- Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104654024
作品紹介・あらすじ
横山ミステリー史上、最も美しい謎。熱く心揺さぶる結末。『64』から六年。平成最後を飾る長編、遂に登場。一級建築士の青瀬は、信濃追分に向かっていた。たっての希望で設計した新築の家。しかし、越してきたはずの家族の姿はなく、ただ一脚の古い椅子だけが浅間山を望むように残されていた。一家はどこへ消えたのか? 伝説の建築家タウトと椅子の関係は? 事務所の命運を懸けたコンペの成り行きは? 待望の新作長編ミステリー。
感想・レビュー・書評
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「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」
一級建築士の青瀬は、施主からそう依頼され、北の光(ノースライト)が差し込む「Y邸」を完成させる。自らの最高傑作だったが、完成から数カ月後、現地を訪ねてみると、引っ越したはずの家族の姿はどこにも見当たらない…
素晴らしい小説だった。
ゆったりとした印象。
世界にはすっかり引き込まれるのだが、何故かなかなかページを繰るスピードが上がらない。
言葉の密度が高く重厚で、登山の時の歩き方のように、一語一語確かめながら読んでしまう。
そして、非常に優しい人間ドラマ。
結末では心が熱くなり、打ち震えた。
横山さんは本書のタイトルの「ノースライト」について、こう語っている。
「辞書にはない言葉ですが、昔から自然な光を求めて、アトリエに北向きの窓を設ける画家は多かったそうです。やはり弱っている人には、南や東の光は強すぎる。人の背中を優しく押してあげるには、北の光くらいがちょうどいいと思ったんです」
タイトルからして優しい小説だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
建築士や家具職人の心を想像し、世の中に残るもの作りについて考えさせられた。
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前半は物語の進みが遅く、なかなか読み進めるのに時間が掛かりましたが、後半は点と点がどんどん繋がって行き心地よい疾走感と共に終焉しました。
その先ももう少し読みたかったけれど。
前半では物語はなかなか進まない中で、登場人物の背景や心情をじっくり書き上げ、後半の畳み掛けの中で逃すものがないように布石を打つ。
劇的な展開ではなく、ずっと不協和音の様にどこか不安定が続く描写が長いのに飽きないのは少しずつの「え?」と、突飛ではなく、至って日常の中の人間模様を詳細に書かれているためでしょうか。
建築関係の専門用語や表現、言い回しも多く、門外漢の私には想像するのが中々難しい内容ではありましたが、物語のとしてとても読み応えがありました。
なんか、すごく大人になった感じ。←語彙力。 -
2020年ミステリが読みたい!国内編2位。
小さな設計事務所に勤める一級建築士の青瀬稔、45歳が主人公。
離婚した妻のゆかりと中学生の娘の日向子がいますが、日向子とは月に一度会っています。
青瀬は、吉野陶太夫妻に、信濃追分に3千万円で「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」という願ってもいない好条件で、念願だった「ノースライトの家」(北側の窓・北向きの家)Y邸を建てます。
しかし、建築後、吉野に連絡を取ると、吉野はみつからず、青瀬は異変を感じ、Y邸を訪ねます。
するとそこには、人が住んでおらず、ブルーノ・タウトのものらしき椅子がひとつ置かれているだけでした。
青瀬は、吉野をなんとか探し出そうとしますが、まるで一家で蒸発してしまったかのような気配があり…。
横山秀夫さんの作品は『64』以来で2作目でしたが、大人の男の友情や、しみじみとした夫婦愛のある凛としたたたずまいのある作品でした。
最後はそういうことだったのかと思い、残念な出来事もありましたが、悪人の出てこない清々しいミステリーとして、晴れ晴れとした気持ちで読み終えることができました。 -
個人的にはたぶん横山秀夫の文章というかリズム感みたいなものがあまり合わないのか三分の二ぐらいまでは読むのがかったるい けど、終盤からはおもしろくて最終的にはそれなりに良い気持ちで読み終わることができた ブルーノタウトという建築家は実在の人なんですね この人の作品の良いところは実在の人物や出来事を絡めるので勉強にもなるというところ
