ノースライト

著者 :
  • 新潮社
3.85
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本棚登録 : 1289
レビュー : 143
  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104654024

作品紹介・あらすじ

横山ミステリー史上、最も美しい謎。熱く心揺さぶる結末。『64』から六年。平成最後を飾る長編、遂に登場。一級建築士の青瀬は、信濃追分に向かっていた。たっての希望で設計した新築の家。しかし、越してきたはずの家族の姿はなく、ただ一脚の古い椅子だけが浅間山を望むように残されていた。一家はどこへ消えたのか? 伝説の建築家タウトと椅子の関係は? 事務所の命運を懸けたコンペの成り行きは? 待望の新作長編ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 前作『64』以来、約6年ぶりに読む横山秀夫氏の小説。
    やはり、横山秀夫氏の小説は違いますね。熱量が。この圧倒的な熱量に飲み込まれるのが横山秀夫氏の小説を読む愉しみの一つです。

    本書では冒頭数十頁以上を費やして主人公・青瀬稔の造形が丁寧に描き上げられます。警察官を主人公とするミステリーが得意の横山氏ですが、今回はバブル崩壊を経て、家庭も無くし、プライドをズタズタにされた45歳の一級建築士が主人公です。
    小説の冒頭を読むだけで、読者の脳裏には主人公・青瀬稔の人柄やこれまでの経験、そして生き様が鮮明に刻み込まれます。そして、読者は自らの分身となる青瀬の目を通じて、この本の世界の中に取り込まれていくのです。

    本書のカテゴリーはミステリーとなっていますが、人生の敗北と逆転を経験した中年の男達の悲哀と熱き友情、そして家族の再生を描いた純文学としても読めると思います。

    主人公・青瀬稔はバブル経済の時は、売れっ子建築士として都心の超高層マンションに住み、高級車を乗り回し、札束で相手の頬を叩いていたような生活をしていた男でしたが、徐々に仕事がなくなり、自分の才能にも限界を感じ始めます。
    インテリアデザイナーをしている妻との関係も悪くなり、結局、離婚。愛する一人娘の親権も失ってしまい、今は月一度だけ娘と会うことだけを楽しみにしている状態です。
    勤めていた大手の建築事務所には居場所が無くなり、やっとのことで大学の同窓生・岡嶋昭彦が社長をしている埼玉にある小さな建築事務所に潜り込み、そこでほそぼそと日銭を稼いでいる生活をしていました。

    そんなおり、あるクライアントから「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」との依頼を受けます。その言葉で、青瀬は自分が輝いていた時のことを思い出し、そのクライアントの依頼した家屋の設計に全身全霊を傾けます。
    そして、完成した家屋は、建築の定石に反した北向きの家で北から入る陽光(ノースライト)を存分に生かした美しい造形の家屋Y邸を完成させました。このY邸は建築業界でも話題となり、建築雑誌にも特集されるほど出来映えとなったのです。

    そんな折り、気になることが起こります。
    この話題となったY邸をモデルにして自分の家を建てて欲しいと言ってきた別のクライアントからこんなことを聞かされます。

      あのY邸を見学してきたのですが、今は誰も住んでいないようでしたよ

    そんなはずはない。あのY邸の注文をしたクライアントの吉野一家には、Y邸の引き渡しをした時に会っているし、完成した家を見てあれほど喜んでいたではないか。別の家へ引っ越しをするなんて話は聞いていない、今もあのY邸には吉野一家が住んでいるはずだ、住んでいないはずがない。

    ここから主人公・青瀬が建てたノースライトの家の秘密をめぐる壮大な物語が幕をあけるのです。

    この主人公の青瀬とともに、副主人公とも言えるのが青瀬の勤めている建築事務所の社長・岡嶋です。
    彼の存在がこの小説では光っています。
    岡嶋は青瀬と大学の同期生で建築家としての才能は凡庸ですが、経営者としての能力は高いものを持っています。
    そんな折り、埼玉出身の有名芸術家で3年前に亡くなった藤宮春子の記念ミュージアム建設のコンペに参加する権利を岡嶋はもぎ取ります。今まで交番や小さい公共建築しか手がけたことのない弱小建築事務所にとっては、このコンペを勝つことは一躍トップ建築事務所にのし上がるチャンスであるとともに社長である岡嶋の建築家としての名前を建築史に名を残す仕事になることは間違いありません。
    岡嶋自身、大した実績を残していないことから、このコンペに並々ならぬ意欲を見せます。
    青瀬の代表作となったY邸のように、岡嶋はこの藤宮春子記念ミュージアムを自分の建築家としての代表作としたかったのです。
    自分の会社の社員であり、部下でもある青瀬へのライバル意識、嫉妬心、そして数々の修羅場をくぐり抜けてきた戦友としての感情、彼の青瀬への想いは鬼気迫るものがあります。

