青の時代 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050201

感想・レビュー・書評

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  • 三島再読シリーズ。

    太平洋戦争直後、東大在学中に怪しげな金融会社を設立し、大きな富を手にしながら自ら命を絶ったという実在の人物にインスパイアされた作品。

    、、、ということになっているが、私的には若い頃の三島の典型的な自意識過剰独白モノの一つ。
    彼の後期の傑作群のようにビジネス小説としても圧倒的に面白い、というほどではなく、むしろ言葉の知恵の輪パズルのような観念的な議論をエンタメする小説と私は解釈した。

    「誠は今ほどこの無垢な女を愛している瞬間はないように感じたが、今に限って彼はこの種の感情をゆるしておきたくないと思った。人間の弱さは強さと同一のものであり、美点は欠点の別な側面だという考えに達するためには、年をとらなければならない」(p168)。
    えーい、このややこしいやつめ!
    もっとシンプルに生きろシンプルに。と、感じるのは私が十分に「年をとった」からであって、こういう観念に絡めとられながらそうだオレはそこらへんの凡人と違ってクールに自分を相対化してるんだ、と実は熱く感動している若い読者は今もたくさんいるに違いない。

    若さゆえの自分の能力への全能感とそれが嘘っぱちかもしれないことへの一抹の不安、そして圧倒的な金銭を手にして舞い上がるあの感じ。
    三島の言葉で言えば「架空の天職にとり憑かれていながらも、この天職を軽蔑することを片時も忘れていない男の情熱」(p152)。

    これを読んで私が個人的に思い起こしたのは、現代で言えば「投資銀行のバンカー」という職業であった。あくまで「たとえば」ですよ。でも、ああ、いつの時代もこういうのってあるんだなと。
    しかし、これを執筆したときの三島はまだ20代か。なんでこんなになんでもお見通し感出せるんだ。

    • 本ぶらさん
      こんばんは。
      三島由紀夫って、前々から読んでみたいと思いつつ、手が出ないでいるんです。
      そんなこともあって、例のグーグルの「Bard」に...
      こんばんは。
      三島由紀夫って、前々から読んでみたいと思いつつ、手が出ないでいるんです。
      そんなこともあって、例のグーグルの「Bard」に聞いてみたんです。
      「三島由紀夫を読んでみたいんだけど、どれがいい?」って。

      そしたら、出てきたのが、「仮面の告白」、「金閣寺」、「潮騒」、「鏡子の家」。
      その並びがおススメの順番ってことではないと思うんですけど、「金閣寺」より「仮面の告白」が先に出てきたことが、(三島由紀夫を知らない自分としては)意外でした。
      あと、「潮騒」はわかるけど、「鏡子の家」って、そんなにおススメな小説なんですか?
      それも意外でした。

      ちなみに、「盗賊」というのが気になっていて。
      「最初に読むのが『盗賊』は適当でない?」と、あらためて聞いたら。
      「他のに比べてわかりにくいからおすすめしない云々」と。
      そんな風に、なかなか考えさせてくれる回答が返ってきて面白かったです。

      ちなみに、三島由紀夫をそれなりにお読みになっているnaosunayaさんとしては、Bardのその回答、どう思われますか?
      よかったら教えて下さい。
      2023/05/21
    • naosunayaさん
      本ぶらさん、こんばんは。
      バードに聞くのがいいですね笑
      では私なりに饒舌に語りますね。

      まず、三島の作品の傾向を語るのにそもそも二分法はほ...
      本ぶらさん、こんばんは。
      バードに聞くのがいいですね笑
      では私なりに饒舌に語りますね。

      まず、三島の作品の傾向を語るのにそもそも二分法はほんとうは不可能なんですが、三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる気がしています。もちろん大半の作品がベン図のように重なり合ってますが。
      もう一つの軸としてこれも強引な二分法ですが、甘美系と酷薄系があるんじゃないか、とも勝手に思っています。

