冷血(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101347264

感想・レビュー・書評

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  • 2019.09.17読了
    高村氏の小説は、難しい。
    だけど、読みたい。
    常にこう思っていてこの作品も手にしたのです。
    評価もかなり高い。
    でも、この作品の良さ、注目点はほぼわかりません。
    どっかにどんでん返しやこう来たか!と思わせるものを期待して最後まで読み進めましたが何事も起こることもなく。最後は意地で読了しました。
    根性のある方、ご一読ください

  • いやー大変な一冊。
    今までの高村薫作品とは少し違った作風。
    犯人の殺人に至るまでとその動機を綴っている。
    それでも、下巻の途中からは、ページをめくる手が止まらない。
    あと、50ページ、電車降りてホームでたったまま最後まで読んだ。

    やはり高村薫は凄い作家だ。

  • まずは、そういう過程で事件が起こる事もあり得るかもしれないと思った。井上、戸田共にその行動からはうかがえない内面を持っていることは、合田の殺伐とした職場と矢切の畑程の落差だと感じる。多様な人間模様が織り込まれた作品だと思う。

  • 最初は一家殺害の残虐な事件のあらまし。しかし、事件後は犯人が捕まるまでの警察の捜査の様子と判決が出るまでの動きで、個人的には今ひとつだった。
    ただ、犯人の供述、生育歴など、捕まって事件解決ではなく犯人の様子を細かく描写していて、違った角度からでそれは良かった。

  • 上下巻通しての感想ですので、下巻だけの感想ではない感じになります。

    まあ、圧巻、でございました。いやもう、凄い。こんな事を書いてどうなるのか?と思うのですが、それでも書きますが、仕事の休日の夕方の17時くらいから、半分ちょい過ぎまで読んでいた上巻の続きを読み始めたんですよ。で、夜の20時過ぎ?くらいに、読み終わったんですよね。

    その時点でまあまあテンション高くて「下巻読も!読むしかねえ!でも夜の23時くらいには寝るぞ!」っていう感じで、下巻、読み始めたんですよ。結果、下巻、一気読みしました。もう止められなくて。大事に大事に、じっくり読もうと思ってたのに。一気読みしちゃったよ。下巻、読み終えたのは、早朝の4時くらいでした。思わず呆然、でした。内容の凄さに呆然。当日仕事なのにその時間まで読書耽溺しまくった自分の行為に呆然。

    まあ、それくらい面白かった、って事です。面白い、という表現は、語弊がありますがね。壮絶。というか。凄惨。というか。ま、とにかく、凄い本です。

    トルーマン・カポーティの「冷血」が物語の下地になっているのは、間違いないと思います。髙村さん自身が、下巻最後の後書き、のようなもので、そう書いてもおられますし。違う所は、カポーティ「冷血」が、事実を基にした小説、なのに対して、髙村「冷血」は、基本的には全てがフィクションの小説、というところ、でしょうか。

    ちなみに、カポーティ「冷血」は既読済ですが、読んだのが結構昔でして、また読み返したくなりました。髙村「冷血」を読んだ後では、カポーティ「冷血」に対して、再度どんな感想を抱くのか?うーむ。自分事ながら、興味がある。

    髙村「冷血」の雑誌連載が2010年。そして作品自体の時代背景は2002年。
    カポーティ「冷血」は1965年の作品。題材となった事件が起こったのは1959年。
    1959年と2002年。めちゃザックリ言って、50年の時代差がある。でも、物語の骨格は、ほぼ同じである。ということは、このような犯罪は、おそらく、2100年になったとしても(2100年に人類が生きていたとして)、やはり起こるのだろう。同じく、1900年にも、起こっていたのであろう。そう考えると、人間の愚かさ残念さは、マジどーしよーもないな、、、と、暗澹とした思いになるなあ。

    どれほど人類が、殺人の愚かさ犯罪の愚かさを説いたところで、「こうした人たち」は、いとも容易く(もちろん、本当に様々な不幸な条件が偶然に満たされてしまったうえで、ではありますが)全然関係のない他者を殺すのだ。いともあっさりと「なんらかの壁」を乗り越えるのだ。なんということだ、、、でも、もしかしたら。もしかしたら、自分も。この自分ですらも、もしかしたら、、、そうなのかも、、、しれない?「俺はこいつらとは違う」とは、必ず絶対に断言できることでは、ない。そう思ってしまう自分がいます。ちょっと、絶望すら、してしまう。しまう。