    この小説は、吉野一家が失踪した後、Y邸に唯一残されていたヒトラー政権下のドイツから日本に逃れてきた高名な建築家ブルーノ・タウトが作ったと思われる一脚の椅子を手がかりとして吉野一家を探すミステリーとしても読めますが、脂ののりきった中年の男たち・青瀬と岡嶋の友情、ライバル心、そして対照的な結末という、この二人の男の物語としても非常に興味深いものがあります。

    ラストは「流石、横山秀夫だ」と唸らせる結末が用意されています。
    未読の方はぜひ本書を手に取ってみることをおすすめします。警察小説ではない横山秀夫のミステリー。傑作です。

  • 一級建築士の青瀬。ある施主より「住みたい家を建てて下さい」との要望があり、家を建てる。北向きにこだわり評判を得るほどのものであった。しかし、訪ねてみると、誰も住んではおらず、タウトの椅子だけが置かれていただけであった。
    青瀬がタウト疲れとか言っていたけれど、青瀬とともにタウトを追って読んだ私も多少なりともそう感じた。しかし、青瀬の過去よりのお話や、タウトのお話、離婚した家族のお話などうまくミックスされ引き込まれ最後まで読み上げました。建築家として生きていきた青瀬の再生の物語、読ませました。北の光を随所に感じさせ、横山さんの力を感じた、派手なものはないが、力作。


  • 後半、ぐいぐい読ませる一冊。

    警察ものでない横山作品、しっとりとしたオトナのミステリ。自分にとってはものすごく読みやすかった。

    警察ものは人物多さが苦手。でもこちらはシンプル、登場人物が混乱しないのもポイント。

    主人公は一級建築士の青瀬。クライアントに望まれ設計した新築の家。なのにクライアント一家は失踪していた。ただ一脚の椅子だけ残して…。

    失踪の謎をさぐる青瀬。タウトの椅子、それだけがクライアント吉野との接点。

    人物描写、丁寧な心情描写はやっぱり横山作品らしく惹きつけられ、建築という未知の世界にもかかわらずどのシーンもその世界にぐっと入り込める感覚。

    後半は特にぐいぐい読ませ、親子、家族、伝えるべき想いと遺す想い、それらがじんわり心に染み渡り二度読みしたほど。


    ノースライトのタイトルが秀逸。たしかに主張し過ぎることのない、でもしっかりと包み込むような北の柔らかな光こそこの読後感に相応しい。

    • けいたんさん
      こんばんは(^-^)/

      警察物は人が多いし、無駄ないがみ合いが多いよね(^_^;) そこが苦手。
      警察物でない横山さん、読み応え...
      こんばんは(^-^)/

      警察物は人が多いし、無駄ないがみ合いが多いよね(^_^;) そこが苦手。
      警察物でない横山さん、読み応えありそう!
      うちにも横山作品眠っているわ(笑)
      2019/03/04
    • くるたんさん
      けいたん♪

      おはよう(⁎˃ᴗ˂⁎)

      そうなのよー!警察モノは警察の所属とか対立とか立場とか微妙な関係とかややこしくて…
      特に64はそこが...
      けいたん♪

      おはよう(⁎˃ᴗ˂⁎)

      そうなのよー!警察モノは警察の所属とか対立とか立場とか微妙な関係とかややこしくて…
      特に64はそこが苦労した思い出が(*vωv) 

      こちらはシンプルで良かった作品(*^^*)♪

      横山作品、「出口のない海」はもう読んでる⁇

      評判良いみたいだけど、私、未だ読めてないんだ〜〜( ˃ ˂ഃ )
      2019/03/05
  • 一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。
    望まれて設計した新築の家。
    施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに……。
    Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、
    電話機以外に家具もない。
    ただ一つ、浅間山を望むように置かれた古ぼけた「タウトの椅子」を除けば……。
    このY邸でいったい何が起きたのか?

    一家はどこへ消えたのか?
    空虚な家になぜ一脚の椅子だけが残されていたのか?


