チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102169315

感想・レビュー・書評

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  • (2015.07.13読了)(2015.07.09拝借)
    数年前にかみさんが読んで、面白いからと廻してよこしたので気にしていたのですが、積読が続いていました。映画になったということなんで、この機会にと、読み始めました。
    読者がずーっと虐められているような怖い話です。いったいこれはどうなるのだろうとドキドキしながら、先が知りたくて、読み進まざるを得ない作品です。
    主人公は、最初の方は、一体誰なんだろうという感じです。途中から、レオ・デミドフとそのかみさん(ライーサ)が中心になるので、この人たちがメインなのかと思うのですが、時々、関係ないような話がまぎれ込んできます。上巻の最後のほうで、関連が少しついてきましたが、まだ謎は残っています。
    下巻では、一体どうなってゆくのでしょうか。
    スターリン体制化の国家保安省の話なので、独裁者のもとでの体制維持活動というのは、確かにこのようなものだったのかもしれないと思うと同時に太平洋戦争中の憲兵もこのようなものだったろうと思います。一度逮捕してしまったら、何でもかんでも、有罪にして可能なら亡き者にしてしまう、という。場合によっては、友人知人まで巻き込んで行ってしまいます。

    始まりは、1933年の飢えに苦しむ村です。
    猫を食料にするためにパーヴェル兄、アンドレイ弟が森に出かけるのですが、パーヴェルは何者かに殴られ連れ去られてしまいます。アンドレイは森に一人置き去りになってしまいます。
    時代は、二十年後に移り、ジョーラ兄、アルカージー弟が雪合戦をしていたのですが、ジョーラが雪玉でアルカージーの前歯を折ってしまいます。アルカージーは、その場を逃げ出すのですが、後に死体で発見されます。列車に飛び込んで自殺したと思われます。
    その後、スパイを追いかけるレオ・デミドフの話になります。
    レオ・ステパノヴィッチ・デミドフ 国家保安省の捜査官
    ライーサ デミドフの妻、教員
    ワシーリー・ニキーチン レオの部下
    アナトリー・ブロツキー 獣医、スパイ容疑
    ミハイル・ジノヴィエフ アナトリーの友人、農夫

    【目次】
    ソヴィエト連邦 ウクライナ チェルヴォイ村 1933年1月25日
    ◆二十年後
    モスクワ 1953年2月11日
    2月14日
    キモフ村 モスクワの北160キロ 同日
    モスクワ 同日
    モスクワの北30キロ 2月15日
    モスクワ 2月15日
    2月17日
    2月19日
    同日
    同日
    2月20日
    2月21日
    ◆三週間後
    ウラル山脈の西 ヴォルアルスクの町 3月13日
    モスクワ 3月14日
    ヴォルアルスク 3月15日
    モスクワの東800キロ 3月16日
    ヴォルアルスク 3月17日
    同日
    同日
    3月18日
    3月20日
    同日

    ●自らの死(124頁)
    ワシーリーはゆっくりと頭をもたげ、顎を震わせながらレオを見上げた。見るからに死ぬことを恐れていた。他人の死にはどこまでも無頓着な男が自らの死をぶざまなほど恐れていた。レオは引き金に指をかけた。
    ●政治の授業(190頁)
    彼女が受け持っている「政治」の授業は概して疲れる授業だ。
    彼女の授業における生徒の拍手の対象は、スターリン大元帥であり、ソヴィエト連邦という国家であり、革命が世界に波及する展望だった。彼女がそのようなことに言及するたび、生徒たちはみな競い合うように拍手喝采した。誰もが同級生より自分のほうが国家に献身的だと見せたがるのだ。
    ●国家(220頁)
    国家が自らの過ちをひとつでも認めたら、結局のところ、全部認めたことになる。国家には後戻りはできない。そんなことをしたら、その影響は途方もないものになる。
    ●移動(276頁)
    荷造りを命じるというのは、死を宣告されたのではないかと相手に不安を与えないための―パニックを起こさせないための―ただの方便である可能性もあった。
    ●スターリンの死(283頁)
    指導者の不在は一時的な機能麻痺をもたらす。自分の決定が受け入れられることがはっきりしない限り、誰も新たな決定などしたがらない。何十年ものあいだ、役人たちは誰ひとり自分の取る行動が正しいかどうかという信念に基づいて行動してこなかった。誰もが指導者を喜ばせられるかどうかということだけを基準に行動してきた。
    ●生き延びる(312頁)
    生きのびるためには妥協が必要だ。そんなことは誰でも知っている。たしかに、おれはこれまで不快な仕事もしてきた。自らのモラルに反するようなことも。しかし、汚れひとつない良心などというものは、たいていの人間にとってあり得ない贅沢品以外の何物でもない。
    ●みな平等(318頁)
    子供たちはみな学校で、殺人も窃盗もレイプもすべて資本主義社会の病気だと教えられる。人はものを盗む必要もなければ、暴力的になる必要もない。なぜならみな平等なのだから。だから共産主義社会では警察は理論上必要ないのだ。
    (2015年8月8日・記)