      で、何が初読でおすすめか、となるとやはり年齢の影響が大きいと思うんですよね。
      高校か、大学くらいな、主人公の世代的にも、脳内はどうせ99%色恋でしょうから恋愛甘美系で「潮騒」社会派フレイバーで「仮面の告白」、そしてオレこそは他を圧倒する感受性の持ち主だ、という中二病が完治していないなら断然「金閣寺」ですね。
      もし相応に社会経験を積んでいるなら、社会派系かつ酷薄系の傑作「宴のあと」でしょうか。これは政治物エンタメでもあり人生後半の寂寥感も味わえ、しかもギャグがおもしろいというミラクル作品です。
      個人的には恋愛系かつ社会派系の至高の作品、「春の海」を勧めたいがここでつまづいて三島が嫌いなるのはもったいないので、やはり初読のおすすめではないかなと。
      ちなみに「盗賊」は読んでないと思います、あるいは読んだとしても忘れてる。
      鏡子の家、も社会派系の傑作と思いますが初読向きですかね?
      所要を拝見する限り本ぶらさんが、三島をお好きになる可能性は高いと思います。では。
      2023/05/27
    • 本ぶらさん
      おススメ紹介、ありがとうございました。
      「三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる」というnaosunayaさんのそれは、なんとなく...
      おススメ紹介、ありがとうございました。
      「三島作品はざっくり社会派系と恋愛系に分けられる」というnaosunayaさんのそれは、なんとなく感じてはいたんだけど。でも、頭の中で明確になっていなかったので、あー、なるほど!とかなり納得でした。
      ただ、「甘美系と酷薄系」の甘美系はともかく、酷薄系というのが全然イメージできなくて。
      であれば、naosunayaさんが酷薄系のおススメとしてあげている「宴のあと」、それから読んでみるか!と。
      そんなわけで、とりあえずアマゾンで「宴のあと」を見てみたら、ふと、「美しい星」というのが目について。
      つい、そっちを先に見てみたらw、「自分たちは他の天体から飛来した宇宙人であるという意識に目覚めた一家云々」という紹介文に、な、なんだ、これは!? これは面白そーだぞ、と(^^ゞ

      というわけで、naosunayaさんのおススメからは全然外れてしまって、申し訳ない限りwですけど、私的には「美しい星」が三島由紀夫の最初の本として適当そうだという結論に至りましたw

      とはいえ、naosunayaさんのおススメがなかったら、たぶん「美しい星」に気がつくこともなかったと思うので、ホント感謝です(^^)/

      三島由紀夫を読んだわけではないですが、あらすじ等を見ていると感じるのが、子供の頃に親がテレビで見ていたメロドラマのような設定だなぁーってことなんですよね。
      それは、もちろん三島由紀夫がメロドラマを真似たわけではなく、たぶん、メロドラマが三島由紀夫の小説を真似たってことなんだと思うんですけど。
      つまり、三島由紀夫(の小説)って、当時はそのくらい世の中に影響を与えていたのかもしれないなーって。
      そういう面でも、楽しんでみたいですね。

      ということで、また、よろしく。
      2023/06/04
  • 三島にも凡庸な作品がある。それでも戦後経済などに対する視点や描写は相当に鋭い。「明日をも知れぬものはかなげな紙幣の風情が、明日をも知れぬ欲望にとってふさわしい道連れのように思われた。」

  • (2023/07/05 2h)
    解説読んで、なるほどアフォリズム!!

    著者自身は納得いってないみたいだけど、
    わたしは青の時代すきだなぁ。
    ピカソも青の時代がいちばんすき。

  • 「あらゆる絵具を混和すればパレットは真黒にしか彩られない」

    多くの不幸は〈欠乏〉の姿で来る。
    〈過剰〉の不幸に気づく人は少ない。

    少年の心と戦後混乱期の闇金融。
    蝕んだのはどちらが先か。

    回転中のコマだけが放つ虹色を、
    真実でないと誰が言える?