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一見必要かと思うエピソードが後々重要になったり、相当作り込まれていると感じた。文章の上手さや語彙力も凄く、自然読む手も弾んだ。
建築については全くの素人で、タウトについてもピンとはこなかったが、良く物語の進行と融和していて説得力があった。
ただ全体的に湿っぽいので、好みは分かれそう。 -
バブル期の狂乱を経験し、離婚も味わった一級建築士の青瀬稔は、人生の行き詰まりを感じながらも、何かに導かれるようにして一軒の家を設計する。それまでの自分の作品とは明らかに違う造りに戸惑いつつも、その家、Y邸は雑誌でも取り上げられ、一定の評価を得つつあった。そんなとき、青瀬は施主がY邸に入居しておらず、それどころか行方知れずになっていることを知る。建築家タウトの椅子とも絡んで、謎は深まる…。
冒頭からページをめくる手が止まらない。細かい描写、話の展開…小説として本当に上手い。個人的には終わり方にもう少し夢がほしかった。でも、ここは意見の分かれるところだろう。文句なしの傑作。 -
後半、ぐいぐい読ませる一冊。
警察ものでない横山作品、しっとりとしたオトナのミステリ。自分にとってはものすごく読みやすかった。
警察ものは人物多さが苦手。でもこちらはシンプル、登場人物が混乱しないのもポイント。
主人公は一級建築士の青瀬。クライアントに望まれ設計した新築の家。なのにクライアント一家は失踪していた。ただ一脚の椅子だけ残して…。
失踪の謎をさぐる青瀬。タウトの椅子、それだけがクライアント吉野との接点。
人物描写、丁寧な心情描写はやっぱり横山作品らしく惹きつけられ、建築という未知の世界にもかかわらずどのシーンもその世界にぐっと入り込める感覚。
後半は特にぐいぐい読ませ、親子、家族、伝えるべき想いと遺す想い、それらがじんわり心に染み渡り二度読みしたほど。
ノースライトのタイトルが秀逸。たしかに主張し過ぎることのない、でもしっかりと包み込むような北の柔らかな光こそこの読後感に相応しい。-
こんばんは(^-^)/
警察物は人が多いし、無駄ないがみ合いが多いよね(^_^;) そこが苦手。
警察物でない横山さん、読み応え...こんばんは(^-^)/
警察物は人が多いし、無駄ないがみ合いが多いよね(^_^;) そこが苦手。
警察物でない横山さん、読み応えありそう!
うちにも横山作品眠っているわ(笑)2019/03/04 -
けいたん♪
おはよう(⁎˃ᴗ˂⁎)
そうなのよー!警察モノは警察の所属とか対立とか立場とか微妙な関係とかややこしくて…
特に64はそこが...けいたん♪
おはよう(⁎˃ᴗ˂⁎)
そうなのよー!警察モノは警察の所属とか対立とか立場とか微妙な関係とかややこしくて…
特に64はそこが苦労した思い出が(*vωv)
こちらはシンプルで良かった作品(*^^*)♪
横山作品、「出口のない海」はもう読んでる⁇
評判良いみたいだけど、私、未だ読めてないんだ〜〜( ˃ ˂ഃ )2019/03/05
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前作『64』以来、約6年ぶりに読む横山秀夫氏の小説。
やはり、横山秀夫氏の小説は違いますね。熱量が。この圧倒的な熱量に飲み込まれるのが横山秀夫氏の小説を読む愉しみの一つです。
本書では冒頭数十頁以上を費やして主人公・青瀬稔の造形が丁寧に描き上げられます。警察官を主人公とするミステリーが得意の横山氏ですが、今回はバブル崩壊を経て、家庭も無くし、プライドをズタズタにされた45歳の一級建築士が主人公です。
小説の冒頭を読むだけで、読者の脳裏には主人公・青瀬稔の人柄やこれまでの経験、そして生き様が鮮明に刻み込まれます。そして、読者は自らの分身となる青瀬の目を通じて、この本の世界の中に取り込まれていくのです。
本書のカテゴリーはミステリーとなっていますが、人生の敗北と逆転を経験した中年の男達の悲哀と熱き友情、そして家族の再生を描いた純文学としても読めると思います。
主人公・青瀬稔はバブル経済の時は、売れっ子建築士として都心の超高層マンションに住み、高級車を乗り回し、札束で相手の頬を叩いていたような生活をしていた男でしたが、徐々に仕事がなくなり、自分の才能にも限界を感じ始めます。
