- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087713954
感想・レビュー・書評
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「ワーカーズ・ダイジェスト」同じ苗字・同じ年齢・同じ誕生日の男女の佐藤さんが、それぞれに仕事や年齢と付き合いつつ、日常を生き抜く様子が細やかに描かれているのだけど、この、すぐに再会しそうでしない、したところで劇的に何かが始まるかもわからない感じがいい。いや、でも何か始まればいいと思うけど。
「オノウエさんの不在」頼れる先輩であったオノウエさんが干されている、という話を聞いた主人公ら。オノウエさんの話題で持ち切りだけど、終始オノウエさんは不在の一編。 -
2016年5月18日読了。
『苦情を言われたり、おとなしくしているとどんどん仕事を押し付けられたり、何より毎朝の出勤が辛いけれど、でもそんなに悪くもないと思う。好きなものが食えて、そこそこいい思い出もいくつかあって、三が日に会う予定の友達もいる。そんなもの子供の時とほとんど変わらないじゃないか、と言われたらそうなのだが、それのなにが悪いのだろう。』
こんなんでええんかな?っておもってたから、すごい励まされた。 -
32歳の会社員の男女、2人の佐藤の日常。
取り立てて事件も起こらず、忙しかったり辛かったり、そんな会社員としての日々が、淡々と綴られています。
それぞれがつながることなく、なんとなく近づいていく感じが、いいですね。
徐々に近づく再会のシーンは、決して劇的ではないけれど、鼻の奥がツンとするような、そんな気分を味わいました。
良くもないけど、悪くもない、特に幸せではないけど、不幸でもない。
そんな毎日がいいんだろうなと思いました。 -
”つながっている”とも言えないほどの、淡いつながり。ほんの少し、救いになっているのだろうか?
この著者の、書き連ねていくような文章は思考の状態に似ているし、働く人々の心境描写は共感できることばかり。
就職すると、日々が変化に乏しくて、そのために八方ふさがりだ、と感じたりすることも、たまにあるのだけれど。
自分の人生を振り返ると、特筆すべき事は何も思い当たらなくて、じゃあ私の人生には別に意味とかないんじゃないか? と思ったり。
それでも結論として、”良くもないけど悪くもない””特に幸せではないけれど、不幸でもない”に行きつくんだなぁ。 -
目立って何かがあるわけじゃない、いやむしろパッとしない。
でもこれが世の現実。
名目上お客さまの人に難癖つけられ、ちょいと年上の同僚に意地悪されて。
会社への不満と転職への不安に折り合いをつけて日々生きてる。
30前後の人は共感できると思う。
“良くもないけど、悪くもない。特に幸せではないけど、不幸でもない。”全くその通り。 -
仕事をしている人が読むと、「わかる、このネタ」というものが出てきます。
同僚の女性が理由もわからず冷たくなったり、自分がしたミスではないけれど客の理不尽な怒りをぶつけられたり、転職を考えてみたり、休みの日は何もしなかったり、通勤中、面倒なことを考えたり。
それでも、この小説はそんな風景と折り合いをつけて、割り切って前に進めるものだと思います。
偶然、名字・年齢・誕生日が同じ男女が冒頭で出会うのだけど、すぐに進展もなく、それぞれの視点で物語が進みます。でも、ふとした瞬間「あの人」はどうしているだろうかって思い出すのです。 -
東京の建設会社に勤める佐藤重信。大阪のデザイン事務所に勤め、副業でライターの仕事をこなす佐藤奈加子。偶然出会った2人は年齢も、苗字も、誕生日も同じだった。肉体的にも精神的にもさまざまな災難がふりかかる32歳の1年間を、二人は別々に、けれどどこかで繋がりを感じながら生きていく。
勤め人の悲喜こもごもをユーモラスに描いた著者の小説は他にも読んだことがあるが、同じテーマでもこの作品は視点が面白い。別々の場所で暮らす二人の1年を交互に描いている。1年の間、二人は特に接点を持つことはなく、一度会っただけの相手を時々「あんな人いたなぁ」と思い出す程度である。それでもなぜだか面白い。同い年の勤め人として悩む点は不思議と似ている。そしてきっと、現実を生きる私たちとも似ているのだ。
32歳というと処世術を身につけ、社会の理不尽さとも折り合いが付けられるようになり、体力的にも少しずつ老いを感じるような年齢なのではないだろうか。そのような現代人の姿が主人公にそのまま投影されており、読者は共感しながら物語を楽しむことができると思う。
毎日いらっとしたり悩んだりすることばかりだけど、実はどれもたいして重要じゃなくて、たまにはいいこともあるさ、という働く人々へのちょっとのやさしさと励ましを感じる物語だった。 -
『ポストスライムの舟』で芥川賞をとった津村記久子さんの2011年の作品。ゼネコンに勤める32歳の青年と同じ年で小さなプロダクションでライターとして働く女性の冴えない日常とそこに埋もれまいとするのだが自分の力では何ともできないかもと思い始めている瞬間がある事にいらついている二人。そんな二人が仕事を通じて出会うのだが、二人に明るい将来はあるのか?その先は描かれてはいないのだが読ませる筋書きを書くちからは感じた。短編2編目も救いのないやるせないお話です。読後感はよろしくないので、力が有り余っていないかたは読まない方がよい小説です。