- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101001203
感想・レビュー・書評
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不定期に日本文学に触れたくなり、購入。
3作品からなる短編集。
何故、川端康成?
NHKで、平成 古都 なんてドラマを観たせいだと思う。
しかし、日本の美を表現する川端康成…と思いきや、これは違った。
表題と同名の「眠れる美女」これには、びっくり!
官能小説としての表現はないものの、エロ全開。
解説は三島由紀夫で、超豪華。
川端康成もそうだけど、何故、文学を極めた人って自殺するんだろうね…謎。
'18.08.03読書完了
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「伊豆の踊子」「雪国」とはまるで違う川端康成の作品。江戸川乱歩のようなエロティックでグロテスクで妖美な雰囲気が漂う。性的倒錯が退廃的でもあり前衛的でもあり、日本のデカダンス文学の最高峰と言われるのも頷ける。
表題作「眠れる美女」は性的に死の淵にある老人を主人公とし生命力溢れる美しき少女の生と死の境界を曖昧にすることで、生き物に宿る本質的な美麗とそれに伴う禁忌的行いを描く。また「片腕」では肉片の分離に死を「与えず」異物への結合に生を「与える」ないことでネクロフィリア的陶酔を描く。会話形式で進む「散ちりぬるを」は作品名の妙は然ることながら虚構と現実、どちらとも取れぬ不思議な感覚に襲われる。
私は「伊豆の踊子」よりこちらの「眠れる美女」の作風の川端康成のほうが好みではある。三島由紀夫のあとがきもよい。 -
これは「老人と性」がテーマ。山の音、よりもはるかに色濃い。トータル「生への執着」をあぶり出したいのかなと思った。現代も変わらずだけど、老いを表面上では認めつつ、やはりいつまでも若くいたいし元気に生きていたい。けどそれをあからさまにするのはみすぼらしく、女々しく、みっともないので、せめて若い人と関わっていたい。しかもできればこっそりと。みたいなニーズを満たしてくれるのが「眠れる美女」であったと。面白いテーマ設定でなかなか良かった。
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川端ってこんな感じでしたっけ、という感覚。伊豆の踊り子とか雪国とか、…もう記憶の彼方なのでどうだったかおぼつかないけれど、たぶん綺麗な情景描写だったような感じはある。人間の心は一見綺麗だけど中にイチモツある感じ、だったかしら。この話は三島由紀夫が絶賛していたので試しに読んでみた。死体愛という言葉がすぐに浮かんだ。老人江口と、ほかの老人の、若さへの執着を感じた。目の前に眠る女性にかすかに触れることで、目の前の女性ではなく過去の女性との思い出の時間へ旅する感覚が面白い。なるほど三島が好きそうなものだ、と思ったら、三島代作説もあるようですね。近現代文学も奥が深いです。
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これがそうなのか(笑)という感じ。『眠れる森の美女』ではないエロ老人の偏愛小説という感じがしないでもないけれどそれだけではない中身を伴っているのはさすが、川端康成かなという感じ。
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起承転結がない小説が好きではないということを川端康成で自覚したけど、この話は良かった。老いる哀しさ、人生の一瞬一瞬を切り取ったシーンの描写の美しさ。生命のはかなさ。最後の展開は驚き。
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3篇ともラストがあっけなさすぎてびっくり、そこがいいのかな。
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【眠れる美女】
有閑階級の老人たちが通う、謎めいた海辺の宿。
そこでは、眠りの底まで眠らされた全裸の若い娘が布団に横たわっている。
みずみずしく艶やかな娘と、その隣にぴったりと寄り添う枯れて乾いた老人の対比に、とてつもない老いへの恐怖をおぼえました。
ただ寝ているだけの娘の肌や髪や指や、そのうつくしい存在の描写があまりにもねちっこすぎて、これぞまさに川端康成。
冷水を浴びせかけられたかのようなラスト。
【片腕】
恋人の右腕を拝借し、自宅にもってかえって添い寝し慈しむというこれまたとんでもない話。
その腕と交わされる可愛らしい会話に寒々とした狂気と官能を感じざるを得ない。
興味本位で自身の腕と付け替えたあと、恋人の腕を投げ捨てる魔の発作の殺人のようなシーンには息を呑みました。
【散りぬるを】
文学の弟子としていた娘が、寝ているところ首を締めて殺された。
その事件を訴訟記録や犯人の精神鑑定報告とともに明らかにしていきながら、弔うための小説にしていこうとする、二つの側面をもつ話でした。
殺された娘に対する美しい悲しみはきちんとありつつも、そこから一歩隔てたところでその事実を編んでいく、小説家という「無期懲役人」の業が格好良くて憧れる。 -
新潮文庫『眠れる美女』『片腕』『散りぬるを』の3作、三島由紀夫のあとがき。
『眠れる美女』は端的に言いますと、エロ老人が素っ裸で薬物投与により眠らされている若い美女を撫でさすって一晩添い寝するというサービスが受けられる”眠れる美女の館の”話。主人公の江口老人は、自分はまだ”出来る”というのにプライドを持っていて、他の男性としての能力の無くなった”老人”たちが眠らされた裸の女性を拝み奉り神様のように扱うのに或種の嫌悪感を抱きながらも、自分自身が同じように撫でさすり自分自身の思い出を回顧しているだけだというのを棚に上げている。5部構成になっていて、その1は10代の”なれていない”女性、2では1の女よりは”なれた”女性、3は16歳ぐらいの見習いの”小さい子”、4は2人同時で体臭のきつい野蛮な黒い子と優しい白い子。設定だけシラーっと書くとどんな変態小説か?という感じですが、これがもう耽美の極致。実は太古の昔の自分が眠らされる女性の年頃だった頃に読んだ時はまったく理解できませんで、なにやら自分が撫でさすられたような気がして気色悪っゾワっとしたんですが、今、読んでみてえらいハマりました。これは川端康成文学の真骨頂だと言うていいでしょう。耽美を理解するには読者としての経験値、レベルをあげる必要があったんだなぁ、と再認識させられた逸品。至福の読書体験です。私と同じ歳頃でもブリブリに現役で若く枯れていない女性が読むと「気色悪っ、ぞわっ」と思われるかもしれません。が、つい忘れ勝ちな”若さ”の思い出を思い出させる、なんとも寂しくも美しい、定期的に詠みたい作品。