

  • 2018年11月26日読了。
    2018年89冊目。

  • アニメ化したら見てみたい。本格ミステリとして読むにはちょっと軽い。

  • 登場人物に実在感がないように感じました。(もちろん、実在しないんだけど笑)

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著者プロフィール

神奈川県出身。東京大学卒業。『恋と禁忌の述語論理』で第51回メフィスト賞を受賞。
第2作『その可能性はすでに考えた』は、恩田陸氏、麻耶雄嵩氏、辻真先氏、評論家諸氏などから大絶賛を受ける。同作は、2016年度第16回本格ミステリ大賞候補に選ばれた他、各ミステリ・ランキングを席捲。
続編『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』でも「2017本格ミステリ・ベスト10」第1位を獲得した他、「ミステリが読みたい!2017年版」『このミステリーがすごい!  2017年版』「週刊文春ミステリーベスト10 2016年」にランクイン。さらに2017年度第17回本格ミステリ大賞候補と「読者に勧める黄金の本格ミステリー」に選ばれる。
また同年「言の葉の子ら」が第70回日本推理作家協会賞短編部門の候補作に。
他の著書に『探偵が早すぎる』(講談社タイガ)がある。

「2018年 『恋と禁忌の述語論理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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