ワーカーズ・ダイジェスト

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087713954

感想・レビュー・書評

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  • 『ワーカーズ・ダイジェスト』

     同い年、同じ誕生日、同じ身長のふたりの佐藤さんの視点で描かれるそれぞれの日常。いいこと49やなこと51の世界、って感じの、どこにでも転がっていそうな暮らし。小さな波風はある。しかし、読者として気になる、湯川のクレームの意図も、突っ掛かってくる富田さんの真意も描かれない。日常って、「そういえばなんやったんやろう、あれ」って押し流されてゆく出来事の連続やしな、って妙な説得力があった。
     心の廃棄物をうまく処分できないふたりだが、心穏やかなとき、お互いのことをふとしたときにほんのり思い出す。小さく祈る。なんといじらしい。
     待ちに待った再会は、最後の最後で訪れる。それがまた中之島公園で佐藤さんが鍵盤ハーモニカ(41,790円!)を吹いてるシーンっていうのが最高。堰を切ったようにスパカツやEDの話する佐藤さんがかわいすぎる。
     大丈夫。痛みを持ち合って毒し合う関係にはならないよ、きっと、と、小さく頷いて読み終えた。

    『オノウエさんの不在』

     仕事のできるオノウエさんが干されている。その理由を追求すべく夜な夜な集まる3人。話を大げさにしていたのは自分たちで、真相はあっさりとしたものだった。ただそれだけの話だけど、会社と自分の関係とか働くスタンスとか、いろんなことが詰まったお話。あと登場人物がみんなかわいい。
     津村さんの小説は誰も傷つけないから良い。

  • 「ワーカーズ・ダイジェスト」同じ苗字・同じ年齢・同じ誕生日の男女の佐藤さんが、それぞれに仕事や年齢と付き合いつつ、日常を生き抜く様子が細やかに描かれているのだけど、この、すぐに再会しそうでしない、したところで劇的に何かが始まるかもわからない感じがいい。いや、でも何か始まればいいと思うけど。
    「オノウエさんの不在」頼れる先輩であったオノウエさんが干されている、という話を聞いた主人公ら。オノウエさんの話題で持ち切りだけど、終始オノウエさんは不在の一編。

  • 2016年5月18日読了。

    『苦情を言われたり、おとなしくしているとどんどん仕事を押し付けられたり、何より毎朝の出勤が辛いけれど、でもそんなに悪くもないと思う。好きなものが食えて、そこそこいい思い出もいくつかあって、三が日に会う予定の友達もいる。そんなもの子供の時とほとんど変わらないじゃないか、と言われたらそうなのだが、それのなにが悪いのだろう。』

    こんなんでええんかな?っておもってたから、すごい励まされた。

  • 32歳の会社員の男女、2人の佐藤の日常。

    取り立てて事件も起こらず、忙しかったり辛かったり、そんな会社員としての日々が、淡々と綴られています。
    それぞれがつながることなく、なんとなく近づいていく感じが、いいですね。
    徐々に近づく再会のシーンは、決して劇的ではないけれど、鼻の奥がツンとするような、そんな気分を味わいました。

    良くもないけど、悪くもない、特に幸せではないけど、不幸でもない。
    そんな毎日がいいんだろうなと思いました。

  • ”つながっている”とも言えないほどの、淡いつながり。ほんの少し、救いになっているのだろうか?

    この著者の、書き連ねていくような文章は思考の状態に似ているし、働く人々の心境描写は共感できることばかり。
    就職すると、日々が変化に乏しくて、そのために八方ふさがりだ、と感じたりすることも、たまにあるのだけれど。

    自分の人生を振り返ると、特筆すべき事は何も思い当たらなくて、じゃあ私の人生には別に意味とかないんじゃないか? と思ったり。
    それでも結論として、”良くもないけど悪くもない””特に幸せではないけれど、不幸でもない”に行きつくんだなぁ。