インテリアデザイナーをしている妻との関係も悪くなり、結局、離婚。愛する一人娘の親権も失ってしまい、今は月一度だけ娘と会うことだけを楽しみにしている状態です。
勤めていた大手の建築事務所には居場所が無くなり、やっとのことで大学の同窓生・岡嶋昭彦が社長をしている埼玉にある小さな建築事務所に潜り込み、そこでほそぼそと日銭を稼いでいる生活をしていました。
そんなおり、あるクライアントから「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」との依頼を受けます。その言葉で、青瀬は自分が輝いていた時のことを思い出し、そのクライアントの依頼した家屋の設計に全身全霊を傾けます。
そして、完成した家屋は、建築の定石に反した北向きの家で北から入る陽光(ノースライト)を存分に生かした美しい造形の家屋Y邸を完成させました。このY邸は建築業界でも話題となり、建築雑誌にも特集されるほど出来映えとなったのです。
そんな折り、気になることが起こります。
この話題となったY邸をモデルにして自分の家を建てて欲しいと言ってきた別のクライアントからこんなことを聞かされます。
あのY邸を見学してきたのですが、今は誰も住んでいないようでしたよ
そんなはずはない。あのY邸の注文をしたクライアントの吉野一家には、Y邸の引き渡しをした時に会っているし、完成した家を見てあれほど喜んでいたではないか。別の家へ引っ越しをするなんて話は聞いていない、今もあのY邸には吉野一家が住んでいるはずだ、住んでいないはずがない。
ここから主人公・青瀬が建てたノースライトの家の秘密をめぐる壮大な物語が幕をあけるのです。
この主人公の青瀬とともに、副主人公とも言えるのが青瀬の勤めている建築事務所の社長・岡嶋です。
彼の存在がこの小説では光っています。
岡嶋は青瀬と大学の同期生で建築家としての才能は凡庸ですが、経営者としての能力は高いものを持っています。
そんな折り、埼玉出身の有名芸術家で3年前に亡くなった藤宮春子の記念ミュージアム建設のコンペに参加する権利を岡嶋はもぎ取ります。今まで交番や小さい公共建築しか手がけたことのない弱小建築事務所にとっては、このコンペを勝つことは一躍トップ建築事務所にのし上がるチャンスであるとともに社長である岡嶋の建築家としての名前を建築史に名を残す仕事になることは間違いありません。
岡嶋自身、大した実績を残していないことから、このコンペに並々ならぬ意欲を見せます。
青瀬の代表作となったY邸のように、岡嶋はこの藤宮春子記念ミュージアムを自分の建築家としての代表作としたかったのです。
自分の会社の社員であり、部下でもある青瀬へのライバル意識、嫉妬心、そして数々の修羅場をくぐり抜けてきた戦友としての感情、彼の青瀬への想いは鬼気迫るものがあります。
この小説は、吉野一家が失踪した後、Y邸に唯一残されていたヒトラー政権下のドイツから日本に逃れてきた高名な建築家ブルーノ・タウトが作ったと思われる一脚の椅子を手がかりとして吉野一家を探すミステリーとしても読めますが、脂ののりきった中年の男たち・青瀬と岡嶋の友情、ライバル心、そして対照的な結末という、この二人の男の物語としても非常に興味深いものがあります。
ラストは「流石、横山秀夫だ」と唸らせる結末が用意されています。
未読の方はぜひ本書を手に取ってみることをおすすめします。警察小説ではない横山秀夫のミステリー。傑作です。 -
鳥の声が遠くから近くから聞こえてきそうな、森の中で、優しい光が緩やかに差し込んでいて、優しくもあり、清々しくもあり、だけど確かに力強くもある、そんな作品でした。
一級建築士の青瀬が全身全霊で、熱に浮かされたようにして建てたY邸。クライアントは本当に喜んでくれていた様に感じていたが、全く音沙汰がない。Y邸を訪ねてみると、そこには誰もおらず、住んでいる形跡がない。何がどうなっているのか…そこには、一脚のイスだけが意味を持っているように置かれていた。
始めはゆっくりと物語が進んでいくので、正直、よく分かりませんでした。終盤で、すごいスピードで物語が動くにつれて、謎解きというよりは、みんなの心がするすると溶け出した様子を丁寧に描いているという印象でした。柔らかい光。ノースライト。本当にキレイだろうな。 -
ブルーノ・タウトの纏わる話は凄く丁寧でページ数も多かったのに比べるとラストの種明かしが随分とあっさりなように感じた。