    でもどうしても、この髙村「冷血」で登場した、井上克美と戸田吉生というあまりに惨い殺人犯を、完全に自分と関係のない他人とは、思うことは、できません。この二人の姿は、自分の中にも、ある姿である、と、思ってしまう。俺はどうしたらいいんだ。

    物語の最終盤、戸田吉生が、「これは頼むから調査書には記載しないでくれ」みたいな事を警察官に告げて、本当にホンマのところの、自分の弱さ、情けなさ、弱さ暗さみっともなさを、告白する場面が、あるんですが、あそこの辛さが本当に辛い。あの気持ちを「分かってしまう」自分が、いるんです。間違いなく。辛い。辛いです。

    上巻の第一部「事件」で、井上目線、戸田目線以外で描写される、惨殺される一家となってしまう高梨家の長女、13歳の、あゆみ(歩)目線の描写。あの目線。あそこには、個人的には、なんらかの高梨家の不気味さ、不穏さを感じました。高梨家の不気味さ、不穏さ、ではなく、あゆみの不気味さ、不穏さ?それとも人間という生き物自体の?なんだか、ひとつの幸せな歯科医一家の娘の幸福な描写、とは、とても思えなかった。そう感じた。自分は。

    あの目線。あの、あゆみの描写を、何故か不穏と感じた自分の感性。それってなんなんだ?とか思う。あの、あゆみの描写は、単純に「これほどに幸福そうな一家の未来には、途轍もない不幸な死が待っていたのだ。その悲嘆」と思えなかった自分は、一体何なんだろうか。高梨家が惨殺されたのは、決して許されることではない。本当に本当に酷い事なんだ。でもそれは、もうどうしようもなく「起こってしまう」のであり、恐らく今後も現実世界で「起こる」のだろう。どうしようもなく。そして、もしかしたら、こんな風になんの意味も理由も正当性もなく、本当に(ひどい言い方をしますが)無意味に殺されるのは、自分かもしれない。しれない。

    それをどうしたらいいんだ。防ぎたいですよ勿論。そんなことは。俺は高梨家の人々のような殺され方はしたくない。されたくない。でもそれは、、、究極のところ、、、防ぎようがないじゃないか。どうしたらいいんだ。立ちすくむしかない。

    殺人事件は、ホンマに、いかん。いかんよ。ここまで警察の人員を動員して、ここまでいろんな人の生活をね、圧迫するんですよね。これほどまでに世の中に多く発生している、殺人事件というものは。あかん、ホンマあかんよ。

    井上が、「凶器に使った根切りは東京湾(だったと思う)に捨てました」って自供するやないですか。その凶器の根切りを海底から発見するためだけに、数百万という税金が、使われるんですよ。で、しかもその凶器、見つからない、っていうね。コメディーか?完全に無意味な税金やないか。

    あと、戸田が、あっこまで虫歯をほっておいたあの感じ。諦め。自暴自棄。投げやり。ただ単にメンドクサイ。かったるい。どーでもいいんだよんなこたあ。そして単なる、どマゾ感。分かる、、、アレはアレで、分かる。

    いや自分は、結構まめに歯医者さんに定期健診行くタイプなんで、まあ真逆っちゃー真逆なんですが、でもあの気持ちはどうしようもなく「分かってしまう」んです。このままほっておいたら絶対にマズイのに、ほっといちゃう気持ち。しかし、虫歯って、ほっといたら究極のところは、骨の癌?になるのか、、、恐ろしい。恐ろしすぎる。

    で、その戸田が、死刑になるのが確定、なのに、あの虫歯の治療のために、これまた税金で治療・手術されるあの流れ。アレも一体何?何故、死刑になる人物の命を(病気・怪我からは)救おうとするのか?結局は司法の下に殺すのに?