    一級建築士の清瀬は、バブル崩壊により仕事のあぶれ、
    お酒に溺れ、妻と娘は家を出て行った。
    一度建築家として死んだようになっていた。
    意地とプライドや苦悩と嫉妬が交錯します。
    今の事務所に誘われ、施主に請われ「自分が住みたいと思う家を建てて欲しい」
    との依頼で、全力を傾け自分の全てを注ぎ込んで完成したY邸。
    建築雑誌にも取り上げられるほど高い評価を受けていた。
    青瀬の代表作と言っても過言ではない建物となった。
    ある人の誰も住んでいないみたい…という言葉が気になって行ってみると、
    電話機以外に家具もない。
    空っぽの家に古ぼけた「タウトの椅子」だけが残されていた。
    施主一家に一体何が起こったのか?
    置かれていた椅子は本物のタウトの椅子なのか?
    青瀬は謎を追う事にするーー。

    私は建築の事に全く知識がなく、日本に数年亡命していた
    高名な建築家ブルーノ・タウトの事も全く存じ上げなかった。
    中盤熱く深く長く語られるタウト。
    ちょっと長すぎるなぁって感じた。

    誘拐事件の捜査を巡る警察小説「64」は圧倒的な傑作だったと思っています。
    それから6年ぶりの新刊本。待っていました。
    動の「64」に比べると静の「ノースライト」と感じました。
    殺人事件も起こらないけれど、大きな謎があり
    人間描写が相変わらずとても緻密で、
    大きく激しい人間ドラマが描かれていた。
    青瀬の生い立ちや、成育環境、過去のお話。
    離婚した家族の話等引き込まれました。
    青瀬の再生物語でもありました。

    最後は怒涛の展開です。
    心がジワジワ温かくなり、
    目の奥もじんわりと熱くなりました。
    読後感のとっても良い本でした。
    横山さんらしくない、でもやはり横山さんらしさを感じる。
    力を感じる素晴らしい作品でした(*´ `*)

    巻末の参考文献の多さにとても驚かされました。
    それだけしっかりと深く調べて書かれているのですね。
    だからタウトのシーンとか長く感じてしまったのか…。

  •  今年のベスト1は、もうこれで決まりかな、と思われるほどの手ごたえのある力作である。

    『陰の季節』で松本清張賞を獲得しデビューした横山秀夫は、その後も手堅く印象深い短編小説を連ねてミステリ界を賑わせる。短編であれ、長編であれ、映像化される作品も多く、確実に彼の一時代を築け上げた感がある。単発短編から連作短編へ。さらに多作ではないにせよ印象的な長編作家への緩やかな脱皮をも遂げてきたがその後静かなブレイクを経て6年前に『64』ではダガー賞候補にまで名を連ねる快挙を遂げる。まさに国産ミステリ界の至宝と言っていい。

     そして忘れた頃になってこの新作。そしてまたも快挙の予感。歳を重ねるにつれ円熟味を増す文体、素材、深み、そして、美しさ。読み始めは、エンターテインメントというより何か懐かしい素敵な純文学を読んでいるかのようなノスタルジーが心に蘇る。一行一行の、否、一語一語の言葉の扱いの丁寧さ、行間への気配り。それ以前に積み重ねられてゆく言葉と世界への静謐なる導入部。これは横山長編の個性としか言いようがない何かであると思わせる期待。

     主人公は一級建築士。バブル後の離婚、孤独、失われた職への誇り。渡りの過去。ダム工事現場の職人であった父に従って全国を落ち着くことなく渡り歩き山間の飯場暮らしの中で育てられた過去。古い記憶。

     提示される謎は、消えた一家。

     発注者の望み通り全力を傾倒し仕上げ、しかも『平成すまい200選』に選ばれ世間にも高く評価された建築物である信濃追分の家には、誰も済まず、一脚の木の椅子だけが置かれていた。椅子からはドイツ亡命者であるブルーノ・タウトという建築士の姿が浮かび上がる。巻末資料として列挙されている関連書籍の量からして、著者の心が相当にタウトに集中したのは作中でも重心となって見られるほどである。日本の軍国化が進む頃、日本古来の文化の消滅に危機を唱え、少なからず救いの手を差し伸べようと指導を試みたこの異国人の姿は、本作の建築士の物語に、相当な厚みを加えているように思われる。