岡嶋が亡くなってからコンペに間に合わせる所は、読んでるだけで気持ちが急いた。こういう所が横山秀夫さんの好きなところ。
全然知らなかったブルーノ・タウトの勉強にもなったし、いつか熱海の旧日向邸を実際に見てみたくなった。 -
「あなた自身が住みたい家を建てて欲しいんです」
との依頼を受け建築家青瀬稔が心血注いでできたY邸ーー光をもてなし、光にもてなされる家
それは、型枠職人だった父とともに家族でダム現場を渡り歩いた青瀬の原体験を具現化した住まいだった
タイトルにもなった「ノースライト」の描写がとても美しかった
北側の大きな窓から差し込むでもなく、降り注ぐでもなく、どこか遠慮がちに部屋を包みこむ柔らかな北からの光。東の窓の聡明さとも南の窓の陽気さとも趣の異なる、悟りを開いたかのように物静かなノースライト
胸の高さから天井ぎりぎりまで枠をとった規格外の北の窓。紐を勢いよく手繰ってカーテンを開く。部屋に光が訪れる。線ではなく、束にもならず、極限まで薄く仕上げたベールのような光が、ふわりと部屋全体を包みこむ
TVでも住宅を紹介する番組が大好きだ その意味で、青瀬が設計したノースライトの家の描写は、想像力を掻き立てられ、読んでいてワクワクした
また、岡崎所長の死を乗り越え、藤宮春子メモワールのコンペに参加する設計を残された4人で、不眠不休で仕上げる部分が、迫力がありおもしろかった
文章を自分の頭に映像化していくのに苦労したけれど
完成したY邸の主が消息不明に、たった1脚残されたブルーノ タウトの椅子の謎・・・
高評価の皆さんに対して、私は、前半長々と引っ張りすぎた感があって、途中、読んでいるのがしんどくなった。その割にその謎は、そんなことだったのかと拍子抜けの感がした
吉野家と青瀬家の子供たちを癒してくれた九官鳥を巡っての父の死と償いの日々
ドロドロした憎しみがないのは幸いだったかな -
2021/12/31読了
#このミス作品75冊目
生涯最高傑作のY邸を設計した青瀬。
しかし一度も住まわれた形跡なきまま
住むはずの施主は失踪。
出だしからキャッチーなストーリーで
面白かった。
横山秀夫ハズレなしだわ。
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かなさん、はじめまして。
横山秀夫ハズレなしです。ほんとわたし的に。
硬派でしっかり練られたストーリーなんですが
文体が素直なので読んでて楽...かなさん、はじめまして。
横山秀夫ハズレなしです。ほんとわたし的に。
硬派でしっかり練られたストーリーなんですが
文体が素直なので読んでて楽しいです。
ぜひぜひ他作品も読んでみてください٩( 'ω' )و2022/10/06
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吉野はどうしていなくなってしまったのか。「誰が」じゃなくて「どうして」を探す作品は久しぶり。読み応えバッチリだし、中だるみすることもなく一気に読みきった。気持ちのいい終わり方で読んだあともスッキリ。読んで良かった。
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呼吸をするが如く自然体で善を行う人がいる
困っている人がいれば考える間もなく手を差し伸べ自分が犠牲になってることに気付くことさえない
善を行うことがあまりに当たり前すぎて自分が善であるなんてとんでもないと否定する
息を吐くより先に嘘をつき悪を行う人がいる
弱っているひとがいればここぞとばかりにつけ込んで常にそろばんをはじいている
自分が悪を行っている自覚などなくむしろ声高に自分こそが善だと主張する
そんな世に産み出された物語のような気がしました
あとなんでノースフライトなのに建築士なの?ってだいぶ中盤まで思ってました
ノースライトねw -
始まりから終わりまで、美術館や人を見ながら、ゆっくりまわって最初に戻ってきた感覚。
でも、いろんなものを見た分、場所ははじめとおなじでも、感覚がすこし変化した。
ホラーではなくミステリー。
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「青瀬さん、あなた自身が住みたい家を建ててください」
そう望まれ、一級建築士の青瀬は渾身の力をふりしぼって設計したY邸。
施主も喜び、200選という本にも載った。
しかしY邸はその後、施主家族が引っ越してきた様子もなく、無人の巣となっていた。
施主家族は一体、どこへ消えたのか…?