  • 目立って何かがあるわけじゃない、いやむしろパッとしない。
    でもこれが世の現実。
    名目上お客さまの人に難癖つけられ、ちょいと年上の同僚に意地悪されて。
    会社への不満と転職への不安に折り合いをつけて日々生きてる。
    30前後の人は共感できると思う。
    “良くもないけど、悪くもない。特に幸せではないけど、不幸でもない。”全くその通り。

  • 仕事をしている人が読むと、「わかる、このネタ」というものが出てきます。
    同僚の女性が理由もわからず冷たくなったり、自分がしたミスではないけれど客の理不尽な怒りをぶつけられたり、転職を考えてみたり、休みの日は何もしなかったり、通勤中、面倒なことを考えたり。
    それでも、この小説はそんな風景と折り合いをつけて、割り切って前に進めるものだと思います。
    偶然、名字・年齢・誕生日が同じ男女が冒頭で出会うのだけど、すぐに進展もなく、それぞれの視点で物語が進みます。でも、ふとした瞬間「あの人」はどうしているだろうかって思い出すのです。

  • 東京の建設会社に勤める佐藤重信。大阪のデザイン事務所に勤め、副業でライターの仕事をこなす佐藤奈加子。偶然出会った2人は年齢も、苗字も、誕生日も同じだった。肉体的にも精神的にもさまざまな災難がふりかかる32歳の1年間を、二人は別々に、けれどどこかで繋がりを感じながら生きていく。

    勤め人の悲喜こもごもをユーモラスに描いた著者の小説は他にも読んだことがあるが、同じテーマでもこの作品は視点が面白い。別々の場所で暮らす二人の1年を交互に描いている。1年の間、二人は特に接点を持つことはなく、一度会っただけの相手を時々「あんな人いたなぁ」と思い出す程度である。それでもなぜだか面白い。同い年の勤め人として悩む点は不思議と似ている。そしてきっと、現実を生きる私たちとも似ているのだ。
    32歳というと処世術を身につけ、社会の理不尽さとも折り合いが付けられるようになり、体力的にも少しずつ老いを感じるような年齢なのではないだろうか。そのような現代人の姿が主人公にそのまま投影されており、読者は共感しながら物語を楽しむことができると思う。

    毎日いらっとしたり悩んだりすることばかりだけど、実はどれもたいして重要じゃなくて、たまにはいいこともあるさ、という働く人々へのちょっとのやさしさと励ましを感じる物語だった。

  • 『ポストスライムの舟』で芥川賞をとった津村記久子さんの2011年の作品。ゼネコンに勤める32歳の青年と同じ年で小さなプロダクションでライターとして働く女性の冴えない日常とそこに埋もれまいとするのだが自分の力では何ともできないかもと思い始めている瞬間がある事にいらついている二人。そんな二人が仕事を通じて出会うのだが、二人に明るい将来はあるのか?その先は描かれてはいないのだが読ませる筋書きを書くちからは感じた。短編2編目も救いのないやるせないお話です。読後感はよろしくないので、力が有り余っていないかたは読まない方がよい小説です。

  • デザイン事務所で働く佐藤奈加子と、工務店で働く佐藤重信は偶然同じ年で同じ誕生日だった。

    同期のさっちゃんは婚活に勤しみ、バイトの中曽根さんは世間知らずの生意気な子で、年上の富田さんに自分だけ無視される奈加子。

    東京出向が大阪へ戻ることになり、最初に任された現場でたちの悪いクレームをつけてくるかつての顔も覚えていない同級生に悩み、ハゲにEDになる重信。

    会社という組織の中で、自分を守るものは自分しかいない。
    自分から戦闘体制になる必要もないから、戦争をしかけてくる奴にははいはいと心を空洞にしてうまくやり過ごせばいい。

    時々辞めたくて転職願望にのたうちまわるときも泣き出すことだってあるけれど、会社って働くってそういうものなのかも、みたいな。。。

    涙を流したあとの奈加子が、中曽根さんと富田さんに強気で接するところが痛快だった)^o^(

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

津村記久子の作品

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