     さて様々な謎が深まる中、主人公の所属する建築事務所では、ある美術館のコンペティションという現在が熾火の如く発熱してゆく。パリで亡くなった地元女性美術家の記念館を市の予算で建立する企画に、競合各社、市議会内での争い、マスコミの取材合戦が絡んで炎は膨れ上がる。メインストーリーの静かな謎の上に、現在と過去とが重なり、多くの社会的・家族的・親子的・恋愛的葛藤がさらに積み上げられてゆく。重層構造。

     スタートとなった謎そのものは、本質に近づいたり遠のいたり。個性豊かな登場人物たちとの距離感も、時に熱く、時に素っ気なく、危うく、儚く、移ろいやすく。そうしたデリカシーと重厚さのすべてを捉えるべく、著者のペンの力は全巻を通して、凄まじく圧倒的、かつ美しい。

     良い小説とは起承転結が明確だ、と改めて思う。振り返ってみれば、書かれたものに無駄は一つもなかった。すべてがすべてに関連付けられるものであった。まいった。謎解きにではなく、人間たちの綾なす偶然。偶然が産み出す、罪と、贖いに。そして何よりも愛に。父、妻、子、そして友への。

     心を揺すられるミステリ。数年に一度の傑作である。

  • 「ノースライト」
    横山ミステリー史上、最も美しい謎。


    “「64」から六年。平成最後を飾る長編、遂に登場”という触れ込み。往々にして出版社が打つこの手の戦略は頭の片隅に置く程度が良い。が、今回はこの触れ込みは正しい。美しい謎も適切に思える。ミステリーではあるものの、愛する人に遺す想い、父や家族への想い、自らの生き様への想い等、遺す・宿す熱量を感じた。


    ミステリーの観点からすれば、何故Y邸から家族は消えたのか?何故タウトの椅子が置かれていたのか?が二大トピックである。この二つの特大な謎は、張られた伏線の回収と共に見事に解決される。また、青瀬が所属する岡嶋設計事務所が取ってきたコンペに絡む謎は、きな臭い雰囲気を出しながらも、青瀬の再生に大きな影響を与える。


    とは言え、やはり一番の推しは、前述の熱量だと思う。強い負荷をかけられた主人公の青瀬の葛藤が物語を牽引するが、その青瀬の対父、対岡嶋(社長)、対Y邸、対家族への想いの熱量が、更に物語を加速させている。読んでいて感情移入は必死のキャラクターである。


    また、青瀬とは犬猿の面もある岡嶋にも注目だ。コンペに絡む謎は、事務所を巻き込む大騒動になる。そんな中、岡嶋は抱えてきた葛藤にピリオドをつけ、メモワールのデッサンに全てを注ぎ込む。青瀬と並び、重要なキャラクターだ。


    溢れるばかりの熱量が湧き出るのは、メモワールのプレコンペに挑むところだろう。遺すだけでなく、想いを紡ぐ意思の下、青瀬を始めとする事務所のメンバーの頑張りには、拍手しかない。


    最後にタウトであるが、こんな風に関わってくるとは思ってなかった。めちゃくちゃ重要である。建築とは、ただの住む場所ではなく人生の様々な面を象徴とするものであり、同時にタウトの意思がしっかりと生きている。それが、ミステリーと青瀬達キャラクターに密接に絡んでいる。


    個人的には、2019年一番おすすめになると思う。

  • 待ちに待った「64」以来の横山先生の小説。今までとは少し違った系統かなと感じましたが、警察物ではなく横山先生の新たな世界を感じられた気がします。

    内容としては、建築関係の話が主であり今まで、そういった知識がなかったので新鮮に感じました。タウト作の作品をネットで調べながら読み進めていく事をお勧めします。

    「自分が住みたい家を建てて下さい」この言葉の意味、自身の生い立ち、家庭問題、建築士としての仕事、全てが絡み合って素晴らしいストーリーになっています。後半になるにつれて真相に迫っていく感じ、主人公の仕事への熱量は今までの作品と同じく一旦読み出すと止まらなくなってしまう怒涛の展開は秀逸です。

    また、「ノースライト」という題名がとても綺麗で好きになりました。

  • 久々の横山先生降臨で発売日当日に即買いしました。小説ではそんなことしたのグインサーガ以来数十年ぶりでした。大体本が分厚いとぐったりしますが、持った重さすら愛おしい。ほっぺすりすりするくらいテンションマックスになりました。