Y邸の、北からの光を望むように置かれた、タウトの椅子を残して…
一方、青瀬の勤める事務所の所長・岡嶋は、あるコンペを勝ち取ることに情熱を注ぎはじめていた…
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ホラーかな?ミステリーかな?と思いつつ、おそるおそる読み始めましたが(ホラーがニガテ)、ミステリー作品でした。
しかし、序盤の歩みはかなり遅く、しかも事件と本当に関係があるの??というような事柄へと話がもっていかれるので、タウトという有名な建築家やコンペ入札の苦労については少し詳しくなりましたが、他の小説を間にはさんで気分をかえつつ読み進めた感じでした。
スプラッタは一切ありませんので、ホラーがニガテな方でも読みきれます。
真相を知ったときは「う~ん、その理由でこの出来事、本当に起こるだろうか…」とおもい、理屈はわかるけどすべて素直に飲みこめない感じも正直ありました。
事件の謎を解く、というよりは人間ドラマにかなりの重きを置かれているお話です。
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余談ですが、読みながら「リーチ先生」(原田マハ・著)、「人間の証明」(森村誠一・著)を思い出しました。(この2冊のお話は、本作のネタバレにはなりませんのでご安心を…)
秋の夜長に本が読み足りない方は、よろしければこちら2冊もお手にとってご覧ください。 -
久しぶりの横山作品、これも上手いですねぇ!とりわけ終盤からの緊迫感とラストまでの一気呵成な展開は目が離せないで夜半まで読んでしまった(^^) 仕事も家庭もうまく行かずの一級建築士がとある家族からの依頼で会心の家を信濃追分に完成させて専門誌からも称えられる。しかし完工後ぱたりと音信不通となった依頼人家族、しかも入居した痕跡さえ無く、ポツンと一つのブルーノ タウト製作らしき椅子があるだけ。会心の家が否定されたような気持ちを抱き、謎解きに臨む主人公だが実は意外な関連性があったのだ。施工依頼人の名前に、はは〜んとは思ったけど....。なかなか面白かったです♪
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一級建築士の青瀬。ある施主より「住みたい家を建てて下さい」との要望があり、家を建てる。北向きにこだわり評判を得るほどのものであった。しかし、訪ねてみると、誰も住んではおらず、タウトの椅子だけが置かれていただけであった。
青瀬がタウト疲れとか言っていたけれど、青瀬とともにタウトを追って読んだ私も多少なりともそう感じた。しかし、青瀬の過去よりのお話や、タウトのお話、離婚した家族のお話などうまくミックスされ引き込まれ最後まで読み上げました。建築家として生きていきた青瀬の再生の物語、読ませました。北の光を随所に感じさせ、横山さんの力を感じた、派手なものはないが、力作。 -
一級建築士の青瀬が、自身の設計した新築の住宅に誰も住んでいないことに疑念を持ち、唯一の家具となる古ぼけた「タウトの椅子」を手がかりに施主の一家の行方を探しつつ、建築士としての日常を過ごしていく作品。
著者の作品としては2作目になるが、前に読んだ「ロクヨン」とは打って変わって、殺人事件も起きないし警察も登場しない。
前半は、「タウトの椅子」を作ったブルーノ・タウトという歴史上の建築家の生涯等、建築関係の内容が多い。
建築関係には明るくないので、難しく感じたが、視野を広げることも出来た。
ただ、北向きの家、日向邸等、各種建築物の美しさを言葉で表現されているものの、私の拙い建築の知識ではその美しさを想像しきれなかったので、実際に目にして見たくなった。
後半は、様々なことが目まぐるしく展開しながら、誰も住んでいない住宅の謎もきれいに解決し、とても面白かった。
特に、男が志半ばで成し遂げられなかった仕事を後生の人達が代わりに成し遂げようとする件では、思わず涙してしまった。
人の亡くなり方が遺された人間に与える影響を考えさせられる作品だった。 -
前作「64」から6年。
待ちに待った長編新作。
でも新作と言いながら、初出は2004年なので、時代背景は少し古く、ちょっと違和感が否めない。
ただ社会派で知られる作家が、今作は建築を巡る話で、日本の建築や工芸に大きな影響を与えたと言われるブルーノ・タウトの話を軸に、バブル期に美味しい思いをした建築士たちの物語。