    究極ゆうたら、人間の営みの全てが無駄、無意味なものでしかない。という虚無感もビシバシに感じる。だが、それを超えていこう、とする小説としての、物語としてのなんらかの挑戦も、どうしても、感じる。感じてしまう。

    つまるところは、とても良い読書体験だった、としかね、言いようがないんですよね。髙村薫さんの紡ぐ物語を読むことができる幸せ。ま、コレは、唯一無二のものです。本当になあ、凄い作家です。畏怖。孤高。屹立。孤絶。究極。そんな二文字が、本当に似合い過ぎる。

  • 久々の高村薫作品だったが、ただただ熱量に圧倒された。犯人たちの犯行直前までの行動が淡々と綴られ、その後からは捜査側からの視点になる。犯人が捕まってから裁判にかけられるまでの尋問で、合田達刑事たちは何とか納得できる動機を明らかにしようとするが、どんな角度から尋ねてもはっきりしない。子供を含む一家4人惨殺という事件なのに、なんとなく成り行きでということがあり得るのか。あり得るのかもという思いに読者を導く合田の深い考察に頭を垂れる思いだった。被疑者は過去を振り返って供述してるし、その心持も日々変化する。さらに他人である刑事がそれを聞き取り解釈するのだから、真実とはいったい何なのかという合田の思いが印象的だ。あと、歯医者はちゃんと通おうと思った。

  • 闇サイトで知り合った男同士で最初はATM強盗を企てるが失敗し、最終咳には強盗に入った家の人間を殺してしまう。犯罪者心理を描いていいるお話だが、最後まで犯罪者の本当の気持ちはわからなかった。ただ、「なんとなくつまらなくて」「なんとなくどうでもよくなって」「意味もなく暴れたい」というような気持ちはわからなくもない。犯罪者2人にも文章の才能があったり、工芸品をめでたりする部分があったり長所もあったのだから違う部分で役立てて生きていけてたらなあ、ともったにない気がした。

  • 久し振りの高村薫さん、上巻に続いて読了。
    既に殺人強盗事件の犯人は捕まってしまっているので、犯人逮捕という範疇での小説としては終わってしまっている。
    下巻は犯行の動機・犯人の生き様・合田と犯人との心の通いがメインテーマとなってて、ほとんどが合田の語りで綴られている。
    犯人は病死・死刑執行でなくなってしまったけれど、本質は解明されないまま、読者に委ねられる終わりになってしまう。
    重い十字架をこれからも合田は背負っていくんだろうか、それとも私たちなんだろうか。

  • カミュの『異邦人』におけるムルソーがアラブ人を殺した理由は『太陽のせい』だとしたら、この一家4人を惨殺してた犯人2人の動機も正にムルソーと同じはないか。
    ただこんなキチガイが現実にいるのは間違いなく、煽りドライバーも一緒、そいつらに会ったら最後、神を呪えと。

    上巻と下巻では全く別の小説のような展開に、ぶっちゃけ下巻はつまらんと言うか、下巻では犯人心理の追求と、警察と検事との裁判迄の遣り取り、そして裁判模様のリアルな流れが切々と語られ、確かそれはそれで興味を持って読めるし、惹き込まれるのも確か。それに現実にその事件があったかのような展開に筆者高村薫氏の綿密な調査力、そして才能にあらためて感服するのだが、やはりつまらん。いや、高村薫氏は好きです。尊敬しております。

    『冷血』と言うタイトルからもっとグロテスクなものを期待していた私だが、上巻までのゾクゾク感が下巻までやってこなかったのには、高村薫さん!私には冷血な事をしないで下さい、もーバカ!

  • 他人に対する共感の無さとか、想像力の欠如とか、それぞれが持つ幼少期のトラウマや心身的なトラブルなど、二人の男があの陰惨な事件を引き起こした要因はどれも当てはまりそうなのに、それを断言せずにただ彼らがどう警察に語っていったのかだけで綴られたら、確かに読んでいるこちらも困惑する。しかし些細なことで人は罪を犯し、その自覚も持てないでいることは辛うじて理解できる。騒がしい世間と折り合って生きていると思っても、もしかして誰もが一線を越えて自覚しないまま罪を犯してしまう可能性があるのかもしれない。こういう言葉しか言えないが、久々に触れた髙村作品は頭がぐらんぐらんになりながらもなんとか全部読み通した。作中に登場する映画たちもその心情を考えるヒントになるかもしれない。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

髙村薫の作品

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