  • これ現代文のテストで出たら3割くらいしか取れなそう あと3回読み直したい

  • 本編の物語よりも、途中途中で、作者が物語に「ちなみに」ってノリで茶々を入れる技法がシニカルで凄いインパクトを持っている。文豪の凄み。
    アフォリズム(短いぴりっとした表現で、人生・社会・文化等に関する見解を表したもの。警句)っていうらしい。

  • 他者不信と独自の自尊心をもった東大生の川崎誠。
    合理主義を崇拝し大学で数量刑法学を研究する傍ら、銀座で高利ヤミ金を主催する。目的も動機もない生の軌跡のなかに戦後青年の実像を描くというあらすじ。戦後に起きた「光クラブ事件」の山崎晃嗣をモデルにした小説。

    しかし、これがそれほど・・。
    戦後青年の実像を描くのなら、前半の生い立ちと父との関係の描写は主題と矛盾する。逆に後半の合理主義と高利貸しの描写で戦後日本の実像を浮き彫りにするのなら、前半の彼の人格形成過程はテーマとずれる。著者も認めているように本作は失敗作だったようだ。
    でも、個々の描写で良いなぁと思う箇所は多々ある。前半の一校時代の友人・愛宕との出会い。実はこの小説で最も読み応えあるのが誠の生い立ちである前半部。あるいは借金の取り立てで相手の身包みまで巻き上げるヤミ金社員たちの豪胆さ。主題だのなんだのを気にしなければ楽しめる。

  • 「認識」と「行動」-三島の小説でよく見られるテーマ。
    つまり人間は頭で考えてから行動するのか、それともあくまで人間の活動自体がまずあって、それを理由づけて体系化するうえで認識が起こるのか?

    三島の持論は「行動が先」だったと思うが、行動と認識とが規則どおりに動きシステム化されていれば、世の人々は悩まないで済んだはず。この二者が実体を素直に表に見せず、時として行動と認識の順序がごっちゃになったり入れ替わったりするから、ややこしい。三島の意図はこの行動と認識の区別を、人物創作によって整理しようとしたものと私は考える。
     
    「青の時代」は1950年に発表。
    前年に発表された仮面の告白の主人公が、母の胎内から生まれ出た時の情景を覚えている、と独白する箇所が印象に残っている。なぜなら作中登場人物が自分の行動と認識に一定の制御を与え、理由付けをしており、いわば三島によって「プログラミング」された人物の創作に至ったと思えるからだ。

    この作品では冒頭で作者が人物創造の意図を「序」として告白している。
    今までにない人物創作によって真実の人間像に迫ってみせる、という堂々たる宣言ではないか?
     
    確かに尻すぼみの印象はある。起承転結の結がすぼんだような感じ。主人公と相対する第二キャラの出来も今一つだ。
    しかしこの作品はあくまで試行だと考えれば、金閣寺によって、主人公の行動や思考の動機付け描写の緻密さや、柏木という第二キャラの造形となって花開いたのだ、と捉えることもできるのではないか。
    (2008/6/23)

  • 三島由紀夫がとある金融事件を元に書いたと言われる作品。

    前半部分では主人公の人格の形成される過程がビビットに描かれており、ある種のジャーナリズム性さえも垣間見える。
    極めて輪郭のはっきりしたエピソードで自尊心の強い異様な孤独を孕んだ少年の姿が思想そのものと共に示されていくが、六章の後半から一挙に六年を飛ばして戦後へ物語は紡がれていき主人公へ金融屋としての道へ歩を進める。

    前半は物語ではない思想そのものが多く描かれ難解ではあるものの、その直接的な要素がこの小説の深度を深める要因となっていたように思える。
    金融屋になってからの後半では、前半で描いた主人公の人格を元に小説もとい物語が紡がれていき、深度の沈み込みは緩やかとなり、展開的に話は進む。

    三島由紀夫の描く戦後的なシニシズムな思考の主人公はその要素だけでも読み応えを持つのだと感じたが、前半の濃度を味わったからにはわずかな尻窄みを感じなくもない。

    だが、三島の感情の論理を描くような文学センスは決して濁ることはなく、ややこしい青年心や自尊心はやっぱり混沌としていて面白い。

  • 三島由紀夫の、数々の作品の中で比較的落ち着いた作品と言うことで、
    傑作と言うわけでもなく、問題作ともみなされていないこの作品。
    青の時代、要は青春物語は、1人の人生を子供のころから、20代後半まで、
    時代背景は、戦前から始まり、戦中はサラッと過ぎ、戦後の復興の中で、
    夢を追いつつ、あることをきっかけに企業を立ち上げ、金もうけをしていく中での、
    人との関りを描いている。

    読んでいて、太宰治の人間失格、ジブリ映画にもなった堀辰雄の風立ちぬ、
    現代作品で言うと、森見登美彦の四畳半神話大系が似ていると感じた。
    どこが?ってのは、時代背景や構成や雰囲気の何れかってこと。