バブルが弾けて、行き場のなくした主人公・青瀬たちが奇妙な依頼で手掛けた「Y邸」を中心に、大切な何かを見つけていく物語。バリバリの社会派のイメージが強いので、これまでの作品からすると、少し色合いが違うが、多くの困難を乗り越えて、自分たちの最高傑作を仲間の為に作ろうとしていく岡嶋設計事務所の様子は心を打つ。
物語の中盤は、後ろ向きな内容や悲しい事柄が続くが、読み終えた時には、はっきり光の道筋が見えるような作品だった。
唯一、希望を言えば、純粋に新作が読みたい… -
今年のベスト1は、もうこれで決まりかな、と思われるほどの手ごたえのある力作である。
『陰の季節』で松本清張賞を獲得しデビューした横山秀夫は、その後も手堅く印象深い短編小説を連ねてミステリ界を賑わせる。短編であれ、長編であれ、映像化される作品も多く、確実に彼の一時代を築け上げた感がある。単発短編から連作短編へ。さらに多作ではないにせよ印象的な長編作家への緩やかな脱皮をも遂げてきたがその後静かなブレイクを経て6年前に『64』ではダガー賞候補にまで名を連ねる快挙を遂げる。まさに国産ミステリ界の至宝と言っていい。
そして忘れた頃になってこの新作。そしてまたも快挙の予感。歳を重ねるにつれ円熟味を増す文体、素材、深み、そして、美しさ。読み始めは、エンターテインメントというより何か懐かしい素敵な純文学を読んでいるかのようなノスタルジーが心に蘇る。一行一行の、否、一語一語の言葉の扱いの丁寧さ、行間への気配り。それ以前に積み重ねられてゆく言葉と世界への静謐なる導入部。これは横山長編の個性としか言いようがない何かであると思わせる期待。
主人公は一級建築士。バブル後の離婚、孤独、失われた職への誇り。渡りの過去。ダム工事現場の職人であった父に従って全国を落ち着くことなく渡り歩き山間の飯場暮らしの中で育てられた過去。古い記憶。
提示される謎は、消えた一家。
発注者の望み通り全力を傾倒し仕上げ、しかも『平成すまい200選』に選ばれ世間にも高く評価された建築物である信濃追分の家には、誰も済まず、一脚の木の椅子だけが置かれていた。椅子からはドイツ亡命者であるブルーノ・タウトという建築士の姿が浮かび上がる。巻末資料として列挙されている関連書籍の量からして、著者の心が相当にタウトに集中したのは作中でも重心となって見られるほどである。日本の軍国化が進む頃、日本古来の文化の消滅に危機を唱え、少なからず救いの手を差し伸べようと指導を試みたこの異国人の姿は、本作の建築士の物語に、相当な厚みを加えているように思われる。
さて様々な謎が深まる中、主人公の所属する建築事務所では、ある美術館のコンペティションという現在が熾火の如く発熱してゆく。パリで亡くなった地元女性美術家の記念館を市の予算で建立する企画に、競合各社、市議会内での争い、マスコミの取材合戦が絡んで炎は膨れ上がる。メインストーリーの静かな謎の上に、現在と過去とが重なり、多くの社会的・家族的・親子的・恋愛的葛藤がさらに積み上げられてゆく。重層構造。
スタートとなった謎そのものは、本質に近づいたり遠のいたり。個性豊かな登場人物たちとの距離感も、時に熱く、時に素っ気なく、危うく、儚く、移ろいやすく。そうしたデリカシーと重厚さのすべてを捉えるべく、著者のペンの力は全巻を通して、凄まじく圧倒的、かつ美しい。
良い小説とは起承転結が明確だ、と改めて思う。振り返ってみれば、書かれたものに無駄は一つもなかった。すべてがすべてに関連付けられるものであった。まいった。謎解きにではなく、人間たちの綾なす偶然。偶然が産み出す、罪と、贖いに。そして何よりも愛に。父、妻、子、そして友への。
心を揺すられるミステリ。数年に一度の傑作である。 -
現在の建築界の歪なピラミッドを嫌悪していても、この作品は面白かったです
丁寧に描かれた、重厚な作品でした
二つの事件が影響し合い、絡み合いながら展開していきます
「経験だけでは、才能が紡ぎ出す理念理想を超えられない」、「イカモノを生産しないための心構え」、「新しいものを作ろうとして伝統を捨て去る危険な邪道」など、感心しました
実際、電灯の光では見えない、直射日光では強すぎる、そう工場には「ノースライト」のような間接光が必要なのです -
バブル景気に浮かれたものの 崩壊の波にのまれ敗走した建築士 青瀬。
その青瀬が 吉野という家族の依頼で信濃追分に建てた家は業界で話題となるほどの見事な作品となった。
ところが 吉野一家は 新居に越した形跡がないばかりかまったく連絡がとれなくなってしまった。
空っぽの家に残された一脚の椅子 ........