    (「BOOK」データベースより)amazon
    スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた…。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作。

  • 信用しろ、でも確かめろ(スターリン)

    ロシアで実際にあった連続殺人事件を基に描かれているそうです。「この国に犯罪は存在しない」という理想を掲げ、それを無理に現実に合わせるべく他人の思想を排除する姿勢は共産主義の賜物でしょう。また、現実とは時間軸をずらしてストーリを描く点では「水滸伝」に通ずるものがありました。歴史に現代の解釈を加えて新しい視点を見出す力は目を見張るものがあると思います。

  • ながい!笑 本題の事件に入るまで主人公を取り巻く環境が大変すぎる…自業自得といえばそれはそうやけども。ようやく事件に入ったのがラストらへんー下巻に期待ではあるけども!

  • ネットで見かけて。

    ジョージ・オーエルの「1984年」を読んでない人は先に読んだ方が良い。

    「1984年」を読んだ人は、
    同じ様な息苦しさになぜ読み始めてしまったのかと、
    後悔するがいい。
    「1984年」を上回る主人公の転落に、
    誰にも等しく与えられる死や暴力への恐怖と、破滅の予感におののくがいい。
    殺人事件の解決はどこに行ったのかと叫ぶがいい。

    (下巻へ続く)

  • 重厚な書き出し。

    レオに感情移入。

  • とにかくおもしろい。
    ソ連時代の共産主義の恐ろしさを感じる。
    カミさんを守ろうとする生真面目な主人公がすごいタフ。

  • 2015年5月読了。★3つ

  • スターリン政権の恐ろしさ。誰も他人を信じることができず、ふとしたことで、これまでの暮らしを失い、罪人とされるなんて。

    でも、「信用しろ、しかし、確かめろ」や「よりよい善」ってアメリカ人もわりと好きな表現だったりして、強ち共産主義だから恐ろしいわけでもないのかも・・・。

    ミステリとしての事件はまだまったく見えない状態。

  • スターリン時代のソビエト、その本の中で、「子供たちはみな学校で、殺人も窃盗もレイプもすべて資本主義社会の病気だと教えられている。」と記載している。ただひとたび国家保安省に国家への忠節心に嫌疑を持たれたらそれはもう死を意味することでしかない。上巻はその国家保安省の捜査官のレオのことが書かれており、大量殺人は下巻へと引き継がれていく

  • スターリン体制下のソ連を舞台に、幼い子どもを殺害していく大量殺人犯を追う国家保安省のレオ。
    彼を主人公にしたスリラー警察小説だが、とにかく暗い。息苦しい。

    まず、スターリンの恐怖政治が支配するソ連という国家の酷さと恐怖が際立つ。国家による監視、仲間内の密告、同志の粛清、同僚の裏切り。これらの連続で息が詰まるソ連の姿が描かれている。その恐怖の一翼を担っていたのが国家保安省というレオが所属する組織なんだが・・、このエピソードが続編へと繋がる。
    そもそも理想国家社会主義国ソ連に犯罪は存在しない。連続殺人などは腐敗した西側諸国にしかない。だから猟奇殺人の存在を認めることは国家反逆に等しい。こういった建前が本気で信じられていたソ連の政治体制がなにより怖い。実在の事件が小説のモデルだから余計に慄く。
    現実によってイデオロギーが形作られるのではなく、イデオロギーに即して現実は作り変えられる。社会に重大な犯罪が存在してもないことにされ、裏で関わりのない人たちが逮捕され簡単に死刑される。こうしたソ連の政治風土とその描写が内容と相俟って小説を底暗いものにしている。


    ここの件を読むと、つくづく(問題が多いが)自由主義陣営の国に生まれ育ってよかったとバカみたいな感想が浮かんでくる。こんな政治体制に住めないし生き抜く自信がない。もし自分が当時のソ連にいたら間違いなく政治収容所行きだなあ。


    ソ連の体制の怖さに加え、大量殺人犯を追う側のレオが罠によってスパイ容疑をかけられた妻を守るために国家に追われる側へ転落していく様は、はらはらする。手に汗を握るという日本語そのままの心境。
    また彼を執拗に追う元同僚のワシーリーとの対決も物語に緊張感を与えている。ただ、憎まれ役とはいえ、なぜここまで野心とレオへの対抗意識丸出しなのかは読んでいても分からない。
    連続殺人犯の動機には腑に落ちないものがあるので点は辛め。ただ犯人を着きとめるまでの追われつつ追う過程は迫力があって読ませる。伏線がきれいに最後に回収される構成の妙もお見事。

    ちなみ本書は映画化され、今年公開予定。

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著者プロフィール

1979年、ロンドン生れ。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学当時から映画・TVドラマの脚本を手がける。処女小説『チャイルド44』は刊行1年前から世界的注目を浴びたのち、2008年度CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞をはじめ数々の賞を受ける。

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