    三島由紀夫の作品は初めてだったので、
    聴く限りでしか、ほか策を知らないのですが、
    初めて読む入り口としては読みやすいのかななんて思ったりしました。

  •  
    ── 三島 由紀夫《青の時代 1950-19710727 新潮文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101050201
     
    …… そうかといって、耀子は常住座臥「お金」が頭にこびりついて離
    れぬほど貧しい家庭の娘ではないのである。
     
    http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/day?id=87518&pg=20211119
     常住坐臥 ~ always sitting or sleeping ~
     
    (20211122)
     

  • 医者の家に生まれた川崎誠は、幼い頃からひねくれた視点の持ち主だったが成績は良く、戦後は東大生となる。父からもらったお金を投資詐欺でだまし取られたことがきっかけで、友人の愛宕と軽い気持ちで金融業を始めることに。やがて面白いように人は騙されて、誠は「太陽カンパニイ」の社長となるが…。

    昭和25年の連載。前年に実際に起こった「光クラブ事件」をモチーフにしている。作中で誠は、いつでも飲めるように毒を持っていることが示唆されているのみだが、モデルになった現実の東大生のほうは自殺。三島自身は、のちの回想では本作をあまり気にいっていなかったらしい。

    実際の事件をモデルにしている点では『金閣寺』にも通じるものがあり、悪友の愛宕、素直な従弟の易など、キャラクター配置も金閣寺に近い気もする。家族を軽蔑しており、家族の存在が犯罪のブレーキにならないあたりも。とはいえボリューム的にも内容的にも金閣寺に比べてとても薄い。子供時代の性格描写に比べて、急に戦後の大学生となった主人公の言動はやや軽薄だし、ヒロインにも魅力がない。

    ただ三島にしてはわりあい読みやすく、さくっと終わる。本作での反省点が金閣寺に生かされたりしたのかな、と勝手に想像。

  • 思春期の父親が近くで嫌な気持ちの人いる

  • 友人と違い、世間に馴染めない主人公に強く共感する。主人公の青年の心の描写が素晴らしいと思う。戦後の学校や社会の様子が描かれているのも面白かった。

  • あなたは忘れることなんか決しておできにならないように見えますわ。


    「光クラブ事件」をモデルにしたお話。
    三島にしてはあっさりしていると思う。

    自意識過剰と自己嫌悪のぐるぐるの描き方はやっぱり気持ち悪くてよい。

  • 初三島作品。
    タイトルに惹かれて購入。
    実際にあった事件を題材とした話。
    構成として少年期から6年間を飛ばして
    戦後の話に突然移ったりもしたのだが
    三島自身もそれを自覚した上での発行
    だったらしい?今作は数多の作品の中でも
    とりわけ三島由紀夫の気質から離れて描かれた
    抽象的なものらしく、これを理解するためには
    他の作品も読むべきなのだろうと思った。

    主人公の誠の精神が、肉体の成熟よりも
    数段早く進んでいたせいで屈折した孤独と社会を
    蔑む趣味の悪さを持っているのには
    どこか人間らしさを感じたりもした。
    あんなに軽蔑していた友人の易を
    誰とでも容易に繋がることができる存在として
    妬んでいたようなシーンが対照的で印象深かった。


  • 書評にもあったが、たしかに前後ろの統一感がなく、尻切れとんぼ感が否めない

    三島もやむなく出したのかもしれない。、
    前半は主人公の生い立ちや心の悩み
    後半は光クラブの物語であり、ストーリー展開が面白いのだが、なんだか統一感がないね。
    三島の本は振れ幅が大きくて面白いです

  • 文学

  • この作品を読んでみて、漸く三島由紀夫の作風が何となく分かったような気がした。崇高な精神を持ち、公の理解に阿ることなく自分の表現を貫く。分かりやすさよりもある一定の教養がないとついていけない、そんな冷たさを持っているのだと感じた。

  • この小説は、作者と友人との会話で始まる。主人公のモデルとなった人物や、主題というよりはモチーフに近い内容を、序の段階で、対話という形式を以って説明されるのである。いわば料理の材料とレシピが明かされたわけである。