とまぁ 仰々しいというか 作り込まれたオープニンングで始まる長編。
この吉野邸 タウトの作品 青瀬が所属する設計事務所が参加するコンペ の三つの建築関連のエピソードが絡み合って話は進む。
実在するタウトの作品については資料も多いようで、足を運びたくなるような構成は ダン・ブラウンのシリーズを彷彿とさせる。
だが、やはり横山作品らしく 登場人物の心理描写が読ませる。
一見華やかなインテリ士業のバブル崩壊後の修羅場。
そこで砕かれていくプライド。
200ページすぎたあたりからの 一人の女性を取り合う心情なども赤裸々というか、まぁ、こういう状況になったら男同士のマウンティングでしかないよねぇ。
横山氏の定型であるようにも思うが、挫折して自信を失い地を這うように生き延びたあとに訪れる救済 という流れは読んでいて不愉快なものではない。
そういえば この作品 いつもはあまり機嫌のよくない客が 珍しく興奮気味に褒めて勧めていったなぁ ....
さて本屋大賞どうでしょうか。
p.s.
○営業が挟まっていた箇所はイマイチだったなぁ........ -
よかった‼読後感最高!
偶然が偶然が呼んで、できすぎ感があるけれど、物語だからこそ作れる展開なのだ。悲しいできごとも挿入されるが、結果的には周囲が救われる話になっている。すっきりした充足感は久しぶり。
主人公青瀬は一級建築士。手がけた住宅が反響を呼び大満足だったが、なぜか施主が失踪。その謎を探る中で、彼を取り巻く環境も大きく揺れ動く。真実にたどり着くまでに広げられた風呂敷がとてつもなく大きく、散りばめられた伏線の回収はどうなるのか…。ドキドキ感は最後まで途切れない。
設計事務所所長の岡嶋と行動しながら、思考は自分の生い立ちに遡っていく。さらに建築家タウトを追う旅ともなる。施主吉野とタウト。さらに故人となった画家の美術館設計。別れた家族との思い出、そして鳥のさえずり…。何より会話のテンポがすばらしい。短文をたたみかける臨場感あふれた手法で、本物の声のように読める。視覚、聴覚、感覚すべてが研ぎ澄まされ、怒涛の真相究明へ…
というふうにはならなかった。あっけなくて、あっさりしすぎていて。でも読んでよかったと思える話だった。 -
久しぶりにずしりと重い本を読んだ。
横山秀夫という名前、表紙、ノースライト。
そして主人公青瀬。
どれも暗くて重くて、靄の中を手探りで読み進めていくようだった。
どこかに青瀬の深い穴があって、いつかは向き合わなければ進めない、でも今ではないと落ちかかっては何とか進んでいる感じ。
建築家は芸術家だったんだ。
最近は建売の似たような住宅地ばかり目にするので意識しなかったが、光の取り込み方、間取りや動線などの空間デザイン、外観、もちろん予算などを巧みに組み合わせる仕事。
最後の岡嶋設計事務所の全員が一つの作品のために、心身を削りながら、ハイのような高揚感のなかで仕事をする姿は芸術家であり職人そのものであり、神々しさすら感じた。
吉野淘汰と妻の香里江からの「あなた自身が住みたい家を建ててください」から始まるミステリー。
吉野にも青瀬にも暗い日々があり、やはり暗いが、読み応えがあった。
この2人の名前、気づかなかったー!
青瀬の今後にも、ようやく柔らかなノースライトが当たりかける終わりがよかった。
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一脚の椅子の物語。
それぞれの家族の物語。
ラストはなるほどそうだったのか!の結末。