    全く予備知識無しで読んだので途中から刑事とか出てくるんではないかと思っていましたが、今回は伝統の刑事物から離れて、設計士業界を舞台に色々な人間関係が入り乱れておりますが、そこはさすが御大。軽薄になる事無く人間ドラマを積み重ねでいます。致し方無い事なのですが、重厚さと引き換えにリーダビリティーが落ちる事がありますが、昔から横山作品は重厚な上に手が止まらず読み続けられるのが不思議。本作もまた重厚さと読みやすさが共存しています。

    えー、苦言というほどではないのですが、前作64でも感じておりましたが、横山作品は下調べ、取材を相当して隙がないのですが、その取材を生かした部分が少々冗長に感じる部分がありました。結局人間を書くのが異常に上手い人なので、感情のまま書いても名作を書けるはずなので、出来ればもう少し早めの次回作を期待したいです。

  • 私にとって未知の分野である建築の世界に引き込まれました。Y邸をそしてそのノースライトを見てみたいと思いました。登場人物それぞれが、順風満帆な人生でなく(勿論そんな人はごく少数でしょうが)、それ故に他人には触れられたくない傷を持ち、悩み苦しみどこかでバランスを取っている登場人物たち。また建築界の巨匠タウトにも重要な役割を持たせ、ストーリーに時間的な拡がりを感じます。主人公が「自分が住みたい家」として設計し建てたY邸が、施主の吉野が理由を語った時の真実に心が動かさせました。

  • いや、もう面白いの面白くないのってめちゃくちゃ面白いですよ、さすがとしか言いようのない。
    完全なる正三角形(完全じゃない正三角形があるのかどうか知らないけど)のミステリ。
    謎解きも面白さも、ストーリーも、そして美しさも兼ね備えた最高の一冊。そう、美しいんだよね、美しいミステリ。
    そして建築に関して詳しくなっちゃうおまけつき。
    これはもう売れる気しかしない。

  • 一見何でもないような素材を扱っての小説でふーんって読んでいたけど、中盤からそれまでに散りばめたピースがどんどん集められはめ込まれ、一枚の「絵」を書き上げていく。そんな感じで読むほどに全景が完成されていく。謎が解き明かされたときにはゾッと気持ちのいい達成感で震えた。
    そうなんだよね、面白い小説ってのはただ、だらだら一本道を進むだけじゃだめなんだよね。読みやすい=面白いではなく、しかし、読み辛い=面白い訳でもない(ここ大事!)
    ピースを余すことなく、しかも細かいピースを最後まで大事に作り上げる作品、これが名作。面白かった。

  • 久しぶりの横山作品、これも上手いですねぇ!とりわけ終盤からの緊迫感とラストまでの一気呵成な展開は目が離せないで夜半まで読んでしまった(^^) 仕事も家庭もうまく行かずの一級建築士がとある家族からの依頼で会心の家を信濃追分に完成させて専門誌からも称えられる。しかし完工後ぱたりと音信不通となった依頼人家族、しかも入居した痕跡さえ無く、ポツンと一つのブルーノ タウト製作らしき椅子があるだけ。会心の家が否定されたような気持ちを抱き、謎解きに臨む主人公だが実は意外な関連性があったのだ。施工依頼人の名前に、はは〜んとは思ったけど....。なかなか面白かったです♪

  • 面白かった!
    建築家が思う存分力を発揮して建てた家が空き家に。
    どうして?から、その理由に達するまでの物語に惹きつけられる。
    日本に亡命していた建築家、施主、少しずつ真実に向かっていく。
    最後の弔い戦には粋を感じる。
    読み終わり、フーッと息を吐いた感じ。

  • 『64(ロクヨン)』から六年ぶりの長編は、警察ミステリではなく、建築士が主人公のゆるーいハードボイルド。

    消えた施主一家を探すというスタートから徐々にストーリーが拡がり始める。手掛かりを追ったその先に、建築家や画家の足跡があり、さらにそんなサイドストーリーにぶら下がるようにして、夫婦、親子、同僚とのドラマが絡みついている。多くのサイドストーリーを取り込んでそのたびに物語が膨れていくので、全体にゆっくり進み、そのせいか謎解きとしての鋭さがまるでない。絡み合ってるドラマをほどいたら、良質の短編が三、四編書けそうに思う。

