血の味 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101235141

感想・レビュー・書評

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  • 2022.10.16

  • 「沢木耕太郎」の処女長編『血の味』を読みました。

    「中学三年の冬、私は人を殺した。ナイフで胸を一突きしたのだ。」という衝撃的な文章で物語は幕を開けます。

    なぜ殺人を犯したのか、誰を殺したのか… それが明示されないまま、物語は殺人が起きる二ヶ月前まで時代を一気に遡り、少年時代の回想が始まります。

    -----story-------------
    「中学三年の冬、私は人を殺した」
    二十年後の「私」は、忌まわしい事件の動機を振り返る―熱中した走幅跳びもやめてしまい、退屈な受験勉強の日々。
    不機嫌な教師、いきり立つ同級生、何も喋らずに本ばかり読んでいる父。
    周囲の空虚さに耐えきれない私は、いつもポケットにナイフを忍ばせていた…。
    -----------------------

    心理描写が繊細かつリアルで、ついつい感情移入してしまうところは、さすが沢木作品。
    まるで自分が主人公になったかのような、そんな錯覚を感じながら、どんどん先を読みたくなる… そんな作品でした。

    でも、ナイフが人に刺さるシーンの表現があまりにリアルで、、、
    なんだか自分が人を刺したような気になってしまい… ちょっと気持ち悪くなりそうでしたね。

    それだけ、入り込んでしまう作品でした。
    こんなの久しぶりですね。


    でも、読後が何かスッキリしない。
    その理由は、なぜ殺人を犯したのか… という疑問が、自分の中で理解できていないからなんですよねぇ。

    最後の最後に、訳のわからない場所に放り出されたような、、、
    そんな感覚を抱いたままエンディングを迎えてしまいます。

    母と妹が戻って行った、「あそこ」も謎のままだし、、、
    答えのヒントは物語の中にあるような気がするのですが、私にはわかりませんでした。

    気になって仕方ないので、現在、再読中です。

  • 血の味

    著者:沢木耕太郎
    発行:2003年3月1日
    初出:「血の味」(2000年10月、新潮社)*純文学書下ろし特別作品として刊行

    沢木耕太郎はノンフィクション界のスターライターだが、小説家としても人気。ノンフィクションだと思いがちの代表作「深夜特急」も、実は小説である。本書は何かの本の解説のような文章で知った作品。本書の解説によると、1985年に書き始め、90年頃には9割方書き終わっていた。しかし、刊行にはそれから10年を要したという。なお、最初の深夜特急が出たのが1986年。解説を読んでも、モデルのある小説ではないようだ。

    主人公の石井徹は、中学3年生の時に殺人を犯し、少年院に入った。刃渡りわずか8.7センチの折りたたみ式ナイフだったが、胸をひとつきで骨と骨の間を見事に抜けて、心臓にまで達し、人を殺した。誰を、どういう経緯で殺したのか、それから300ページほど費やして描かれるが、結局、最後までなぜ彼が被害者を殺してしまったのか、よく分からない。殺した理由は語られていくが、対象がなぜその人だったのかは、読者にはよく分からない。

    父親と2人暮らしの少年。野球をしていたが、中2の時に陸上部の先生から大会に出てくれと頼まれて出たところ、非常に良い成績を残したので陸上部へ。勉強のレベルは低いがスポーツでは名門の高校から推薦入学の話が来て、入学金が免除されるのでそこへ行くことに。走り幅跳びで活躍していた。しかし、3年生の時に元オリンピック選手から特別コーチを受けている際、中学記録に近いような距離を練習中にマークしたものの、その跳躍中にこのままだと「戻れなくなる」と感じて陸上をやめた。

    別の世界へ行って戻れない、というような感覚がこの小説のテーマ。

    父親は帰宅すると読書ばかりをしていたが、古本以外にも、黒い革の本を読んでいた。そこには意味不明の図形のような文字が並んでいた。徹は一度、ガイジンだろ、と友達からいわれたことがあった。父親は鼻筋が通っていて、外国人だと言われたら通らなくもないとも思った。

    父親と母親は仲がよかったが、一度だけ口論を聞いたことがあった。他の家族なら口論というほどでもない程度の言い合いだった。母親が父親に対して「あそこ」へ戻るべきだ、と繰り返し説得していたのである。父親は拒否。戻れない、自分は本来死ぬべきだったんだ、というようなことを言っていた。それから2年後、母親は徹の妹を連れて出て行った。徹にも一緒に行くわよと言ったが、徹はなんとなく残ってしまった。父親を1人で置いておくべきではないだろうと感じたからだった。