    そうして、詳細に語られた主人公の少年時代から、戦争、戦後へと軽々と突き進み、太陽カンパニイという会社を設立するところから、その破滅の予感までを描き、この小説は終わりを告げる。

    僕は、主人公の、意識的な冷酷さと、絶えず冷静でいようとする慎ましい努力が好きだ。ただ、内省に耽るあまり、周囲が見えていない。そういう世間知らずな一面は、どこか自分と通じる部分があって、なんとも好ましくない、嫌な感じをさせるのも、三島由紀夫の若者に対する観察力の素晴らしさを、宣伝しているに他ならない気がしている。

    結局のところ、この小説は素人目に見ても、何を目的としているのか伝わりづらい、中途半端な形で終わってしまっていた。

    主人公の精神を読むのか、ストーリーを追うのか。戦時中の若者達に氾濫していたニヒリズムを知ればいいのか。すべてが途中で投げ出され、投了した将棋盤を見ているような、どこか納得のいかないとは言い過ぎにしても、そういう心持ちにさせられた。

  • 唯物論と観念論は並立して存在する一方
    けして交わることのないものである
    で、あるがゆえに
    人間は、物質的な不足のなかにありつつも
    幸福を感じることが可能なのだ

    …戦争の時代を経てなお、経済的に裕福な実家を持つ川崎誠は
    そんな呑気なことを考えながら
    しかし唯物論者きどりの女の気をひくために
    父からゆずりうけた財産を増やそうと
    投資に手を出した
    そして詐欺師にひっかかり、大損ぶっこいたのだった
    その時の悔しさが、彼自身にも詐欺師の道を歩ませた
    宗教家でも社会主義者でもない彼にとって
    所詮、物質的幸福と観念的幸福は切り離せないものだった
    にもかかわらずそれでいて、彼は高いプライドの持ち主だった
    正論家ゆえに傲慢な、父親への反発があったため
    川崎誠は、あまのじゃくで依怙地な性格に育っていた
    しかしその臆病さと狡猾さに助けられ
    常に本音は隠し、周囲を欺いていた
    …というよりは、自分自身すら欺いていたのかもしれない
    つまり憎むべき父親のありようこそ
    実は川崎誠にとっての理想我であるということに
    彼自身気づいていなかった
    だから川崎誠は詐欺師にも、ましてやくざにもなりきれない
    いやそれはむしろ
    父親のように社会から認められたい
    その一心で始まる子供の火遊びにすぎなかった

    光クラブ事件をモデルにした作品ということで知られているが
    実際のそれとはかなり乖離しているようだ
    三島にはありがちなことで
    これも主人公の心理描写がくだくだしく、非常に読みにくい小説である

  • 私の記憶の中で一番最初に見たドラマは「青の時代」。オープニングとタイトルぐらいしか思い出せないけど、なんとなく印象に残っていて、古本屋でこのタイトルが目について「えっあのドラマって三島由紀夫が原作だったのか」とすかさず手に取った。

    けれど内容はそれとは違う別物で、堂本剛とは違う「青の時代」がしっかりと描かれていた。

    父の期待や、他人からの過剰な評価。
    自分の思いに反して膨れ上がる、周囲が期待する「誠」のイメージについて行こう必死になる。そうではなく自分の思う「誠」を生きたいと思うようになった主人公は頭が良いのにとても不器用で、私なら今のあなたにこう言ってあげたい、と思わせる。

    でもそれは私のエゴでしかなく、主人公の頭の良さや、考察について行くのに必死になりました。

  • 三島も4作目になりました。精神分析とその描写はほんとに詳細で繊細でなめらかで不器用で、気づくとつと共感をおぼえてしまう自分に怖さを感じる。男の人って多くの人がこんな風に父と決別するものなんですかね。しかしソシオパスな誠さんに振り回される女性たち、特に逸子さんのその後が気の毒です。

