騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534334

感想・レビュー・書評

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  • 以下、多大なるネタバレ。
    注意。






    ストーリーとしては呑み込める。

    そこに在ったものを上手く説明することは難しい。

    主人公自身の持つ何かと分かち難く、また先を示す指標となるべき存在として顕われた、騎士団長イデア。
    しかしイデアを求め、慕っている中では、残念ながら物語が終わることはない。
    イデアを主人公自らが抹殺することで、彼は次のステージへと進むことを許される。

    そのステージとは、妹コミを捕らえて持って行ってしまった、致死的で理不尽な闇への挑戦。
    「私」はコミの死以来、閉鎖的な空間に寄り付くことさえ出来なかったが、まりえを助ける為に自身の闇を乗り越えていく。

    まりえがメンシキの家で対峙したモノとは、一体何だったのだろう。
    それは主人公の描いた白いスバル・フォレスターの男のような影(純然たる悪)だったのだろうか。
    それがクローゼットの扉を開けていたとすれば、まりえはコミのように、損なわれることになったのだろうか。
    しかし、損なわれるとすれば、何を?
    致死的な何か?

    メンシキの家を脱することで大人に近付いてゆくまりえは、もう守られるべき少女ではなくなっている。
    彼女は、次第にメンシキへの危機感を失わせ、むしろ魅力を感じてもいるような描写がある。

    アンデルセン文学賞のスピーチ「影と生きる」からは、雨田父の生き方を彷彿とさせる。
    ドイツという国が抱える歴史的な闇に、雨田父は本当の自分を影に損なわれ、また偽物である影を本当にして生きることを強いられた。
    彼は「騎士団長殺し」を描いたことによって、影から本当の自分を救い出そうとしていたのだろう。
    そうして、雨田父は本当の騎士団長殺しを目撃することにより、癒される。

    非常に重いクライマックスを過ぎ、「私」は東北大震災以降をユズとむろの三人で過ごしている。
    そこで起きた事実は、日本という国が隠してはいけない影であると言いたいのかもしれない。

    ただ、メタファーとしての結末ではなく、私が読んだ村上春樹の作品の中では、ややハッキリ描かれた、良き結末のように思えた。

    男は血を流すことで大人として完成された。
    少女は少女のまま完成されずに抜け殻を残し、美しい女になった。


  • 騎士団長殺し
    *
    穏やかな気持ち
    ひっそりと雨が降っているような気持ち
    になりました。
    *
    ↓文中にもあり。
    ✒︎彼らのことを思うとき、私は貯水池の広い水面に降りしきる雨を眺めているときのような、どこまでもひっそりとした気持ちになることができる。わたしの心の中でその雨が降り止むことはない。✒︎
    *
    感情の表現や物事の表現が、とても細やかで、その世界へ入り込んでいけるのですが、単行本だから家で寝る前にしか読まなかったので、長い長い時間をかけて読みました。
    私はいつも5冊くらいの本を同時進行で読むんですが、これは本当に長かった。
    *
    その長い間、ずっと騎士団長が私の頭の中にいました。主人公ではなく騎士団長でした。
    *
    騎士団長が
    *
    イデアが?
    *
    メタファーが?
    *
    なぜ?
    *
    日常に近くて、
    でも遠い
    不思議な感覚と世界。
    *
    いつまでも鈴の音が聞こえている気がします。
    *
    *****favorite sentence*****
    *
    ✒︎私たちは自分たちが手にしているものではなく、またこれから手にしようとしているものでもなく、むしろ失ってきたもの、今は手にしていないものによって前に動かされているのだ。✒︎
    *
    ✒︎恐怖や猜疑心は、暗闇の中にいくつもの架空の目を作り出す。✒︎
    *
    ✒︎おれがきついと感じるのは、父親が有名な絵描きとしてではなく、ひとりの生身の人間として、息子であるおれに対して、最後まで心を開いてくれなかったことだ。✒︎
    *
    *****
    *
    信じていることを
    信じているみちを
    信じていこう、
    それがイデアでもメタファーでも。

  • 夢と現実の狭間のような空間は変わらず。
    僕が私になって、若さが失われたように感じて悲しい。
    騎士団長は愛嬌ある、頼もしいキャラクターだ。
    後半胸の膨らみに対する異常な好奇心に少し萎えた。まりえのような女の子は、30代後半の私に、そんなことは語らないと思う。
    その描写必要だったのかな?
    ストーリー性は強く、物語として楽しめた。