    いつものシンプルな筆致と絶妙な行間のみで、読者を作中に引きずり込む手腕は巧いと思うが、今回は凝りすぎた分、全体に間延びしてバランスが崩れたような気がする。膨れ上がった挙句に、何かが押し潰されてしまったとでも言うのかな。

    謎解きも難しくなく、さり気に巻かれたヒントから全体の構図を読み解くのに時間はかからない。終盤にお仕事モノとしての山場を見せられ若干辟易した後に明かされる真相は予想通りだが、点が線に繋がる種明かしはやっぱり巧いと、最後で救われた気になった。

    ストーリーを構成する要素が多岐に渡っているので、仕事人として、家庭人として、主人公の境遇に共感できる読者は多いんだろうなー。静かなる熱い再生の物語です。

  •  前作『64』も約7年ぶりの新作長編だった。今回は約6年ぶり。初出時期は2004年~2006年となっている。全面改稿の上、刊行に至ったが、どういう経緯があったのか。

     警察小説を中心に執筆してきた横山さんだが、本作はかなり毛色が異なると言える。主人公の青瀬の職業は、一級建築士。かつてはバブルを謳歌したが、現在は小規模な設計事務所に籍を置いている。そんな青瀬が久々に情熱を注いで完成させた、Y邸。

     ところが、そのY邸に、依頼人一家が住んでいないらしいと知った。代金は支払い済で、実害はないが、割り切れない青瀬。現地を訪ねると、確かに住んでおらず、1つの椅子があるだけ。依頼人一家はどこに消えたのか? それが本作のメインの謎である。

     もちろん青瀬には本来の業務もあり、謎だけ追っているわけにはいかない。建築士としての日常を描きつつ、彼の生い立ちや、バブル期から現在に至る人間関係、別れた家族との関係などが、徐々に明らかになっていく。家庭人としては挫折した青瀬。だからこそ、Y邸に情熱を注いだのか。家への家族への渇望を駆り立てられたのか。

     謎に迫る鍵となるのが、Y邸に残された椅子。作中に出てきたブルーノ・タウトという建築家は、実在の人物である。本来の目的を隠し、タウトを取材する記者に同行する青瀬だったが、タウトが残した仕事に感銘を受け、圧倒される様子が伝わってくる。ナチス体制下のドイツから日本に来たというタウト。そんな時代でなければよかったのに。

     一方、青瀬の事務所は大きなコンペに向けて動いていたが、問題が発生する。公共施設だけに、色々な勢力が蠢く。雇用主に対して複雑な感情を抱いていた青瀬だったが、建築士として後世に残る仕事をしたい気持ちはわかる。タウトに触れてきただけに。彼の行動を、笑う人間は笑うだろう。実際、読者の僕は苦笑した。しかし、その姿は眩しくもあった。

     終盤に至り、いよいよ謎が明かされると、そんなところが伏線になっていたのかと驚かされる。再起の物語であり、家族の物語であり、様々な読み方ができるが、根底にはミステリーの精神が貫かれていた。過去に発表した数々の警察小説と同じく。

     もしかして筆を折ったのかと思っていたので、こうして手に取れたことを嬉しく思う。待つのは慣れている。ご自身のペースで、納得できる作品を書いてほしい。青瀬のように。

  • Y邸とメモワール見てみたい行ってみたい。
    とりあえずは熱海の旧日向別邸か。修復工事中だけど。
    タイトル通りにどこか淡々としたメリハリのない話だけど、その無機質で淡い感じがなんか癒される。
    男くさい話をイメージしてたけど、そてもやさしく物悲しい話だった。

  • 大好きな横山秀夫の新著。なぜか電子書籍版が出ないので、我慢できず数年ぶりに単行本を購入。
    が、イマイチというのが率直なところ。

    前作「64」も前半はやや退屈だったが、その退屈な中にいくつもの伏線が張り巡らせてあり、後半はそれら全てを驚愕の展開で回収していったので、本作も前半が退屈でも期待して読み進めた。
    が、それほど多くの謎があった訳でもなく、しかも大したオチでもなかったというのが、読後の感想になるだろう。
    横山秀夫の作品にある、胸に迫る感動と、読み手に伝わる熱気が、この作品にはほとんどなかった。

    初めから終わりまで一貫して描かれているのは「家族愛」であり、ミステリー要素は極めて少ない。
    にもかかわらず、冒頭から謎を提示してしまったために、その謎と関係のない登場人物たちの葛藤や人間関係の描写に膨大なページを割かれることで、読み手としてはウンザリしてしまう。
    謎解きを楽しみにしている者としては「ぜんぜん話が進まんやんけ」と思ってしまうのだ。

