狭き門 (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102045039

感想・レビュー・書評

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  • 「これ神は我らの為に勝りたるものを備へ給ひし故に、彼らも我らと偕ならざれば、全うせらるる事なきなり。」
                             (ヘブル書11:40)
    この聖句は、比類ない「青春の書」、ジッドの『狭き門』において、アリサが従弟ジェロームに残して去った、最後の言葉である。この書を読まれた読者諸氏は多かろうが、ここでの恋愛経過は19世紀的どころか、現実に存在し得ない類のものである。悲劇的な結末を迎えるが、これは実に読者を陶酔させ、恍惚境へと誘い入れる。

    女主人公アリサがここでは聖女のごとく、あまりにも美しく描かれている。この小説の主人公であり物語の語り手でもあるジェロームはかれらの愛を、そこを通って成就する苦難の「狭き門」と定め、アリサと結婚するためにと、自分を試練にかけ、自分を彼女にふさわしい「徳」の高い人物となる様にピューリタン的な努力を始める。がしかしそのことがかえって彼女を天上の神の世界へと向かわせる苦悩の要因になっていることに彼は気づかない。その結果、ジェロームが結婚の話を持ち出すたびに彼女はそれを打ち消し、彼女の内心の彼への強い愛にもかかわらず、ジェロームを否みつつ自らは不毛の死をとげる。

    ここで見逃してはならないひとつの事件がある。実はアリサは、彼女の妹ジュリエットとジェロームとの会話を聞くとはなしに聞いてしまい、ジュリエットがひそかにジェロームを愛していることに気づく。それ以後、アリサは身をひいて自分の愛を妹に譲ろうとする。この自己犠牲的な愛もこの小説に異様な悲劇的雰囲気を醸している。

    わたしがこの小説を読んだのは19歳の感受性の強い思春期であった。それがためこの書のあまりの美しさに我を忘れ感動の渦へと巻き込まれた。というのも当時のわたしの恋愛観がまだ未熟で、この恋愛悲劇を肯定的に受け止めてしまったからである。それはともかく、この小説がわたしの精神形成に与えた影響は計り知れないものがある。

    ところで、この聖句であるが、アリサ自身、「はっきりその意味がわからない」と述べている様に、なぜここにこの聖句が引用されたかは作者ジッド以外、謎である。ジッドはここ以外にも、ところどころ新約聖書からの引用があるが、その解釈が自由すぎるという批判もある。ともあれ、アリサはジェロームとの最後の逢瀬で、ジェロームを突き放し、はらはらと涙を流し、「勝りたるもの」を繰り返しながら、闇夜に姿を消してゆく。

    尋常ならざるストーリーだが風紀紊乱が叫ばれて久しい現代社会への強固な反定立として読みつがれるべき名作ではなかろうか。

  •  初読のジッドの本。
     物語は、「狭き門」を単身くぐり抜けようともがく女性の苦悶が描かれていて、読んで、息苦しい印象を持った。
     女性がこういう悲運に陥るというのは、めずらしいように思われた。また、物語を通して作者の影がうっすらとも見えないところに、その技術の高さがうかがわれた。
     全体の雰囲気が薄暗く、話が淡々と進むので、万人にはおすすめ出来ない作品でしょうが、読まずに済ますにはもったいないくらいの痛切なメッセージが、この中に込められているかと思います。ノーベル文学賞を受けた作家の作品なので、読んでおいて損はないでしょう。
     ぜひご一読を!

  • 好きな音楽家の方が、素晴らしい、なるべく若いうちに読むべきと仰るので、読みました。辛い、愛なればこそ、青春の小説です。生きている間に、真の幸せは確かに得られないかもしれない。生きるためには、自分の幸せはこれ、と決めることです。キリスト教の染み付いた感覚があればもっと別の感動があったかも。思春期に読まなくて私は良かった。
    --
    しばらく前から、少し体ぐあいが悪いのです。でも、たいしたことはありません。少しあなたをお待ちしすぎたという、ただそれだけ。
    --
    ところがだめなのです。主よ、あなたが示したもうその路は狭いのですー二人ならんでは通れないほど狭いのです。

  • アリサは恋より神を選んだという見解が一般的、再度読んでみて彼を愛し続けることを選んだとも言えるんじゃないかと考える。信仰の妨げになってしまうほどの激しい恋を、この恋を止めるならば、いっそ。純粋な愛は時々、生の障害になり得る。周囲が理解できぬ恋は、2人だけで誰も辿り着かない所へ行ってしまう。現実もまた純粋な恋愛に残酷。後、ただただ2人は若かすぎた。でも、経験しない方が良かったって恋愛は無いん違う?読まなへん方が良かった本が無いみたいに。スッキリしない甘美な毒を残すのは、大抵、優れた小説。

  • アリサとジェロームのプラトニックな恋の物語。読む年代によって、読後感が大きく変わる作品。

  • “力を尽くして狭き門より入れ”
    愛とは何か、を深く考察させられた作品でした。
    ただ、肉体は決して交わらないが、互いを常に思い合うプラトニックな愛で、狭き門へと入ることを試みたアリサとジェロームは一体真実の愛、そして幸福を手に入れられたのでしょうか。
    実際に読んで考えてみて、答えは否だと思います。
    一方、好きではない人と結婚致しましたが、子を作り、実世界を真剣に生きているアリサの妹ジュリエットは非常に魅力的で幸福に暮らしています。
    この作品の主題に対極的に書かれていると考える、D・H・ローレンスのチャタレイ夫人の恋人では、むしろ肉体的な愛を称揚されておりますが、それは事実、生物として生きている人間には必要不可欠な愛の形であると考えるのです。

  • 神への愛と人への愛、果たして人は二つの愛を持って天国の狭き門をくぐることはできるのか?
    敬虔過ぎる二つの信仰心が織りなす恋の物語、ガラスのような繊細さが素敵です。
    キリスト教信仰は馴染みの薄い文化でしたが、大人の入り口で戸惑う女の子の生真面目な純潔と恋への憧れに置き換えて読んでましたvv

  • 純粋な少年と破滅欲求のある少女の恋愛小説
    という印象の作品です。

    幸福になることを病的なまでに恐れている少女が魅力的でした。
    著者ジッドの自伝的作品でもあるとのことです。

  • 愛し合う男女の哀しい物語。アリサは手を伸ばせば掴める幸福を天上の愛の為に退けようと苦悩する。その姿に幸福とは何かについて考えざるを得ない。また、それは愛するジェロームへ完全な歓喜を伝えるためでもあったのだろう。切なくも美しい結末であると感じた。

  • 私の事を分かって、ていうか言わなくても分かってほしいの、っていう女と、言わなくちゃ分からんよ、てか言っても分からんわー、という男の、ありがちと言えばありがちな話なんだけども。宗教というか、神様とか出てくると、突然崇高な感じになってしまう訳で。でも男の方は今も昔も大して変わらんわー、と思う訳で。

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