猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005058

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  • 猫を媒介にして、とある夫婦の形を浮き上がらせる。
    その姿は悲哀に満ちていて、滑稽な感じもする。よくまとまった小説、という印象だ。品子や福子の心理が丁寧に語られていくところなど、なかなか読みごたえがある。何か試しに物語を作る、といったことをするときにはこういうものを参考にするといいのではないかと思った。

  •  題名が主従関係を表わしている。つまり猫がトップ。猫をまるで悪女のように描くところがおもしろい。猫を溺愛する男をめぐり、二人の女があれやこれやとする。とにかく滑稽な関係。ユーモラスだけど、猫の気まぐれさに惹かれてしまう気持ちがわかる。人間は追いかけたくなる生き物なのかな。

  • 猫様は逆らえません。
    妖艶な猫に翻弄される人間たち。
    人間は猫の為に生きるのだ。

  • 「 私あなたの家庭から唯一つだけ頂きたいものがあるのです。」
     ↓
    それは なんと にゃんこ。
    飼い猫のリリーなのであった。

    追い出された前妻・品子から、後妻・福子に届いた手紙である。芦屋のしがない荒物屋の主人・庄造は猫のリリーちゃんを溺愛。この猫を譲ってくれと前妻が求めてくる。庄造を取り戻す、あるいは後妻を見返してやる手段になるかも、という策略だ。

    なんとも奇抜だが面白い展開なのであった。もちろん猫の魅力、可愛らしさも情趣豊かにたっぷり描き込まれていて楽しい。

    特に可愛いらしいのが、前妻・品子がリリーと気持ちが通い始めるくだり。寒い冬の夜、猫のリリーは品子の蒲団に潜り込んで来て、懐に小さな顔を埋めるように寄り添う。品子は冷え性でもありリリーの温もりがありがたくとても愛おしい。
    策略の手段として奪うように連れて来た猫であったが、品子はやがて、猫はこんなにも可愛いらしい獣だったのかと思い至り、リリーへの愛しさに目ざめるのであった。

    喜劇のように面白い場面もいくつか。
    リリー恋しさを我慢出来なくなった庄造は夜闇に紛れて品子の下宿先に向かう。リリーの好物であるカシワ(鶏肉)を携えて。その家の裏手の草叢に潜んで、リリーが姿を見せるのを二時間近く待つのである。

    * * *

    筆者の私自身も猫を溺愛している。妻と猫と〝三にん〟暮らしだ。私と猫の仲良しぶりに妻はいつもあきれている。

    以下は、妻には決して読まれはならないのであるが、もし妻と猫のいずれかを選べ、と究極の選択を迫られたら、ちょっと考え込むかもしれない。それほど、我が猫は愛しい存在である。これを書いている今も、膝のそばに寄り添ってくれている。

    ***** 
    以下 ネタバレ。

    終幕、庄造は悲願かなって相思相愛だった愛猫リリーちゃんと( 品子留守の部屋で)再会を果たす。 
    ところが、
    以前はあれほど庄造にすりすり甘えて来たリリーちゃんだったが、「誰?」という感じで素っ気ない。
    なんとも皮肉でさびしい結末なのであった。

    猫のリリーはこのときもう既に品子の猫になってしまったのかもしれない。
    ( 同時に品子の心の安定。→女の自立 ? )

  • 猫派ではないので、題名は知っていたものの読み残していた本書だが、〈愛猫家必読〉、「男に愛され女に憎まれたリリーの運命や如何に……?」等のオビが巻かれていたので、つい手に取ってしまい、読むことになった。

    先ずは大阪弁のやり取りが読んでいてとても心地良く、さすがに大谷崎の文章と、改めて感じ入った次第。

    そして、リリーを巡って繰り広げられる庄造と先妻、後妻との間の嫉妬や愛憎を混じえたやり取りが面白い。

    何か底意があることを窺わせる、先妻から後妻宛ての猫を譲って欲しいとの手紙で読者の興味を引きつけると、庄造が飼い猫リリーに小鯵の二杯酢を与える描写が続くが、愛猫家でなくとも、可愛がるとはこういうことかと納得させられてしまう。

    また、リリーを譲り受けた先妻品子とリリーとの関係が徐々に作られていくところも、人間に対して示す表情や動作の描写が実にうまいなあと感心してしまう。


    ペットを家族の一員と思う現代だからこそ、身に沁みて読める一冊だと思う。

  • 古い言葉遣いが心地よくて
    落語を一席聴いた気分

  • 猫は恋のキューピッドにも、忠実な下僕にもならない。ただ、なんとなく心が通じ合えるような、つい居ないと寂しくなってしまうような中毒性がある。

  • 本屋で勧められていたので、手にとってみました。
    読みやすいです。

  • 読みたいリストより

    猫がうつくしく、ひとは愚かで滑稽だけど、わかる。おもしろい

  • なんだろ隣の家の揉め事を眺めている感じ、ゆるく読めます。猫好きなら、まぁ、仕方ないよねーだって相手猫だし、って思ってしまう。

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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