    2019.12.14

  • 第2部も、ゆーったり、でも、しーーっかり、
    1文、1節、読み返しながら、思い返しながら、
    じーーーーーっくり、時間かけて、読了。

    いつもは3冊くらい並行して読んでるけど、村上春樹の本はじっくり読みたいので、1部2部、1か月づつかけて。文章が好きなんだろうな。"例え"の表現がすごく好き。すごいなぁー。
    内容より、表現が好きなんだろな。
    内容より。


    騎士団長、いいな。

  • 彼が穴の中でたどり着く答え。
    ひたすらに自分のことを掘り下げていく。
    その取り組みの危うさと尊さに魅力を感じた。
    最後の最後に救いがあったので、ほっとした気持ちで読了。

  • 最後まで「わたし」の名前が分からないままだった笑。
    村上ワールドに浸れる作品だったかなと。
    静かに進む空気感とパラレルな世界観、そして、毎度現れる小さい者たち。
    個人的には「読者に投げる」よりも「伏線回収」してくれる方が好みだし。リアルだったのに、いきなりファンタジーって、あまり好み路線ではないんだけど、村上春樹は好きなんだよなぁー。
    文章から出てる雰囲気に、目をつぶって浸っていたい。

  • 抽象的な物事がなにを指しているかわからないままだけど、すごく好みだった
    村上春樹の作品の中でかなり好きかも

    秋川笙子とまりえの美しい二人を、「クリスマスと新年がいつも連れ立ってやってくるみたい」と形容したのが心に残った。

  • イデアとメタファーの解説本、と書いたらちょっと意地悪かな。私的には、この2つはもう少しひっそりとしていてほしかったなぁ。とにかく、村上ワールド全開で、ストーリーは深く突っ込まずに、雨田具彦氏の家の雰囲気と騎士団長を楽しんだ。騎士団長の「〜あらない」はツボだった。真似して遊んでます。最後、元妻と元に戻ったのはちょっとした衝撃。これまでの作品では去った女性は戻ってこなかったので。でもほっこりした。

  • まさに村上春樹だと感じた作品だ。
    読み終わったあと形容し難い幸福感が押し寄せてきて、やはり自分は村上春樹が書く話が好きだと痛感させられた。

    まず、この本を読むにあたって、自分の中の「普通」を無くして読み始めなければならない。
    騎士団長殺しだけでなく、村上春樹の本の中には普通ではないことが山のように、そして当たり前に出てくる。その普通でないことを理解しようとして読むべきではない。書かれていることをそのままに受け止めることが大切だ。


    第一部では免色に対しては好感を持っていた。
    だが、物語が進むにつれて不信感や恐怖心を抱くようになった。
    それがどこから来たのかはわからないが、まりえから見た免色についての章を読んで、免色がどれほど完璧な人で、心の奥底にどれほど深いものを抱えてるのかが明白になったところで恐怖心を感じたのだと思う。

    本文中には、クローゼット前に立っていたのは免色ではないと買いてあったが、私はまりえの母を失った時の免色なのではないかなと思った。
    言い表すのが難しいが、まりえの母がまだ存在していた時の免色と亡くした後の免色はまったくの別人であって、免色にとって神殿化しているまりえの母の部屋に入る時は、別人の免色になっているのではないかと思った。


    イデアやメタファーという言葉が多く出てきたので何度も言葉の意味を調べたがいまいちよく理解できなかった。
    イデアについてはなんとなく理解しているような気もするが、メタファーについては調べれば調べるほどわからなくなった。

    大人になってから再読すると理解できるかもしれない。



    ユズについては不思議だなと思った。
    一時期は主人公のことを拒絶し、一緒に暮らしていたことを無かったことにし、さも他人かのような振る舞いを見せていたのに、主人公がユズに連絡しようと決心したら何事もなかったかのように夫婦関係を再開させた。
    ユズについては理解できなかったが、そこに主人公は惹かれたのだろうなと思った。


    村上春樹が書く女性は、一貫して似たような雰囲気を持っている。全ての作品を読んだわけではないが、今まで読んだ作品に出てきた女性たちは全員とても魅力的だ。まりえはとても魅力的な女性だと思った。
    13歳にしてあれほどの思考力を持っているのは羨ましい。

  • 謎解きのようなものがされるのではないか、という期待だけで最後まで読んだのだが、きっと村上春樹はそういう読み方をする作家ではないんだな。
    「あらない」が耳に(音として聞いたわけでもないのに何故か耳に)残る。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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