  • 気に入った一文

    かれらは当てずっぽうに、社会という無形のものに釣糸を垂れているのであった。
    浮子は動いたろうか。

    行変えがセクシー。メダカ程度の社会でいいから釣り上げてやりたいね。

  • 2017/02/23 読了

  •  戦後実際に起こった光クラブ事件をモデルにした小説。
     超合理主義である主人公山崎誠は、一高、東大法学部に進学するほどの秀才。一方で、過剰な自意識を持っており、随所に出てくる『』で囲われた心情の吐露は、彼が尋常ならざる自意識の持ち主であったことをうかがわせる。
     戦後の混乱の中で、彼は「太陽カンパニイ」という高利貸しの会社を設立し、みるみるうちに大きな額のお金を動かすようになる。しかし、彼は物質の豊かさが精神的な豊かさにつながるとは考えていない(この辺りの哲学的な観念は私の読解力が足りなくてよくわからん)。女が精神的に自分を愛したとき女を棄てることを画策するあたりに、歪んだ人格が垣間見える。
     物語の最後に、彼の幼少期の回顧シーンがある。大きな展示用の鉛筆の模型(非売品)を手に入れたいと強く願った日々。法外なお金にしても、輝子にしても、子供のころに欲しがった鉛筆の模型にしても、手に入れられないものを手にいれるプロセスを楽しみたかっただけなのかな。「数量刑法学」の研究を続けていたら彼は、私たちの社会はどうなっていたのだろうか。

  • 大学時代に手に取った時には、読了しても多くが意味不明だったが、20年近くが経ち社会人として経験も培った今ならばと思い、再起。

    流石に全てを理解するのは難解を極めるが、大学時代の感触を3割とすれば、今回は7〜8割方吞み込めた自信がある。

    精神と物質世界の充足を相容れないものと峻別する、川崎誠の超現実主義。最終的に設計図と現実との乖離に敗北し、自ら毒を仰ぐ運命とはいえ、ともすれば幼子の意地にも似たその頑固さと一途さは、毎日に倦み疲れて理想と現実の狭間を彷徨っている自分にはなかなか眩しく見える。

    金融に手を出さず、学者になっていれば終生の研究課題となっていたであろう数量刑法学も、理念そのものは非常に合理的で辻褄が合っている。客観性を標榜しつつも結局は裁判官の心証に依拠せざるを得ず、またその裁判官の主観が判例となって以降の類似案件を拘束する現代司法の先を行く、文明を進める思想になり得たのではないか?

    無論、刑法の応報刑と教育刑という理念に真っ向からぶつかることになり、ある意味では罪刑法定主義さえも否定するため、現実に導入するには課題も多い(というより、法学会に革命でも起きない限りまず有り得ない)が、それでも人間の行為を定量的に評価するという試みは面白い。ユートピアか、あるいはディストピアかもしれないが、可能性だけは感じる。
    実際に誰か提唱している学者はいるのかな…?

    素材となる光クラブの事件から1年も経たずに上梓されたため、人物像は大部分が作者の創作であろうが、それでも戦後の焼け野原の中、現代よりもずっと広く映える空を見上げて、そこをカンバスとして誰よりも緻密に人生の設計図を描かんとした一個の人間に、一種の憧憬を感じたことは事実。

    ただ、結局彼の幸せはどこにあったのだろうか?というところだけ最後まで疑問ではあった。
    それと、どう言い繕っても結局クズであることだけは否定できない。プラグマティズムには憧れるけど、ここまで振り切ってしまってはいかんね。

  • 三島由紀夫の作品を読む。主人公の幼少期から思春期における父親に対する反抗心は心の襞が上手く表現されており、どんな大人になるのか楽しみだった。しかし、実際に社会に出た時と前半の話との脈絡があまりないように思え少し残念だった。

    主人公の誠が投資詐欺に騙された後、今度は仲間に誘われ自分が同じようなことをすることになるが、ここら辺が自分のような凡人には分からない感覚に思えた。

    文学作品にしてはページ数も少なく読みやかった。

  • 【291】

  • 光クラブ事件をモチーフにした小説。
    主人公 川崎誠は、あらゆるものを疑っているように見えて、権威に対しては疑うことを知らず、また、残酷な遊戯を行うことで、非凡な事象に作り変える、など、性格に難がある(というと平凡だが)人物。
    そして、その性格に起因する合理性で自分の行動を制約し、学友の愛宕から、決して君は君の自由にならない、と言わしめるほど。
    物語の前半では、主人公の性格、心理的な動きにスポットを当て、後半では、その性格に忠実に行動した結果、どういった顛末を迎えるか、が描かれている。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三島由紀夫の作品

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