    ミステリーとしては星2つ、文学としては星4つ。間を取って星3つかな。

  • 横山さんの作品なので、肩に力を入れて読み始めたが、
    建築家と建てた家にまつわる話が軸で読みやすかった。

    桂離宮を美しいと評したブルーノタウトの椅子が謎解きの鍵になっており、
    日本で暮らした数年間を追うような旅も興味深かった。

    大工だった父は、人の家を一生懸命に建ててばかりで
    自分の家はおざなりだった。
    建築家であっても、造りたい家が売れるとは限らず
    求められれば施主の要望に沿い、自身の思いとは離れていくものになる。
    建てたい家を造らせてもらったことで、何かが完結したようだ。

    謎解きは人の死にも関わる話になったが、救いがあってよかった。

  • ある一級建築士の物語。横山さんの著書は必ず泣けるので、今回もハンカチ用意して読みました。
    やはりラストは感動的。

  • 横山さんの新作は本当に首をながーーくして待たされるなぁ。でもその分、手にした時の喜びが半端ない!
    今回はとても分厚い本で、でも読み始めたらグイグイ引き込まれて止まらなくて、結局一晩で読み終えた。あっという間だった。
    始めは謎だらけで、これがどう繋がるのかちんぷんかんぷんで、でもラストに近付くにつれて少しずつ糸が繋がっていって、途中は目頭が熱くなって、でも先が気になって手は止められなくて、そして爽やかな終わりを迎えてーー。
    もう最高だった。
    謎解き云々より、人間ドラマがすごい。
    未来に期待を抱かせてくれる、そんなお話だった。

  • 2019ゴールデンウィークに、まさに平成最終日から令和初日の2日間、見舞い目的の拝島往復の中央線を中心に読了。

    警察小説時代にかなりはまりこんだ横山秀夫作品。本屋で新作を探すことも忘れかけたが、それもそのはず長編小説は6年ぶり、『64』以来と。

    主人公は、青野稔、ダム建設の職人である『渡り』の子。建築士。バブル時代に夫婦関係を壊し、娘の日向子とは月一回のみ会話を許されている。

    その青野の建築家としての、そして彼と家族だけでなく、クライアントの吉野や、同じく建築士の同僚・岡嶋といった登場人物それぞれの、『再生』の物語、と読めた。

    吉野探し→タウト探しの前半より、青野と元妻ゆかりや日向子、或いは岡嶋との関係に主題か移った中盤から、物語が染み込んできた。ちょうど立川駅の喫茶店あたりから、世の中が突然、澄んで見え始めたように感じた。

    タウトや建築について学びながら読めばまた違った楽しみがあったか。逆に、若干作り込まれ過ぎたような重さも感じた。建築としての手法や美しさやと、物語との相関までたどり着ければ、さらにもう一段突き抜けていたかもしれない。

  • 4月-11。4.5点。
    建築家の主人公。信濃追分に魂心の家を建てるが、依頼主は住んでおらず、行方も分からない。
    一方主人公の雇い主は、芸術家のメモリアルホールのコンペに全力を注ぎ。

    面白い。さすが横山秀夫。読み始めはゆっくりした展開だが、200頁過ぎた辺りから一気読み。
    自らの図面をライバルに見せた際のひと言で、涙腺崩壊した。

  • 約420ページありますが、読んでいくうちに引きこまれました。横山さんならではの文章で、情景描写が美しい印象でした。
    ただ、初めの部分での展開を期待しすぎた分、後半部分が拍子抜けしてしまった印象でした。
    謎を解決するだけでなく、主人公の再生という部分でも魅力があり、充分に楽しめました。ドラマ化するなら、役所広司さんや阿部寛さんのイメージがありました。

  • 連載から10年以上たって単行本化された。きっと職人のようにかなりの改稿や、推敲をへたのだろう。横山秀夫の作品は出たら必ず読んできた。警察小説と違って今回は建築士が主人公。中盤までタウトのうんちくなどで、読み進めるスピードが落ち、何度か本を置こうとした。しかし、中盤以降の物語の展開は、今までのは何だったのだというくらいに勢いづく。ラストは感動だ。64のように推進力をたもった作品ではないが、とても味わいある作品だったと思う。今までの横山作品とは違う芸術性があふれている。後半のメモワールをデザインするシーンは、これでもかというくらいリアリティがあった。あのシーンは適当にお茶をにごしてしまいがちだと思うが、著者はそれではいかんと思ったのだろう。ちなみになぜか、私の脳内で描いた主人公の青瀬のビジュアルは、著者そのものだった。

  • こんなこと作家さんに言うのは甚だおかしいけど、語彙力がすごすぎる。ストーリーとしては建築のことは知らないので退屈してしまう場面もあったけど、それ以上に胸が熱くなって、何度か泣いた。こんな横山秀夫も好きだなあ。

  • そこまで感動するか?