    徹は毎日、銭湯へ行った。陸上をやめてしまい、私立高校への推薦を辞退し、公立高校への受験勉強のため、入湯時間はだんだん遅くなったが、ある夜、女装をした男性と知り合いになった。話しかけられてもあまりまともに答えなかったが、どんどん話しかけられ、背中を流してやるといわれ、拒否できなくなり、やがてその男の住まいへも訪ねる。どうやら、化粧をして駅前でサンドイッチマンをして暮らしているという。そんなある日、部屋で迫られてしまう。徹は怒り、拒否する。そして、後日、ナイフで刺してしまう。

    ナイフは、以前に父親からもらっていたもので、目立てはしていなかったが、男に迫られて立腹し、父親が経営する小さな工場で砥石を使って刃をつけた。そして、その男を刺しにいく。2、3か所刺してナイフをそのままにして逃げたが、警察は来ず、新聞沙汰にもならなかった。そのうち、その男がどうなったのかが気になって、以前にサンドイッチマンをしていたエリアを伺った。すると、後ろからその男が現れた。生きていた。そして、また部屋に誘われる。ナイフを返すという。部屋で返してもらうが、今度こそ殺そう、男の方も「ちゃんと殺してくれ」と言うが、結局、殺さなかった。

    そして、家に戻ると、父親をそのナイフで刺して殺す。

    逮捕されたが、彼自身にも殺人の動機が分からなかった。やっと分かったのは、少年院を出て、篤志家のつてで公認会計士事務所にて雑用働きをし、二部の国立大学にいって、税理士、さらに公認会計士にまで合格して、30歳で結婚、娘も成長したが離婚することになった、そんな時だった。

  • 沢木氏のノンフィクションはかなり読んできたけど、小説は初めて。
    冒頭から未成年の主人公が殺人を犯したという過去の告白から始まる。
    一体誰を?どんなふうに?…という筋を展開する形で物語は進んでいく。
    銭湯で出会った奇妙な姿かたちの男との接触の中「この人を殺してしまうのだろうか」というハラハラした気持ちで読み進んだ。

    若い主人公が心にいろいろな葛藤を抱えており、それは両親との関係性、家庭環境によるものであることは予想される。
    そして二親の帰っていった場所というのはどこであったのか、含みをもたせたまま終わった。
    父親がよく読んでいたという「水瓶を逆さにしたような文字の本」とはハングルのことではないだろうか。。。
    あくまで私個人の推測。

  • 少年は誰を殺したのか
    主人公の暴力衝動やオカマとの関係性が奇妙で面白い

  • 深夜特急面白かったな、と思って読んでみたが、やはりノンフィクションとは印象が違うか。
    オカマ?の男をどこか軽蔑しながら甘えていただけのような主人公が好きになれなかったが、オカマもオカマで中学生の男の子に好意を寄せるって病んでいてなんだかなあ。そんな倫理を文学に求めるなら読むなって話ですねすみません

  • この本は沢木作品をむさぼるように読んでいた昨年に読もうと思っていたが、殺人を犯す少年が主人公ということで、あえて読むのを避けていた。沢木耕太郎の数少ない小説の一つ。短編集の『あなたのいる場所』を除く長編としては、ボクシングをテーマにした『春に散る』、バカラをテーマにした『波の音が消えるまで』、そして処女作であるこの作品となる。深い作品だった。ある種、沢木耕太郎が内面に持ち続けていたものを小説という形で吐露しているのだと思う。解説者も書いていたが、ある意味私小説なのだろう。なかなか類をみない作品だと思う。

  • ストーリーも登場人物も全部がやるせない。誰も救われないし救えない。思春期を超えた大人たちですらみな孤独と正体不明の不安に怯えている。そうした人物たちに囲まれ、不安定な境遇と処理しきれない思春期のモヤモヤにより高まりすぎた主人公の内なる衝動が父を殺すと言う形で暴発するまでの話。やるせない。

    父と子の話と言えばやはり同じ著者の「無名」を思い出す。あちらは父の最期を見守るのに対してこちらは父を殺してしまう。そしていずれの父も多くを語らず静かに本を読む人間で、どちらの父も同一人物のように感じてしまい、著者自身がこの小説の主人公になりえた可能性を考えてしまう。
    著者の思春期のしこりをこの小説の主人公に父を殺させることで発散したのかな、などと深読み。

    黒革の本や「あそこ」にも答えはないんだろうな。多分これも思春期の口では説明できないいろいろな感情の比喩なんだと思う。

  • 中学3年生とは、何かもどかしく自我との葛藤を繰り返す時期なのだろう。なぜ死と直面しなくてはいけなかったのか。20年の歳月がその動機を蘇らせる。2019.11.2

  •  面白かった、という記憶はある……内容は忘れちゃった(>_<)

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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