  • 濁流のような64の激しさとは打って変わって、森の中に差し込む光のような、Y邸でノースライトを浴びているような温かいお話でした。
    建築にはまったく詳しくないですがY邸もメモリアルも見てみたいと思わせてくれます。
    本当に残りのページ数で吉野さんの謎が解明されるのか不安になるくらい最後まで引っ張られましたが、日向子の電話を鳴らしてから怒涛のように進みました。
    そういえば珍しく誰も殺されない作品だなと思いましたが、クライマーズハイも別に誰も殺されないから珍しくなかったです。
    そして記者を感情のある人間として描く横山先生の愛情。

  • 前作「64」から6年。
    待ちに待った長編新作。
    でも新作と言いながら、初出は2004年なので、時代背景は少し古く、ちょっと違和感が否めない。
    ただ社会派で知られる作家が、今作は建築を巡る話で、日本の建築や工芸に大きな影響を与えたと言われるブルーノ・タウトの話を軸に、バブル期に美味しい思いをした建築士たちの物語。
    バブルが弾けて、行き場のなくした主人公・青瀬たちが奇妙な依頼で手掛けた「Y邸」を中心に、大切な何かを見つけていく物語。バリバリの社会派のイメージが強いので、これまでの作品からすると、少し色合いが違うが、多くの困難を乗り越えて、自分たちの最高傑作を仲間の為に作ろうとしていく岡嶋設計事務所の様子は心を打つ。
    物語の中盤は、後ろ向きな内容や悲しい事柄が続くが、読み終えた時には、はっきり光の道筋が見えるような作品だった。
    唯一、希望を言えば、純粋に新作が読みたい…

  • ノースライト(北からの採光)あふれるY邸、完成引渡し後、住まれることがなかった真相を建築家が追う。
    実在の建築家ブルーノ・タウト、架空の画家藤宮春子、鳥類と呼ばれる生い立ち、親子の想い、建築家の夢など、幾層にも重なるが、サクサクと読んだ。
    Y邸建設の真相には納得し難いところもあるが、読後感は気持ちよい。
    19-79

  • 初出2004〜06「旅」重厚なミステリーだが単行本化に10年以上かかったのはなぜ?

    建築士青野稔が「あなたが住みたい家を」と依頼を受けて北アルプスを臨む地に建てたY邸は評判になり、バブル後、また離婚後落ち込んでいた気力が回復
    しかし依頼主吉野陶太はその家には住まず、空っぽの家には戦前に日本に来て日本建築の美を評価したブルーノ・タウトが設計した椅子が置かれていた。
    青野は唯一の手がかりタウトの椅子を追う。一方で所属する設計事務所は美術館の設計コンペの競争に前のめりになる。

    物語は半ばから急展開を見せる。終盤の設計事務所の盛り上がりには興奮に巻き込まれていくが、ラストの種明かしは今ひとつ納得がいかない。

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著者プロフィール

横山 秀夫(よこやま ひでお)
1957年東京都生まれ。国際商科大学(現・東京国際大学)卒業。1979年に上毛新聞に記者として勤務。『ルパンの消息』でサントリーミステリー大賞佳作を受賞したのをきっかけに退社。以後フリーランスライターとして活動。1998年「陰の季節」で第5回松本清張賞を受賞し小説家デビュー。2000年『動機』で第53回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。2002年『半落ち』が「このミステリーがすごい!」1位となり、第128回直木賞候補作となるが、そこで起きた様々な論議から、直木賞決別宣言を出すに至る。『半落ち』は2004年に映画化されて高い評価を得ている。その後、2004年『クライマーズ・ハイ』で第1回本屋大賞第2位、映画化されヒット。2013年刊行の『64(ロクヨン)』で第10回本屋大賞第2位、「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」各1位を勝ち取り、大ヒットとなった。

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